幕間 推しとの遭遇
三人称視点になります。
イヴェットとジョシュアは飲み物を持って、一足先にパーティー会場となるオフィーリアの部屋に向かった。
そして、厨房に一人になったオフィーリアはというとーー。
生クリームを使って飾り付けを無事終えると、オフィーリアは紫に染まったケーキを嬉しそうに見つめていた。
「完成……!」
かなり苦労して作り上げたケーキだが、出来映えは満足できるもののようだった。後はこのケーキを会場である自室に運ぶだけである。
「慎重に持っていかないと……」
そう一人言のように呟くオフィーリアは、まずは使ったものを丁寧に片していた。といっても、ほとんどは娘のイヴェットが済ませていてくれたので、かなり時間短縮になった。
使わせてもらった厨房なので、綺麗になるように掃除を行った。一生懸命作業台をを拭いていく。すると、厨房の入り口である暗闇から声がした。
「……誰かいるのか?」
その声は、顔が見えない以上普通ならわからない。しかし、長年その者を見つめてきた者にならわかるようだった。
「ユーグリット様……」
自分にしか聞こえないくらいの大きさで、オフィーリアは呟いた。
「すまない、何か軽食をーー!!」
どうやらお腹の空いたユークリッドが、厨房を訪れたようだった。中へ入ったユーグリットは、オフィーリア、そして紫色のケーキと対峙するこたになった。
まさかそこにオフィーリアがいるとは、少しも想像していなかったユーグリットは固まってしまった。それでもなんとか声を絞りだし
「……何を、しているんだ?」
「あ…………これは、その。ユーグリット様のお誕生日ケーキを……」
「私の……?」
不思議そうに声を出すが、そこでユーグリットは自分の誕生日が近いことに気が付く。
「あぁ……そうだった。誕生日だったな」
「はい……」
「………………」
「………………」
その確認を最後に、二人の間に沈黙が流れた。しかし、ユーグリットの視線はある一点を見つめていた。
「それは……何だ?」
「ケ、ケーキです」
「君が……作ったのか?」
紫色のケーキが受け入れがたかったのか、もう一度似たような質問をするユーグリット。対するオフィーリアは、戸惑いながらも呼吸を整えていた。
「そうです」
「……なるほど」
異様な光景に、ユーグリットは何というべきか言葉に悩んでいる様子だった。その沈黙が、オフィーリアは問題に感じたのか、慌てて口を開いた。
「あ、あの! お気になさらないでください!!」
「……?」
「このケーキは責任を持って私が食べますし、お祝いも自分の中で収めますので!!」
「…………??」
オフィーリアは、イヴェットの教え通り”推しの迷惑を避ける“ことを実行した。
「あっ、日が変わるわ……! お邪魔をしてたいへん申し訳ございません。私はこれで……!!」
「え…………あっ」
ユーグリットが状況を理解しようと努めている間に、オフィーリアはさっさとケーキを持って厨房から出ていってしまった。
「そのケーキは……私に作ったんじゃないのか…………?」
厨房には、ユーグリットのどこか困惑した寂しそうな声が響いていた。
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