16.反撃開始(オフィーリア視点)
決意を胸にお茶会に足を踏み入れれば、いつも通り変わらないキャロラインが迎えてくれた。
そして、恒例の相談会をするために、私を座らせた。イヴちゃんも一緒にと言われてしまい、並んで座ることなってしまった。
(本当はこれから起こることを見せるべきではないのに……)
今からする行動は、イヴちゃんの教育に良くない可能性があると思っていた。だから先に帰すことも考えていたのだ。
しかしここで断るのは、いつもの私らしくはない上に、キャロラインに刺激を下手に与えてしまう可能性がある。
そうすれば、これからの反撃が上手くいかないと判断して、やむを得ず連れて行く選択をしたのだった。
(でも……イヴちゃんが隣にいてくれれば、できる気がする)
そんな思いを抱えながら座れば、異様な空気が漂っていることを肌で感じた。
決して今までのお茶会と変わらない雰囲気。
キャロラインを始めとして、テーブルを囲う面々の態度も目線も。何一ついつも通りなのに。彼女達の態度、声、まとう空気すべてが薄っぺらく感じてしまったのだ。
(……そうか。私はもう本当の優しさを知っているから)
ちらりと隣に座るイヴちゃんを見つめて、心の中で微笑んだ。私のことを尊重して、思ってくれる。本当の優しさを持った、最高で最愛の娘。イヴちゃんと関わったからわかる。
キャロライン達の笑顔が作られているものだと。
「そうだわ。最近はどうかしらユーグリット様とは上手くいっている?」
「……そうね」
そう尋ねるキャロラインは、心配そうにしていた。しかし瞳は私を見て楽しんでいる悪質な様子に見えた。さらに、キャロラインがイヴちゃんをちらりと見ているのを見て、私は彼女の思惑に気が付いた。
(……もしかして。私のみっともない姿をイヴちゃんに見せて、それさえも楽しもうとしていたの?)
一つの推察は、キャロラインの姿から現実味を帯びていく。
(……容赦しないわ)
そう決意する中、私はさっと周囲を見渡していた。
話を少し聞いていて、観察していて、段々と見えてくるものがあった。
(……やっぱり。敵はキャロラインだけじゃなかったのね)
周囲に座る友人と思っていた人もまた、キャロラインと同じ眼差しと雰囲気をしていたのだ。縁を切るべき存在はキャロラインだけでないことに気が付く。
私が観察する間にも、話は進んでいく。
「……一通じゃ忘れられてしまうわ。それに、返事が来るまで諦めないことが大事よと」
「そうなのね」
いつも通り、真剣な眼差しで伝えてくれるキャロライン。その様子は私を本気で心配してくれる友人そのものだった。大げさなほどに。だが、冷静に分析すれば、彼女の発言は矛盾している上にとんでもないことを言われていることがわかる。
(……馬鹿ね。こんな言葉を信じて十年以上頼っていただなんて)
自分に嫌気がさして、あきれてしまった。
「そうだわオフィーリア。先日はユーグリット様のお誕生日だったでしょう? 今年こそは一緒に過ごせたのかしら……?」
(会えてないのをわかって、それを楽しんで聞いてるわね)
こんな人のことを、私は何年も親友と思っていた。そんな自分に情けなくなってしまう。
「そうだったわね。ルイス侯爵は誕生日だったじゃない」
「どうだったの、オフィーリア?」
次々と期待のこもった眼差しを向けてくる。私がいつものように、泣き散らしながら絶望した表情をするという期待が。
彼女たちはきっと、いつもそれを楽しんでいた。そう推察できると、手に力がぎゅっと入った。
(あ……)
その瞬間、愛しい私の娘も同じようにぎゅっと手のひらに力を入れていることがわかった。
(……イヴちゃん)
それが嬉しくて泣きそうになったが、私はどうにか切り替えてキャロライン達の方をしっかりと見た。
「とても素晴らしい日だったわ」
これまでずっと見せてなかった、満開の笑顔を添えて。
「「「え?」」」
そんな回答をされるとは少しも思っていなかったキャロライン達は、間の抜けた声を出した。
「今年のユーグリット様の誕生日はね、ケーキをご用意したの」
「ケ、ケーキ?」
「えぇ」
キャロラインが驚きながらも、何とか立て直しながら聞いてくる。
「そ、そう。ケーキの有名店に作るよう頼んだのね。素晴らしい贈り物だわ」
「いいえ? 自分で作ったわよ」
「「「は?」」」
彼女達からすれば、予想外の返事なので、ありえないという表情になっていた。そんなキャロラインを少し馬鹿にするように、大げさな反応をして話を続けた。
「やだ、キャロライン。知らないの? 手作りの方が、思いがこもっていて素晴らしい贈り物なのよ? だから私は生地を焼くところから作ったの。もちろん初めてだったこともあって大変だったけど、凄く満足のいく仕上がりになったわ」
「………そ、そうなのね。そのケーキを差し上げたのね」
無難な言葉が返って来たが、もちろんそれは間違いだった。
「まさか! 私はルイス家専属の料理人より上手い訳ではないもの。ましてや初めて手作りしたケーキよ? そんな粗末な物を差し上げたらご迷惑になるでしょう?」
「な……」
さらに大きな声で答えると、キャロライン達はびくっと肩を動かした。イヴちゃんだけが、動じずに話を聞いていた。
私は今までの自分の雰囲気は壊さずに、むしろそれを利用するようにキャロライン達を煽るように話続けた。
私のその声は、お茶会をそれぞれ楽しんでいるご夫人方にまで声が届き始めた。彼女達も私達が気になるようで、ちらちらとこちらを見始め、近付く者も現れ始めた。
キャロラインは理解が追い付いていないようで、何も言えないようだった。その様子を見ながら、私は小さく呼吸を整えた。
(……本番はここからよ、キャロライン)
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