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第十一話


「レクス・ボールドウィンです。若輩者ですが、よろしくお願いします」


無数の視線に臆することなく、俺は簡潔な自己紹介を済ませる。入学式を終え、各教室毎に振り分けられた新入生。俺はその中でも最優秀とされる入試成績上位五%の生徒が割り振られるクラス『Sクラス』へと割り振られていた。クラスメイトは約一五名。……となると、一学年が凡そ三〇〇人。そしてその教育施設が六つあるから、生徒数は推定一八〇〇人。……最高学府とはいえ、六つも学校があって一学年が合わせて四桁前半も前半か。まあ科学技術などの魔法抜きでの文明レベルが中世相当なのを考えると、国一つでこれなら寧ろ多い方だ。


「ノア・ネフィリムだ。よろしく頼むぜー?」


ん、ノアも入学してたのか。まああの面制圧が出来るやつは入るよな。それ抜きでも、試験の時の僅かな間とはいえそもそも年齢層の違うところに入った俺としては知人がいるのは有難い。


「……リリア・フィクトゥス」


金の髪を持つ無表情な少女が、簡潔に自分の名前だけを述べる。切れ長の目と口数の少なさから怜悧な雰囲気を感じさせるな。


「アウラ・トランクィです。よろしくお願いします」


緑……正確には穏やかな黄緑色の髪をした少女が優しげな微笑みを浮かべて自己紹介をする。


「鬼皇院御影だ。よろしく頼む」


紫の髪に深紅の角を生やした、整った顔立ちの少年が名乗る。角……ってことは、『東陽の国』の鬼人種(オーガ)か。


「……ルーチェ・プート。よろしく」


セレナの髪を灰色と形容するなら、こちらは銀色と表現出来るだろう。そんな色味の髪と──────革に金属の装飾がされた仮面をつけた少年が、そう言った後にすぐさま席に着く。


その後、数名の紹介が終わりクラスメイトたちの自己紹介が完了する。そして教壇に立っていた金色の髪に赤のメッシュが入った男性が、手を打って生徒たちの意識を集める。


「はい、自己紹介を終えたので今度は僕から。僕は一年間このクラスの副担任を務める、セリム・クロア。君たちが新入生なように、僕も新入の教師でね。気軽に『セリム先生』とでも呼んでくれ。で、このクラスの担任なんだけど……あ、来たみたいだ」


副担任──────セリム先生がそう言ったところで、教室の扉が勢いよく開け放たれる。そこから入ってきたのは、カールとウェーブをこれでもかとかけた濃い緑の髪の女性が入ってきた。……にしても髪のうねりと巻きが凄いな。色味も相まってシダ植物みたいな髪型だ。


「私がこのクラスの担任を務める。態々自己紹介をせずとも、この学院に入学してきたお前たちなら私の名前は知っているだろうが……まあ、こういうのはありふれた定型文(テンプレート)であればあるほどいいものだ」


そう言うと、女性は魔女のとんがり帽子のような三角帽の()()を上げ……シニカルに笑った。


「私はマギム・メイガス・マグナ。この学院の長兼理事長兼教員兼魔導師兼……まあ肩書きを列挙するとキリがないので省略するが、とりあえずこの学院で一番偉い奴だと思ってくれ」


──────マギム・メイガス・マグナ。『風』の魔法の第一人者にして、『人間公国(ヒューミリア)』に住まう『人間種(ヒューマン)』の中でも特に秀でた力を持つ六人の魔導師『超越魔導師(オーヴァード)』の中でも最強の女傑。実力を認められ、その名に『魔女(メイガス)』の一節を刻むことを許された『翠嵐女王(テンペスト・クィーン)』。……まさかそんなのが教鞭を取るとはな。事前に調べて知れたのは校風とか学習内容くらいで、授業の様子までは知ることは出来なかった。


「まず、入学したお前たちに向こう一年間待ち受ける試練(イベント)について話をしようか。まあ今話されてもどうせそのイベントの頃には忘れているだろうし、大まかな説明だけだ。『こういうのをやるんだなぁ』とだけ思っといてくれ」


そう言って、マグナ先生は淀みなく学習課程についての説明を始める。


「お前たちヒヨっ子共の最初のイベントは、二ヶ月後に行われる『新人決闘会』。平たく言えば、()()()()()()()()()()()()だな。国中から客が集まるこの季節の風物詩だ」


……『新人決闘会』。俺の最初の目標だ。


「魔法学術学院は下からお前たち『中等部(クプルム)』、『高等部(アージェンティ)』、『大学部(ペクニア)』の三つに別れている。今回の『新人決闘会』はこの三つの新入生のみが参加出来る。お前たち『中等部』は最後を飾るんだから気張っていけよ?」


マグナ先生がそこまで言ったところで、一人の生徒が手を挙げた。


「すみません、何で僕らが最後なのでしょうか?まだ未熟だし、大学部の方が観ていて面白いと思うのですが……」


先生はその言葉に頷くと、質問に対しての返答を行った。


「いい質問だ。その質問の答えとしては『逆』だな。今でこそこの『決闘会』は民間人も観戦する『祭り』として機能しているが、当初は王族や貴族と言った連中が私兵として抱え込みたい有望株に目星を付ける品評会のようなものだった。その性質が今でも残ってるから『決闘会』はまだ発展途上で未知数な『中等部』を最後にしてるのさ。他の二つはもう既に予約が入った状態で学院に入ってくることが多々あるから、『祭り』としては価値が高いが『品評会』としてはそこまで重要視されないんだ」


なるほど、既に誰かの物になってる虎よりもまだ誰も手をつけていない狼の仔を取るというわけか。


「説明を続けるぞ。最初期は各学院の参加者全員での『乱闘形式(バトルロワイヤル)』だったが、観戦の難しさとルール上試合時間の二極化が激しかったことで改定。現在は入学試験の成績を元に分け、最上位の十五人は『一対一(タイマン)』のトーナメント形式、その他は各学院十五名ずつでの『乱闘形式』で執り行う」


「二極化って何です?」


「昔は……というより私たちが入学した時の話だがな。入学当初から強かった私たちが大暴れした結果、開始三分でほぼ全滅して同期が軒並み就職難に陥ったことがある。その反省として次の年から乱闘形式のものと一対一のものに分けられるようになった」


まさかの改定の原因かよアンタ。


「あの時は本当に周りから恨まれたからな。同期の99%が就職に失敗した結果私らが闇討ちされかけた。返り討ちにしたが。お前ら頑張れよ、順位が高いと来年度に国から降りる予算が多くなるからな」


「先生、生々しいですよ」


「こんなこと隠してどうにかなるものでもあるまい。雇われ理事長の辛いところだがな」


生々しいのはこの際いいがそういう裏の事情をポンポン話すのは如何なものか。


「それが終われば冬季休暇前の定期考査だ。そして休暇明けには文化祭に相当するイベント『魔導宴(ヘクセンナハト)』が開催される。当然このクラスも何かしらするからな。その次は『魔導祭(ヴァプンアット)』。こちらは学年を問わず全員・全学院参加の大会だ。最高学年の連中にとっては今までの集大成となるし、他の学年にとってもそれまで勉強の成果を示せる機会だ」


「そして学年末考査を行い、その後お前たちには『簡易兵役』に付いてもらう。『兵役』と付いてはいるが、要はモンスターを倒したりして街の人たちの依頼を熟すわけだ。これも新入生にそんな難しい依頼が来ることはないし、仮にそうなったら私が直々に潰しに行くから安心してくれ」


頼りになるなぁ、過剰な程に。……にしても、『新人決闘会』に『魔導宴』、『魔導祭』と『簡易兵役』か。研究してる余裕あるか?これ。無くても最悪作るが。睡眠時間は四時間を切らなければ幾らでも削って……いやダメだ。これ出来んのは大人ボディだった前世だけ。今世はせめて成長してからだな。


「ここまでが一年間のイベントだ。では早速、『新人決闘会』に関して本格的に話すぞ。先程『一対一』と『乱闘形式』があると言ったが、お前たちは『乱闘形式』に関しては気にしなくていい。何せ『一対一』の対象は上位十五名……要は各校のSクラス同士で行うからな」


「但し、その後。具体的には冬季休暇明けからお前たちに関わってくる要素がそれ以降のイベントには関わってくるんだが……まあこれに関してはその時が来たらでいいだろう。それまではこの学院に慣れることを重視してくれ」


そう言って、入学初日の授業を終えるのだった。

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