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第九十五話 獅子奮迅

やたら「エン〇ーリリーズ」を推しちゃいましたが、難しい操作抜きで可愛い女の子を主役にした物語を楽しみたいって人には「アンリ〇ルライフ」が断然オススメです!


ここ数年やったゲームの中でも一番ストーリーの見せ方が上手かったですし、感動モノが苦手なひねくれた人でも隠し実績まで見たらきっとニッコリ出来ますよ!


 白熱しながらも膠着した試合展開の中で、先に動きを見せたのはセイリアだった。

 左手を前へ、右手を後ろに引いた独特の構えから、その技は始動する。



「――〈スティンガー〉」



 大会を何度も湧かせたその武技が、今度はセイリア自身の手によって放たれる。


 地を蹴り、獲物を目指して駆けるその速度は、まるで光のごとく。

 セイリア本人の速度と、技としての〈スティンガー〉の高速移動の相乗効果によって、まさに目にも留まらぬほどのスピードで突き進んだ先で、



「その意気は買おう。だが――」



 しかしフレデリック先輩は、泰然自若として待ち構えていた。


(まさか……!)


 剣による〈スティンガー〉の対応策は、大まかに三つ。


 一番安全なのは、最初にセイリアが見せたように、〈血風陣〉のような遠距離技で迎撃すること。

 けれど、フレデリック先輩はこの試合の初めに〈血風陣〉を使っているため、この手段は取れない。


 また、同じ〈スティンガー〉をぶつけて運勝負に持ち込む方法も、戦いに実力と堅実さを求めるフレデリック先輩が望むようなものじゃない。


 だから先輩が選んだのは、



「――〈パリィ〉」



 剣の第七武技の〈パリィ〉によって、高速で突き進む〈スティンガー〉をピンポイントで打ち払うという、狂気の所業。


(じょ、冗談、だよね!?)


 目視すら難しいような高速攻撃、しかも突きによる点の攻撃を、剣の打ち払いで迎撃しようというのだ。

 その難易度の高さは、察してあまりある。


 けれど……。



 ――カァァン!



 鼓膜が痺れるような、耳に残る金属音。

 フレデリック先輩は事もなげに〈パリィ〉を成功させ、セイリアの剣を撥ね上げてしまっていた。


「セイリア!」


〈パリィ〉に殺傷能力こそないけれど、成功させれば相手の武器を弾き飛ばし、相手の体勢を一時的に崩すことが出来る。

 そしてフレデリック先輩ほどの実力者が、その隙を逃すはずもない。


「これで!」


 もはや剣を空高く飛ばされ、死に体となったセイリアに、フレデリック先輩は一切の容赦はしなかった。


 まるで全身で突き込むような勢いで、引き戻した剣をセイリアに突き立てようとする。

 しかし、その刃がセイリアの身体を捉える直前、



「――〈シャドウハイド〉!」



 セイリアの奥の手が、炸裂する。


 確かに〈パリィ〉を食らってしまえば、普通の剣士であればそこで詰みだ。

 けれど、セイリアにはもう一本の武器が残っている。


 短剣の第六武技〈シャドウハイド〉。

 影に潜り込んで相手の背後から出現し、後ろから首を刈り取る必殺の技!


 セイリアはこれまでずっと温存してきた最強の手札を、今ここで切った。


(――勝った!)


 僕だけでなく、会場の誰もがそう思っただろう。

 しかし、



「――そう来るだろうと、思っていたよ」



 先輩は、そこまで読んでいた。

 前のめりの姿勢から足をさらに踏み出し、前へ。


「なっ!?」


 今思えば、フレデリック先輩がトドメのはずの一撃を放つのに、妙に前に飛び出していたのは、この布石だった。


 セイリアの短剣の一撃は、先輩の後ろ髪をわずかにかすめるだけで終わる。

 技による制約でセイリアが動けない間、フレデリック先輩は後ろすら振り返らずにそのまま距離を取って、



「――セイリア!!」



 その意図に気付いた僕が声を上げるが、少しばかり遅かった。


 呆然とするセイリアを他所に、フレデリック先輩が走った先は、先ほどのセイリアがいたのと全く同じ場所。

 すなわち、



「二種の武器をそこまで練り上げたことは、驚嘆に値する。だが、これで詰みだ。――〈スティンガー〉!」



 そこは、〈スティンガー〉の必殺距離。

 まるでさっきと攻守だけを綺麗に反転させたかのように、フレデリック先輩が左手を前に、右手を引いていく。


「ぐっ! 〈スローイングダガー〉!」

「ダメだ! セイリア!」


 それでもセイリアは食い下がる。

 先輩に向かって駆け出しながら、技前の硬直を狙って最後に残った左手の短剣を投擲するが……。


「……え?」


 その一撃は、ひょいと首を曲げた先輩によって、あっさりと躱された。

 武技の発動中にもかかわらず回避をしたように見えるその光景に、セイリアの目が見開かれる。


「……まだ、青い」


 技の名前を口にしなければ武技は使えないが、技の名前を口にしたからと言って、必ず武技が使われるとは限らない。


 先ほどの〈スティンガー〉の宣言はブラフ。

 隙を見せて安易な攻撃を誘うための、フレデリック先輩の罠だった。


「そん、な……」


 全てを悟ったセイリアの足が、ついに止まる。



 ――右手の剣は弾かれ、左手の短剣もその手より離れた。

 ――先輩への距離は遠く、駆け出した程度で間に合う道理もない。



 それでも必死に戦い続けようとする、セイリアの頭上から、




「――ここまで、だな」




 ほかならぬ彼女の父親の声が降ってきて、彼女の終わりを告げた。


「……ぁ」


 それがまるで、死刑執行の宣言でもあったかのように……。

 常に前を見続けていたセイリアの頭が、ガクンと力なく垂れる。


 彼女は自然と俯くように背を丸め、自らの行いを悔いるかのように折り曲げた手を見つめ、そして、



「――へへっ!」



 楽しそうに、笑った。


「ッ!? 〈スティンガー〉!!」


 何かを察知したフレデリック先輩が慌てて技の名を叫ぶと同時に、彼女もまた口を開く。




「――拳技の五〈獅子闘破〉」




 前のめりになった獣の姿勢から飛び出したのは、荒ぶる獅子レオの咆哮。

 あえて両手の武器を「捨てる」ことで解放されたその技は、人を超えた速度で目の前の獲物へと驀進して、



「ば、かな……。三つ目の武器など、ありえな――」



 ついには学園最強の剣士の牙城を、突き崩したのだった。

二人の勝利!!

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