第九十六話 勝利者
もう一回言いますけど、「エ〇ダーリリーズ」は儚げな雰囲気で擬態をした高難易度アクションゲーなんですよ
お話「も」いい味出してますがあくまでアクションの添え物なので、雰囲気やストーリーを目当てに買うと痛い目を見る恐れがあります!
まあ同ジャンルの「ホ〇ウナイト」とか「ソ〇ト アンド サンクチュアリ」とかと比べても死んでもデメリットがなかったりUIが親切だったりでとっつきやすいし、何よりスタミナ制限とかなく本人がビュンビュン動いて操作感いいので個人的にめちゃくちゃオススメなんですが、それはあくまで「(死にまくって攻略法を覚えるゲームの中では)優しい」だけですからね!
リング上からフレデリック先輩の姿が消え、セイリアが前へと突き出した拳をゆっくりと戻した瞬間、
――ワァアアアアアアアアアアア!!
呼吸すら忘れていたかのように静まり返っていた観客席が一転、今日一番の歓声を吐き出した。
その興奮は、実況席にまで伝播する。
「なんと……なんという試合でしょうか! 息もつかぬ攻防を制したのは、なんと一年生のセイリア・レッドハウト選手!! 三年生の筆頭を、若い力が下しました!」
実況のティリアさんは、身を乗り出すようにして勝者をほめたたえる。
「この決着、この結末を、誰が予想したでしょうか! まだ入学して一月にも満たない新入生の身でありながら、三年生の頂点の一角を落とす番狂わせ! そして、試合の内容も文句のつけようのないものでした! 奇策とも言える剣と短剣の二刀流を見事に使いこなしたばかりか、それを半ば見せ札として使うことにより、本当の切り札である拳技を隠す采配。素晴らしい組み立てでした!」
そこで実況のお姉さんは自分を落ち着かせるように深呼吸をすると、声の調子を意図して戻す。
「ん、ん。失礼しました。……では、改めまして。見事な試合運びでジャイアントキリングを成し遂げたセイリア選手。そして、惜しくも敗れたとはいえ、自らの力を遺憾なく発揮して素晴らしい試合を見せてくれたフレデリック選手。両選手に、皆さんもう一度、拍手をお願いします」
ティリアさんの言葉に合わせて、会場を割れんばかりの拍手が包む。
一方そんな中で、剣聖は自分の娘の成長に動揺を隠しきれないようだった。
「ありえねえ! ありえねえぞ! 剣を第八まで修めた上で短剣を第六まで習得して、そこにさらに拳を第五までだと? 新入生どころかすでに学生レベルを軽く超えてやがる!」
……まあ、正直に言うとちょっといい気味だ、と思ってしまうのだけれど、その気持ちもまあ分かる。
エリートたるこの学園の新入生の中で、さらに一握りのエリートだけを集めたAクラス。
それでも、覚えている武技は四つか五つ程度なのが普通だという。
(……まあ、それも無理はないか)
敵に攻撃を当てなければ全く武器レベルの成長に寄与しない通常攻撃と違って、武技は使うだけでも一応は熟練度が入る。
具体的に言うと、武技は「使用した」瞬間にMPが消費され、使用分の熟練度を獲得。
さらに、「敵に武技が決まった」時に相手に応じた追加の熟練度が獲得され、同時に再使用までの時間が設定される、という仕組みになっている。
この「使用した時の熟練度」よりも「敵に武技を当てた時の熟練度」が大きく、特に「格上相手に武技を決めた」時の熟練度の伸びが半端じゃないため、熟練度上げには強めのモンスターに武技を使うのが最適解なんだけど……。
(まあそんなの、メニューがないと分からないしね)
なまじただ使うだけでも熟練度が伸びるだけに、無駄に空撃ちや案山子相手の無駄撃ちをしてしまう人がいるのも、しょうがないことだろう。
それに、ここまで仕上げることが出来たのは、ほかならぬセイリアの努力があったからだ。
セイリアは座学の授業以外の全ての時間を部室でボム太郎とのスパーリングに費やし、ひたすら武器のレベルを上げ続けた。
そうじゃなければいくらボム太郎の力があっても、三種類の武器種で実用範囲まで技を覚えることなど、出来なかっただろう。
だから、
「……アルマくん!」
ボロボロで、けれど誇らしげな顔でリングから降りてきた彼女にかける言葉は、決まっていた。
「――お疲れさま。頑張ったね、セイリア」
そう、僕が声をかけると、彼女は照れたように笑って、
「――うん!」
と無邪気な顔でうなずいたのだった。
※ ※ ※
あまりにセイリアとフレデリック先輩の戦いが熱戦だったせいで、それからの戦いは少々熱気を欠いた。
準々決勝は四試合あるのだけれど、その次の試合は片方が辞退したために不戦勝。
三つ目の試合は特に盛り上がりどころもなく終わってしまい、そして四試合目。
この試合になって、ようやく会場は熱気を取り戻した。
もう、この会場にセイリアを脅かす者はいないかもしれない。
おそらく誰もがそう思い始めた矢先に、もう一つの番狂わせが、鍛え抜かれた剣技でもって格上を打倒する一年生が現れたからだ。
そう、準々決勝の最後の勝者。
それはもちろん、一年Aクラスにおけるもう一人の頂点……。
「うおおおお! 勝ったぜえええええええ!!」
――ディーク・マーセルドだった。
流石に三年Aクラスではないけれど、格上の二年Aクラスの選手を破っての勝利。
それも、土壇場でパリィ……剣の第七武技を決めての大逆転勝利だったのだから、会場が沸かないはずがない。
この結果には、実況のお姉さんも大興奮。
「これは、決勝戦での一年生対決もにわかに現実味を帯びてきましたね! 記録によると、決勝に一年生が残るのは十二年ぶり、一年生同士がぶつかるとなると、過去五十五年は遡る大記録になります!」
そんな言葉が妄言ではないのは、直にディークくんの試合を見ていた僕にも分かった。
(ディークくん、確か一週間前にはまだ第六剣技までしか使えなかったはずなのに……)
ボム太郎の助力もなしに、自力でパワーアップしてここまで仕上げてきたと考えると、なかなかに末恐ろしい。
(な、なんか、ディークくんの方がめちゃくちゃ主人公っぽくないか?)
物語的にはモブ……いや、一応図鑑に名前があるからモブではないだろうけど、一応ゲームのヒロインであるはずのセイリアに匹敵するスペックを持っているのはなんなんだろうか。
(これって、決勝がセイリア対ディークくんって線もあり?)
ディークくんじゃ絶対にリューシュカ先輩には勝てないと思ってたけど、これはもしかしたらもしかして……。
いや、でも流石にそこまでではない……よね?
なんて僕の内心の苦悩を他所に、準々決勝の全ての試合が終わる。
――そして、運命の準決勝が始まった。
いつもの引き!
焦って下書きの方を投稿してしまった
まあすぐ直したのでヨシ!(ごめんなさい)