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089 知識チートの恐ろしさの片鱗を垣間見たぜ……


 ケイン襲来の後、翌日、翌々日と鍛冶修練。今回は刀を多目に剣を打った。でも普通の剣も打っておかないとね。ほら、刀って【操剣魔法】の弾には不向きだから。


 でもって、今日もトリエラ達とおしゃべりタイム。今日はリコだけじゃなくてマリクルも一緒。マリクルはケインに説教した後の事を報告に来たらしい。アルルはケインの見張りだとかで居残りだとか。一緒に来たがってたらしいけど、ケインから目を離すのはまだ不安との事。わかるわ。


「いやあ、あの後帰ってからが大変だったよ……」


「まさかあそこまで拗らせてるとは、俺も想像してなかった」


 ……え、そんなに?


 なんでも、一昨日連れ帰った後に目が覚めたケインは即、部屋を飛び出して私のところに行こうとしたらしい。それに気付いたアルルがまたもや必殺の飛び蹴りで動きを止めて、そこにマリクルが羽交い締めにしてようやく大人しくなったとか。

 目が覚めて早々行動を起こした事により、これはいかんという事で親レン派の面々は全会一致し、ケインを椅子に縛りつけて、そのまま夜まで懇々と説教して言い聞かせたらしい。っていうか、私派ってなにそれ。

 その後、晩ご飯の時間になってやっと大人しくなったので、縄を解いて食事をして就寝。なお、角兎狩りにいけなかった為に肉が食べられなくなり、リューとボーマンがずっとブツブツと文句を言ってたみたい。

 そして翌日、朝早くに部屋からこっそり抜け出そうとしてるケインにマリクルが気付き、またしても拘束。問い質してみればやはり私に会いに行こうとしていたらしい。マジキモイわ。

 そして午前中一杯使って改めて説教した事でようやく、本当にようやく、渋々ながらも諦めた様で、その日の午後と翌日は一昨日までと同じ様に角兎狩りと薬草採取に出かけた、という事だった。

 ちなみにその時のケインは不気味なくらいに大人しく、何か考え込んでる様子だったらしい……


「……なんというか、話を聞くと本当に気持ち悪いですね。意味がわかりません」


「……正直、俺もそう思う。レンの事が無ければまともなんだが、今回の事は流石に俺も、ちょっと……」


「……私は孤児院に居た時にもう諦めてたけど、あのままだとレンに迷惑が掛かるから。私、説教頑張ったよ……疲れたよ……」


「お手数おかけしました」


「いやいや、いつも迷惑かけてるのはこっちだから!」


「そうだよー、全部ケインが悪いんだからね! まったく、何が『レンは俺の嫁になるんだ』だってーの! レンちゃんはわたしのお嫁さんになるんだから!」


 え、私リコのお嫁さんになるの? 初耳なんだけど?


「リコの冗談はさておき、ちょっとレンにお願いがあるんだけど……聞いてもらえる?」


「お願いですか?」


「うん。前々からマリクルとも話してたんだけど、私達全員に読み書き教えてもらえない? 私とリコだと上手く教えられなくて……」


「読み書きと、後は出来れば計算も教えて欲しい。日常生活に困らない程度の小額の買い物は出来るけど、冒険者を続けていけば高額の装備をまとめて買う事もあるかもしれない。そういう時に騙されても気づかないって言うのはちょっとマズイじゃないかって、トリエラとも話し合った。あと、少ないかもしれないが、報酬もちゃんと払う」


「それは構いませんけど、別に報酬は……」


「いや、報酬は払う。正直言ってレンに利益がないんだ。俺達全員に……ケインやリューも含めた全員に教えて欲しい」


 ……なるほど、そういう事か。


「それに正直、レンには色々貰い過ぎだ。通すべき筋の話でもある。お前は気にしないんだろうが、こっちは気になるんだ」


「だから、報酬を払う事で依頼って形にしたいんだよ。会いたくない相手にも教えてくれって言う無理なお願いだから……」


「んー…………………………………はぁ、分かりました」


「ほんとに!? ありがとう、レン!」


 確かに三馬鹿には会いたくないし、ケインとは口も聞きたくないけど……もっとしっかり読み書きが出来ればトリエラ達は色々助かるだろうからなあ。あー、ちょっと流されてる気がするけど……んー、でもまあ友達を助けると言うことであれば、まあ?


「すまんレン、助かる……実はな、報酬を出すってのはケインの提案なんだ」


「え?」


「さっきトリエラが言ったと思うが、お前に読み書きを教えてもらうっていうのは前々から考えてたんだ。ただ、お前にケイン達にも教えてくれって言うのは流石に憚られて……昨日もその事をトリエラと相談してたんだが、どうにもそれをケインが盗み聞きしてたらしくてな」


「……ケインとしては自分が会いに行くのは禁止されても、それでもレンの顔が見たかったらしくて、それで珍しく頭を使ったみたいで……依頼って形にして報酬を払うっていうのは確かに筋が通ってるから、流石に反対し辛くて」


「ケインも、トリエラとリコが読み書きできるようになった頃から全員ちゃんと読み書きを覚えたいと思ってたらしいんだ……お前に負担をかけることになるけど、よろしく頼む」


 なるほど、正論で言いくるめつつ皆も巻き込む事で私と会う時間を捻出できる案を考えた、と。なんというか……そういう頭の良さをもっと別の事に使えないのかな、あの馬鹿。

 あー……馬鹿共と顔を合わせるのは憂鬱だけど、やるって言っちゃったし、仕方ないか。


「あー…………でもまあ、やるといったからにはやります。んー、そうですね……では授業は3日に一度で午前9時から12時までの3時間、それを取り敢えず10回ほどやってみましょう。授業料は1人1日銅貨5枚でどうでしょうか?」


 授業料安すぎ? でもみんなにも生活があるし午前を丸々潰すとなると、午後に薬草採取をやるにしても収入は減るわけで、今は角兎も狩ってるから収入はもっと減るはず……その辺りも考慮しつつ、お友達価格って事でこの値段設定なんだけど……流石にちょっと安すぎるかなぁ。でもあんまり高額にするとみんなが生活できなくなるし、それに冬に向けて貯金もさせたい。


「こっちとしては助かるが、ちょっと安すぎないか?」


「そこはお友達価格という事で? それに今の収入って薬草採取に専念して、多い時で一日小金貨1枚位って言ってましたよね?」


「ああ、多い時でその位だな」


「宿代が1日銀貨1枚、食費諸々が8人分で銅貨1~2枚でしたっけ? そこに今は角兎狩りもやってて収入は更に減ってますし、その角兎の毛皮のなめしも1枚が確か小銀貨8~10枚位。服やもろもろの生活用品も足りなくなったら買い直さないといけませんし? みんなには貯金もして欲しいので、あまり高額な請求をするのは気が引けるといいますか……」


 多分勉強教えるのって、普通なら銀貨数枚とか下手すれば小金貨とか取っても許されると思う。でもねえ……?


「……なんというか、色々すまん」


「薬草採取だけではなく角兎も狩るなら肉が取れる分、食費は浮きますし、その辺りは全員で頑張ってください」


「場所はどうする?」


「この裏通りで大勢に教えるとなると、多分衛兵に怒られます。なので場所は……そうですね、前に私も一緒に採取に行った森の手前辺りに大きな木が一本生えてましたよね? あの木の麓でどうでしょう?」


「街の外でやるのか? 危なくないか?」


「ノルン達……私の従魔達がいますから、大丈夫です」


「なるほど……それなら確かに安全か」


「教材の類はこっちで用意しておきます」


 トリエラ達に教える時に使ってた黒板を人数分と、後は大きな黒板かな? 持ち運びは【ストレージ】は使わない方がいいかなあ……これから何度も授業をするなら何度も取り出す機会が出てくる訳で、そうなると目撃される頻度も増える訳で。一応目立たないように対策って事で? んー、なにかキャリーカートとかの台車的なものを作って、それに積んで移動すれば大丈夫かな? 大きな黒板も三分割くらいにすれば載せられるだろうし。


「何から何まで、すまん」


「いえいえ。ただ本人にやる気がなくて覚えられなくても一切責任は負いませんので、そこは理解してください」


「リューとボーマンの事だな……分かってる、そういう場合は気にするな。文句を言うようなら俺が殴る」


「お願いします。では早速明日から始めましょう」


「分かった。……しかしレンの作る飯は美味いな。トリエラとリコがいつも上機嫌で出かけてた理由が良く分かった」


 マリクルがトリエラとリコをジト目で睨んでる……2人とも顔を逸らしてるけど、私の所為じゃないよね? ……いや、私の所為か。

 というか実はこの話し合い、ご飯を食べながらだったりする。ちなみに今日は工房の皆さんにも好評だった豚丼。マリクルは凄い勢いで食べてたのでお代わりを追加してあげた。


 その後、トリエラ達の魔法修練を見てあげてから解散。マリクルもちょっとやってみたけどそっちはあまり芳しくなかった。リコが気長に教えてみる、と言ってたので任せてみる事にした。人に教えると色々と理解が深まるし、リコにとって無駄にはならない筈?



 ってな訳で午後。

 ご飯も食べたし、鍛冶の続きをーっと行きたいところだけど、さっき考えてたキャリーカートでも作りましょうかね。折りたたみ構造にしておけば持ち運びも収納も便利。私は【ストレージ】があるけどね。

 んー、荷物固定用のフック付きゴムロープは、この世界だとまだゴムを見たこと無いので人目につけないほうがいいかな……私は【創造魔法】で作れるけど。むーん……鎖か、革ベルトに穴を開けるかして、キャリーのフレームに引っ掛けるためのフックをつける?

 後は背負って背嚢としても使えるようにベルトを取り外しできるようにもしてみよう。森に行くまでは普通にカートを引いて使って、森に入る時は背負うとかそういう感じに使い方を変えられる様に。

 そんな感じで仕様を決めたらトンテンカンテン出来上がりー。予備を含めて5台ほど作ってみた。1台はトリエラ達にあげようかな? 取り敢えず中庭で実際に使ってみよう。

 明日に備えて、持っていく為の教材用の黒板とかも作成して、実際にそれを積んで固定して、コロコロ引っ張りながら中庭を歩いてみる……うん、まあ、大丈夫っぽいかな? 車輪は大きめにしたから多少の悪路でも大丈夫だと思うし、車軸も太めにしておいたので強度もまあ、なんとか? まあ強度を気にしないなら木材で作っても別に構わないとは思うんだけど。


 なんてやってたら色々な資材を運ぶのに便利そうだからって事で親方さんや女将さんがキャリーカートを欲しがってしまい、またしても特許を取りに商業ギルドに行く羽目に。

 またもその場で設計図を描いて提出。今回は実物もあるのでそちらも参考サンプルとして提出させられた。いや、サンプル提出とかいらなくない? せめて材料費は返してくださいよ。



 それとは別に、呼び出しを受けてたけど来たくなかったからスルーしてた商業ギルドに折角きたので、呼び出しを受けた用件を全部片付けておく事にした。ランクアップだったっけ? 面倒くさいから全部まとめて処理だー! ってな訳で窓口に行ったんだけど……商業ギルドのランクが、いきなりCランク? え? もう? 早すぎない? なんだか色々おかしくない?

 ……外国で作られた分の特許使用料も全て収入になるとかで、金額が物凄い事になってたらしい。国内生産はあんまりなかったらしいんだけど、大陸西部とか、大陸中央のなんとか帝国とか、各ギルドの本部があるという商業連合国? とかで沢山作られたとかなんとか……預金を見てみたら、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せんまん、お……お、く? おおおおお!?


 え、なにこれ……?


 ……とりあえず全額下ろして帰ってきました。金貨多目で。後は銀貨とか銅貨とか、細かいのもそれなりに適当に。【ストレージ】に入れておけば邪魔にならないしね、また下ろしにいくのも面倒だから……でもこれで当面はお金には困らないよ、やったね! っていうか、まさかあの預金額を全額下ろしても大丈夫とか、商業ギルドこっわ……


 って、そうじゃないから! え? ちょっと桁が多すぎない!?


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