ダンジョン攻略
「こちらに見えますのが第一階層のボス、ミノタウロスでございます」
メイド服姿のアリアリアが指し示す方向には、大男の体に牛の頭が乗った魔物がいた。手には両刃の斧を持っている。
あの体格で振るわれた斧の一撃は岩をも容易く粉砕するだろう。
ミノタウロスの後ろに鉄扉があり、倒す事で扉の錠が外される仕組みになっているそうだ。
「じゃあ、誰がやりますか?」
「まずは俺だろ」
チャンピオンが丸太のような腕を掲げ、戦いを希望している。
「我は……どっちでもいい」
クヨリはぼーっと見ているだけで、やる気は感じられない。
「我輩はダンジョンの参考にせねばならぬからな。手合わせ願いたいところだ」
団長兼魔王は探索中も自分のダンジョンに活かせないかと、メモを取りながら歩いていたのだが、今も真剣な眼差しでミノタウロスの全身を描いている。
俺から購入した『模写』のスキルを有効活用しているな。
魔王団長は何故かタキシードにマント姿だったので格好の意味を尋ねると、
「よそのダンジョンにお邪魔するのだ。同じダンジョンを経営する者として正装で行くべきであろう」
との事だった。
今回、アリアリアが守っている研究施設に乗り込むメンバーは俺を含めたこの五人となっている。
チャンピオンとクヨリは初めから頼るつもりだったのだが、アリアリアは道案内と研究施設内での操作をする為に。魔王団長は今後のダンジョン運営の参考にと同行を申し出た。
目的地は地下深くにあり、そこにたどり着くには何階層にも別れた研究施設を突破しなければならないらしい。
ここは古代の人々が自分の研究成果を披露する施設らしく、地上の魔物育成場で育てられた魔物達も本来はここに放牧されて研究される予定だったそうだ。
人工的に造られたダンジョンには無数の魔物や機械生物が存在するそうで、少数精鋭で行くべきだと判断した結果、この面子に決まった。
「誰からでもいいと思うのですが、こんな事もあろうかとくじ引きを用意してきました」
五本の棒が刺さった筒を取り出し、そこから一本引いてもらう。
当たりの赤い印が付いた物を引いたのは魔王団長だった。
「物事は体験する事でより深く理解する事が可能となる。これは団員にも常日頃から言い聞かせておるからな。団長である我輩が自ら見本になる事で下々の者がついてくるのだ」
マントをなびかせてミノタウロスに向かっていた魔王団長は、ピタリと足を止めて振り返ると俺達のもとに駆け足で戻ってきた。
「今のシーンはさまになっていたと思うのだがどうだ。強敵に挑む男の後姿にスポットライトが当たり……うむ、悪くない。すまぬが、回収屋よ。この映像を記録できるこれで我輩の活躍をしっかりと撮っておいてもらえるか」
そう言って筒状の魔道具を手渡された。
この戦いすら演劇の糧にするつもりのようだ。
再びミノタウロスの前に戻ると、そこで初めてミノタウロスが動き始める。
「あいつ攻撃もしかけずに待っているとは、見た目に反して律儀なヤツだ」
「チャンピオン様。階層を守るボス達は一定の距離まで近づくか、攻撃を仕掛けない限り動きません。なので今のように悠長なやり取りも可能となります」
アリアリアの説明を聞いて合点がいった。だから棒立ちで大人しかったのか。
魔王団長が左腕を横に払うようにしてマントを投げ捨てる。……あれは確実に演出だ。
「太古の遺跡を守りし守護者よ! 我が友との誓いを果たすために、再び長き眠りへといざなおうではないかっ!」
無駄によく通る声がダンジョン内に響いている。
「友との誓いってなんですか?」
「一緒にダンジョンを潜るという約束の事では?」
アリアリアが首を傾げてこっちを見たので、そう答えておいた。
魔王団長の決め台詞などお構いなしにミノタウロスが鉄錆の浮いた斧を振り下ろす。
重く破壊力ある一撃を後ろに跳んで避けたように見えたのだが、地面と激突した際の余波なのか、吹き飛ばされて地面を大袈裟に転がる。
「今の当たってないぞ」
チャンピオンが眉根を寄せて訝しげに呟く。
よろよろと立ち上がった魔王団長は、口元の血を服の袖で拭うような仕草をしているが血など一滴も出ていない。
「なかなかやるではないか。だが、我輩は倒れるわけにはいかぬのだ! 積み上げられた多くの屍の上に立ち、ようやくここまでたどり着いた。亡き友の願いを、想いを、無下にするわけにはいかぬっ!」
さすが劇団の団長。本当に声がよく通るな。
「亡き友って誰だ。ここまで被害はないだろ」
チャンピオンのツッコミにクヨリも頷いている。
戦闘中に芝居を入れられるぐらい実力の差があるので、安心して見物できるのがいいのだが緊張感が皆無だ。
「ここで男の脳裏にある記憶が蘇る。それは辛く厳しい修行の最中に師匠から言われた、ある言葉だった」
唐突に適当なナレーション入れるのやめませんか、アリアリアさん。
その声が届いたらしく、振り返った魔王団長の顔は満面の笑みだ。
戦闘中に目と目で通じ合うのはどうなんだろうか。取り残されているミノタウロスの顔が赤く興奮しているように見えるのだが。
「己の命を燃やし放つ必殺の一撃……。師匠、禁を破らせて――」
「ウモオオオオオッ!」
激怒したミノタウロスが背を向けて決めポーズをしている魔王の脳天に斧を振り下ろす。
「ええい、芝居の途中ではないかっ!」
黒い闇をまとった魔王の拳は斧を粉砕し、そのままミノタウロスの頭を吹き飛ばした。
首から上を失った魔物は仰向けに倒れ、無残な屍を晒している。
「技名を叫ぶことができなかったではないか。技名や名乗りの最中は攻撃しないというのが暗黙のルールではないのかね。我輩らは勇者のどうでもいい前口上も最後まで聞いてから攻撃を加えておるぞ」
圧倒的な力の差を見せつけた魔王団長は不満げに地面を蹴りつけ、死体に対して文句を並べている。
まともに相手にされずあっさり殺されたミノタウロスがかなり哀れだ。
「第一階層突破、おめでとうございます。この調子で行きましょう」
開いた扉の先へ俺達は進んでいく。
下に進めば進むほど難易度が上がるそうなので油断はしないように心がけておこう。
第二階層。
「またもあっさりボス部屋まで到達されましたね。ここの魔物達は地上の魔物と比べてはるかに強く設定されているはずなのですが。……まあいいでしょう。二階層のボスはメカミノタウロスです」
第一階層であっさり倒されたミノタウロスと姿形がそっくりな敵が鉄扉の前にいる。
違う点は皮膚が鈍い鋼色。あと手にした両刃の斧も全て鋼でできているようだ。
「次こそは俺だな」
チャンピオンが一歩進み出たが誰も反論はなく、任せる事にした。
「メカミノタウロスはオートマタを研究開発している部署が試しに魔物を強化した際に、偶然生まれた金属の硬度を得た皮膚を持つ魔物。ちょっとやそっとの攻撃ではダメージを与えられ――」
アリアリアの説明を遮ったのは地響きと破壊音だった。
音の源に目を向けると、胴体に大穴が開いたメカミノタウロスと拳を突き出した格好のチャンピオン。
どうやら一撃で勝負あったようだ。
第三階層。
「ええと説明要りますか? ここのボスはミノタウロスゼットです。遺伝子操作を得意とする部署が身体能力の限界を超える生物を生み出したそうです」
ここのボスはミノタウロスを使わなければならない決まり事でもあるのだろうか。
第一階層、第二階層よりも体が一回り大きく筋肉が膨張した個体がいる。今度も武器は両刃の斧を手にしている。
「次は我か」
クヨリがとことこと敵の前まで進んでいく。
構えも何もなく散歩にでも出かけるかのような歩み。
無防備なクヨリに敵も戸惑っているようで、目の前に来るまで攻撃を仕掛けようともしていない。
ぼーっとしているドレス姿の女性が武器も持たずに歩いてきたら、警戒心が薄まるのは分かる。
クヨリが無表情で敵を見上げながら、そっと相手のお腹に手を添えた。
その瞬間、ミノタウロスゼットの体が鉄扉に激突して貼り付いている。肉片と血が周囲に飛び散り、絶命したようだ。
「開発者の皆さんが生きていたら、大口を開けて唖然としていたでしょうね」
誰も驚かない中でアリアリアがため息交じりに感想を口にした。
第四、第五、第六、第七、第八階層もあっさり攻略して、今は第九階層の最後のボス部屋の前にいる。
各階層には罠や無数の敵が待ち構えていたのだが、罠は『直感』で事前に避けるか、わざと魔王団長が起動させて罠を堪能するという余裕の対応。
敵に対して戦力が過剰だったようで、苦戦する事もなくこの場にいる。
「ここは警備レベルAで誰も攻略できないと主が仰っていたのですが、訂正する必要があるようです。はあー」
アリアリアが肩をすぼめて呆れている。
ほぼ無傷で完全攻略一歩手前という状態。
長年この研究施設を隠し通してきたアリアリアも、ため息の一つも吐きたくなるだろう。
「ここが最後のボスになります。これを倒したら目的の研究施設なので頑張ってください」
思ったよりも早かったな。
階層は思ったよりも広く、丸一日かけて扉まで進めるぐらいの距離だった。
初めは普通に攻略していたのだが、途中から面倒になったクヨリとチャンピオンが地面を掘って下の階層に進む近道を作ろうとしたがアリアリアに止められてしまう。
彼女の説明によると各階層のボスを倒さないと最後の扉が開かないらしく、渋々だが承諾した二人が今度は迷路状の階層を真っすぐ進めるように壁を破壊して、最短距離を移動できるようになった。
「これはダンジョン攻略の美学に反するのではないか……」
「古代人が見たら発狂しそうな光景ですね……」
道中で何度もこぼしていた魔王団長とアリアリアは思うところがあったようだが、楽なので放置していると時間がかなり短縮された。
アリアリアは攻略に最低一か月はかかると予想していたようだが、ここまで来るのに十日ですんだ。
「最後は各部署が協力し合って生み出した最強の魔物です。その名もゴッドミノタウロス」
大袈裟な名前をしているが、結局ミノタウロスなのか。
ここまでのボスは全てミノタウロスだったので、ここの研究所の人々にはこだわりがあったのだろう。
ボス部屋に鎮座していたのは腕が六本あり、その全ての手に両刃の斧があった。斧も譲れないポイントなのか。
角が無駄に四本あり目も八つ。頭をぐるっと一周するように目が配置されているので死角はないようだが。
「最後なら全員でやってみるか?」
「そういえば何故かボス戦を順番に単独撃破していましたね。後半なんてどれだけ早く倒せるか競い合っていましたし」
チャンピオンの提案に反論はないが、今までも全員で倒していればもっと楽だったなと今更ながらに思ってしまった。
「研究者の方々が不憫で仕方ありませんでした」
そっと目元をハンカチで拭っているが、アリアリアの目に涙は一滴もない。
そんな事を言いながらも最後の戦いに参加する気のようで一歩踏み出している。
全員が肩を並べて最後のボスに向かっていく。
「そういえば、結局ほぼ全員に私の生存が伝わったという事は、姉にも知られたと考えるべきですよね」
「そうだな。でもよ、お前は気づかれていないつもりでも既に相手に筒抜けで、お前が街を離れている間に何かあったら納得していたか?」
「それは……」
最後の部屋は今までよりもかなり広いので、雑談をしながら歩を進める。
「回収屋は心配しておるようだが、我も皆も巻き込まれたとしても後悔はせんよ。それに何も知らされていないより、全て知っておいた方が心構えもできるというものだ」
「そうですね。あの乳女は足手まといですが、アリアリアが仕方なく守ってあげますので問題ありませんよ」
クヨリとアリアリアが俺を見つめて力強く頷いている。
彼女達の言っている事も一理ある。
無防備なところを狙われるよりも、全員が事態を把握していた方がいざという時の対応が楽だ。
「お主の姉が人とは思えぬ厄介な存在なのは理解した。だが仲間と力を合わせ友情の力で乗り切るというのが王道ではないか。それに回収屋よ、貴様は我々の力を甘く見ている節があるぞ。特に我輩のな! 世界征服を目論む悪の大魔王が守護しておるのだぞ」
胸を張って堂々と言い放つ魔王団長。演劇好きの芝居がかった口調の壮年のイメージしかないが、本来の彼は膨大な魔力を内に秘めた魔王だ。
そして配下の団員達も普通の人間では太刀打ちできない猛者揃い。姉の力をもってしても容易には崩せない……だろう。
「そうですね。もっと皆さんを信じますよ。それに……姉に関する妙な動きも耳にしていますので」
マエキルと眠り姫の集めた情報の中に気になるものがあり、それを詳しく探ってもらっている最中だ。近日中にその答えは出るだろう。
「さて、皆さんおしゃべりはそこまででお願いします。相手も戦闘態勢に移行されたようなので」
アリアリアの声に促されるように視線を正面へと向けると、六本腕のミノタウロスが立ち上がり斧を振りかざして突進してきている。
「早い者勝ちでいいよな!」
チャンピオンが弾丸のように飛び出し、クヨリは近くに転がっていた巨大な岩を投げつけ、アリアリアは目から謎の光線を放ち、魔王団長は右腕を伸ばして指を鳴らすと数十もの黒い礫が飛翔する。
完全に出遅れた俺はとりあえず足下の小石を全力で蹴り飛ばしておいた。
「皆さまお疲れさまでした。ここが終着点でございます」
原形を留めていない元ミノタウロスの死体を片付けると、アリアリアが恭しく頭を下げ扉を開く。
最後のボスは活躍する事もなく、数秒で哀れな肉塊と成り果てた。合掌してやりたいが、片腕がないので不格好になってしまう。そこは勘弁してくれ。
扉の向こうには部屋があるのだが、なんとも妙な造りをしている。
奥行きのある室内で左右の壁際に巨大なガラスの筒があり、その中は草の汁をしぽって薄めたような色の液体で満たされていた。
合計五十ぐらいの筒があるのだが、その内の一番右奥のガラスの筒だけ破壊されている。
近くに寄ってもう少し詳しく調べると、どうやら内側から破壊されたようだ。
「アリアリアさん、ここが研究施設の最深部で間違いありませんか?」
「はい。ここがこの研究施設の心臓部ですよ。そしてそのずらっと並べられた装置には我々オートマタが入っていました」
両腕を広げどこか懐かし気に語るアリアリアの顔は少し寂しげだ。
彼女もこの筒の中に入っていたのか。
「では、この研究所ダンジョンをクリアーされた皆様には褒美が与えられます」
「ん? 回収屋の義手を作りに来たんだよな。俺達もなんかもらえるのか」
予想外の展開に思わずチャンピオンが疑問を口にしている。
アリアリアは小さく頷くと再び状況の説明を始めた。
「私はこの研究施設の運営管理を任されたオリジナルのオートマタです。この研究施設の最深部まで到達した者には報酬を与えるように、と指示されていました。本来は研究の成果を調べるための施設で、挑戦者の皆さんから詳しいデータを得るのが目的でした。……研究者の皆様が生きていればの話ですが」
魔物や機械生命体を生み出した研究者達が、実験を兼ねて作り上げたダンジョン。
ここまでの戦いの一部始終は本来なら今後の課題として活用されたのだろうが、それを参考にする研究者が既に誰もいない。
「それでもインプットされた設定は順守しなければなりません。では褒美なのですが、永遠に稼働し続ける機械の体を得るか、肉体を操作して理想の体や若さを得る事が可能となります」
「つまり、オートマタになるか、理想の体へと肉体改造をしてもらうか、どちらか選べるという事ですか」
「はい、その通りです」
これは人によっては魅力的な提案だろう。アリアリアのように人間と変わらぬ見た目をした老いる事のない体を求める人は少なからず存在する。
肉体の改造も飛びつく者は多いだろうな。自分に自信の無い者や、もっと美しく格好良くなりたいと考えてしまうのが人というものだ。
「一応聞いておきたいんだがよ、オートマタになるってどうやってなるんだ?」
「機械の体を用意しまして、そこに記憶を移すのですよ」
「……記憶を移すということは、魂を抜き出し仮初の器に宿らせるようなものか」
「クヨリ様の発言がほぼ正解ですね」
幽霊や悪霊が他人に乗り移る場面は何度か目撃しているので、その行為は何となく理解はできる。だとすると、一つ疑問が生じてしまう。
「残された体はどうなるのでしょうか」
「破棄されますね。ただの死体になりますから」
まあ、そうなるか。
オートマタとして生まれ変わる。少し興味はあるがやりたいとは思えない。
「その場合スキルは使用可能であるか?」
「魔王様、鋭いご指摘ありがとうございます。はい、可能ですよ。スキルは体にではなく記憶……魂に刻まれた能力ですので」
幽霊がスキルを使えるので、その点は納得ができる。
アリアリアがスキルを何度も発動させていたので、実際に可能なのだろう。
「肉体改造とやらはどうなるのだ? 体を若返らせたり、容姿端麗にするという事なのか?」
クヨリはそっちの方が気になるらしく、いつもより声に力がある。
「古代人は美容整形と呼ばれる技術で理想の顔や体に自分を作り替えていました。その技術があれば十代の若さも、豊かな胸とお尻も思うがままですよ」
「ほほう」
興味があるらしく熱心に質問している。ちらちら俺を見ているのは何の意味があるのだろうか。
「ちなみに回収屋は、やはり胸や尻が大きい方が好みなのか?」
「何がやはりなのかは存じませんが、容姿にこだわるような時期はとうの昔に過ぎ去ってしまいましたよ」
「そうか。ならば、どうでもいい」
俺の回答を聞いて満足したようで、褒美に対する興味を失ったようだ。
「では皆さん、この褒美を必要とされますか?」
アリアリアの問いに誰も頷かない。
ここにいる者は誰一人として必要としない。
「いらねえな。肉体ってのは己で磨くもんだ。他人が勝手にいじった体に何の意味があんだ?」
「長年ずっとこの体で過ごしておるのだ。愛着も湧いておる」
「悪魔である我輩に体の変化など必要ない。そのようなものは自力でどうとでもなる」
「そういう事らしいので、その報酬はお断りさせていただきます」
悩む素振りすらせずに即答した全員に対し、アリアリアは驚くでもなく呆れるでもなく、満足そうに微笑みを返す。
「私も皆様のように強さがあれば……。失礼しました。では、本命の回収屋様はオートマタと同じような義手と、腕を再生させる方とどちらを選ばれますか?」
アリアリアの呟いた内容が気にはなったが、そこは触れるべきではないと判断する。
「腕の再生も可能なのですか?」
「はい。魔物や動物には腕や尻尾や歯を失っても再生する個体がいます。その能力を応用して欠損した人の体も再生する事が可能なのです。義手の方がおススメですよ、様々なギミックを取り付けますので!」
いつになく饒舌なアリアリアは義手を付けさせたいようだ。だから腕が再生できることには触れなかったのか。
この選択が今後に大きく影響を与える。どちらにすべきか。
「義手だからと言って不安になる事はありません。ちゃんと触感もありますし、痛覚だってお望みであれば再現可能です!」
攻めてくるな、アリアリア。
義手の利点を説明し続けているのを聞き流しながら悩んでいると、ふと俺の右手に誰かが触れた。
視線を向けると右手を両手で包み込んでいるクヨリがいる。
言葉は口にしていないというのに、じっと見つめる瞳が雄弁に想いを語っていた。
「申し訳ありませんが、腕の再生をお願いしてもいいですか」
「理由を聞いても構いませんか?」
心配そうな眼差しのクヨリに笑みを返す。
「やはり、作り物ではなく自分の手で触れたいじゃないですか。それに決着は……」
失われた左腕があった場所を見つめ、そこに腕があるつもりで握りしめる。
「自分の手で付けたいですから」