都市伝説

作者: 沖田 光海


 どうも初めましてこんにちは……こんばんは? いや、おはようございますといったほうがいいのかな?

 ……まあ、そんなことより、自己紹介を。

 僕の名前は 沖田光海といいます。

 これからお話しする話は僕の友人とのくだらない会話から始まった怪談……。

 嫌な予感がした方はどうぞお引き取りを、そして二度とここに足を運ばないことをお勧めします。

 行きたいと申される方がいましたら、どうぞお進みください。

 ここから先、何がっても保証はしません

 それでも、いいというのなら……どうぞ。



 その日、僕は友人からある都市伝説というものをきいた。

 なんでも、掲示板にそれぞれ別の人間を装って書き込みをする。

 ……つまり、簡単に言えば別のHNを使って、自分の書き込みに返信するらしい。

 たとえば僕がオキタというHNで書きこみする


 HN   :オキタ

 TITLE:無題

 どうもこんばんは!

 オキタと申します。

 趣味で小説書いているので下記URLのサイトから、読んでください。


 と、言った感じだ。

 そして、その書き込みに別のHN(ここでは仮にコーミとしておこう)で、レスする。


 HN :コーミ

 TITLE:無題

 こんばんは。

 コーミといいます。

 さっそくあなたの小説を拝見しました

 ………………

 ………


 といった感じに返信して、またさいしょにつかったHNここではオキタで返信。


HN  :オキタ

タイトル:ありがとうございます

感想ありがとうございます。

僕自身あのあの話はこだわって書いたのでそう言っていただけると嬉しいです。


そして、返信したHNここではコーミで返信それを繰り返す。

 別に上記のように自分の書いた小説の話でなくとも……


 友達を探しています

 誰か僕の話し相手になってください


 と、いった出会い系のような文章でも構わない。

 一体それでどうするんだよ、と僕は友人(仮にAとしておこう)に聞いた。

 Aはあっけからんとした顔でこういった。

「ん? ずっと続けるんだけど?」

「え? 延々と自分の書き込みにレスすんの?」

「そう。 べつに掲示板が無ければ自分のケータイにメールしてもいいんだとさ。」

「なんか途中でどっちがどっちだか、わからなくならないのか?」

 僕はあきれた目でAを見た。

 Aはさらりと「わからなくならないように頑張ればいいんじゃね?」と返した。

「文面の口調とか変えりゃいい話だろ?」

「僕はめんどくさいからやりたくないなあ」

「……小説書いているクセに!」

「それとこれとは話は別」

 何が別なんだよ、と突っかかってくるAを無視して僕は彼に聞く。

「……で、それをやるとどうなるわけ?」

 聞くとAはよくぞ聞いてくれました!と得意げに話した。

「自分じゃないヤツが書き込みしてくるらしい」

 はあ?

 僕は首をかしげた。

 いったいどういうことだ?

「簡単に言えばもう一つのHNを使って誰かが返信してくるんだと」

「……いたずらじゃないの?」

 僕は疑いの眼差しでAを見た。

 だが、Aは得意気な表情を崩さずに話す。

「これが違うんだな~。俺のダチで試した奴がいるんだけどよ、そいつは別のIDをもっていて、二つのIDを使って書き込みしていたんだ。」

「へー」

 下手すりゃ管理人から怒られるか、削除されるんじゃないか?

 思ったが僕は口に出さなかった。……こんな時のAには何を言っても無駄なのだ。

「そいつはその二つのIDを使ってログインし、書き込みをした」

「はたから見れば友達いなくて寂しくて、それでも強がって友達いるように見せているかわいそうな人だよね」

「黙れ光海。そいつは数日間書き込みを続けた」

「そんな寂しいことやらなくても、話しかければ案外答えてくれるものなのに……。 よっぽど話し相手がいなかったんだね」

「黙れ光海。 お前は俺のダチを貶めに来たのか?」

「まっさかぁ~」

 そんなわけないじゃないか~。

 いつものお得意のヘラリとした笑顔で僕は冗談言って話の腰を折ろうとした。

 なんとなく……

 そう、なんとなくだが、その先は聞かないほうがいい気がしたのだ。

 別に、怖いというわけではない。

 嫌な予感が、したんだ。

 だが、そんな僕の気持ちを知ってか知らずかAは話し始める。

「それでさ、うわさ通り来たらしいぜ~」

「宅配?それとも取立てだっけ?」

「だまれ光海、……ったく何回目だよ。」

「さあ?」

 僕はわざとらしく首をかしげて見せたが、Aは早く続きを言いたいらしく、僕のふざけた言動には突っ込まずに話を続けた

「自分以外の奴から……返信が、さ」

「……あまりに見苦しいから見ていられなくなって、誰かが返信してくれたんじゃない?」

「いや、違う。 IDはちゃんとそいつのものだった」

「ハッキングとか? 不正で誰かがID使ったとか?」

「いや、それを聞いた別の奴が何人か試したらしいが、同じように別の人間から返信が来たんだと」

「……」

 ぞくり。

 背筋を嫌な汗が流れた。

 ダメダ コレハキケン

 僕の中で警笛が鳴る。

 その警笛はAには聞こえない。

 それからAはその噂についていろいろ話していたが、僕は全く聞いていなかった。

 そんなこんな話している途中、Aは用事を思い出したと僕に背を向け、帰った。

 そして、彼は振り返りざまこういった。

「俺、今夜さっそく試してみるわ!」

 え!?ちょっと……

 そう言って止める間もなくAは走り去っていった。

「何も起こらないといいんだけどな」

 鼓膜を震わす夏特有の蝉の声がやけに大きく聞こえた。




 夏だ!海だ!プールだ!祭りだ!夏休みだ!

 ……そんなわけでいつの間にか夏休みになっていた。

 Aとあの会話をしてから約半月。

 特に成果はないらしい。

 ためしにAが使ったという掲示板のページを見てみると、Aのレスがすごい数になっていた。

 本当にこれ全部一人でやったのかよ。

 くだらないことにそそぐ時間があるなら、もっと勉強すればいいのにとおせっかいなことを考えながらそれを眺めたことは記憶に新しい。

 ちなみに僕は家でゴロゴロしている

 昔から肌の弱い僕は海はもちろん、プールだって入れない体だ。

 家の近くと、自分の家からバスで一時間近くかかる学校の近所の両方に海があるが、僕は友人たちから「海に行こうぜ!」という誘いをすべて断っていた。

 僕は自慢じゃないが肌が弱い。

 日焼けを心配しているわけじゃない―――むしろ人より焼けにくい体質だ。

 だが、一人だけ周りが海ではしゃいでいるのをパラソルの下で見ているなんてとてもみじめではないか。

 そういうワケで、僕は友人たちの誘いをすべて断った。

 まあ、カラオケの誘いは断ってないけど。

 そんなある日、僕の携帯からバイブ音がした。

 またダイレクトメールか……それとも部長からの部活動通知かなと思い携帯を見るとメールじゃなくて電話。

「何だよ一体」

 相手はAだ。

 いったいなんなんだよと思いながら僕は通話ボタンを押した

「はい、暇人の光海ですけど?」

 相変わらずの軽口を添えて電話にでる。

「あ、光海? 俺だよ俺!」

「オレオレ詐欺なら他をあたってください。 あいにくうちは貧乏なのでお金がありません」

「光海! ディスプレイ見ろよAだよ。 ……まったく、久々に話しても、お前の()(にく)たらしい性格は変わらねえな」

「お褒めにあずかり至極(しごく)光栄です……って、何の用があって電話してきたんだよ。」

「暇だからカラオケでも行こうぜ」

「………まあ、いいけど。 まさか僕とAだけってわけじゃあないだろうな?」

「ああ、俺と、俺の彼女と俺の友達と彼女の友達。」

「……なあ、A」

「なんだ?」

「僕の思い違いならすまない」

「いいからいってみろ。 いつも直球でものを言ってくるお前らしくないぞ」

「……それはもしかしなくても合コンというものではないでしょうか?」

 顔をひきつらせながら僕はやっとの思いでそう言った

「ああ、そうだけど?」

 けろりとした顔で言っているだろうAの言葉を聞いて僕は脱力した

 通話口にやっとの思いで話しかける。

「今忙しい」

「さっき暇だって言っただろう!」

「でも、そんな場所に行くのは嫌だな~」

「人数足りてないんだよ!頼む!」

「どうしようかな」

「おごるから。」

「……仕方ない、貸し一つな?」

「……はい。」

 そういうワケで僕は合コンという未知の領域へ行くこととなった。

 Aから聞かされた待ち合わせ時間にはまだ時間がある。

 僕はその前にシャワーでも浴びようかなと部屋を出ようとした。

 ゾクリ……

 また、嫌な予感がする。

 なんだろうと僕は自分の部屋を見回した。

 別に変ったところはない。

 でも、何かがあったらいやだなと思い注意深く見ても何もない。

 ふと、さっきまで読んでいたまんがが目に入った

 確かあのマンガの内容は主人公がある日、友人達と温泉宿に行って、友人の一人とよく似た人間に会うというところから始まって……。

 なにやらドッペルゲンガーがどうとか騒いでいる話だ。

 ああ、ちなみにドッペルゲンガーとは自分によく似た存在のことを言うらしく、そいつと会うと死んでしまうというものらしい。

 そして、その話をした夜、主人公の姉が温泉に入っているとき、自分とよく似た人間を見たと騒いでいた。

 真意を確かめたところ、それの正体は主人公で、湯気で顔がよく見えなくてそそっかしい姉が主人公をドッペルゲンガーだと勘違いしたというオチだった。

 友人によく似た人間も単なる他人のそら似だったというし……

 そこまで考えて僕ははっとした。

「まさか……まさか、ね」

 自分とよく似た自分と同じ……だが違う存在―――ドッペルゲンガー

 今から急に部長から呼び出しがあったことにして、合コンすっぽかそうかなと思ったが、それをするとAが怖い。

 途中で気分が悪くなったフリ―――所謂仮病を使って途中で抜け出そうと思った。

 そうやって軽く考えていた。

 まさか、この日……

 とても後悔することが起こるなんて……

 思ってもいなかったのだ。


 つけっぱなしのノートパソコンを光海の妹が操作していた。

「ああ、兄貴の友達が変な都市伝説を真に受けて試したって掲示板ね」

 彼女は本当に一人でやったのか疑いたくあるような文章の数に目をくらくらさせながら、それを見ていた

「……あれ?」

 妹は首をかしげる。

 一番新しい書き込みには一言

 ―――会イニ行クヨ

「……なに? これ??」

 言いようのない気味の悪さを感じた妹はそのページを閉じるとノートパソコンをスリープ状態にした。



 合コンには僕やA、Aの彼女の他に男2人、女3人がいた

 適当に2~3曲歌ってすぐに帰ろうと思っていた僕は適当に自己紹介を聞き流していた。

「光海! お前もちゃんと自己紹介しろよ! 素っ気ねえな!」

 Aと僕の共通の知人である慶介(仮名)は「こいつ意外と人見知りで」なんて余計なことを女の子たちに言っていた。

「……沖田光海 ××歳。……以上」

 そっけなく言うと、愛想ないなあと慶介がうるさかった。

 そこで僕は違和感を覚える。

 ―――慶介はなぜこうも自分にばかりかまってくるんだ?

 彼は僕よりもむしろAと仲のいい人間だ。

 それが一体何故?

 何があった?

 訝しげに慶介を見ると彼は小さな紙を僕にだけ見えるように見せた。

『なんだか、今日のAはおかしくないか?』

 僕ははっとしてAをみた。

 彼はジュース片手に周りの人間と何かを話している。

 店員が持ってきたアジフライに大喜びする様子は何度か見たことがある。

 別段いつもと違うところはない

 だが、何かがおかしい

 どこか違和感があるのだが、それが分からない

 間違い探しは二つ微妙に違う絵があるから成り立つものだ。

 だが、絵が一つしかないのだとしたら?

 それは間違い探しとしては成り立たない

 どこがおかしいなんて決定的なことは言えない。

 だが、どこかおかしいのだ

 僕はもう一度Aをみた。

 彼は右手に箸を持って、彼女と談笑しながら彼の大好物のアジフライを食べていた。

 何度見ても違和感は消えない。

 一体どうしたんだ……

 気持ち悪い

 そこまで考えてはっとした僕は大げさに体調の悪いふりをした

「おっ、どうしたんだ?光海!……わりい、こいつ今日体調悪いみたいだ。俺もこれから用事あるから、もう帰るからな!」

 慶介がそういうと僕は彼に支えられてそそくさとその場を去った。

「……光海、どうだ? Aの奴……」

「どこが……とまではわからなかったけど、おかしいよ。」

「……そうか、実は」

 重々しく口を開いた慶介は話し始めた

 あの場にA以外に様子のおかしい人間がいたこと。

 そいつ等はすべてあの都市伝説をやっていたこと。

 そこまで考えて僕は思い出した。

「なあ、Aは左利きじゃなかったか?」

「え、ああ」

 慶介がうなずく

「確かにそうだけど、どうしたんだ」

「A……右手で箸を持っていた」

 慶介もはっとする。

 たしかにそうだった、という顔だ。

「それに、アイツ……モノ食べながら話すことはよくするけど、大好物のアジフライを食べるときは途端に静かになるんだ。好きなものは味わって食べたいとかって言って……」

 僕の言葉にそれは俺も気づいていたと慶介はうなずいた。

 そして、慶介は今しがた気づいた違和感を、帰る途中、僕に教えてくれた。

 おかしい。

 一体Aはどうしたんだ?

 ……いや、アイツは誰だ?

 Aのようで彼とは違う存在。

 ―――ドッペルゲンガー

 ふと、ここに来る前に読んでいた漫画を思い出した。

「……まさか、あれはドッペルゲンガーなのか?」

 僕の言葉に慶介は何だそれという顔をした

 僕は簡単に説明をした。

 それを聞き終えた慶介の顔は真っ青だった。

「じゃあ、本当のAは、消えちまったってことかよ?」

「………わからないけど、そうかもしれない」

 それきり、二人は何も話さなかった。

 その日、妹から聞かされた掲示板の最後の書き込みに僕の顔は蒼白となった。



 翌日、慶介からメールが来た

『Aの正体を確かめる』

 僕はあわてて彼がAと会うといった場所へ向かった。

 そこは廃ビルだった。

 人に見つかりにくい場所を選んだ結果こうなったらしい。

 僕がそこに行く頃、Aと慶介はなにかを話している途中だった

 慶介が叫ぶ

「お前の正体はわかっている!Aはどこにいるんだ!」

 彼がそういうと“A”はにやりと笑った。

 瞬間、廃ビルの一部が崩れてきてAがその下敷きになった。

「おい!」

 慶介は彼に駆け寄る。

 僕もAの元へいった

「こーみ……と、けーすけ、か?」

 血まみれのAはそう言ってふふふと笑う

「俺、もうすぐ死ぬって……もう一人の……俺に言われたんだ。……まさか本当に……なるなんて」

 そしてAは息を引き取った。

 そのときのAは僕たちの知っているAだった。


 他のあの都市伝説を試した奴らは同じように何らかの原因で死んでいたという……



 一体あの都市伝説の正体は一体なんだったのか?

 それは僕にもわからない

 ただ一つ言えることは、安易にそういったことに手を出してはいけないということ。

 けして遊びだけでそんなことをしてはいけないということ


 ああ、もう一人……

 またあの都市伝説を試している人間がいる。

 なんだか最近、あのドッペルゲンガーが未来を予知するとか言って、テストの答案知りたさにそれを試す学生がいる。

 ああ、もう一人……また、一人。


 調査結果

 いくつかの掲示板が廃止された。

 いくつかの掲示板が一人の人間が2つのIDを持つことを禁止にした。

 今、あの都市伝説の片鱗を見せるのはただそれだけ。