099 地獄で詫び続けろ!
はい、現在大絶賛修羅場中です。どうしてこうなった。
リフォーム終了後に帰ってきたアルルとリコが、凄い凄いと褒め称えるもので私は有頂天、超天狗になってたんだけど、事の起こりはそれから暫くして、男子が帰ってきてから。
最初は男子組もあまりの劇的な変化に驚いてたり自分達の部屋だけしょぼいことに絶句してたり、ケインが変な視線送ってきたりしてたんだけど……ケインの奴は間違いなくまた変な思い込みで都合がいい妄想繰り広げてるっぽいけど、問題はケインじゃなくボーマン。
急に『やっぱり屋台をやろう』なんてことを言い出して、唐突過ぎて私はポカーンとしたんだけど、その後のやり取りを聞いた感じだと、多分こう?
ボーマンは実は前々から商売をやりたかった。で、ここ数年、王都の収穫祭ではじゃが芋普及のためにじゃが芋を使った料理屋台の売り上げコンテストなんてのが開かれてるらしい。
上位入賞すると賞金が出たり有名店への就職斡旋とかがあったりするそうな。
ボーマンはそのコンテストに参加しようと思って、以前に皆に提案したらしい。でもその時は、トリエラがこの家の賃貸契約を結んできて急に物入りになり、そんな余裕は無いと説得されて諦めたのだそうな。
冬支度の事を考えるといくらお金があっても足りないと言う状況で、我侭を通すわけにも行かないと思ってその場では引いたらしいんだけど、今日、色々な買出しから帰ってみれば、改装にかなりの金額が掛かるはずだった家が劇的にリフォーム完了していた。
それはつまり、これから掛かるはずだった改装費用が浮く、と言うこと。そこでボーマンは一度は引いた意見をまた出した、と言うことらしい。
そのボーマンに対して、リフォーム費用が必要なくなったからといってもこれから冬に向けて色々物入りになるのは変わらないし、いざと言うときの為に貯金はしておいた方がいいっていうのがトリエラとマリクルの意見だったりする。
ケインのアホは考えなしに仲間の夢は応援してやりたいとか言ってたり。相変わらず頭使おうとしないな、この馬鹿。起きたまま夢を見てるのか? 最近のリューを見習え。
そんなリューは珍しく黙ってみてる。
ぐだぐだとトリエラとマリクルが説得したりケインが擁護したりしてたんだけど、私的にはつっこみたいところがひとつ。
「ボーマン、商売をしたいって言いますけど、貴方計算苦手でしょう? どうするつもりなんですか?」
うん、ボーマンって青空教室でもサボリ気味と言うか適当にやってたから、計算とか結構怪しいんだよ。で、私がそれを指摘したあとのボーマンの言い分にアルルが怒っちゃって……
「え? それはアルルに任せればいいだろう? アルルも商売やりたいって言ってたし、俺よりも計算とか出来てたし」
「はぁ!? お断りなんだけど!? 何で私がそんなことしないといけないのよ!」
「え? だって、お前も料理とかの商売したいって言ってたし、一緒にやるだろ?」
「言ってはいたけど、それとアンタの屋台の話とは関係ないから! というか、アンタと一緒になんて絶対に嫌! お断りよ!」
「なら誰とやるつもりだ? そんな相手居ないだろ?」
「私が誰とやろうとアンタに関係ないでしょ? それに私は別に今すぐやりたいってわけじゃないし? まあどっちにしてもアンタとって選択だけは無いわ」
「俺と一緒にやるのはそんなに嫌か?」
「嫌に決まってるでしょ! アンタみたいなサボることしか考えてない奴となんて、私が一人で苦労するだけじゃない! どうせ今回もサボるに決まってるもの!」
「自分の夢の為にやろうとしてることでサボるわけ無いだろ!」
「既にサボってるじゃない!」
「何時サボったよ!?」
「レンが勉強見てくれてた時、真面目にやってなかったでしょ! 商売するのが夢って言うなら読み書きも計算も、どっちも大事だってわかるでしょうが! だって言うのに適当にやってた奴がまじめにやるとは思えないもの!」
「それは……こんなチャンスが直ぐに来るなんて思わなかったし、俺が屋台やりたいって言った時はみんな反対しただろ?」
「それが何? 今すぐ出来なくてもいつかできるかもしれないでしょ? 私はいつかそういう商売を始めたいって思ってたから将来の為に勉強も頑張ったわ! アンタは何でやらなかったの? そのくらい考えなくても分かるでしょ?」
「それは……反対されたから、後でもいいと思って……後でやろうと……」
「後で? それで今、碌に計算できないからって私に反対されてるのに? 言いだしっぺのアンタが計算苦手なのに屋台の話とかするだけ無駄よ! 自分ができないことを他人に押し付けるな!」
「別に押し付けたわけじゃない! 役割分担だろ!?」
「役割分担? へえ……じゃあさ、誰が料理すんの? 私達の中で一番料理できるのって私なんだけど? それも私? 料理も会計も私がやって、アンタは何やるの? 売り子? でもあんたがお客さん呼んで注文とって、料理作ってる私が会計もやるの? お金触った手で料理なんて出来ないわよ? ありえないでしょ!?」
「ぐ……」
「大体、料理売るって何作るの? 私、じゃが芋のレシピなんて茹でて塩振るくらいしか知らないけど? 言いだしっぺなんだから当然アンタが何か作るのよね?」
「レンがいるだろ? あれだけ料理ができるんだから、旨いじゃが芋のレシピだって知ってるはずだ」
「アンタ、レシピまで他人任せ!? いい加減にしろ! この馬鹿!」
アルルの怒りが更に一段階上がったっぽい。でもアルルじゃなくてもぶち切れるよね。努力してなかった人間が何から何まで他人任せとかね……アルルは勉強凄く頑張ってたし、それにね……?
「私は将来、自分で店を開きたいと思ってる。だから勉強も頑張ったし、料理だって頑張ってる。このパーティーの食事当番は持ち回りだけど、私は自分が当番じゃない時でも出来る限り手伝うようにしてるわ。レシピの研究だってしたいし、何より経験を積みたいから。でもアンタはなんなの? あれがやりたいこれがやりたいって言っておきながら、何から何まで他人頼りの他人任せ。あんた、自分が料理当番の時に少しでも凝ったもの作ったことあった? ないわよね? 毎回毎回、最初にレンが教えてくれた串肉。そのくせ料理の屋台をやりたい? レシピはレンに聞けばいい? 甘ったれるな!」
青空教室の時、休憩時間に毎回レシピの事とか色々聞いてきてたんだよね、アルルって。そんな努力家のアルルからすれば、ボーマンの言ってることは全部許せないと思う。
「俺は……」
「決めた! アンタの為の屋台は絶対にやらない! 私もレシピを教えないから、屋台がやりたいなら自分で考えなさい! レンも教えたりしちゃ駄目よ!」
「教えませんよ、友達でも無いのに」
そもそもボーマン、私にレシピを聞けばいいって……教えるわけ無いでしょ? なんで友達でもない奴にレシピ教えないといけないの? 当然お断りですよ。
「え?」
「は?」
あれ? アルルもボーマンも、何でそんなに驚いてるの?
「私とボーマンは友達じゃないでしょう?」
「友達じゃないって……」
うーん、なんでそんなに困惑するのか分からない。
「そもそも、ボーマンは何で私にレシピを教えてもらえると思ったんですか?」
「いや、それは……友達が困ってたりしたら、普通助けるだろ? 今までも俺達に色々してくれたじゃないか」
「なるほど、友達が困ってたら助けるのは当然、と。まったくその通りですね。私もトリエラ達が困ってたら問答無用で助けます」
実際トリエラやアルル、マリクル達には色々押し付けたし、甘やかしたからね。
「だろ?」
「ええ、ですからボーマンは助けません。私が困ってる時に助けてくれませんでしたし、貴方は友達じゃありませんから」
別に打算で友達やってるわけじゃないけどね。トリエラとアルルなんかは気付いた時には友達だったし、リコとクロは可愛い。強いて言うならマリクルは最初はそんな感じだったかな? でもボーマンはねえ?
「……困ってたって、いつだよ?」
「私がケインに苛められて泣いてた時です。一度も助けてくれなかったじゃないですか? ケインの隣で唯、見てただけで」
「あ、あれは……」
うん、そうなんだ。コイツ、ケインの横に突っ立ってみてただけ。泣いてる私を見てもなんとも思って無い顔してた。思い出すと腹が立ってくるなー。
お、一気に顔が青くなった。うむ、追い込みを掛けようか。
「私が困ってる時に貴方は助けてくれなかったのに、自分が困ってる時は私に助けてもらえると思ったんですか? ありえませんよ、最悪です。泣いてる私を指差して笑ってたリューはもっと最悪ですけどね」
「え……」
リューの顔色も変わった。とばっちりというか流れ弾と言うか、でも折角の機会だし、はっきり言っておく。
「でも前にリューの提案は受けただろ?」
調理の提案の件?
「あれは想像以上にリューが成長してたからです。あの時、私はわざと怒らせるようなことを言いました。けど、リューはそれに対して怒らないで、ちゃんと聞きなおしてきました。だから私もちゃんと対応することにしたんです。まあ、だからと言ってリューが友達と言うわけではないですけど」
「な、なら、ケインはどうなんだよ?」
ん? リューは、泣いてる私を笑ってた自分よりも、実際に苛めてたケインはどうなのか気になるの? なら教えてあげよう。
「存在そのものがありえないですね。今すぐ呼吸するのをやめて欲しい位です」
「え……」
「あれだけ執拗に苛めてきた相手に、友達も何も無いでしょう? ……そう言えばボーマン、さっき『自分達に色々してくれた』って言ってましたよね? あれは別に貴方達にしてあげたわけじゃないです、トリエラ達にしてあげたんです。貴方たち三人はそのお零れに与っただけのおまけです。貴方達だけだったらそもそも関わろうとすら思いません」
三馬鹿は三人とも俯いてお通夜ムードになった。ああ、長年の恨みつらみを吐き出して少しだけ溜飲が下がった……これでこいつらが少しでも大人しくなればいいんだけど。
トリエラ達のおまけとはいえ、こいつらも色々恩恵を受けたから勘違いしちゃったんだろうけどね……でもまあ、だからと言ってトリエラ達への甘やかしはやめないけどね!
「俺は……! レン、今まですま「謝罪とかならやめてください、いまさら必要ないです」った……え?」
「謝罪はいらないです。今更謝られても遅いです」
「な、なんで……?」
「なんでもなにも、青空教室の時、私は何度も機会を設けたつもりですが? 結局何も言ってきませんでしたから、私の中ではもう終わったことです。もう謝罪は必要ありませんし、受けるつもりもありません」
「なら、どうしたら許してくれるんだ……?」
「許す? 許すも何も、もう終わったことです」
そういう時期はもう終わったんだよ。色々な自覚と認識が足りなかったね、ケイン。それでも謝りたいというならこれからの行動と態度で示せばいいとは思うけど、そんなこと言ってやらない。
ケインが漸く自分の状況を理解し、三馬鹿は一層悲壮な空気を纏ってる。けど、ちょっと言っておきたいことが一つ。
「リュー、ちょっといいですか?」
「……なんだよ」
うん、リューにちょっとね?
「いいですか、リュー。周りの人というのは貴方が思ってる以上に貴方の日頃の行動を見てます。貴方に何かあった時、貴方が何かしたい時。そんな時に周りの人が手を貸してくれるかどうか、貴方に何かしてあげようと思うかどうか。その判断の基準になるのは貴方の日頃の行動です。
……たった今、貴方はそれを見ましたね?」
「……見た」
小さく頷くリュー。ボーマンがアルルに怒鳴られたこと。ケインが私に拒絶されたこと。その二つを、リューは見た。
「私がさっきボーマンに言ったことを覚えてますか? 私が苛められて泣いてる時、貴方は私を笑いました」
「それは……その、ごめん……」
「はい。でも、今はそのことを怒ってるわけじゃないんです。さっきボーマンと話しましたけど、貴方が調理の提案をして来た時のことです。あの時、私はわざと貴方が怒るようなことを言いました。私は貴方を試したんです。でもあの時、貴方は怒らなかった。何故です?」
「……あの時も言ったけど、みんなから色々言われて、オレもちょっとは考えるようにって思って……馬鹿は馬鹿なりに、だけど」
「素晴らしいことです。ボーマンとケインは変わりませんでした。でも貴方は変わった、変わろうと努力したんです。自覚してるようですが、貴方は余り頭が良くないかもしれません。でも、きっと馬鹿じゃない。そして、変わろうと努力することができる」
青空教室をやってる時、授業中にリューが騒いだことは実は一度も無い。そして調理の提案を出して以降、私に暴言を吐くこともなくなった。多少図々しいところはあったけど。
頑張ってて、態度も改めて……だからかな、ちょっと応援したくなった。まあ、スタート位置が下すぎたから凄く成長したように見えちゃっただけかもしれないんだけど……
「リューは、きっともっと変われるはずです。頑張ってください」
「オレ……オレ、頑張る……!」
うむ、頑張れ。
しかしあれだね、どのツラ下げて上から目線でこんな能書き垂れてるのかね、私は! 日頃から散々好き放題勝手放題やらかしてるくせにね! あっはっはー! はぁ……ちょっと自己嫌悪。
さて、こいつらはこんなとこか。俯いて泣き出したリューをそのままに、振り返ってアルルに声を掛ける。
「アルル、レシピを教えるので準備してください」
「へ? え、今? この流れで、いきなりそれ!?」
「それはそれ、これはこれです。さっきお米を買って来たって言ってたでしょう? 炊き方を教えます」
「ああ~……それはありがたいんだけど、この空気の中でやるの?」
アルルはケイン達をチラチラ見ながら気にしてる。別に気にすることないんじゃない? 放っておけば?
「部屋にでも閉じ込めておけばいいのでは?」
特にケインとか。私がリューに声をかけた辺りから表情が百面相してて非常に鬱陶しい。
「他にも色々教えたいので、急がないと時間が足りなくなりますよ」
「色々!? 時間足りなく、って……う~……あ、じゃあさ、今日、泊まっていきなよ! 部屋も鍵付いたし、ね!」
え、お泊り……? なにそれ凄く女子会っぽい!?
「是非!」
是も非もなく飛びついちゃう私マジちょろい。と言う訳で今日はお泊りになりました。うひ!