お前、あの祠を壊したのか!?
「お前、あの祠を壊したのか!?」
「ご、ごめんなさい」
「何でそんな事を……」
「貴方、あの祠からこの世界にやって来たでしょ。
だから、もしまたあの祠を通って元の世界に帰っちゃったらって思ったら……」
女性の言葉を聞いた男は軽く息を吐く。
その表情は怒っているのか、それとも悲しんでいるのか……全く分からない。
暫くの沈黙の後、男は徐に女性の前で手と頭を地面につけた。
「すまなかった!
まさか、お前がそこまで思い悩んでいたなんて。
俺の心はとっくの昔にこの世界に移っていたのに、未練たらしくいつまでも祠を残しっちまった。
本当なら、あれは俺の手で壊すべきだったんだ」
かつての男の趣味は登山であった。
だが、途中で道を見失い、遭難した末に見つけたのが話題の祠だったのだ。
その祠に辿り着いた男は不思議な力で吸い込まれ、気付けばこの世界にいた。
途方に暮れていた彼を助けたのが目の前にいる女性であり、ここで暮らしていくうちに恋仲となっていったのも自然な事であろう。
「貴方……それじゃ、私のした事を許してくれるの?」
「許すも何もないさ。
俺は元の世界に帰るつもりはない。
最初から祠なんて無かったのさ」
「うう……良かった。
お腹の子供も、貴方がここに残ってくれてきっと喜んでくれているわ」
「うんうん、子供も……な、何だって!!」
突然のカミングアウトに驚く男であったが、今まで祠を放っておいた彼女が何故このような行動に出たのか。
その答えを見つけた気分であった。
こうして曰く付きの祠を破壊してしまった一家ではあるが、その後、たくさんの子宝に恵まれて幸せに暮らしたのであった。