090 ぐだぐだ登校風景
はい、みなさんおはようございます。レンちゃん先生ですよー
今日から授業開始です。とは言っても現在朝の7時、まだ朝ご飯食べてる最中ですが。別に急がなくても間に合うしね? もっきゅもっきゅ。
それはさておき昨日の貯金額には驚いたね。ちょっと多すぎ。
とは言え基本的にランクアップの処理とか預金の引き出しとかは個室で行われるので、個人情報の漏洩とかは大丈夫なはず? 一応商業ギルドではそういった個人情報とかは守ってくれるらしい。どこまで信用できるのかは怪しいけど……
それはそれとして、どうにも私の持ち込んだキャリーカートはかなりの売り上げになりそう、とはその時の担当職員の弁。
冒険者であれば獲物を大量に手に入れたときに活用できるし、商人であれば大型のものを使えば荷物の運搬にも便利、ということで、ぶっちゃけ前回のパスタマシーンやミートチョッパーよりも特許料が入るはず、とか言われた。あの、なんだかもう怖いんですけど?
もっと何かアイディアがあるんじゃないですか? とか言われてもね? 言いませんよ、言いません! やめてください、泣いてる私だって居るんですよ!
設計図は大型のものとか手押し車とかの幾つかの派生型も書いたんだから、それで我慢してください。
昨日はその後、商業ギルドから帰った後は親方さんにお願いしてミスリルを売ってもらって在庫補充してみた。ミスリル以外のファンタジー金属の取り扱いと言うか在庫はないのか聞いてみたけど、ミスリルよりも上の金属素材は稀少すぎてまずお目にかかれないって言われた。
ミスリルよりも下、鉄よりも上だと魔鉄とか魔鋼っていうのがあるんだけど、これは魔力が濃厚な土地の鉱山から産出する鉄で、魔力に親和性が高い鉄の亜種。
魔鉄を精錬すると魔鋼と呼ばれる。魔力剣とか造る時に色々な初期の準備をする必要がないので便利。これで剣を打つだけで低位の魔力剣が造れてしまうと言う優れものだったりする。
次が青銀鋼とか言う金属。別名ブルーメタル。青っぽい金属。
これは単体だと色々微妙なんだけど、他の金属と混ぜて合金化することで魔法抵抗や魔法効果とかが高くなるらしい。その特性上単体ではまず使われない。
ミスリルなんかと合金化することで少量のミスリルでも量を嵩増しできるので、防具とか防御のアクセサリを造る場合に便利。魔法防御や付与効果を重視したい場合は純ミスリル製の防具よりもこれとのミスリル合金の方が効果が高い。
金とか銀とかの貴金属と組み合わせたアクセサリを身につけるのが貴族の嗜みとか何とか?
お次がミスリル。精霊銀とも呼ばれ、白っぽくてきらきらしてる金属。
魔法との親和性が非常に高い金属で、鉄より固くて軽量。魔剣とかは取り敢えずこれで造っておけばいい、と言う位には定番。
産出量は鉄よりはかなり少ないけど流通が多い時にはそれなりに手に入れられなくも無い。
ミスリルよりも稀少なのがアダマンタイト。黒魔鋼。黒くてほのかに深緑色っぽい、らしい。
ミスリルよりも固いけど鉄よりも重いと言う扱いづらいちょっと困ったちゃんな金属。魔法への親和性は魔鉄と同程度。魔剣とか造るにはちょっと扱いが難しい金属。親方さんもあまり扱った事がないらしい。
ちなみにダンジョンから産出される強力な魔剣はアダマンタイト製のものが結構あったりするとかなんとか。
最後が定番のオリハルコン。神鋼とも呼ばれ、金ぴからしい。
ミスリルと同程度の軽量さとそれ以上の魔法親和性の高さ、そしてアダマンタイト以上の硬度と揃った、最高の武具素材。ただし、とにかく稀少で鉱脈から稀に産出しても指の先ほどの大きさも無いとか。
伝説級の聖剣とかでオリハルコン製のものが極稀にある、と言う程度。いつか扱ってみたいものだねえ……
他にも色々あるらしいけど、代表的なのはこの辺りらしい。なるほどなー。
それはさておき。
あんまり遅く出てたら間に合わないかな? ちょっと早い気がするけどもう出よう、と言うわけでノルン達を引き連れて工房から出発。カートをコロコロ引きながら大通りを移動。うん、ノルンもなんだけど、カートが地味に目立つ。
ギルドの出張所の前を通り抜けたあたりから周囲に冒険者が増えて、同時にカートへの視線も増える。ちょっとまずったかも? でもいまさらどうにも出来ないし、どうしよう?
うぐぐ! でもノルン達のお陰で声を掛けてくる人が居ないのはラッキー?
なんて悩みながら歩いていたら、門が見え始めた辺りでトリエラ達発見! 合流しよう。
「トリエラ」
「あ、レン? どうしたの? 早くない?」
「いえ、早めに移動しようと思いまして……と言うか、それを言うならトリエラも早いのでは?」
「いやー、無理なお願い聞いてもらったんだから、先に到着してたほうがいいかなーって思って……無駄だったけど」
無駄ではないよ、無駄では。お陰で私、助かった。
「いえ、無駄ではないです。ちょっと周囲の視線が気になってたので……」
「あー、レンの従魔、目立つもんね?」
「ええ、まあ……」
それだけじゃないっぽいけどね。まあ一々言わないけど。
ちなみにトリエラと一緒に居るのは女子メンバーだけ。男子四人は少し遅れて後から来るらしい。みんなのパンを買ってから来るらしい。
って、クロが眠そうにしてる。って言うか半分寝てない? リコが手を引いてるけど、大丈夫?
「はよー、レン! その引っ張ってるの、なに?」
「おはようございます、アルル。これは今日の勉強で使うものですよ」
「へー……っていうか、そのレンが引いてる台? なんか凄いね! 便利そう?」
「そうですね、採取にせよ狩りにせよ、収穫が多かった時に便利だと思います」
……何気なく返事を返したら、周りに居た冒険者達がぎょっとした目でこっちをみて、雰囲気が変わった。『なるほど』とか『あれがあればオークの持ち帰りも……』とか聞こえてくる。ぐは、やらかした!
「すみません、ちょっと視線が気になるので早く行きましょう」
「あー、うん。分かった」
色々察してくれたらしい。ありがたい。
門から出ると漸く視線から解放された。と思ったら知らない人から声を掛けられた。背が低くて髭で筋肉質でごっつい斧を持ってて……ドワーフ?
「あー、ちょっと済まない、お嬢ちゃん。少し聞きたいんだが、それはどこで買ったんだ? 良ければ教えてくれないか?」
「えっと……?」
「ああ、いや、色々持ち運ぶのに便利そうだと思ってな? 魔法の鞄だのなんだのは高くて中々手が出ないし、仮にそういったものが手に入っても、そういう荷物を乗せて手軽に扱えるものがあれば便利だからよう、俺もちょっと欲しくなってなぁ……問題がないなら教えてもらえないか?」
「なるほど、そういうことですか。これは場所を借りて私が自分で造りました。商業ギルドに行けば設計図が見れますので」
この言い方なら色々解釈の仕様があるから、私が設計図を書いたとは思わないはず。……多分。
「既に特許が出てるものなのか……そんな便利そうなもの、よく気付いたな。目端が利くのは冒険者には大事なことだ、頑張れよお嬢ちゃん! 俺も帰りに覗いてくることにするよ!」
「いえ、貴方も頑張ってください」
お、誤魔化せたかな? 面倒なことにはならないで済んだみたい? 私に声を掛けてきたドワーフっぽい人が離れていくと、その周囲に別の冒険者達が集まっていって私に聞いた話を聞いてるようだった。うん、こっちに来ないのは助かる。私の代わりにがんばってください。
「……レンって結構人見知りするわりに、何でも卒なくこなすよね?」
「そんなことないです。いまもドキドキでした」
「全然そんな風には見えなかったよ?」
いやマジで。知らない人とか怖いです。
そんなこんなでみんなでぞろぞろと歩いているうちに目的地に到着。結構な大木の麓でございます。
今は八月下旬、まだまだ日差しも強いのでこの樹の木陰なら多少は涼しいはず?
さて、取り敢えず準備でもしますか。土魔法で人数分の椅子と机を作成。次に教卓も作って、黒板を立てる台も作る。荷物を荷解きして黒板を組み立てて、各机にミニ黒板とチョークとボロ布を置いていき、準備完了。あとはマリクルと三馬鹿達が来るのを待つだけ。
初日から遅刻とか許されざるよ? いや、まだ始業時間じゃないけど。と言うか時間がわからないのか? んー。
「トリエラ、これあげますので遅刻とかしないようにしてください」
「えっ? これって……時計!? こんな高いもの貰えないって!」
「私が造ったものなので別に高くないです。でも気にしないでって言っても気にしそうですし……そうですね、材料費だけ払ってください。小銀貨3枚です」
私が取り出したのは以前造った懐中時計で、今、私の腰元にぶら下がってるものと同じデザインのもの。ちなみに三大複雑機構を全部搭載してたりする。あ、ちゃんとチェーン付ね。まとめて10個ぐらい作ったので一つ二つあげても別に問題はない。
でも言われてみれば懐中時計って高級品だよね。店で見てもたしか小金貨数枚とか高いものだと金貨って値段だった筈? そしてぶっちゃけ小銀貨3枚でも原価割れしてる。
「小銀貨三枚って……いや、それでも私達からすれば結構厳しいんだけど」
「出世払いでいいですよ」
「むぐぐぐ……! ちゃんと払うから! 待っててね!?」
「はい」
「……いいなあ、トリエラだけずるい」
「アルルも欲しいなら同じ値段で売りますよ。まだまだ造ったのがありますから大丈夫です」
「いいの!? あ、私は今すぐじゃなくていいよ! お金貯めるから、待ってて!」
「いいんですか?」
「うん、取り敢えずトリエラが持ってるから、今すぐ持ってないと滅茶苦茶困るってわけじゃないし」
アルルも色々考えるようになったね。みんなで自活するようになったからかな? それに可愛いよね、ツン期も終わってデレデレだし。
「うー、わたしも欲しいけど……うーん」
「わたしも、ほしい」
「クロ、頑張ってわたし達もお金貯めよう!」
「がんばる」
リコとクロも……三個か、三個欲しいのか? 三個……このいやしんぼめ! ……いや冗談だよ、言ってみたかっただけ。まあなんだ、みんな頑張れー。