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077 かゆい所に手が届かないなら孫の手を使えば良いと思います


 昼の休憩兼勉強会のメンバーが一人増えてから、あっという間に2回ほど授業してみた。

 トリエラにあげたのと同じ小さい黒板とチョークをリコの分も用意して、というかちょっと塀の中に取りに行った風を装って、新しく追加で作って持ってきて渡して、授業したわけなんだけど……

 正直リコリスのやる気舐めてた。ものすごい覚えが早い。正直トリエラよりも早い。三回目にはもうトリエラの進度に追いついた。トリエラに先を教えながらリコにも教えてたわけだから、リコの覚えの速さがどれだけかわかると思う。


「……リコは覚えるのが凄く早いですね。トリエラより早いですよ」


「ホント? えへへー、聞いた? トリエラより凄いって!」


「調子に乗らないの!」


「トリエラ横暴だー!」


 喧嘩イクナイよー。仲良くしようね?


「二人とも基本的な漢字も覚えましたし、あとは難しめの漢字を覚えれば大丈夫でしょう。トリエラもカタカナ覚えたようですし、リコも分からないところはトリエラに聞けば問題ないと思います」


 この辺りまで覚えたら後は本人のやる気次第。二人ともがんばれー?


「これで資料室で本読めるね!」


「うーん、でも難しい漢字はまだ微妙だなあ……分からない漢字は司書さんに聞くしかないかなあ」


「以前までと違って全部聞くわけじゃありませんから、そんなに気にしないでいいと思いますよ」


「そうかなあ?」


「そうですよ」


 さて、お勉強の時間も終わったし、お昼ご飯にしますかね。

 今日のメニューはおにぎりです。真ん中に具を入れるタイプじゃなくて炊き込みご飯のおにぎり。鶏五目おにぎりでございます。後は汁物に豚汁。いや、肉は豚肉じゃなくてオーク肉だからオーク汁? ……なぜだろう、急に卑猥な響きになった気がする。うん、やっぱり豚汁ってことで。


「ご飯にしましょう」


「わーい! ごっはーん!」


 二人に手渡しつつ、足元で丸くなってるノルンとベルの分も準備する。みんなたんとお上がり?

 最近色々食べさせててわかったのは、ノルンは割と味噌とか醤油系の味付けが好きっぽいということ。だから今日のご飯はかなり好みにストライクの模様。尻尾めっちゃ振りまくってる。ベルは基本何でも食べる。でも苦いのは苦手みたい。

 ……色々食べるようになった所為か、最近ノルンが大きくなってる気が……なんか、私乗っても大丈夫そうな気がする。


「……読み書き教えてもらってるのにいつもご飯まで用意してもらって、本当に大丈夫?」


「平気です。それにご飯はみんなで食べたほうが美味しいです」


「そうだよー。ご飯はみんなで食べた方が美味しいんだよー!」


「リコ、アンタ……はあ、もういいわ。ありがと、レン。頂きます!」


「はい、召し上がれ」


「今日のご飯も美味しい~」


「これ、お米? お米ってこんなに美味しかったっけ? 孤児院に居た時に出てきたときは固くて不味かったよね?」


「炊き方にコツがあるんです。慣れれば美味しく炊けますよ」


「へえ……お米って小麦より安かったよね? こんなに美味しいならお米買って自炊するほうがいいかな? 今はじゃが芋も安く食べられるし」


 そうそう、驚いたことに王都だと普通にじゃが芋食べられてるんだよ。政策で数年前から、食料自給率を上げるためにじゃが芋食べるのを勧めてたらしい。保存方法やどこが毒になるのかとか、しっかり教えて回ったとか。でも私達が住んでた街や、ハルーラのほうまでは中々普及してなかったみたい? 国内に普及するまではまだまだ時間が掛かりそう。

 ちなみに、この政策は国王陛下直々に指揮を執ったらしく、自分の利益の為だけに芽がでたじゃが芋を使った料理を売ったりした場合、最悪の場合は国王の意思に逆らったということで国家反逆罪で死刑になったりしたらしいよ? 芽が出たじゃが芋売って死刑って……

 でもそこまでしないと自分のことしか考えない連中ってのは大人しくならないということなんだろうけど、でもじゃが芋で死刑って……なんか凄い。

 ……あれ? そういえば前にリリーさんにポテトサラダ食べさせたら泣いちゃったよね? リリーさん、王都にじゃが芋が普及し始めた頃はまだこっち住んでた筈だし……何かあったのかな? もしかして毒に当たったことがある?


「今泊まってる宿だとご飯も出ないし、部屋の隙間風は酷いし……私達は大人数だから、将来的には家を借りるのがいいとは思うんだけどね」


「月々の家賃も結構しますから、もう少しお金貯まってからでいいのでは?」


「そうだねえ……最低限男女で部屋が分かれてて、台所があれば自炊も出来るから、その位の間取りの家がないか、今のうちから探してみる」


「そうですね、冬になる前には借りたほうがいいと思います。家を借りたら教えてください、お米の炊き方教えに行くので」


「ありがと!」


「ケインはバカだから討伐受けられないのに先に装備整えようとしてるんだよ、ほんとバカだよねー?」


「バカですね、本当に」


「13歳になる頃には身体も大きくなってるって、普通分かりそうなものだよね? 防具の買い替えだけでどれだけお金掛かると思ってるんだろう? なんであんなに馬鹿なのかな?」


「格好つけたいだけじゃないですか? 鎧を着て腰に剣を下げてるのが格好良いと思ってるんでしょう、多分」


「あ、きっとそれだ」


「やっぱりケイン馬鹿すぎー」


「住環境のほうが先だと思うんですけどね、普通は」


「今は薬草採取とか雑用くらいしか受けられないんだから、武器なんてせいぜいナイフかダガーくらいで大丈夫でしょ? 基本的にゴブリンとか出てきたら逃げればいいわけだし?」


「でもこの間逃げそこなってトリエラが返り討ちにしちゃったでしょ? その所為でやっぱり武器が欲しいって騒いでるんだよねー」


「無視しましょう、無視」


 やっぱりケインはバカということで結論が出た。しかしバカの話題で盛り上がるのも私的にはちょっと微妙なので話題を変えよう。


「ああ、そうだ。リコ、ちょっとこっちに来て下さい」


「ん? なに?」


「これ、リコのダガー造ってみました。防具は……まだちょっと早いと思うので、この皮のマントを」


「え、いいの!?」


「ちょっと、レン! あんまり甘やかしちゃダメだって!」


「トリエラもそうですけど、リコも怪我したら嫌ですよ、私」


「それを言われると……」


「二人とも拒否権は無いです」


「むう」


「やったー! 私もレンちゃんの装備げっとー!」


 なお、ダガーは新造だけど、マントは私が最初に使ってたやつを手直ししてみた。ついでに【隠身】をLV2で付与しておいたので、魔物に襲われにくいはず?

 え? そんなスキル付与した装備与えたら別の意味で危ないって? それはそうかもしれないんだけど、でもこの位しておかないとこの子、なんだか無茶しそうで危なっかしいんだよ。

 んー、後はそうだなあ……


「二人とも、今日はまだ時間大丈夫ですか?」


「え? うん、まだ1時間くらいは平気だけど?」


「じゃあ、ちょっと魔法教えるので、こっちに来て下さい」


「魔法!? レンちゃん魔法使えるようになったの? 凄い!」


「むう、レンの進化が留まる所を知らない」


 うん、魔法を教えてみよう。これなら元手ゼロですむし、覚えることが出来ればちっこいリコでも色々役に立てる。


「えっと、まあ、はい。それで今日は取りあえず、魔法覚えるための前準備として【魔力感知】を覚えるところから始めましょう」


「いきなりばーんって使えないの?」


「そういうのは才能がある人です。私達凡人は地道に行くのです」


 と言いつつ、実は私は才能あった人。嘘吐いてごめんね?


「二人とも私の手を取って、目を瞑って集中してください。私が魔力を流すので、それを感じ取ってみてくださいね?」


 魔法習得法に関してはリリーさんの魔法講座で習ったので早速実践してみるのだ! これで今日二人が覚えられなくても、まあ、そこは地道にやっていけばその内覚えられるらしいので、気長に頑張っていただこう。


「うーん?」


「あー、なんかあったかいような感じがする? ような?」


「あ、わたしも感じたような気がする?」


 お、調子いい? このまま先に進んでみるかな?


「ではもう一つ先に進みましょう。二人も手をつないで、三人で輪になってください。私がトリエラのほうに魔力を流して、リコを経由して自分に戻すので、その流れを感じ取ってみてください」


 ちなみにこれ、感知、操作、循環と三段階先まで鍛えるのにずっとやる練習法だったりもする。一人でやる時は自分の中で魔力をぐるぐる回す。そうするとその内【魔力循環】も覚えられる。


「あー、なんか流れて行ってるような……?」


「リコはどうです? 分かります?」


「うん、なんとなくわかったような気がする?」


 よし、じゃあ次だ。どんどん行くよ。


「はい、じゃあ二人とも手を離して、今度は自分の中にある魔力を感じ取ってみましょう」


「うーん…………なんか、あるような、ないような?」


「あ、わたしなんかわかっちゃったかも!」


 お? リコのほうが才能あるっぽい? ちょっと二人のステータスチェック! トリエラは……うん、【魔力感知】覚えてる。でもLVは0。取りあえず取っ掛かりは覚えた感じかな? リコは……あれ?


「……二人とも覚えたみたいですね。悪いとは思いましたけど、ちょっとステータスを見させてもらいました」


「え? あ、もしかして【鑑定】?」


「はい。二人とも自分のステータスを見てみてください」


「なにかあったの?」


「……リコのほうが、少し」


「あ! なんか色々増えてる!」


「は? 色々?」


「ええと、リコは、その……魔法系のレアスキルが……」


「ええええ? ホントに!? ちょっと、私【魔力感知】のLV0しか増えてないんだけど!?」


「リコは、【魔力感知】がLV2、【魔力操作】がLV0で覚えてます。その上【魔法効果増幅】というスキルが……」


 魔法の威力や効果を上げるには、スキルレベルを上げるかつぎ込むMPの量を増やせばいいんだけど、【魔法効果増幅】はMPをつぎ込んだ時の威力向上効率を上げる効果があるスキルらしい。初めてみたスキルの効果もわかるんだから【鑑定】便利だわ、マジで。


「……と、そういう効果のスキルですね」


「わたし、凄い!? もしかして魔法の才能ある!?」


「そうですね、才能はあると思います。ただ、どの属性魔法に適性があるのか、魔法系統の資質によっては宝の持ち腐れになる可能性もあるので、ちょっと判断が難しいところですね」


「ねえ、レンちゃんの【鑑定】でそういうのってわからないの?」


「ええと……」


 【鑑定】と【解析】を使えばどっちも分かる。


「……知りたいですか?」


「知りたい! 教えて!」


 んー……まあ、この先も魔法を教えるのであれば、早めに知っておいても損は無い? かな? と言うわけでれっつ【解析】! …………おおぅ


「……非常に言いづらいのですが、属性の適性は、無属性のみです」


「………………」


「……レン、それっていいの? 悪いの?」


「何も無いよりは全然いいです。ただ、他の属性魔法が使えないので、状況に応じて使い分けは出来ませんし、火力も劣ります。ですが無属性はあらゆる状況で使えますから、汎用性は非常に高いです。それに無属性魔法からは他の特殊魔法にも派生しやすいですから、頑張っていけばそちらも覚えることができるかもしれません」


 無属性魔法からは【回復魔法】【結界魔法】【魔法剣】【強化魔法】【弱化魔法】と、他にも色々派生する。まあこっちもそれぞれに適性が無いとダメだし、別に無属性無くても覚える人は覚えるらしいんだけど、無属性を持ってると覚えやすいらしい。


「でも系統適性は全て揃ってますから! 今の時点でも魔力はトリエラより高いですし! それに火力で劣るといっても【魔法効果増幅 】で補えますよ! 寧ろ高火力になりますよ!?」


 と言うか、さっきからリコがうつむいてプルプルしてるんですけど!? え、どうすればいいのこれ!?


「……ちなみに私の適性は?」


「基本4属性全部です」


 あああああ、リコが大きくビクってなった!?


「ちょっとレン!?」


「待ってください、私の所為ですか!?」


 聞いてきたのトリエラじゃん! ひでえ! って、いやいや、今はそれどころじゃない! リコをなんとかせねば!


「ええと、リコ、余り気にしないほうがいいといいますか、こういったものは使い方次第ですので、やり様はいくらでもあるので、そう、相談に乗りますから! ですから、えーっと、なんといえばいいのか」


 やばい、テンパってきた。どうすればいいんだ。女子供は嫌いじゃないけど、こういうときの対処は苦手だ。しどろもどろ君になっちゃう。

 なんてトリエラと二人してあわあわしてたら急にリコが頭を上げた。


「レンちゃん、ありがとう! わたし、すごい! これでわたしもみんなの役に立てるよ!」


「……えっと、リコ、落ち込んでいたのでは?」


「落ち込む? なんで?」


「いえ、トリエラの適性聞いたときとか」


「あー、あれはね、役割が被らなかったから嬉しかったんだよ? わたしとトリエラで適性被ってたらパーティーでの役割も被っちゃうでしょ? それにね、無属性は汎用性があるからどんなときでも使えるってレンちゃん言ったよね? なら、私はどんなときでも役に立てるってことでしょ? それってすごいことだよね?」


「はい、そうですね」


「大体、元々魔法なんて使えなかったんだから、それが使えるようになるって言うだけで凄いことだよ! レンちゃん、ありがとう! 大好き!」


 ……正直、リコのこと甘く見てた。ここまでしっかり考えられるようになってるとは思わなかった。トリエラも驚いたような顔してるし、あっちも似たように思ってたのかも知れない。


「リコは、ちゃんと考えてがんばってたんですね」


「そうだよー? わたし、ちんちくりんでみんなの足引っ張ってばっかりだから、これでみんなの役に立てるようになれるよ!

 そういうわけなのでもっと魔法のこと教えてください! お願いします、レンちゃん先生!」


 そこまで言われたら全力を出さざるを得ない! じっくりかわいがってやる! 泣いたり笑ったり出来なくしてやる!


「分かりました。取り敢えず二人は私が居ないときに魔法の練習はしないようにしてください。何かあったときに対処できませんから」


「えー? だめなのー?」


「ダメです。魔力が暴走したりした場合、下手したら命に関わりますから」


「……わかった、我慢するー」


「トリエラ、ちゃんと見張って置いてくださいね」


「分かってるよ、レン。この子直ぐ無茶するからね」


「もし約束を破ったらもう二度と魔法は教えませんから、そのつもりで」


「えー!?」


 やっぱりこっそりやる気で居たね。こんちきしょーめ。


「……言っておきますが、もしやってた場合はわかりますからね?」


「わかりましたー、やりませーん」


 そんな、チッうっせーな反省してまーす、みたいな言い方されても…………凄く不安だ。




 ちなみにトリエラの系統適性は矢と盾だけでしたとさ。すごいしょんぼりしてたけど、明らかに才能があるリコと比べるのは間違ってるし、攻撃魔法使えない私としてはトリエラの事普通に羨ましいんだけどね?


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