牢獄で見る夢
暗闇の中に無数の気配が蠢く。
湿気を帯びた不快な空気に、更に不快な臭気が混ざり神経を苛立たせる者も少なくない。
静寂に満たされた空間に時折聞こえるのは、息遣いとカリカリと床を削るような音だ。
灯りの一つでもあればいいのだが何もない。それどころか一筋の光も入らない。
ここは徹底しているようだ。暗闇というのはそれだけで脅威と恐怖を与える拷問となる。
――俺は今、牢屋にいる。
無数の罪人が放り込まれた牢屋。何故、こんな場所にいるのか。
拠点にしている街から常人の足なら、一か月以上はかかる距離にある王国。
この国の四代目の王は名君として名を響かせていたのだが、男盛りの歳に急死してしまった。国民が悲しみに暮れる中、跡を継いだ次の王が暴君と化し、国の治安は地に落ちた。
四代目がいた頃は、目立たないが民想いの王子と言われていたというのに、王位を得た途端に変貌したのだ。
きっと王子は『演技』を所持していて、レベルも高かったのだろう。
「にいちゃん。あんたは何をして、こんな場所に放り込まれたんだ?」
向かいの牢からしゃがれた老人の声がする。
髪も髭も伸び放題の老人が正面から俺を見据えている。光の射さない世界だというのに、その目は俺を捉えていた。
『鑑定』を発動させると、老人の頭の上に『暗視』のスキルが見える。やはり老人も俺と同じく、闇を見通すスキル持ちか。
この状況下において人の体が適応して、後天的にスキルを覚えたのだろう。
「商売に来たら賄賂を要求されまして。断ったらこの有り様です」
「そりゃ、ついてなかったな。あのバカ王子が力を持ってから、この国は酷いもんよ。街中でバカ王子をバカと言っただけで、すぐさま牢屋行きさ。兵士たちも暴力も賄賂もやりたい放題。先王の時代はこの牢に入れられる奴は滅多にいなかったんだぜ。この――死刑囚だけが放り込まれる専用の牢屋にはな」
ここは死刑囚専用。
だからこんなにも頑丈な造りをして、精神を蝕むような重苦しさで満ちているのか。この漆黒の闇は死刑囚に与える懲罰も兼ねているのかもしれない。
「まあ、だからといって死刑の心配はいらねえぞ。普通の牢屋がいっぱいになって、ここに放り込まれただけだからな。いずれ釈放されるさ。……俺達と違ってな」
肩をすくめた老人の声に牢屋の中の何人かが反応した。
その連中は全員ぼろ布を身にまとい、ここに長期間滞在していることをうかがわせる。
どうやら道を挟んで、こちら側が軽犯罪者。向こう側が重罪を犯した……本来の死刑囚のようだ。
「あなたは死刑囚なのですか?」
俺の問いかけに大きく反応したのはこちら側の面々だった。
「お、おい、あんたいきなり何言ってんだ! あいつらは死刑囚の極悪人どもだぞ、滅多なことを言うな。何されるか分かったもんじゃねえぞ」
俺の予想は当たっていたのか。軽犯罪者の声が震えている。
「おいおい。檻の中にいるんだぜ? 今更なんにもできねえよ。なあ、お前ら」
老人ではない他の死刑囚が大声で返すと、他の連中がゲラゲラと笑っている。
「それで、どのような罪を?」
「にいちゃん、肝っ玉が太いな。俺は『暗視』ってスキル持ちなんだが、この状況下で平然どころか薄っすら笑み浮かべているじゃねえか。最近の商人ってのは剛毅なんだな」
「行商人を長くやっていると、危険は日常ですからね」
死にそうな目には何度も遭遇した。今でこそ動じずに対応できるが、昔は商人としても未熟だったから、数えきれないほど痛い目も見てきた。
さっきから受け答えをしている死刑囚の男も、初めに声をかけてきた老人も見た感じでは悪人には見えない。
特に老人は薄汚れた格好で牢屋だというのに背筋を伸ばし、毅然とした態度を崩さない姿は威厳すら感じる。
痩せこけた体の老人だというのに、その瞳には強い意志が見える。
老人は大きく息を吐き出すと、ゆっくりと口を開いた。
「何の罪で放り込まれた……か。大量殺人ってやつだよ。軍人として戦場に立ち、王の命ずるままに人殺しを続けた。英雄ともてはやされた俺が、王が変われば極悪人だそうだ。まあ、本当のところは将軍として力があり口うるさい俺が、バカ王子には邪魔だったみてえだ」
「この国の将軍だったのですか」
「昔の話だがな。王が死んで王子のバカさ加減に嫌気がさしてな、あのバカ面を思いっきり殴ったらこのざまだ。俺の部下も身に覚えのない罪を着せられ、既に死刑が執行された。バカ王子は部下が死んでいくのを俺に見せつけて楽しんでいるらしくてな、俺は未だに殺されずにいる。おかげさまで、牢屋生活を満喫させてもらっているぜ」
そう言い切ると、ガハハハと豪快に笑う。
今の話『心理学』では嘘が感じられなかった。
その瞳と『剣術』『指揮』等のスキルの高さから考えて、老人の言う事に嘘はないのだろう。
思わぬ掘り出し物――掘り出し者に出会えた。
監獄に放り込まれるのは初めての経験ではない。監獄内の囚人は金に困っているものが多いので、スキルの買い取りに適した場所なのだ。
犯罪者の多くは釈放後もろくな職にありつけず、犯罪を繰り返す者が多い。なので、こちらがスキルの買い取りを提案すると、簡単に商談に応じてくれる。
その際に働くのに便利な『計算』や『料理』といったスキルを、低レベルだが売るように心がけていた。もちろん、極悪人や更生の兆しがない相手には売らないが。
「でだ。俺の話を聞いたんだ、お前さんは何者なのかも話してくれんだよな?」
「私はしがない商人ですよ」
「商人ねぇ。何の商人だ?」
「必要のないものを買い取っています。稀に相手が必要とするものも売っています」
そう答えると、老人は顎に手を当ててじっと俺を見つめる。
俺を見定めようとしているのか。相手のスキルに『心理学』はないが、スキルの力がなくても見抜く目を持つ者は存在する。経験は時にスキルをも凌駕するのだ。
「まあ、そういうことにしとくか」
口元に笑みを浮かべてはいるが、あの顔は信用してないな。
交渉するにしても時間をかけた方が賢明か。今だと怪しまれるだけだろう。
あれから、頻繁に老人と言葉を交わすようになった。
先王の時代がどれだけ素晴らしかったのかを熱く語り、今の王がどれ程無能なのか罵りの言葉と共に伝える。
そのお礼とばかりに各国を渡り歩いた際の話をすると、老人や囚人たちはいたく喜んでくれた。娯楽のない空間で俺の話はなによりのご馳走だったようだ。
特に老人は俺の話を真剣に聞き、面白い話をすれば腹の底から笑う。
俺が『話術』『声真似』を発動させて日々彼らを楽しませていると、囚人達は徐々に打ち解けていった。
ここでの生活が一か月にもなると、俺と同時期に牢屋に入っていた軽犯罪者の面々は釈放されたらしく、姿を消した。
それどころか最近は罪人が減ったのか、こちら側の罪人が新たにやってこなくなった。
この広い牢屋の中に俺は一人きりだ。
対面側の死刑囚は老人を残して全て消えてしまっている。だがそれは釈放されたのではなく、死刑が執行されたに過ぎないのだが。
「にいちゃん、とうとう二人きりだな。罪人が運ばれてこないのは何故だと思う?」
「この死刑囚の牢屋に送り込まなくていいぐらいに、罪人が減ったということでしょうか」
「ちげえな、取り締まる側が仕事をしないんだよ。捕まえるのも面倒だろ? 腐敗もここまで進めば立派なもんだ」
当時の街中の治安は最低で、喧嘩や暴行事件は大通りを歩けば数分単位で遭遇できるとまで言われていた。
そこら中に物乞いや浮浪者がうろつき、その光景だけでこの国が長くないことを、誰もが容易に理解できたそうだ。
「ご老人は何故心が折れないのです? 全員がいなくなり暗闇に取り残されても、何故あなたは……そんな目ができるのです」
頬骨が浮かび上がるぐらいに痩せこけているというのに、その眼力は衰えることを知らない。
「俺はいつかこの地獄から抜け出す。あのバカ王子の治世は長く続かねえ。それは間違いない。だから、俺は耐えればいいだけだ。国民が耐えられなくなり暴動を起こす、その日をな」
「牢から出たら何をしたいですか?」
「そりゃ、妻や子供や孫の顔が見てえな。うちの孫は俺に似て気骨があるんだぜ。将来、俺みたいな将軍になりたいらしくてよ。釈放されたら、俺の技術を全て教え込んでやるって約束だからな」
老人を支えるものは、闇の牢獄から解放。
そして、家族との再会。
その日を夢見て、この境遇に耐えているというのか。
「ここを出て、俺は家族に詫びなくちゃいけねえ。戦争ばかりで家にろくに帰らず、家族に何もしてやれなかった。その上、俺が捕まったことで苦労を掛けていることだろう。何か家族にしてやりてえ。なんでもいい、家族に何か残してやらなくちゃなんねえんだ」
それが老人の未練か……。
「俺の話なんかよりも、にいちゃんは何で釈放されねえんだろうな。軽犯罪ってのは嘘だったのか? もしかして、別の目的があるんじゃねえのか?」
「おや、バレてしまいましたか」
「そっちの牢に入れられる奴は長くても二週間で釈放されるからな。残っているのはお前さんしか、いねえじゃねえか。それに魔道具の灯りや他の道具も持ち込んでいるだろ。一体どうやってんだ?」
「それは企業秘密です」
牢屋だが日常品や食料に困ったことはない。
罪人が他にいた時は『隠蔽』を発動させて他にバレないようにしていたが、老人と二人きりになってからは隠す必要もないので、魔道具の灯りを点けて読書を楽しんでいた。
食料も老人に見つからないように取り出し、一日二食口にしている。
「牢屋にいる囚人の生活じゃねえよな。話を戻すがお前さんの目的はなんだ?」
「あなたを脱獄させることですよ」
「脱獄とは……穏やかじゃねえな」
おおよその見当がついていたのか、老人は片眉をピクリと動かした程度で平然とした態度だ。
「あなたの家族と友人からの依頼でして」
「じゃあ、お前さんが商人だってのも嘘か」
「いえいえ、商人ですよ。少し特殊なものを売買してはいますが。巷では回収屋と呼ばれています」
「回収屋。……聞いたことがあるな。いらないスキルを買い取る怪しい商人の噂を。商人ってのは副業で脱獄の斡旋もしてやがるのか」
この時期の他国にまで知られるようになったか。
回収屋の知名度も予定通り上がってきている。これならいずれ、彼女の耳に入る日も近いだろう。
「脱獄するにしてもどうする気だ? お前さんなら連中も見逃すかもしんねえが、俺はバカ王子に嫌われている死刑囚だぜ? 金に弱い看守共でも命と引き換えにはしねえだろ」
「それは大丈夫です。この程度の警備なんて何の問題もありませんので」
平然と返す俺を、老人は眉根を寄せて訝しげにじっと見つめている。
昔に大盗賊から買い取ったスキルを使えば、この程度の警備なんて何の役にも立たない。……そのスキルも必要だとは思えないが。
牢屋の鍵を開け通路に出ると向かいの鍵も開ける。
老人が静かに立ち上がると牢の外へと歩み出た。
「もう二度と出られねえと、諦めたときもあったんだがな。こうもあっさりと出られるとは人生分かんねえもんだ。あとは監獄からの脱出か」
「そうですね……。でも、それは難しくないと思いますよ」
「何言ってんだ。この鉄扉の先はクソ長い通路になっていて、兵士たちが数十人控えている監獄だぞ。音を立てるなよ」
老人は鉄扉のノブを捻り、扉をそっと開ける。
扉の隙間から流れ込んできた太陽の光が、暗闇へ広がっていく。隙間から向こうを覗いた老人の顔が驚愕で硬直する。
「ど、どういうことだ。通路がねえだと……。なんで、外になってんだ」
開け放たれた扉の先には老人の知る通路はなく、元監獄だった廃墟が佇んでいた。
老人が見上げるとそこに天井はなく、澄み渡る青空がある。
「監獄はどうなったんだ……」
「この監獄は百年前に潰れていますよ。暴君はクーデターにより捕らえられ処刑されました。その際にここ一帯は瓦礫と化したのです。地下にあった頑丈な牢屋だけはその被害を免れましたが。入り口は埋もれ、中に唯一いた囚人は窒息死を」
「待て、じゃあ、あそこにいた他の連中は……。俺は……」
「あなたの『幻覚』ですね。暗闇の牢獄に閉じ込められたあなたは、話し相手や仲間を求めた。その結果得たスキルです。あなたは独り寂しく死んだことも理解できずに、魂がそこに残留していたのですよ」
半透明の老人は自分の体を見下ろし、震える両手を握りしめた。
他の囚人は老人が『幻覚』で作り出した存在。そのスキルの威力と効果範囲はかなりのもので、誰の目にもハッキリと映るだけではなく、音や匂いまでも作り出していたのだ。
呆然と佇む半透明の老人を黙って見守っている。
彼は十年の月日だと勘違いしているが、実際は――百年以上もの時が経過していた。
街の片隅に位置していた元監獄は、幽霊の出る廃墟として有名だった。誰もが気味悪がり、人の寄り付かない一帯。
ここの土地を買い取った知り合いからの依頼で、俺は幽霊退治を引き受けたのだ。元監獄の廃墟に居座り続ける老人の幽霊をどうにかしてくれと。
老人は百年以上昔の人物で、自分が死んだことを知らずに、ずっと魂の状態でここにいた。
生前の記憶を『幻覚』で繰り返しながら、誰もいない牢獄に閉じ込められ続けていた――。
スキルとは一説によると魂に刻まれるそうだ。それ故に死して魂だけの存在となった幽霊にもスキルは残るのだと。
自我を失ってしまった幽霊は悪霊と呼ばれ、かなり厄介な存在となる。強力なスキルを所有している悪霊に滅ぼされた街や村は一つや二つではない。
だからこそ強力なスキルを所有する、老人の幽霊には誰も手を出さないようにしてきたのだ。
しかし、近年この街に難民が流れ着き、元監獄一帯も開発地域に選ばれることになり、土地の権利者が俺に依頼してきた。――それが真実である。
「俺を脱獄させたのは幽霊であることを認めさせたかったからか。家族からの脱獄を頼まれたというのは嘘だったのか……」
「いえ、それは本当です。あなたの子孫にあたる人物からですが」
依頼人でもあり土地の権利者でもある人物は、将軍だった老人の子孫だった。
依頼者の一族は代々、祖先が眠るこの地を受け継いできたのだ。
老人の息子がいわくつきのここを買い取ってから百年もの間。――いつの日か老人を天へと導ける者が現れる日を夢見て。
幽霊になったものを浄化する方法は大きく二つある。
魔法やスキルを利用して強制的に消滅させる。
相手の未練や恨みを晴らす。
老人の場合は後者なのだが、彼の『幻覚』スキルの威力が高すぎて、影響範囲に入ったものは『幻覚』内の登場人物になりきってしまうのだ。
多くの者は自分も罪人の一人と思い込んでしまい、牢獄から出られなくなる。
俺は抵抗するスキルを所有しているので、我を失わずにこうして対応できたのだが。
「死んだのか、そうか俺は死んじまったのか。俺は家族に何も残してやれなかったのか。嫁も息子も娘も孫も、もう何処にもいねえのか」
死を認めたことで現世への繋がりが失われつつあるのか、体が徐々に薄くなっていく。
「いえ、お孫さんはご健在ですよ。依頼人がお孫さんですから」
老人を眠らせて欲しいと懇願したのは、彼の孫だ。骨が浮き上がった痩せた体で、祖父が安らかに眠れる日を待ち望んでいた。
孫が生きていることを知った老人の顔には、安堵の表情が浮かぶ。
「孫は健在なのだな。そうか……。何か残してやりたかったが、今の俺には何もない。孫達へ何も残してやれない。何もしてやれない」
背を丸めた老人に牢屋にいた頃の面影は――ない。
逆境でも自分を曲げず、死してもその想いを貫いた老人は今、――悲しいぐらい小さく見えた。
そんな老人に俺ができることは一つしかない。
「最近、お孫さんは大きな出費があったらしく、家計が火の車らしいですよ」
俺の声に反応して老人が振り返った。俺が何を言いたいのか理解できないと、その顔に書いてある。
「お孫さんのひ孫にあたる少年は騎士を目指していまして、尊敬する人は一族で唯一将軍職を得た祖先だそうです。ただ『剣術』のスキルもないようなので苦労されているようですが」
「回収屋。何が言いたいんだ?」
不信感を隠そうともせずに、老人が俺をじっと見つめている。
「私は回収屋ですからね、商売の話ですよ。いらないスキルを高額で買い取らせてもらえませんか? お支払いする代金の受け取り先は……。そうですね、お孫さんでどうでしょうか。サービスで、買い取った『剣術』のスキルを、伸び悩んでいる少年に売り渡すことも可能ですが。どうされますか?」
俺が何を言いたいのか理解した老人はニヤリと笑うと、
「俺でも残せるものがあるのか。……回収屋、俺の全てを売るぜ」
と、嬉しそうに応えた。
それから更に時が過ぎた。
老人のスキルを受け継いだ青年は、この国で知らぬ者がいないほどの立派な将軍となり、この国を守り続けている。
「父上はとても勇敢でカッコイイ将軍なのです!」
教会で父親の自慢を始める少女。
穏やかに微笑みながら相槌を打つ神父。
スキルレベルの上がり具合を教会に確認に来ると、この光景に出くわす確率がかなり高い。
『理性』のレベルが上がり続ける神父と、そんな彼に一目ぼれした少女。
一見、親と子にしか見えない二人は教会で毎日たわいもない会話をしている。
いや、若くして結婚したと仮定するなら、この年齢差だと祖父と孫でも成り立つのか。
「祖父と孫……ね」
人の縁とは不思議なものだ。
過去に幽霊の老人から買い取ったスキルを与えた少年が、まさか――彼女の父親だったとは。
そのことを知ったのは偶然だった。教会に少女を迎えに来た父親と、再会した時にその事実を知った。
よく見ると、将軍の顔には少年の面影があった。勝気そうな少年の顔に経験と月日を上塗りすれば、きっとこういう顔になるだろう。
元少年とは数十年ぶりに再会したのだが、多くは語らなかった。将軍は回収屋の話を娘から事前に聞いていたらしく、驚くこともなく苦笑していた。
俺の顔を見てただ一言「二度もお世話になりました」と、頭を下げただけだ。
将軍の言う二度目の世話をした少女は、今日もシスター相手に挑みかかっているが軽くあしらわれている。
祖先である老人の痩せこけた顔からは想像できない、美しく整った少女の顔。
似ているところなど何もないように思えるが、ただ一つだけ老人に似ているところがあった。
勝てない相手に挑み続ける少女は、
「あなたの血を立派に引いていますよ。諦めない不屈の精神をね」
もし老人がこの場にいたら、少女を見てどう思うのだろうか。
たぶん、いやきっと――
「さすが、俺の子孫だ! ガハハハハッ」
と、豪快に笑ってくれるだろう。