088 きちゃった
てなわけで裏通りでトリエラと合流。今日はリコも居る模様。
そして今日も今日とてご飯を食べながらどうでも良い雑談である。え、勉強? あー、さっきまで教えてた所で、今は簡単な計算を教えてる所だよ。取り敢えず足し引き出来てれば最低限は何とかなるしね。
「今日のご飯もおいしいね!」
「リコ、あんたはもうちょっと遠慮って物を……はぁ」
ちなみに今日のご飯は焼きおにぎり。個人的にはこれ、大好きなんだよね。出来立ても美味しいし、冷めても美味しい。後は汁物に角兎の骨で出汁をとった野菜スープ。こっちも中々の出来。うむ。
「しっかり食べないと大きくなりませんよ?」
「そうだよトリエラ?」
「あんた達ねえ……はぁ」
まあ、私は食べてもおちびだけどね……え? 今? ……139cm位かな。いや、【解析】スキルで身長とか分かるんだよ。え? 一年ちょっと前に140cmはあるって言ってた? うるせーな、希望的観測だよ! ほっとけ! ……実は事故当時から1cmくらい伸びてるんだよ、これでも。
いや、それでも138cmって現代日本の10歳女子の平均身長位だったはずだし、これで孤児院にいた頃は大きいほうだったんだから……どれだけあの孤児院の孤児達は栄養が足りてなかったのか、というね?
「そういえばこの間はあれからどうなったんですか?」
「あー、アレね。凄かった。馬鹿3人が武器を見て大騒ぎで、そのあと肉を見て大喜びで更に騒ぎすぎて、宿の人とかから凄い怒られた」
「そのあとトリエラ達だけ先に食べてた事がばれて、更にうるさかったよね。わたしはそんな事くらいじゃ怒らないけどー?」
「リコには謝ったじゃない、しつこいなあ」
「別に怒ってないですー」
リコはしっかりしてる子だから、ちゃんと分かってる筈。だからこれは軽口の類……だよね? 喧嘩は駄目だよ?
「その後、リューの馬鹿が部屋で勝手に槍を振り回してアルルに当たりそうになって女子全員でぼこぼこにしたかな」
「死ねばいいのに」
「いやレン、流石に殺すのはちょっと……で、次の日は総出で兎狩りの練習。お金は多少余裕があるから、先に全員で慣れよう、って事になって」
「なるほど、いいんじゃないですか?」
「でもある程度慣れたら薬草採取も続けてやって行く予定ではいるよ。毎回兎が沢山獲れるわけじゃないし。というか夕方まで粘っても4羽しか獲れなかったんだよね、最初の日。だから総出で兎狩りやるのは全員が慣れるまで、って事になった。レンが居た時には沢山獲れたのって、その狼が色々やってくれてたんでしょ?」
「はい、この子達はお利口さんですから」
「その後は、毛皮と肉の加工をお店に頼む事に関して三馬鹿がごねてた。レンの予想通りだね」
「馬鹿ですからね」
目先の事しか考えてないのがよくわかる。
肉の確保量が増えたら冬に備えて溜め込む事で、冬場の食料に掛かる費用が減らせるんだけど、あったらあるだけ食べようと考えていたらしい。マジで馬鹿だ。
冬には食料品の値段上がるのに、そんな事も分からないとか……特にケインは孤児院に居た頃にお使いとか行ってた筈なんだけどなあ。
「でも理由を説明したらケインは納得して他の二馬鹿に説明して、それ位かな? ダガーの入手に関してはレンが言った通りに親切な冒険者に譲ってもらって、槍も作り方を教えてもらったって事で一応納得はしてた、かな? 盾はケインとリューで取り合いになったんだけど、最終的にはマリクルの予備って事で落ち着いた。今は練習するってことで一時的にケインが使ってるけど……ごめんね?」
「そこは諦めてますから」
うん、そうなると思ってた。とはいえ一時的に、ってのは予想外。勝手に自分用として使うものとばかり思ってたから。あと説明すれば理解する程度にはまだ頭の中身が詰まってたっぽい。
「あー、あとはリューとボーマンの馬鹿2人が、角槍でゴブリン探して戦おうとか馬鹿言って、ケインも前に手に入れた錆び錆びの折れた剣しかないくせに意気投合して馬鹿やろうとしたりとか……怒ったマリクルが全員ぶん殴って大人しくなったけど」
「……本気で馬鹿ですね」
あの温厚なマリクルを怒らせるとか……
「レンが忠告してくれてたから、最初にマリクルがしつこいくらいに説明して念押ししたんだけどね……角兎が獲れたからって調子に乗っちゃったみたいで」
本当に死ねばいいのに。というか三馬鹿だけでゴブリン探しに行って、そのまま死ねばよかったんじゃないかな?
「……でもそれはそれとして、弓が使えれば狩りとかももっと色々捗ると思いますけど、なかなか難しいでしょうね」
「弓って……もしかしてレン、作れちゃったりするの?」
「ええ、まあ……でも矢が消耗品ですから」
余裕で作れると思う。精度が高いやつ。材料の木材は売るほどあるし……というか森にいる時に作ったのが一張り、【ストレージ】に入ってるんだよね。あの頃は非力すぎて無理だったけど、今なら私でも引けるかな?
「そうなんだよねえ……ねえリコ、たしか弓使いたがってたのってアルルだったっけ?」
「そうだよー、でも矢でお金掛かるから、難しいよね」
「私もいつまでも手を貸せる訳じゃありませんから、その辺りの事はみんなで話し合って決めるのがいいでしょうね」
「……レン……」
「レンちゃん……」
あ、やば。ちょっと空気重くしちゃったか。でも事実だしねえ?
いや、トリエラ達女子だけだったら一緒にパーティー組むのは有りだけど、三馬鹿とは組みたくないし? あ、マリクルだけなら大歓迎だけどね、女子だけだと防御力と耐久力に欠けるし、何よりマリクルは人当たりもいいから。
ちなみにトリエラとリコは何度か私をパーティーに誘いたそうな雰囲気の時があったりする。私は気づかない振りしてるけど。
「……ご飯も食べましたし、これからの為に魔法の練習しましょうか」
「……そだね」
「うん……」
話題を変えてこの雰囲気なんとかしよう。という訳で魔法の練習でもしましょうかね。とは言ったものの、やる事といえば【魔力循環】の練習だけなんだけどね。でも2人ともかなり慣れてきたみたい?
「んー、2人とも大分慣れてきたみたいですし、リコもかなり安定してきたみたいなので、これからは2人だけで練習しても大丈夫だと思います。もう少し慣れたらアルル達に教えても良いですよ」
「ほんとに!? いいの、レンちゃん?」
「但し、余り無理はしない事と、やり過ぎないように注意してください」
「わかった! トリエラ、今晩から早速……」
「トリエラ! リコリス! ここに居たのか!」
「げっ」
「あちゃー……」
あー……ついに来たか。
「はぁ~……ケイン、何しに来たのよ?」
「マリクルやアルル達が話してるのを聞いた。俺に黙ってお前達だけでレンに会ってたんだってな?」
「なんでケインに一々断り入れないといけないの? バッカじゃないの?」
「はぁ? おいリコリス、俺とレンは……」
「ケインとレンちゃんが何? 別になんでもないでしょ? 大体ケインはレンちゃんに嫌われてるんだから、いい加減に理解したら?」
「俺がレンに? お前、何言ってんだ?」
おお、本気で理解できないって顔してる。相変わらずコイツ頭おかしいね。なんでこんな風になっちゃったんだか……
「まあ、そんな事はどうでもいい。……そっちのフード被ってるのがレンか? レン! 俺だ、ケインだ! ……生きてたなら、なんで会いに来ないんだ? 余り心配させるなよ……」
「……」
相変わらず人の話聞かない上に思い込みが激しくて気持ち悪いな、こいつ。
「なんで返事しないんだ? ……でも、良かった。会いたかった……」
1人で勝手に自分の世界に入って盛り上がってるね、きもっ。というかこっちに手を伸ばしてきたけど、何のつもり? 触らないでもらえませんかね。当然の様に回避、そのままトリエラの後ろに逃げる。
「……何で避けるんだ? 顔を見せてくれよ」
「嫌です。触らないでください、気持ち悪い」
「は? 何言ってるんだ?」
近づいて来ないでもらえませんかね?
「近寄らないでください、虫唾が走ります」
「おい、何言ってるんだ!? いいからこっちに来い!」
きゃー、おそわれるー。たっすけてー(棒読み)
「ウオォン!!」
「何!?」
ベンチの後ろで丸くなってたノルンが私に手を伸ばしてきたケインに吠え掛け、のそりと起き上がって私とケインの間に割って入ってきた。
わーい、ノルンありがとー! さすが私の女神! 一吼えで悪漢を退けたぞ! ……ベルは呑気に丸くなったままだけど。
「グルルル……」
「な、狼の魔獣!? こんな大きな魔獣が何でこんなところに……!? ってレン、危ないからこっちに来い!」
いかねーよ、アホか。私にとって危ないのはお前だ。
「はぁ……あのね、ケイン。その狼はレンの従魔よ。何も危ない事は無いの。今のだって主人を守ろうとしただけでしょ」
「レンの従魔って……っていうか、守ろうとした? 何が危なかったんだ? 何も危ない事なんて無いだろ」
「いや、レンが明らかに嫌がってる相手が掴み掛ろうとして来たんだから、何もおかしい事ないでしょうが」
「はあ? 嫌がってるって……照れてるだけだろ?」
「いや、アンタ、レンに嫌われてるから。顔も見たくないくらいに。というかあれだけ苛めておいて、何でレンに好かれてるって思えるの?」
「え? いや、だって、小さい頃は……」
「私達よりも2つ上のボブの事は覚えてる? アンタに厳しかったボブ。アンタ、ボブの事、嫌ってたでしょ?」
「ああ、覚えてる。あの野郎は絶対にゆるさねえよ!」
「端から見ればアンタの事を苛めてる様にしか見えなかったけど、ボブが自分が居なくなったあとの孤児院をアンタに任せるつもりで厳しくしてたって分かってる?」
「ああ、そんな事も言ってたな。でもそんなの関係ねーよ! 理由があったってあいつはやり過ぎだったろ!」
「そうね、私から見てもちょっとやりすぎてるところはあったと思う。それでさ、あんたがレンにしてきた事と、あんたがボブにされた事。一体どんな違いがあるの?」
「え?」
「ボブは少なくともあんたを鍛えるって理由があったけど、アンタはどうなの? 大した理由なんてないでしょ? 照れ隠しだか何だか知らないけどね? ……孤児院に居た時から何度も言ってきたと思うけど、そんな事してたら嫌われるって言ったよね? 何度も何度も……アンタさ、自分がレンにそれだけの事してきたって理解してる? アレだけしつこく苛めて泣かして、何で好かれてるなんて発想出てくるのか理解できないわ、私」
「え……俺が……? ……あ、いや……でも、あれは……」
お、やっと自分の行動を振り返ったか。そしてようやく自分がしてきた事を理解した模様。困惑の表情から一気に顔色が青くなって、おろおろしだしたかと思えば途端に視線が泳ぎまくってる。キモイ、こっち見んな。
「レンの事なんで言わなかったんだってさっき言ってたけど、レンがあんたの顔も見たくないって言ったから私は言わなかった。なんか文句ある?」
「それは……でも、お前に色々教えて俺たちの事を助けてくれたんだろ? 顔も見たくないって言うなら、なんでそんな事したんだよ……?」
「……友達のトリエラやマリクル、妹分のリコ達を助けたかったからです。貴方はたまたまトリエラ達とパーティーを組んでただけです。貴方達はただのおまけです。そもそもトリエラ達が居なかったら関わろうとすら思いません」
「な、ん……レン、おまえ……!」
あ、怒った?
「この……ッ!」
って、掴み掛ろうとして来た? ノルンさん、やっちゃってください!
「みつけたぁぁぁあ! ケイン、死ねェェェェエッ!!!」
ドカッ!
「ごあっ!?」
……ノルンが蹴散らす前に、物凄い勢いで走ってきたアルルがその勢いのまま、ケインに飛び蹴りを食らわせた。ケインは2m位吹っ飛んでピクピクしている。ちっ、まだ生きてるか。しぶとい奴だ。っていうかケイン、今、ナチュラルに手を上げようとしたよね。やっぱり頭おかしいわ。
……出番をいきなり奪われたノルンがぽかーんとしてるけど、たまにはこういう事もあるよ、ノルン。
「はー、すっきりした。レン、間に合った?」
「ぎりぎりアウトですね。少し話をしてしまったので」
「むむむ」
「……はぁ、ふぅ、間に合ったか?」
おっと、遅れてマリクルも登場。
「残念ながら間に合いませんでしたね」
「ごめん、レン。私とマリクルが話してたの聞かれちゃったみたいで……」
「時間の問題だったでしょうから、気にしないでください」
「すまん」
「マリクルもアルルも、その位にしておこう。ごめんレン、今日のところは帰るね。ケインもアルルの飛び蹴りで丁度気絶してるし、マリクルに背負って貰って連れて行くから」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫! ようやく自分のしてきた事を理解したみたいだしね、いい機会だから帰ったら今日はずっとケインに説教するよ! 勝手にレンに会いに来ないように念入りに! マリクルも協力しなさいよ!?」
「わかってる。面倒かけたな、レン」
「大丈夫です。よろしくお願いしますね」
「まかせろ」
「私も蹴りまくるよ!」
とまあ、最後はぐだぐだな感じになったけど、一応一件落着? みんな申し訳なさそうに帰っていった。馬鹿の事はみなさんでぼこぼこにしてやってくださいね?