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080 ボスパレードとかボスラッシュとか、割と嫌いじゃないです


 資料室で調べ物をしてたらまさかのトリエラと遭遇! って言ってもそもそも最近はここに勉強しに良く来てるって言ってたし、当然といえば当然なんだけど。


「こんなとこで何してるの?」


「ちょっと知りたいことがありまして、少し調べ物を」


「なに? ……魔剣?」


「魔剣というか、魔剣や魔力剣ですね」


「……まさかとは思うけど、造るの?」


「ええ、まあ。ちょっと試してみようかと?」


「…………」


 いや、そんな変なもの見る眼で見られても困る。


「……まあ、レンだし……」


 あれ? もしかして酷いこといわれてる? でも、実際普通に考えてみればこの歳で魔剣造るだのなんだの言ってたら異常でしかないか。むーん。

 うん、取り敢えず話題を変えよう。


「トリエラはいつもの勉強ですか?」


「うん、勉強。文字読めるようになったしね。

 一緒に来てる他の女の子達とか、馬鹿共にもちょっと教えたんだけど、レンみたいに上手く教えられなくて……人に教えるのって難しいねえ」


「そういうのは慣れですよ」


「うーん、頑張るしかないかな……」


「それで、今日は何の勉強を?」


「今日はっていうか、基本的にずっと薬草のことかな。色々な種類がわかってれば、たまたま見つけた時とか便利だろうし。

 あとは薬草で傷薬とか作れるようになれたらいいなーって思ってるんだけど、そういう調合って言うの? やり方とかは流石にここにはあんまり無くてねー」


「傷薬の調合となると、【調薬】スキルですね」


「一部の薬草の応急処置的な使い方って言うのは見つけたんだ。ためしにやってみたら思ったよりも効果があって驚いた。これで何かあったときに余計な出費少しは減らせるかも?」


「なるほど」


 【調薬】スキルは薬師が薬を作るときに使うスキル。【調合】は錬金術師がポーションとかの魔法薬を作るスキル。【調合】はMPも使ったりするので、似てるようでちょっと違う。


「流石に薬のレシピは薬師ギルドに所属しないと難しいと思いますけど」


「そうだね。でも応急処置が出来るだけでもかなり違うと思う」


「いざというときに選択肢が多いのはいいことだと思います」


「だよねー。

 あ、そう言えば一昨日別れた後、ステータス見てみたら色々覚えてたんだ!

 【魔力感知】がLV2になって、【魔力操作】のLV1が新しく覚えてた!」


「おおー」


「あとね、属性魔法も覚えてたよ! 火と水と風と土! それでね、最初から水がLV1だった! 他のは全部0だったけど……」


「凄いじゃないですか!」


「ありがと! それで早速水を出せるか試してみた! あれ、結構疲れるね」


「慣れない内は皆そうですよ。何事も慣れです」


「なるほど。

 あ、それで、水が出せるようになったから宿屋で身体拭くときに水汲みに行かなくても良くなったんだよね! これもレベルが上がったらお湯とか出せるようになるんだよね? そうなるとお金払ってお湯持ってきてもらわなくてもいいようになるし、他にも使い道あるから色々節約できるよね! 頑張ってお金貯めないと!」


「頑張ってますね」


「そりゃ頑張るよ! 頑張った結果、レンはちゃんとやってるんだからね! 負けてられないよー」


 ……頑張ったっけ? いや、頑張ってはいるけど、ここまで言われると変な罪悪感が湧いてくるんだけど。


「ああ、居た。トリエラ、これはなんて読むんだ?」


「あ、マリクル」


 って、トリエラと話し込んでたら誰か来た。って言うか知ってる顔が来た。


「おう。それでこれ……って、誰だ?」


「あー、いやこの子はー、えーと」


「……もしかして、レンか?」


「はい」


 彼はマリクル。私達と同じ孤児院に居た男子の一人で、ケインの友人でもある。というかトリエラと並んでケインを諌められる貴重な常識人枠。

 ちなみに私よりも一つ年上なので、今は12歳かな? 顔は純朴そうというか、ちょっと鈍そうというか……争いごとが苦手そうに見える。実際にはそんなことは全然ないんだけど。ついでに背が高い。私よりも頭一つ位は大きい。


「……やっぱり生きてたのか。何となくそんな気はしてた」


「そうなんですか?」


「ああ。それに最近のトリエラとリコリスの様子もおかしかったし、もしお前が生きてたら、なんて考えてはいた。まさか本当に生きてて二人と逢引してるとまでは思わなかったけど」


 逢引って。私は彼と普通に話してるけど、彼は孤児院で唯一私と友人関係にあった男子でもある。幼年組は弟枠で保護対象なので友人とは言わないからそこの所、注意ね。

 マリクルはとにかく優しいのだ。誰かが困ってると手助けしてくれる。だからトリエラと二人、幼年組からは非常に慕われていた。

 そんな彼に私は恩がある。私がケインに苛められてる時に助けてくれていた唯一の男子が彼なのだ。他の男子? ケインにビビッて遠巻きに見てるか、ケインの取り巻きやりながら泣いてる私みて笑ってたよ。あいつらも絶対に許さん。

 話が逸れた。とまあ、そう言った経緯もあって私と彼は友人関係になっているのだ。


「と言うことは、最近になって急にトリエラとリコリスが読み書き出来る様になったのは、レンの仕業か」


 悪いことしたような言い方止めてくれませんかね。


「読み書きできると便利でしょう?」


「まあな。俺も二人に教えてもらってちょっとだけ読めるようになった。他の三人は、まあ、お察しだけどな」


「相変わらずなんですか?」


「もう少し真面目に覚えればいいのに、とは思う」


 ちなみに他の三人って言うのは一緒に来た総勢8名中、男子四人のうち、マリクルを除いた三人のこと。このマリクルの言い様だと残りの女子はちゃんと真面目に覚えようとしてるんだと思う。


「ケインは相変わらず覚えが早い。それで途中から適当になってる。後は、ボーマンもちょっとアレだけど、特にリューが酷い」


 ボーマンとリューというのはケインの取り巻きだった男子の名前だ。

 ボーマンは中肉中背だけど力が強かった男子。私と同い年。力仕事は率先してやってた気がする。それ以外は要領良くサボってた。

 リューはケインの一番の舎弟。私のひとつ下。ちなみにケインを上回る素材でもある。馬鹿的な意味で。孤児院のキング・オブ・バカの名を欲しいままにしていた逸材だ。コイツ大嫌い。

 そしてケインとボーマン、リューの三人で三馬鹿と呼ばれていた。


「一年以上経っても相変わらずの三馬鹿ですか」


「申し訳ない」


 そんな三馬鹿の監視役がこのマリクル。優しい所為で押し付けられたとも言う。苦労人である。可哀想に。

 なんて話し込んでたらいきなり後ろから抱きつかれた。おお、誰だ?


「レンちゃ」


「クロ?」


「レンちゃ、レンちゃ、生きてた。生きてた、レンちゃ」


 舌足らずのこのちみっ子はクロ。黒猫族の獣人の女の子。私の一つ下。黒猫族というだけあって、髪の色は私と同じ黒髪でおかっぱ。瞳の色も黒。私の目の色は金色なので、目の色を除くと私とお揃い。お陰で二人で居ると姉妹に見られたこともよくあった。


「トリエラ、話してなかったんですか?」


「なかなかタイミングがなくて……ごめん、クロ」


「いい。レンちゃ、ここ、居るから」


「元気でした?」


「うん、元気」


 あたまなでりなでり。はー、癒される。リコが妹枠ならクロはペット枠。癒し系である。


「ちょっと、みんな固まって何して……レン!?」


「アルル、五月蝿いですよ。ここでは静かにしないとダメでしょう?」


「ごめんなさい……って、そうじゃないでしょ!? 生きてたの!?」


「ええ、まあ」


 更に追加来たー!

 ピンク色の髪のこの子はアルル。私の……ヒーロー枠? 私がケインにいじめられてるとどこからともなく走ってきてケインに飛び蹴りを食らわせていた暴力系武闘派女子。ついでにツンデレ。助けてくれたお礼を言うと『べ、別にレンのためじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!』と、テンプレを披露してくれるのだ。あ、この世界、物凄い色の髪とか目とか、普通に居るからね。

 って、ちょっと!? 後から後から知り合いが出てくるんだけど、まさかケインも一緒に来てたりしないよね!?


「大丈夫だ、レン。ケインは今日は来てない」


 私の考えを読んだのか、マリクルが教えてくれた。今日の午前、資料室に来てるのはこの四人。私が資料室のことを教えてからは午前と午後で四人ずつ分かれて勉強していたらしいんだけど、最近は読み書きができるようになったトリエラとリコが午前午後それぞれに付いて勉強しに来るようにしているらしい。

 それぞれのメンバーを決めるのはじゃんけんらしく、今日のリコは三馬鹿の面倒を見る羽目になって涙目だったとかなんとか。絶対あの三人真面目に勉強しないよね……ちなみに午後チームは14時位になったら切り上げて薬草採取に行くらしい。


「……というわけだから、もうそろそろケイン達が来る時間だ。会いたくないなら逃げたほうがいいぞ、レン」


「ええ? 折角会えたのに、もう帰っちゃうの!?」


 アルル。


「レンちゃ、やだ」


 クロ……


 ……どうしよう? 馬鹿共には会いたくないけど、久しぶりに会った二人が離してくれそうに無い。アルルはマントを掴んで離しそうにないし、クロはしがみついたままだし。


「んー……」


 いいこと思いついた。


「みんなは午後の四人に顔合わせなくても平気ですか?」


「普通に行き違ったりもするから、必ず顔を合わせないといけないってことは無いけど……」


「じゃあ、この五人で採取に行きませんか?」


「レンも含めた俺達五人で?」


「はい。積もる話もあるでしょうし……」


「いいね! そうしようよ! ね、いいでしょ? トリエラ! マリクル!」


 アルルは乗り気、クロは……しがみつく力が強くなった。トリエラは渋そうな顔してる。


「レン、いいのか?」


 ぶっちゃけた話、この面々と付き合いが続くようになれば、いつかはケインと会うことになるとは思う。でも、だからといってみんなと疎遠になりたくはないわけで。


「言い出したのは私ですよ」


 いずれは会うことになるんだから、ケインに会う覚悟はしておこうと思う。でも取り敢えずはこの三人にも会えたこの機会を大事にしたい。と言うわけで、トリエラ? と、トリエラの顔を見る。


「……はあ、仕方ない。そうと決まれば早く移動するよ! ほら、アルルもクロもレンのこと離して! 早く早く!」


「いいのか、トリエラ」


「仕方ないでしょ! あんたもレンのこと三馬鹿に言わないようにしてよ!」


「……善処する」


 そこは断言して欲しいところですよ?


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