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078 笑うという行為は本来攻撃的なものです


 正直リコの才能舐めてた。これが本当の天才というヤツか。私みたいなパチモノとは違う天然物の天才、恐るべし。


 あれから2回ほど教えたら、あっという間に【魔力感知】と【魔力操作】のレベルも上がって、おまけにこれまたあっさりと【魔力循環】まで覚えちゃったんだよ、これが。

 更に無属性魔法も無事習得し、そっちのレベルもあっという間に3まで上がった。なんだか私よりも成長早くない?

 ちなみにこの成長速度なんだけど、読み書きの練習と、更に計算の勉強をした後の時間でやってるからそんなに時間取ってるわけじゃないんだよね。やる気満々の天才の本気まじぱねぇです。


 尚、トリエラはゆっくりやっていく方向にシフトした模様。うん、変に競う意味無いからね。地道に行こうよ、平和が一番だよー


 閑話休題。


 最近人に勉強教えたりとか、人の世話してばっかりで自分の鍛練が疎かになってる気がしなくも無いので、今日明日はがっつりと鍛冶の修行をするのだ。いい加減【鍛冶】のレベル6になっても良いと思うんだ、ほんとに。


 と言うわけでがっつり剣を作って中庭にて恒例の昼前休憩中也。ぷしゅー。今日はトリエラ達来ないからね。と言うか実際のところ、トリエラ達とだべったりおべんきょしたりする回数よりも、中庭でぐんにょりしてるほうが多い。

 ちなみに今日は革細工職人のデリアさんとおしゃべり中。ちなみに塩とレモン果汁入りの氷水飲みながら。塩分大事! 夏だしね。


「いやー、まだまだ暑いねー」


「まだ8月ですから」


「そうだねー。親方達は鍛冶場に篭ってるんだから地獄だろうねぇ……って、レンちゃんもだね」


「私は自分で氷出したり出来ますので、多少はマシだと思いますよ」


「ああ、それは確かに」


 などとだらだらと駄弁ってたら下のほうの息子さんが鍛冶場のほうからやってきたっぽい。あ、下の息子さんって感じ悪いほうね?


「……チッ」


 おお、こっちに気付いたら早々に舌打ちだよ。マジで感じ悪い。


「ちょっとエド! あんたいい加減にしなさいよ!?」


「はあ? デリアには関係ないだろ?」


「関係ないわけないでしょうが!」


 おや、デリアさんは私の味方なのね。いいぞもっとやれー。


「あんた、わかってないみたいだけど、あんたのその態度の所為でうちの親方、近所の工房から色々言われてるんだからね?」


 ……なんでも、近所の工房には、私のことは若いけど腕のいい客分を招いてる、と言う扱いになってた模様。客分って言うか実際はこっちがお金払って鍛冶場使わせてもらってるんだけど、そんなことはここの職人さんとか親方さんが言わなければ分からない。

 で、ここの親方さんが私の腕を褒めてて、ここの職人さんも私のことを褒めてる上に触発されてやる気を出してる中、親方の息子の一人だけが私に対して礼儀のなってない態度を取ってるところが出入りの商人さんとかご近所さんにみられてたらしい。

 その結果どうなるかと言えば、極々一部からだけど、ここの親方は自分の所の職人、しかも実の息子の躾も統率も出来ない、その程度の指導力しかない親方だ、なんて言われちゃってるらしい。


「何度も親方に怒られてるのに、アンタってバカなの?」


「それは……俺が一人で勝手にやってるだけで」


「周りはそうは取らないって話してんのよ! アンタやっぱりバカね! もう死んだら?」


 おおお、死ねは流石に言い過ぎでは……いや、激しく同意ですけどね!


「ついでにいっておくけど、あんたがこのままああいう態度取り続けるようだったら、親方に言ってあんたのこと追い出してもらうから。ちなみにこれ、ここの他のみんな、全員の総意だからね。当然女将さんもアルも同意見ね」


「んなっ!? 兄貴やお袋も……?」


「そのくらいあんたの態度は行き過ぎてるってことよ」


「……こいつの所為で!」


 あらら、私のこと睨んできたよ。


「はい、アウトー。あんたもうだめね。今から親方のところに行って来るわ」


「ちょ、待てよ!」


「待たなーい」


「いや、待てって! 俺だって……俺だって分かってるんだよ! でも納得できないものは出来ないんだ!」


「それでもせめて態度に出すなって言ってんのよ! このバカ!」


 あー……もうこれはどうしようもないかもしれんね。

 とはいっても一応こっちにも原因はあるって事になるのかね? 責任はないと思うけど。んー……理解はしても納得は出来てない、実力の差は見てはみたけど体感はしてない、って所だろうから、取り敢えず心をへし折っとくかな。


「えーと、エド……エドワードさん?」


 だったっけ? 紹介されたはずだけどむかつくやつの名前とか一々覚えてないわ。


「……なんだよ」


「自分の槌とやっとこ持って私の鍛冶場に来て下さい。これから剣を打つので、相槌を入れてください」


「はぁ!? 何で俺が! そんなこと「五月蝿い、黙れ。いいから早く持ってこい」


 あんまイライラさせないでもらえるかな? ついうっかり、にっこり笑顔で言葉を荒げちゃうゾ☆


「……」


 黙って金槌取りに行ったね。最初からやれよ、マジでな。


「……レンちゃん、怒ると怖いね」


「そうですか?」


 にっこり笑顔。笑うという行為は本来攻撃的なものなのである。




 と言うわけで私の借りてる鍛冶場に戻ってきました。さあ、スパルタですよ。スパルタンですよ。びしばし行くよー。


「今から打つ剣はこれと同じ物です。手に取って見てみてください」


 壁に立てかけておいた完成品の剣を差し出す。さっさと受け取れ。ハリー! ハリー!


「何で俺が……」


 ぶつぶつ言ってるんじゃないよ、鬱陶しいなあ……いいから、はよせい!


「いいですか、これと同じ物を打ちます。同じ物ですからね」


「何度も言われなくても分かったよ」


 絶対分かってないから言うんだよ。


「……じゃあ、始めますよ」


「ああ……」


 と言うわけで打ち始めたわけですが……だめだコイツ、やっぱり全然分かってねえ!


「なんでそこに先に槌を入れるんですか!」


「なんでって、最終的にあの長さにするんだから、ここは伸ばしておかないと駄目だろ!?」


「今その部分をそこまで薄くしたら、その先を打つときに引っ張られて更に薄くなって強度が落ちます。その程度のこともわからないんですか?」


「何を……!?」


「漠然と場当たりで打ちながら、途中で誤魔化してばかりいるからそうなるんです。最終形になるまでの過程を考えて打ってますか?」


「それは……」


「手が止まってます! 何やってるんですか!」


「……ッ!」


 ……と、いうやり取りの結果、見事な駄作が出来上がりましたとさ。

 我々の前には、何故か刀身が長めの細身の片手剣が鎮座しておられます。刃幅がやや広めの片手直剣、ブロードソードを造ろうとしたはずなんですけどねぇ? フシギダナー?


「なんでこうなったか分かってますか?」


「……」


「あれと同じ物を造る、と言いましたよね」


「……あれとは違うけど、これだって良い出来じゃないか」


「そうですね、細身の剣として考えればいい出来でしょうね。でも、今回作ろうとした剣はこれではありません、あの剣です。なら、これは失敗です。駄作です。ゴミです」


「……そこまで言わなくても」


「貴方の打ったという剣を見せて貰ったことがありますが……器用な剣を打つ人だな、と思いました」


「……器用?」


 なんでちょっと喜んでるの? バカなの?


「言っておきますが、褒め言葉じゃありませんよ。逆です」


「逆?」


「はい、逆です。親方も言ってました、これは売り物にならない、と。

 その剣も今回と同じように、元々造ろうとしていたものとは違う剣に仕上がったそうですね」


「……」


 だんまりばっかりだね。いいけどね。


「打ってる途中で、さっきのように適当に槌をいれて、修正するために更に余計な槌を入れていった。

 ……違いますか?」


「…………」


「何で失敗したのか、どこが悪かったのか、ちゃんと反省して考えながら打たないと技術は上がりませんよ」


 なまじ、修正してそれなりのものにしてしまえる才能と技術があるからこうなっちゃったんだろうけどね。才能あるのに磨かないやつは死ねばいいと思う。妬ましいから。シット!

 でもまあ、最近の私は先生モードですからね! いつもなら口先だけで言いくるめて心をへし折って終わるところだよ! だけど今回はちゃんと実技指導までしてやったよ? 私、優しくない?

 その後も延々と嫌味を言い続けた結果、エドワードさんは魚の様な目になってた。結局へし折ってしまった模様。ちょっとやりすぎたね。反省反省。


 で、そんな余計なことに時間を取られたお陰で私だけお昼ご飯が少し遅くなってしまった。エドワードめ! ふぁっきゅー!

 え? エドもご飯遅くなったんじゃないかって? いや、やつは中庭のベンチに座り込んだままずっとぶつぶつと呟いてたから、ご飯食べてないんじゃないかな? その後のことは知らない。


 遅めのお昼ご飯食べた後はまた夜まで鍛冶。カンカンカンってね。んー、また剣を打つ速度が上がったような気がする……まあ困るようなことじゃないし、いいことだよね?


 それはさておき、そろそろ日課が恋しい気分にならなくもない。何か対策を考えねばなるまいか……と、うつらうつらしながら適当に色々考えつつこの日は就寝。おやすみー、ぐう。




「ふわぁ……」


 というわけで翌日、あくびをかみ殺しながら食堂に行って見ると……


「先生、おはようございます!」


「ファッ!?」


 先生!? 誰のこと!? っていうか、誰?


「先生、俺、目が覚めました! 自分がどれだけバカだったのか……! これからは腕を磨いて先生のような凄い鍛冶師を目指します!」


「あ、はい」


 ああ、うん……が、がんばれ? ……え? だれこれ? エドワード? マジで?


 その後、良く分からないけど色々吹っ切れて改心したらしいエドワードにまとわりつかれて非常に鬱陶しい気分で朝食を食べたり、親方に感謝されてやたらと背中を叩かれたり、お礼とか言われてミスリルのインゴットを追加で貰ったり、お兄さんのほうも一緒に剣を打ちたがってきたけどお断りします、したり……本当に良く分からないけど、疲れる一日だった。

 やはり気まぐれを起こしては駄目だ、平和な日々を過ごすにはいつも通りを心がけないと。とは言え、エドワードの態度が改善したことは悪いことじゃないかなあ、とは思うわけで。

 まあ、鬱陶しさの方向が違う方向に変わっただけとも言うけど。でもむかつくよりはマシ? んー?


 その日の夜、妙に精神的に疲れた気分でベッドに横になってステータス確認してみたら【鍛冶】のレベルが一気に7になってることに気付いた。

 ……どうやら、経験値自体は随分溜まってたみたい? ただ、LV6になるのに必要な経験、経験値じゃなく、経験ね、それが足りてなかったみたい。今回の場合で言うと、人に指導する、と言う経験かな、多分?

 思わぬ怪我の功名と言うヤツですかね? でもこれでやっと魔力剣の試作に取り掛かれる。あ、ついでに刀も作ってみたい。浪漫武器だよね。前世で中学生の頃、中二を拗らせて居合い抜き習ってたことがあるから、それが活用できれば私のへっぽこな近接戦闘能力も多少はマシになるかも?

 そう考えるとエドワードの一件はそんなに悪いことじゃなかったのかもしれない。


 で、翌日。


「先生! おはようございます!」


 前言撤回。やっぱりウザイわ。


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