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091 レンちゃん先生の蜂蜜授業


 はてさて、準備も終わって少し駄弁ってるうちに馬鹿達も来たっぽい? なんか色々話しながらこっちに歩いてきた。


「なーケイン、本当にやらなきゃだめなのかよー」


「読み書きができたほうがいいだろ。お前、依頼票読めないじゃないか」


「えー? トリエラが読めるんだろ? ならいいじゃねーか」


「いいわけないだろ。極端な例えだけど、お前を残して全員死んだりしたらどうするんだ?」


「いや、それはねーよ! なあ、ボーマンもそう思うだろ?」


「おれは別にどっちでもいい」


「……絶対に無いって言い切れるのか? 大体、何時までも俺達でパーティー組んでるとも限らないんだぞ? それにお前、この間一人で買い物に行った時に釣りを誤魔化されたって怒ってただろ? ちゃんと勉強すればそういうことも無くなるんだぞ?」


「あれは……トリエラかチビが一緒に来れば問題ないだろ!」


「お前の都合だけで二人に負担をかけるのか? こう言っちゃなんだが、今のお前はリコリスよりもなにも出来ないってわかってるか?」


「はぁ!? オレがあのチビよりつかえねーってのかよ!」


「リコリスは今じゃ読み書きも計算も出来るし、魔法まで使える。トリエラがレンに聞いた限りじゃあリコリスの魔法の才能はかなりのものらしい。お前は読み書きも出来ないし魔法も使えない、腕力だって俺達の中じゃあ一番無いだろ? なら読み書きくらい覚えておいても損は無いだろ」


「ちぇっ……わーった、やればいーんだろー? ったく、めんどくせー」


 ……なんていうかさ、もうやる気なくなってきたんだけど。帰ってもいい? だめ?


 リューの馬鹿王ぶりは全然変わってないみたいで、もうね……それにボーマンは相変わらずだるそうな顔してるなあ。もっとやる気だせ。


「ケイン、遅い!」


「悪い、でもまだ時間になってないだろ?」


「こういう時は相手より早く来るのが礼儀でしょ! レンは私達と一緒に来たんだよ?」


「え、マジか」


 あー、まあ、ケイン達も予定の時間より早く来てるけどね、一応。


「すまん、レン。待たせたか」


「おはようございます、マリクル。別に待ってませんよ」


「っと、おはよう。だが俺達より先に来てたんだろう? すまん」


「みんなの分のパンを買いに行ってたって聞きました。ちゃんとした理由があるんだから別に問題はありません」


「おい、ちんちくりん。おまえちゃんと教えられるのか? 本当に読み書きとかできるようになったのかよ?」


 私とマリクルが話をしてたらリューが割り込んできた。……だれがちんちくりんだ、このクソ馬鹿。私よりチビの癖に、本当にむかつくヤツだな! ノルンにちょっと齧ってもらおうか?


「この、馬鹿が!」


 ゴスッ!


「ぐあっ!」


 あ、マリクルの鉄拳が炸裂した。


「お前、立場分かってんのか!? いい加減にしろ!」


「いってぇ~……わーったよ! ……悪かったな、ちんちくりん!」


 ……もうさ、本当に帰っていい?


「もうお前は口を開くな!」


 ガッ!


「うぎっ!?」


 あら意外、ケインから追撃が。


 予想外の展開にちょっとびっくりしてるとマリクルとケインが二人がかりでリューをボコボコにし始めた。別に止める理由も無いから放置。そろそろ時間になるから授業始めようか?


「トリエラ、そろそろ……」


「あ、ちょっ、レン! その……」


 あー、ケインか……何? 正直、最低限以上は口も利きたくないんですけど? 声を出して返事したりはせずに、振り返ってジト目で見てみる。


「……」


「えっと、その……孤児院にいた時は、その、あれは……」


「…………」


「あー……えっと」


 お前はシドロモドロ君か。はい、時間の無駄。さっさと授業始めよう。


「トリエラ、授業始めますから席に着いてください」


「わかった! ほら、あんた達も座って! ケインも早く! 馬鹿共もさっさとしろ!」


 全員席に着いたので授業開始。ちなみに授業中も私はフードを被ったまま。なんだか遠巻きにこっち見てる冒険者とか結構居るし。

 トリエラとリコ以外の他の六人には初歩から教えつつ、大分先に進んでる二人には合間を見ながら難易度の高そうな文章を書かせたりと、二人専用の問題を出したりしてみる。



 うーん、やる気のあるアルル、クロ、マリクルは覚えるの早いね。あとはなんだかんだ言ってやはりケインも早い。ボーマンは……普通? いや、普通って言っても何が普通なのか例え辛いんだけど、早くも無く遅くも無く?

 予想外だったのはリューで、うーうー唸りながら意外と真面目にやってる。時々頭を掻き毟って癇癪起こしそうになっては、深呼吸して問題の続きに戻ったり? なんだ、文句言ってた割には思ったよりもやる気あるんじゃないの? いきなり逆切れして騒がないだけ、全然マシだね。


 一時間程読み書きの初歩を教えてると、リューとボーマンの二人が限界っぽくなって来たので小休憩を取ることにした。アルルとクロも集中力が途切れ始めてたしね。


「15分程休憩にしましょう」


「「「「ふはー……」」」」


 んー、他のみんなも大分キてたっぽい? 仕方ない、ジュースを奢ってやろう。ってわけでコップを取り出してオレンジジュースを注ぎ、全員に配る。


「これを飲んで一息ついてください。飲み終わったらコップを持ってきてください」


「わーい!」


「うまー」


「なんだこれ、すっげぇうめえ!?」


 ふむー、好評っぽい? まあ毎回こんなサービスしないけどね。初回特典ってことで。


 ……なんかケインが話しかけたそうにしてたけど無視。

 ちなみに授業をしてる間、その周囲をノルンとベルがぐるぐると回って警戒してたりする。お陰で余計なちゃちゃを入れてくる連中は居ない。遠巻きに見てる人はいるけど、黒板を盗み見したり内容を盗み聞きするにはちょっと遠い、微妙な距離から近づいては来ない。流石ノルン、私の以下略。


「なあ、おかわりねーのか? あるならくれよ!」


 ねーよ! お前の分はな!


「ありません」


「ねーのかよ、けちくせえなあ」


 殺すぞこのクソチビが。


「え、ないの……?」


「もうすこし、のみたい……」


「リコとクロの分はお代わりありますよ。はい、どうぞ」


「いいの!?」


「わーい!」


 ふふふ、かわいいのう!


「おい待てよ! さっき無いって言ってたじゃねーかよ!? なんだよそれ!」


「貴方の分はないです」


「おい、ふざけ……」


 ガンッ! マリクルの必殺の一撃! 効果抜群だ! リューは悶絶している!


「黙ってろ」


 うむ。流石マリクル、出来ておる喃。



 さて、オチもついた所で後半戦に行きますか。でも読み書きの続きにするか計算にするか……んー。


「みんな、勉強の続きはどうしましょう? 読み書きにしますか? 飽きてきたとか、疲れたというなら計算のほうにしますけど、どうします?」


 こういうときは多数決。ぶん投げたとも言う。


「うーん、私は別に読み書きのほうでいいかな?」


「俺はちょっと辛くなってきたから、計算のほうをやってみたい」


「オレはこのまま読み書きでいい。つーか、うまく頭の中、切り替えられねぇし」


「……おれはどっちでもいい」


 んー、読み書きがアルル、リコ、クロ、リュー。計算がマリクル、ケイン。どっちでもいいのがトリエラとボーマン。という訳で多数決により読み書き継続で。


「では読み書きの続きにしましょう」


 一部ブーイングが起きたけど、盛大にスルー。馬鹿のリューも頑張ろうとしてるので、ここは馬鹿に合わせるのも悪くないと思う。



 後半戦も特に問題なく終了。

 ……なんだかんだ言いつつ、何気にリューが頑張ってた。口を開くとムカつくけど。


 私が後片付けをしてると、女の子が二人、こっちに近づいてきた。大小二人で、顔つきも似てるし姉妹っぽい? でも私のところに来るのかと思ってたら、トリエラの知り合いだったみたいで、トリエラに話しかけてきた。


「あの、トリエラちゃん? こんな所で何してたの?」


「あ、シェリルさんにメルティちゃん。えっとですね……」


 二人はシェリルさんとメルティちゃんというらしい。二人ともピンク色の髪に白の猫耳と尻尾の猫獣人族。シェリルさんはロングヘアで、メルティちゃんはショートカット。そしてやはり姉妹だったみたい?


「読み書きや計算の勉強……もしかして、その教えてくれてる子って、トリエラちゃんが前に言ってた?」


「うん、私の親友の子」


「……あの、私達も教えてもらえることって出来ないかな?」


「え? それは、えーっと……あの、レン?」


 ……トリエラから説明された話だと、このシェリルさんというのは王都に来て直ぐ位からトリエラに良くしてくれた人らしい。シェリルさんが13歳で、妹のメルティちゃんは10歳。

 シェリルさんも孤児院出身らしくて、妹と一緒に上京してきたとかなんとか? で、面倒見がいいシェリルさんが教えてくれたお陰でトリエラ達は多少なりとも薬草の区別ができるようになったらしい。そのお陰で雑魚寝の安宿とは言えちゃんと屋根のあるところで眠れるようになったので、トリエラ達の全員の恩人なのだとか。

 その後も顔を合わせた時は一緒に採取をしたりしてたみたいなんだけど、ここ最近になっていきなりトリエラ達の薬草知識が一気に増えて、収入も増えて宿も変わった。急にトリエラ達の生活が豊かになったことに驚いたシェリルさんはその理由を聞いて、私のことや資料室の事も知ったらしい。

 でも資料室に行っても読み書きが分からないシェリルさんは困ってたみたい。折角の知識が目の前にあるのに書いてある物が読めない。幼い妹も居るので、なんとしても収入を増やしたくて悩んでたんだとか。

 そんな時に目の前に勉強できるチャンスが降って湧いた、というわけだ。ふむん。


「レンさん、でしたか……どうかお願いします、私達にも読み書きを教えてください! この通りです!」


 すっごい頭下げてお願いされてるんだけど、でもなあ……知らない人だし、私達と同じで孤児院出身らしいけど……んー。


「あの、レン、私からもお願いできないかな? レンが人見知りするのも知ってるし、レンの負担になるっていうのは分かってるんだけど……シェリルさんには本当に凄いお世話になったから、何とかしてあげたいんだ! だから、ごめん! お願い!」


 んー………………………………………………………………はぁ。トリエラの恩人って言うなら、まあ、仕方ないか。


「はぁ……分かりました。いいですよ、教えましょう」


「いいの!?」


「いいんですか!? ありがとうございます!!」


「但し、この勉強会はあくまでトリエラ達に教える為のものです。ですからトリエラ達がある程度覚えたらそこで終了します。たとえ貴方が半端な状態であっても、です。

 それでいいなら参加するのは構いません。それと、授業料は一度につき一人銅貨5枚頂きます」


「大丈夫です、それでいいです! ありがとうございます、がんばります!」


 うーん、流されてる……私、流されてる……駄目だなあ。


「そのほかの細かいことはトリエラに聞いてください」


「分かりました! トリエラちゃん、色々教えてね!」


 とまあ微妙にトラブルっぽいことが起きたけど、その後はそれぞれが用意したご飯を食べて解散。リコやマリクルが物欲しそうにこっちを見てたけど、スルー。トリエラはシェリルさん達のことをねじ込んだことを負い目に感じたのか、気まずそうにしてた。

 やるって言った以上はやるから、そんな気にしないでいいよ。私が自分で決めたことだからね。


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