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誓いの儀式と側仕え

 今日からわたし、神殿の巫女見習いです。


 青の衣を準備するのに、日数がかかると言われたので、一緒に洗礼式を終えたルッツに比べて、わたしは一月近く遅れての見習い仕事の開始になる。早く行きたくて仕方なかったので、神殿に行けるまで待っている時間が長く感じて仕方なかった。


 待っている時間が長かったとは言っても、暇な時間を過ごしていたわけではない。トゥーリと一緒にコリンナのところに何度か通って髪飾りの作り方を教えたし、カトルカールの試食会もあった。そこでイルゼに挑発されて暴走するベンノに付き合わされて、パン工房の見学に行ったし、引き抜く職人の下調べにも参加させられた。最終的には動きすぎて熱を出して寝込んだ。


 色々と大忙しだったけれど、図書室へのお預け期間というだけで、わたしにはホントに長くて、一日千秋の思いだったのだ。でも、そんな待ち時間も今日で終わり。


 やっと、やっと本が読める! それも、あの鎖に繋がれた本だよ? あぁ、考えただけで興奮してぞくぞくしちゃう!


「マイン、ルッツが迎えに来たよ」


 部屋の中でくるくる回っていると、トゥーリが呆れたように肩を竦めながら呼びに来てくれた。


「ありがと、トゥーリ。いってきます」

「マイン、興奮しすぎないように気を付けてね!」


 それは無理!


 心の中で答えながら、わたしは家を飛び出した。

 神殿は街の北側にあるので、わたしの恰好は自分が持っている中で一番上等な服のギルベルタ商会の見習い服だ。神殿の制服である青い衣をもらうまでは、このままでいいだろう。


「うふふん、ふふ~ん……」


 鼻歌混じりにスキップしていたら、眉を寄せたルッツに腕をグッと引っ張られた。


「マイン、ちょっと浮かれすぎ。神殿に着く前に熱出すぞ」

「うっ……。それは困る」


 わたしは勝手に飛び上がりたがる足を宥め、浮かれて喜ぶこともできない虚弱な身体を恨めしく思いながら、少しでも速く歩こうと急く気持ちをぎゅぎゅっと抑え込んだ。ルッツと手を繋いで、ゆっくりと神殿に向かう。


「マイン、本当に大丈夫かよ?」

「今日は衣をもらって、側仕えの人を紹介されるだけだから平気だって」


 わたしの出勤日は基本的にルッツと同じ日ということになった。神殿で付けられる側仕えがわたしの体調を管理できるようになるまでは、今までどおりルッツが見ていた方が良いというのが、家族やベンノの判断だった。


 他の人がルッツレベルでわたしの体調を管理するなんて、いつまでたっても無理だと思うけどなぁ……。


 もしかしたら、この先ずっとルッツを付けておきたいと思われているのだろうか。家族を初め、ベンノもマルクもルッツも、みんな、すごく神殿の貴族を警戒している。

 でも、ずっとルッツに頼りきりでは、お荷物にならないようにわたしが商人見習いを諦めた意味がない。ベンノに文句を言ってみたら、フン! とベンノは鼻を鳴らし、マルクは困ったような顔で曖昧に笑って教えてくれた。


 なんと、ルッツはイタリアンレストランの開店と余所の街に製紙工房を開くためにマルク直々の指導が入ることになったらしい。発案者であるわたしとの連絡役なので、かなり変則的な教育課程になると説明された。


 最初から新しい事業の立ち上げに参加させ、どんどん実践させて、仕事内容を叩きこむんだって。

 それ、新人研修じゃないよね? って、思わず突っ込んだけれど、当の本人は予定よりずっと早く余所の街にも行けるということですごく張り切っている。


 ルッツが喜んでいるなら、それでいいんだけど。

 頑張れ、ルッツ!



 神殿に着くと、門のところに一人の灰色神官が待ち構えていた。比較的がっちりとした体格の男性は、わたしの姿を見て、スッと腰を下げて、両手を胸の前で交差させる。


「おはようございます、マイン様。神官長のところへ案内いたします」

「マイン様!? ぷっ、あははは……。似合わねぇ」


 丁寧な物腰の灰色神官の態度に吹き出したルッツが、わたしと灰色神官を見比べてケラケラと笑う。

 灰色神官の眉が不愉快そうにピクリと動いたことに気付いたわたしは、お腹を抱えて笑うルッツを慌ててベンノの店の方へと押し戻す。


「ルッツ、笑いすぎっ!」

「あぁ、悪い、悪い。マイン、今日は4の鐘が鳴ったら、迎えに来るから待ってろよ」

「ん。わかった」


 ルッツに手を振って、少しばかり見送った後、わたしはくるりと灰色神官の方へと向き直った。


「不快な思いさせてしまってごめんなさい」

「……貴女が私に謝る必要などありません。それより、神官長がお待ちです」


 視線を逸らされ、謝罪を拒否されたことに驚くわたしに背を向けて、灰色神官が歩き始めた。コツコツと木靴の音が白い石の回廊に響く。靴の音以外の音がしなくて、沈黙を重く感じながら、わたしは早足で灰色神官の後ろを歩いた。


 回廊の角を曲がった途端、靴音以外の音がした。何となく顔を上げて、音のした方を見ると、回廊を掃除する灰色巫女の姿がちらほらと見えた。

 洗礼式の時にはいなかった何人もの灰色巫女だったが、彼女達の恰好はあまり綺麗ではなかった。掃除をしているからとか、薄汚れた服を着ているからとかの理由ではなく、風呂の回数というか、身嗜みというか、前を歩く灰色神官とは雰囲気が全く違う。


 灰色神官の姿を見ると同時に、掃除途中の巫女や見習いがいちいち手を止めて、廊下の端に下がって並んで目を伏せる。


 これはもしかしたら敬意の表れだろうか?


 わたしが小さくて灰色神官の陰に隠れているようで、あとから驚いたようわたしを見る巫女がいたことからも、この動作はわたしに対して行われたものではないようだ。

 孤児上がりの灰色神官の中にも階級があることを目の当たりにして、自分が今までと全く違う階級のある世界に踏み込んでしまった不安が胸にじわりと広がっていく。


 今までの生活圏では貴族と係わることがなかった。基本的に似たような生活環境の中に住んでいたし、豪商と付き合うようになっても商品価値のお陰で、そこそこ対等に接してもらっていた。


 わたし、大丈夫かな? 階級社会なんてわからなくて、とんでもない失敗しちゃうんじゃないかな?


 シンと静まった豪華な廊下に心もとない靴音が響く。麗乃時代を含めて、想像できない世界に自分が踏みこんでいるのを感じていた。



「神官長、マイン様をお連れしました」


 自分の耳に届く「マイン様」は、耳慣れなくて、自分が呼ばれているような気が全くしない。子供で、偉いわけでもないのに、大人の灰色神官に様付けされて呼ばれるのは、違和感があって、どうにも落ち着かない。

 けれど、この神殿では、青い衣をもらって、貴族に準じた扱いを受けるのだから、いくら何でも「呼び捨てにしてください」なんて言えるわけがない。呼び方には、わたしが慣れるしかないだろう。


「失礼します」


 わたしが癖で軽く頭を下げながら神官長の部屋に入ると、正面に何故か簡易式の祭壇ができていた。洗礼式の時の礼拝室にあったものすごく大きい雛壇を簡略化したものだと一目でわかる。


 三段ある祭壇の一番上には、洗礼式の時に正面の雛壇にあった石像に飾られていた黒いマントと金色の冠が置かれ、中央の段には杖、槍、聖杯、盾、剣が置かれていた。一番下の段には花や果物、香炉や鈴が置かれ、一番端に青い衣が丁寧に畳まれているのが見える。

 祭壇の前には青いカーペットが敷かれていて、嫌でも洗礼式の祈りを思い出させた。


 前に神官長の部屋に来た時は、こんな祭壇はなかったはずだ。わたしが部屋の入口に立ち止まったまま記憶を探っていると、執務の手を止めた神官長が立ち上がり、祭壇の前へと歩いてきた。


「マイン、こちらに」

「はい」


 やや早足で歩き、わたしは神官長の手前で立ち止まる。神官長が金色のように見えるオレンジっぽい目でわたしを見下ろし、軽く溜息を吐いた後、視線で祭壇を示した。


「君は魔力で神殿長を威圧してしまったからな。神殿長には恐れられつつ、嫌われている」

「……それは、まぁ、そうですよね」


 わたしは傲慢な態度と言い草にプツッと切れて、感情的に魔力を大爆発させたお陰で、怒りや苛立ちもある程度魔力と一緒にスッキリ飛ばしてしまった。けれど、暴走した魔力の威圧を受けた神殿長には嫌われて、恨まれていることくらいはわかる。


 ただでさえ、貧乏人の子供として蔑まれてたわけだし……。


「本来ならば、神殿長の部屋の祭壇の前で神と神殿に仕える誓いを行い、衣の付与があるのだが、神殿長は君を部屋に入れたくないようで、至急こちらに祭壇を作った」

「……お手数をおかけいたしました」


 どうやらかなり嫌われているらしい。神殿における最高権力者に、最初から修復不可能な状態で嫌われているというのは、非常にまずい状況なのではないだろうか。

 これから先の神殿生活にいきなりの障害を感じていると、神官長は緩く首を振った。


「火に油を注がぬよう、神殿長には、なるべく顔を合わせないようにした方が良いな」

「はい」


 わたしより神殿長のことをよく知っている神官長がそう言うのだから、今は接触を控えた方が良いだろう。


「では、誓いの儀式を行う」

「よろしくお願いします」


 神官長が香炉を手に取り、香炉についている鎖を握って、振り子のようにゆっくりと振った。その動きに合わせて、焚かれている香が舞い踊り、心落ち着く乳香のような匂いが部屋に広がっていく。


 そして、祭壇にまつられている神具の説明が、神官長の低い声で丁寧に響く。

 最上位にある黒いマントは夜空を意味し、闇の神の象徴。金の冠は太陽を意味し、光の女神の象徴。この夫婦神が天空を司る最高神であるため、最上位に飾られる。


 中央の段にある杖は雪や氷を押し流す水の女神の象徴、槍は長く高く成長を促す火の神の象徴、盾は冷たい冬の到来を防ぐ風の女神の象徴、杯は全てを受け入れる土の女神の象徴、剣は堅い大地に切りこむ命の神の象徴であるらしい。


 下段にあるのは神への供物。息吹を象徴する草木、実りを祝う果実、平穏を示す香、信仰心を表す布が捧げられると言う。


「春の貴色は緑。厳しき冬を越え、萌え生ずる若い命の色。夏の貴色は青。大きく高く育つ命の目指すべき高き空の色。秋の貴色は黄。豊かな実りに色付き、首を垂れる麦の色。冬の貴色は赤。冷たさを和らげ、希望を与える炉の色」


 神殿において尊ばれる色は季節ごとに変わるらしい。祭壇を飾る布やカーペット、神官や巫女が青い衣の上からまとう飾りの色はその季節に準じたものになると言う。


「では、誓いの言葉を」


 神官長はそう言いながら、カーペットの上に跪き、左の膝を立てる。そして、両手を胸の前で交差させて、首を垂れる。

 わたしも神官長の隣で同じ体勢を取ると、準備ができたことを確認した神官長が口を開いた。


「復唱するように」

「はい」


 間違わないように緊張しつつ、わたしはじっと神官長の口元を見つめた。神官長の薄い唇がわかりやすいようにゆっくりと動かされ、誓いの文句が流れてくる。


「高く亭亭たる大空を司る、最高神は闇と光の夫婦神」

「広く浩浩たる大地を司る、五柱の大神は」

「水の女神 フリュートレーネ」

「火の神 ライデンシャフト」

「風の女神 シュツェーリア」

「土の女神 ゲドゥルリーヒ」

「命の神 エーヴィリーベ」

「高く亭亭たる大空より広く浩浩たる大地にあまねく最高神の御力輝かせ」

「五柱の大神の御力を以て、広く浩浩たる大地に在る万物を生し給う」

「その尊い神力の恩恵に報い奉らんことを」

「心を正し、心を整え、心を決し、幾代も限りなき正しき神であると崇め信じ」

「大自然の神々諸共に」

「ただひたすら祈り、感謝し、奉納することを誓願いたします」


 きっちりと復唱して神官長を見上げると、よろしいと言うように神官長が軽く頷いて立ち上がり、壁際の灰色神官に視線を向けた。一番祭壇寄りにいた灰色神官が音も立てずに動いて、祭壇の一番端に畳まれていた青の衣を手に取って、神官長へと手渡した。


「青は成長を促し、助ける火の神の貴色であり、最高神の司る高く亭亭たる大空の色である。最高神への信仰と、これから常に成長し続けることを誓う神官巫女にこれを与う」


 青の衣を与えられたわたしは壁際にいた見習い巫女によって着付けされた。青の衣は上からずっぽり被って、腰を帯で留める簡単な物だった。下に着る物は季節によって自分で適当に調節し、儀式の時にはその上から色々と神に因んだ飾りを付けることになるらしい。


「マイン、神の導きにより赴いてきた敬虔なる使徒よ。我らは君を歓迎する」


 神官長が軽く腰を下げながら、両手を胸の前で交差した。わたしもその真似をして、手を交差させる。


「歓迎していただけたこと、心から嬉しく存じます」

「では、祈りなさい」

「え?」


 唐突過ぎて、何を要求されているのかわからなかった。両手を交差させたまま、わたしが首を傾げると、察しの悪さに呆れたように神官長が少し眉を寄せた。


「洗礼式で教えられただろう? 神に祈りを捧げなさい」


 あれか、グ○コポーズか。

 そうだよね。神殿に入るってことは、あれを日常的に行うってことなんだよ。

 ……大丈夫かな、わたしの腹筋。


 腹筋崩壊してリタイアした洗礼式が脳裏に蘇ろうとするのを、頭を振って追い払った後、笑わないようにグッとお腹を引き締めた。

 まさか覚えていないのか、と言いたそうな神官長の突き刺さるような視線を感じつつ、わたしは祈りを捧げる。


「か、神に祈りを!……っ!?」


 ビシッとグリ○の状態をキープするのは意外と難しい。バランス感覚と自分の体重を片足で支える筋力が必須だ。わたしは洗礼式の神官達のように美しいグ○コポーズをとることができず、無様にふらふらとぐらついた。


「マイン! そんな祈りでは駄目だ。君はいずれ人前で祈らなければならない祈念式に出席することになるんだぞ。巫女が祈れなくてどうする? 祈念式までに、お祈りができるようになっておきなさい」

「うぅっ……。誠心誠意努力します」


 神官長が溜息を吐いて、緩く頭を振った後、壁際に並ぶ灰色神官に視線を向けた。


「君の側仕えとなる灰色神官と見習いを紹介する。アルノー」


 アルノーと呼ばれた灰色神官が指示を出して、部屋の隅に立っていた中から灰色神官と見習いが三人、祭壇の前に進み出てきた。大人の男性である灰色神官が一人、あまり変わらない年頃の少年と少女が一人ずつだった。


 なんと、この部屋まで案内してくれた灰色神官がわたしの側仕えだったらしい。

 比較的がっしりした体で、父さんくらいの背の高さをしている。藤色の髪に濃い茶色の目をしていて、真面目そうで口数が少ない印象だった。

 ここまで案内してくれた時もそうだったけれど、おとなしそうで硬い表情をしている。口が引き結ばれているせいか、ちょっと近付きにくい雰囲気がある。


「フラン、17歳。よろしくお願いします」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」


 丁寧に挨拶を返したつもりだったが、神官長からの叱責が飛んだ。


「マイン。君は青の衣をまとう者だ。灰色神官にへりくだって接するものではない」

「す、すみません。気を付けます」


 階級社会がわからない。何をするのが良くて、何をするのが悪いのか、今までの常識では測れない。マインとなって生活を始めた時のように手探りで常識を覚えていかなくてはならないようだ。


 不安に駆られるわたしの前に、これまた不安要素の大きそうな側仕えが立った。

 栄養状態が悪いのか、ルッツとあまり変わらない身長なのに、目つきが悪くて細ッこい。薄い金髪に一見黒だけれど、よくよく見ると紫の目をしている。すばしっこい悪ガキって感じの第一印象である。


 うわぁ、苦手なタイプ。


 麗乃時代はずっと屋内で本を読んでいたし、今は虚弱の体調不良で寝込んでいることが多いわたしは、筋金入りの引きこもりだ。乱暴……いや、やんちゃで、活動的で口が悪い男の子は基本的に近付きたくない存在である。

 仲良くはなれないだろうな、と思いながら、わたしが少年を見ていると、少年も値踏みするような態度で、じろじろと不躾にわたしを見上げたり見下ろしたりしながら、口を開いた。


「オレはギル。10歳だ。お前がオレの主? 最悪。すっげぇチビじゃん」

「え?」


 あれ? 側仕えって、こんな態度でも良いの?


 周りをバカにしているような目と非常に口が悪いことにビックリして、口をパクパクさせていると、またもや、神官長から叱責が飛んできた。ギルにではなく、わたしに。


「マイン、ギルは君の側仕えだ。よくない態度をとった時は君が諫めなければならない」

「え? わたしが?」

「君がやらずに誰がするんだ?」


 当然のように言われたが、諫めるって、どうやって? 言葉で言っても聞いてくれるタイプじゃないと思うんだけど?


「あの、もう少し言葉遣いを改善してくれない?」

「ハッ! バカじゃねぇの!?」


 ……チェンジお願いしても良いですか?


 神官長は処置なしと言いたそうに首を振っているが、これは明らかに人選ミスだと思う。嫌がらせか、と思った瞬間に、附に落ちた。

 間違いなくこの人選は嫌がらせだ。ギルに側仕えが務まるとは思えない。面倒そうなのを平民のわたしに押し付けてしまえと言うことなのだろう。

 納得したら、丁寧に接するのもバカバカしくなってきた。クラスのやんちゃ男子と同じような対応でいいだろう。基本スルーだ。


 わたしは軽く手を挙げてギルの言葉を遮ると、側仕えとして並んでいる唯一の女の子に目を向けた。

 深紅の髪に薄い水色の目。勝気できつそうな顔をしているけれど、美人顔。可愛いじゃなくて、綺麗な顔立ちをしている。

 何と言うか、自分の容貌を理解していて、男に媚びることを知っている女の子だと思う。女同士って、そういうところをついつい嗅ぎわけてしまうんだよね。


「あたしはデリア。8歳よ。仲良くしましょうね」


 仲良くしましょうと言う割には、デリアの目はちっとも笑っていない。明らかに仲間になれなそうな雰囲気を察して、攻撃態勢に入ったように見える。

 それでも、一見にこやかな笑みを浮かべるデリアは神官長にとっては問題のある人選ではないのだろう。叱責はなかった。


 どの側仕えも友好的な雰囲気は欠片もないし、全然上手くやっていけるような気がしない。側にいられるだけで疲れそうなんだけど。


「あの、神官長。わたし、今まで側仕えはいなかったので、いなくても……」

「駄目だ。青色神官が側仕えを持つのは義務だ。彼らは神殿長と私によって選ばれた側仕えだ。君は青の衣まとっている以上、彼らの主として相応しい言動をしなければならない」

「……そうなんですか。わかりました」


 いらないって言っちゃダメなんだ?

 しかも、わたしには選択権もないんだ?


 神殿の巫女見習い、誓願を立てた初日から挫折しそうです。

誓いを立てて、癖のある側仕えの登場です。

マインはまだ図書室にたどり着けません。


 次回は神官の仕事と寄付金についてです。

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