第1話 アースクイーン会議
テンブリ王国から『星とバラの妖精』たちが帰ってきてから2週間後。新年になってから、会議室でアースクイーン会議が開かれる。出席者はアイーダ、バービレ、レジェラ、フェネ、プレヤ、イスリの6人。アイーダが開会を宣言する。
「アースクイーン会議を始めるわ。今日は話し合うことがたくさんあるから、そのつもりで」
久しぶりのアースクイーン会議だから、予想されていたことだ。だから、全員が揃ってコクコクする。それを見てアイーダが続ける。
「最初は星の輝く赤いバラとコラールの里のいろいろな件についてよ。まずアルタイルホールの件ね。レジェラ、お願い」
それを聞いたレジェラが、心得たとばかりに説明を始める。
「今月は素人音楽大会ですわ。この国を東西南北の4つの地域に分けての予選会が明後日から始まりますの。決勝大会は今月末の予定ですわ」
レジェラがここで一旦話を区切ると、アイーダが問いかける。
「素人音楽大会について質問があるかしら?」
フェネが手を上げて質問する。
「審査員は誰でしょうか?」
「音楽魔法一族の方々5人で、審査委員長はムジカ家の第二夫人ですの」
フェネの質問にレジェラが答えると、フェネはコクコクする。他に誰も手を上げていないので、レジェラは話を続ける。
「来月は音楽教室の発表会ですわ。管楽器、弦楽器、打楽器の各部門ごとに開催します。初心者は合同演奏ですの。1人が緊張して失敗しても演奏は続行できますから。各部門ごとの発表会が終わったら、各部門の優秀者を集めて楽団の演奏発表をします。指揮は弦楽部族のピエトーラさんですわ。お願いしたら快く引き受けてもらえましたわ」
「音楽教室の発表会について質問があるかしら?」
アイーダが問いかけると、バービレが手を上げる。
「演奏する曲は何かニャ?」
「ピエトーラさんが選曲中ですわ。お客を集めるためには有名な曲を演奏する方が効果的ですの。いい曲でも知られていない曲だとお客があまり来ないのです。だから、有名な曲の中から選んでいる最中ですの」
バービレが納得顔でコクコクすると、他に手を上げている者がいないので、レジャラが説明を再開する。
「3月は『赤いバラ』と『コラール』、『星とバラの妖精』のコンサートですわ。『コラール』の準備は終わっていますけど、『赤いバラ』と『星とバラの妖精』それぞれ準備はどうですの?」
アイーダとプレヤが答える。
「『赤いバラ』も大丈夫よ。新曲の『雪が積もっても』を初披露するわ」
「『星とバラの妖精』も新曲の『ドキドキときめく学園』を披露する予定。今はダンスの振り付けを覚えている段階だけど、あと1ヵ月あれば、大丈夫だよ」
それを聞いてホットした様子のレジェラが言う。
「テンブリ王国のサーシャ王女殿下一行がご来場なさるのです。ちょうど1日だけ貴賓席が空いていたのは幸運でした。『星とバラの妖精』がテンブリ王国で勲章を頂いていますから、返礼品を用意したいと思います。何がいいかしら?」
レジェラの問いかけに、フェネが答える。
「王女殿下から与えられる最高の勲章である赤獅子勲章をいただきました。だから、こちらも最高の贈り物を用意する必要があります。でも、最高というのは高額な物品という意味ではなく、最高に喜んで頂けるという意味です。それについて心当たりがあります」
フェネの言葉にアイーダが反応する。
「最高に喜んで頂ける物は何かしら?」
「それは、サイン入り魔音盤です。『赤いバラ』と『コラール』、『星とバラの妖精』のこれまでに発売された全曲のサイン入り魔音盤です。どうやら王女殿下は私たち3つのグループの大ファンらしいのです。あっ、それを2セットお願いします。友だちのエリーゼも欲しがると思いますから」
「エリーゼって誰かしら?」
「王女殿下が女王陛下になられた時に、女近衛騎士団長になる女の子です」
「そう、じゃあ2セット用意しましょう。でも他にも用意した方がいいわね。レジェラは何か思いつくかしら?」
アイーダに訊かれたレジェラは少し考えてから、答える。
「今発売中のバラのジュース、ヨウカン、クッキー、ケーキ、ゼリー、ローズシロップ、ローズウォーター、バスフレグランス 入浴剤に加えて、一般工房長のミマさんが開発した3月発売予定のリップクリーム、あちらの国ではリップバームと言うのかしら、それから口紅の詰め合わせセットでどうかしら?」
「あら、王女殿下はまだ12才だから、口紅はまだ早いかもしれないわよ」
「そうね、口紅は止めておきましょう」
アイーダとレジェラのやりとりを聞いて頭に?が浮かんだフェネが手を上げる。
「リップクリームと口紅はどう違うのですか? なぜ子どもに口紅は早いのですか?」
それを聞いたレジェラが大人の余裕でニッコリして答える。
「詳しいことは一般工房長のミマさんに尋ねて欲しいのだけど、リップクリームも口紅も唇に塗る物。でも、リップクリームは唇がカサカサに乾燥するのを防ぐために塗るお薬の一種ですわ。唇は乾燥しやすいですから。だから、子どもでも必要な物ですの。口紅はお化粧をするために唇に塗るための物ですから、子どもには不要ですの」
「えっ、私、お化粧してみたいです」
「子どもは肌も唇もプニプニですから、必要ありませんわ。それから、お化粧はちゃんと方法を習ってからですの。私は小さい頃に、こっそりお母様の化粧品を使ってお化粧をしたら、とっても面白い顔になってしまい、みんなに笑われてしまいまいしたわ」
それを聞いてフェネはお化粧することを思い止まったようである。
「わかりました。大人になるまでお化粧はしません。笑われたくないですから」
「他にいい贈り物の案はあるかしら?」
化粧品の話が終わったと判断したアイーダが質問するが、誰も手を上げない。そこで、アイーダは議題を進めることにする。
「レジェラ、アルタイルホールの4月の予定はどうかしら?」
「案は2つありますけど、どちらにするかはまだ決まっていませんわ。1つはミュージカル歌姫公爵令嬢、もう1つは旅の一座『銀色の星』の公演ですの。現在『銀色の星』はノルデンランド王国の王都ロホヘルムで公演中ですわ。だから、近いうちにノルデンランド王国に行って、公演を観ていい出し物であれば、4月か5月に公演の契約をしようと思いますわ」
「そうなのね、じゃあ、4月の公演は未定ってことね。でも、ミュージカル歌姫公爵令嬢は4月でも大丈夫だから、安心ね」
アイーダの言葉が終わると、プレヤがすぐに発言した。
「ノルデンランド王国に行く時は、僕たち『星とバラの妖精』も同行させてください。北の方の海でクジラ型魔獣が大量に発生しているらしいのです。是非ともクジラ型魔獣を見てみたいです。それに、オーロラも例年より頻繁に出現しているらしいので、オーロラも見てみたいです」
「あら、クジラ型魔獣とオーロラは私も見たいわ。私も一緒に行くわ」
「私もクジラ型魔獣を討伐したいニャン」
アイーダもバービレ同行を主張する。すると、レジェラがニッコリして言う。
「わかりましたわ。詳しいスケジュールは後で相談しましょう。次に大浴場建設計画について説明させていただきますわ。現在、平民向けに男性用浴場と女性浴場のそれぞれに森林浴場が建設中です。
森林浴場とは、50人ほどが入れる浴槽の周囲をいろいろな木で取り囲んだものが10あるものです。それぞれ薬草を入れて美肌の湯や腰痛・肩こりの湯としたり、お湯の温度を変えたりして特色のある浴槽にしますわ。貴族用には各部屋に同じものを10部屋建設いたしますわ。さらにノルデンランド王国にあるサウナ風呂も検討中ですの。これの視察もノルデンランド王国に行った時に予定しておりますわ」
「サウナ風呂って何ですか?」
イスリが尋ねると、レジェラがニッコリして答える。
「蒸し風呂とも言われていて、高温の水蒸気が満ちた部屋に入ると、お風呂と同様に全身の血行促進と気分転換に効能があるらしいですわ。全身の血行が促進されると健康と美容にいいですから、特に女性向けかもしれません」
そこでレジェラはプレヤとフェネの方を見て続ける。
「サウナにはサウナトントゥと呼ばれるサウナに住む妖精がいるらしいわ。サウナトントゥは50センチ程度の大きさで、人と話をすることができると言われています。そして、サウナとサウナを使う人の守り神とされている妖精ですの」
妖精という単語に敏感に反応したプレヤとフェネは同時に叫んだ。
「「サウナ風呂に一緒に連れっていってください」」
「そう言うと思いましてよ。いいですわ。一緒に行きましょう」
「わーい、妖精と会えるかも」
プレヤが言うと、レジェラが冷静に注意する。
「まだ続きがありますから、お静かにね。次にバラの花壇についてですわ。リップクリームや口紅を大量に生産するためには、バラの花壇を拡大しなければならないわ。『星の輝く赤いバラとコラールの里』には、まだまだ空き地がありますけど、人手がたりませんわ。バラの手入れをする庭師や経費を管理する文官とか。
屋敷商会に頼んでかわら版に求人広告出すつもりでしてよ。王宮や貴族家を退官した者で、まだまだ働く気があるベテランを男女問わずにメインのターゲットとしますの。ベテランの方々に若者を指導していただいて、高いレベルの文官や庭師に育ててもらう予定ですわ」
レジェラが話を区切るとバービレが首を傾けて質問する。
「バラは手入れが大変ニャン。バラ以外の花じゃダメかニャ?」
「リップクリームや口紅を作るには蜜蝋が必要ですの。バラの花の蜜蝋であれば、バラの香りや色をつけるが容易になると一般工房長のミマさんが言っておりますの。それにラの花の蜜蝋を使っていることはイメージアップにもなりますもの。ああ、そういえば蜜を集める養蜂業者も必要ですわ」
「わかったニャン」
「それから、アイーダにもお願いがありますわ。バラの花壇にする土地が決まったら、イスズ伯爵領で使った肥沃な土地にする音楽魔法を使って欲しいのだけど、いいかしら?」
レジェラがアイーダを見て頼むと、アイーダはニッコリして答える。
「もちろんよ。任せて。いつでも大丈夫」
「ありがとう。私からはこれで終わりですわ」
レジェラはふぅと息をつく。すると、バービレが優しい目をして言う。
「レジェラ、ご苦労様ニャン。私で手伝えることがあったら、言って欲しいニャンン。役に立てるかはわからないけど、できるだけ頑張るニャン」
他の者もコクコクして、全員が助力を申し出る。その後、細々とした議題を話し合いアースクイーン会議は終了となった。
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