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094 おさんどん系アイドル レンちゃん先生


 フリーダムなお泊りからの帰りもノルン超特急だったりしたわけだけど、結局行きと同様の移動速度だったので死ぬような思いをしたわけですが。

 ……乗ってる途中で、風魔法で防護壁を張ればいいんじゃね? と思いついてやってみた結果、恐ろしく快適な乗り心地になって今回は漏らさずに済みました。あ、ごめん嘘。前も漏らして無いよ。いや、マジで。

 そんな感じで帰りは途中から快適な移動になったりしつつ、授業の時間には余裕で間に合ったりしたわけですよ。……漏らしてないから、本当に。

 ちなみにノルンはちょっとしたいたずらのつもりだったそうです。勘弁してください……


 ところで、本来なら今日の授業って明日やるはずだったんだよね。元々は二泊じゃなくて三泊する予定だったし。でもねえ……アルノー工房の皆さんに泊まりで遠征は駄目って大反対されまして。

 私は元々ソロだし、泊まりの遠出だって経験があるし、ノルン達もいるから平気だって言ったんだけど、ちびっ子一人では危ないと断固反対されましてね……

 それでも何とか説得した結果、二泊まではOKがでた、と言うね……一泊のところを、頑張ってなんとかもぎ取ったのだ。でも二泊がいいなら三泊もそんなに変わらないじゃんよー


 それはさておき。


 でまあそんな事情があったりしたわけだけど、トリエラ達が来る前に【洗浄】も使って机とかも準備して、色々取り繕って授業開始したわけですよ。表情もスキル使って誤魔化したから何も問題は無いはず。……大丈夫だよね? いや、漏らしてないけどね?


 今回で四回目なわけだけど、うーん……リューの馬鹿っぷりがちょっと微妙。やる気はあるんだけど、結果がついてこない。非常に勿体無い。

 ボーマンなんかはいつも通りのやる気の無さがありありと見て取れて、当然その態度相応に結果が出ない。そういう意味ではリューより酷いとも言える。

 やる気も結果も出てるのがマリクルとケイン。

 ケインは色々とアレなわけだけど、やはり地頭の良さというのはこういう時に発揮されるわけで、普通に優秀だった。まあ、未だにしどろもどろなんだけど。

 ……そろそろちゃんと言葉にしないといい加減、私も待つの止めるよ? 未だに色々恨んでるんだからね? ……なんというか、なあなあにされそうな気がする。まあその場合は完全に拒絶するだけだからそれはそれで別にいいけどね。クソが。

 マリクルは普通に優秀。本人が基礎の大切さを知ってるから、基本を重点的にやらせてる。我慢強い気質とかも合わさって、地道な基礎練習は苦手じゃないみたい? ある程度の応用とかもやらせてみたけど、あとは放って置いても勝手に勉強して結果を出すと思う。

 女子メンバーだと、飛びぬけてるのがリコ。とんでもなく優秀。読み書き計算、この子がいれば何も問題は無い。目上の相手への手紙とかも多分問題なく書けると思う。計算は、使い道無いけど分数の計算も教えてみた。普通に覚えて解けてた辺り、凄く頭が良い。もっと色々教えたいけど、貴族でも無い限り数学者になっても食べていけるわけじゃないからね……

 トリエラは割と普通というか、やや優秀? とは言っても元々秀才タイプなので、放って置いても勝手に勉強して、最終的には優秀な結果を出すと思う。

 アルルは、普通。足し引きは問題なく出来る。そろそろ乗算除算教えてもいいかな?

 クロは、アルルよりちょっと劣るくらい? とはいえ問題が無いレベルにはなってると思う。



 そんな感じで、今日の授業も終わって撤収準備中なんだけど……生徒達は午後からの採取なんかに備えてご飯の準備をしてたりする。

 後片付けしながら早く帰って鍛冶やりたいな、なんて考えてたんだけど……


「なあ、ち、じゃねえやレン、今日はなんか作んないのか?」


 リューか。今、またちんちくりんって言おうとしたよね。殴りたい、この笑顔。でも言わないで言い直したから今回は許してやろう。


「作りませんよ。そもそも前回のあれは、ただの気まぐれです」


「そっか。じゃあさあ、お金払うから作ってもらうっていうのは大丈夫か? 勉強見てもらうのだって報酬払ってるわけだし」


 ……はい? なに言ってんのコイツ。


「……」


「な、なんだよ。そんなに見て、な、なんかあんのか?」


 ……信じられない、あのリューがこんなまともな提案をしてくるだなんて。思わずフード下ろして眼鏡も外して、まじまじとリューの顔を見つめてしまった。

 あれ? だんだん顔が赤くなってきた。なに、どうしたの? ……って、他の子達からの視線が集中してるけど、なに?


「トリエラちゃん、レンちゃん先生って……凄く、可愛いのね」


「あー、うん。内緒にしてね?」


「え? なんで?」


「まあ、ちょっと色々と……」


 ……あ、顔……取り敢えず何事も無かったかのように眼鏡を掛けなおしてフード装着。うん、何も無かった。ケインが気持ち悪い視線送ってきてるけど、何も無かったったらなかった。

 というかシェリルさんも私の呼び方『レンちゃん先生』なの? 普通に先生でお願いします。


「リュー、熱でもあるんですか? 具合が悪い時はちゃんと安静にしてないと駄目ですよ?」


「はあ? 何言ってんだ? 別に具合なんて悪くねーぞ?」


「え? でも、貴方があんなまともな提案をするとか、考えられないです。てっきり、頭がどうかしてしまったのかと……」


「おまっ……!? オレだってあれだけみんなから言われれば少しは考えるっつーの!」


「はあ? あのリューが……? …………そうですね、そういうこともあるかもしれませんね」


「ぐっ……! ここでキレたらだめだ、深呼吸、深呼吸…………ふぅ…………それで、どうなんだよ」


 ……あれ、本当に成長してる? ふーん……? まあ、それならちゃんと相手しないとかな?


「そういう条件であれば別に構いませんよ」


「マジでか!? やった!! じゃあ頼む!」


 あらら、周りの皆も俄かに騒ぎ出したね。でもね?


「ええ、それはいいんですが……材料は?」


「え? 材料?」


「はい、材料です。材料がなければ何も作れませんよ?」


 うん、材料が無いとね。


「まさかとは思いますが、前の時のように今から私に集めろとか言いませんよね? それくらいは自分達で持ってくるのが普通だと思いますけど?」


 うん、リューの提案は『報酬を払うから食事を作ってくれ』だからね。『食事を売ってくれ』じゃないんだよ。なら、食事を作るにはそのための材料が無いと駄目だよね? 我ながら意地悪で性格悪いね! ふははは! いや、周囲の目もあるしさ……授業の回数を重ねるごとに遠巻きに様子を窺ってる人が増えてるんだよ……いやになっちゃう。


「えーと、材料……」


 うん、リューが困ってる。他のみんなも何か無いかとあたふたしてる。そんなに私の作ったご飯が食べたいのかな?

 んー、今まで鞄を魔法の鞄と偽って色々取り出すふりをしてたけど、女子四人とマリクル以外はテントとか取り出してるところは見て無いから、食材も持ち歩いてるとは思わないんだろうなあ……というか、マリクルは私が鞄から色々とご飯取り出してるところ見てるはずなんだけど、混乱してるのかその事実に気づいて無いっぽい?

 ……あ、トリエラとリコだけは困ったような顔してこっちみてるから気付いたみたい? まあ今まで散々餌付けしてたからね、気付かないほうがおかしい。とは言え、んー……仕方ないなあ、今回はリューの成長に免じて適当になにか売ってあげるかな?

 でもなにがいいかな? 汁物は鍋を出さないといけないからちょっと微妙? いや、空鍋をだすならともかく、中身入りはなんだか問題ありそう……?

 肉系、となると焼肉とかになるかなあ? 揚げ物は問題有そうだし、ハンバーグは……いいのかな、拙いのかな、ちょっと分からない。他の凝ったものは色々アウトっぽいし……うーん?

 んー……あー、パスタにでもしようかな? 結局今から作ることになるけど、まあそのくらいはね。


「……材料が無いなら無いで、私の手持ちからの提供になりますけど、いいですか?」


「えっ? 手持ちって、どこに持ってんだ?」


「この鞄に入ってます」


「……もしかして、魔法の鞄? マジで?」


「マジです」


 そういうことになってる。盗まれても中身は空だから別に困らないと言えば困らない。あ、収納スキル持ってるってばれるって意味では困るかな?

 それはともかく調理準備。毎度のように土魔法で竈を作って、鍋を取り出しお湯を注いで火に掛ける。お湯が沸くまでの間に挽肉用意。うん、面倒だしミートソースです。肉も食べられるしね。ぺペロンチーノとか他のパスタ料理でも別に良かったんだけど、肉が入ってる方がいいかなーって思って? さて、ちゃっちゃと作ろう。


 と言う訳で完成。ミートソーススパゲティでございます。一皿あたりはちょっと大盛り。みんな食べ盛りだしね、ちょっとしたサービスと言うことで。


「一人一皿小銅貨3枚、お代わりは無しです」


 ……あ、全員買うのね。別にいいけどね。


「なんだこれ……すげー良い匂いがする」


「うまー! レンちゃ、うまー!」


「もぐもぐもぐもぐ!」


 うーん、前回と似たような状況に……あ、ついでだし私も食べよう。もぐもぐ。


「はあ……美味しかった……」


「なあレン、お代わり駄目なのか?」


「そもそもお代わり残って無いです。自分で買って来たパンが残ってるでしょう? それを食べてください」


「くぅ、チクショー……こんなに美味いのに、もっと食いたいのに……!」


 ……なんだか、次回以降も作らされそうな気がする。んー……それだったら先に用意しておくほうがいいかな? 三馬鹿はともかくトリエラ達には食べさせたいし、シェリルさん姉妹は可愛いし?


 食事が終わった後は全員解散。トリエラ達は2チームに分かれてそれぞれ兎狩りと薬草採取、シェリルさん姉妹は薬草採取をするらしい。ちなみにシェリルさん姉妹は収入が増えたのでトリエラ達と同じ宿に移ったそうな。あと、ケインはいまだにしどろもどろ。もういいよ、お前。


 工房目指しての家路。コロコロとカートを引いて歩いてると、コミケの帰りを思い出す。若かったあの頃……フフ、サークル参加もしてました、はい。


 工房に帰った後は数日振りに鍛冶修練。LV9は果てしない……地道にがんばろ。


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