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076 わたしもー! わたしもやるー!


 私は毎日毎日剣を打つ日々ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか、レンです。

 日々、スキル経験が増えてる実感があり、そろそろ鍛冶スキルのレベルが6に上がってもいいんじゃないかなーと思う今日この頃。

 レベル6になったらそろそろ魔力剣造ってみようかなーとか、色々考えてたりするわけですが。

 あー、冒険者ギルドの資料室に行って魔力剣についてちょっと調べたりしたいなあ。


 等とこれからの予定をなんとなーく立てつつ、今日も今日とてトリエラとお昼休憩してたりする。



 トリエラは最近は2~3日に一回位の頻度で昼にここに来て、色々近況を話してくれる。

 ここに来る日は、午前中はパーティーのみんなで資料室に行って資料を見て、午後に薬草採取に行ってるらしい。

 それ以外の日は朝から薬草採取。以前と違い街の雑用依頼は受けず、全員で採取に向かってると言うことなんだけど……


「毎回毎回、資料室の司書さんにお願いするのが申し訳なくて……」


 そう、トリエラ達のパーティーは全員が同じ孤児院出身の為、余り文字を読めないのだ。だから毎回司書の人にお願いして本の文章を読んでもらったりしてるらしい。

 でも大人数で行って、毎回毎回お願いするのが、人のいいトリエラには苦痛のようで。


「……なら、私が読み書きを教えましょうか?」


「えっ? レン、読み書き出来る様になったの!?」


「はい、この一年程で一通りは」


 と言うか、前世の記憶戻った時に王侯貴族並に読み書き出来るようになったと思います。現代日本の高等教育マジパネェです。漢字も任せろー! ばりばりー!


「……申し訳ないんだけど、お願いできる?」


「問題ないです、任せてください」


 とは言え勉強のために紙を使うのは流石に難しい。


 この世界、植物紙が普通に出回ってるので、紙は普通に流通してる。トイレットペーパーだって存在する。

 だから書き物をするための紙も普通に売ってる。でも紙質は割と微妙。ぶっちゃけわら半紙とかそういうレベル。所詮は平民が使う程度の物、と言うことらしい。

 それでもトイレで使うような紙よりも全然高いわけで、孤児上がりの冒険者が勉強のために沢山買って使うと言うのは流石に難しい。

 となると、石版と石筆とか、そう言うのを買わないといけないんだけど……いくら収入が増えたとは言え、石版は割と値が張る。それを買わせるのも何となく気が引けるというか、なんというか……んー。

 ああ、手持ちの素材で適当に作ればいいのか。うんうん、そうしよう。


「ちょっと待っててください」


 トリエラに一声掛けて、裏口から工房の敷地内、中庭に戻る。

 中庭には何本か木が生えているので、その影に行って【ストレージ】から材料を取り出し、【創造魔法】でちょちょいのちょい。

 造ったのは小さめの黒板が二つと、チョークを数本。黒板消しは適当なぼろ布で代用すればいいかな。

 黒板は表面を適した塗料で塗るだけなので割と簡単に造れる。一応見た目も整えておこうかな、縁を木枠で囲んでそれっぽく仕上げておこう。チョークは石とかから適当に作ってみた。

 試しに書いて見る。うん、普通に黒板。


 トリエラの元に戻って一式を渡した。


「これで勉強しましょう」


「なにこれ?」


「紙は高いので、何度も使えるものを用意してみました。こうやって使います」


 チョークを使って適当に文字を書いて、ぼろ布でぬぐって消してみる。


「え、なにこれ、凄い。便利じゃない?」


「擦れると文字も消えるので、メモを書いても保存には向きません。そういった場合の使い勝手は微妙だと思いますよ。とは言え色々使い道はあると思いますけど」


 でも、部屋に伝言を書き残しておくとか、まあ色々使いようはあると思う。


「一先ずそういうのは置いておいて、勉強しましょう。お互いこの後の予定もありますし、余り時間が取れるわけでもないので」


「あ、そうだね! それじゃあ先生、よろしくお願いします!」


 先生だと!?

 ……あれ、なにか凄く頼られてる感じがして、なんだか……胸がキュンとする。


「レン?」


「……なんでもないです。それじゃあ始めましょうか」


 と言う感じで、それから三日おきのお昼の談笑時間がお勉強時間に変わった。




 とは言うものの、読み書きの勉強なんてそこまで時間掛かるわけでもなく、それが向上心があって物覚えがいい人相手だったりすると、それこそあっという間なわけで。

 ええまあ、三回目位で基本的な所は普通に読めるようになりました。カタカナがまだちょっと怪しいけど、後は常用漢字重点に勉強すれば問題ないかなーと言う程度には。


「トリエラは覚えるの早いですね」


「いやー、生活かかってるし。

 それに思ったよりも勉強って面白いなーって」


 んー。そう言われてみれば、貧民層にとっては勉強もある意味娯楽と言えなくもないかー。

 それはそうと。


「トリエラ、さっきからずっとこっちを見てる人が居るんですが……」


「え? どこ?」


「あそこの物陰です」


「どこ? あそこ? ……って、あの子!」


 あー、やっぱり知り合いだったか。と言うか、私も知ってる子だ。


「ちょっとリコ! アンタ何やってんの!? 付いて来ちゃダメって言ったでしょ!」


「えー、でもトリエラがお世話になってるんでしょ? 院長先生も良くしてもらったらお礼はちゃんとしなさいって言ってたよ? それに最近トリエラ凄く良い笑顔で出かけるし、気になるもん!」


「だから、それは相手の都合だってあるんだから……」


 リコリス。通称リコ。私達よりも一つ年下で、いつも私とトリエラの後ろをちょこちょこと着いて来てた子だ。私達の妹分みたいな感じ?


「あの人がご飯とかくれたんでしょ? じゃあちゃんとお礼言わなきゃ!」


「あ!こら、待ちなさい! リコ!」


 お、こっちに来た。


「はじめまして! いつもトリエラがお世話になってます! この間のご飯美味しかったです! ありがとうございました!

 ……? あれ? うそ…………レンちゃん?」


 リコも今まで知り合った幼女達と同じく私よりも背が低いから、フード被ってても顔が丸見えだった。


「お久しぶりです、リコ。相変わらず元気一杯ですね?」


「うっそー! レンちゃん!? え、生きてて……えー!?」


「はい、生きてました」


「ずるい! トリエラずるい! ひとりだけレンちゃんに会ってたとか、ずーるーいー!!」


「あちゃー、やっぱりこうなったか……」


 リコはトリエラに引っ付いてその平らな胸をぽこぽこ叩いてる。うーん、相変わらず元気一杯で騒がしい子だ。


「もう、レンちゃんに会ってたなら教えてよ! 他の二人だって黙ってたなんて知ったら絶対怒るよ!?」


「あー、うん、それはそうなんだけどさ……皆に教えたらケインにばれるでしょ?」


「ああ……そっか、ケインかー……ケイン、バカだもんねー」


「うん、あいつバカでしょ?」


 二人のケインに対しての共通認識が割と酷いように思えるかもしれないけど、これは孤児院に居た女子全員の共通認識でもある。ちなみに幼年組も含む。

 奴は地頭は悪くないけど、バカなのだ。空気が読めない、加減が出来ない。独善的な正義を押し付ける。でもみんなを引っ張っていくカリスマのようなものを持っていた。だから男子には人望が有ったし、女子からの人気も悪くは無かった。まあ、良くも無かったんだけど。私のことをいじめてたことで、一部からは割と普通に嫌われてもいた。

 ただまあ、何よりもむかつくのはコイツは割と顔がいいのだ。やんちゃ系の美少年と言う感じ? その所為か、街の親が居る女の子からは割と人気があった。まあ私は大嫌いだけどね。死ねばいいのに。

 まあ、そんなバカのケインに私のことが知られたら、多分と言うか絶対私に面白いことにはならない。多分無理やりパーティーに加えようとするとか、武具とか造らせようとすると思う。しかも恐らく材料は私持ち。色々とありえない。だがそれがケインクオリティ。


「レンもケインには会いたくないって言ってるから、リコも協力してよ?」


「わかった。ケイン馬鹿だから仕方ないよねー」


「あれだけレンのこと苛めてて、嫌われてるとか考えても居ないからね、あのバカ」


「ありえないよねー」


「死ねば良いと思います」


「さすがレンちゃん、厳しいね!」


 はっはっはっ。そんなに褒められると照れるね!


「そう言えば二人はさっきから何してたの?」


「トリエラに読み書きを教えてました」


「え、レンちゃんが? トリエラに? トリエラが最近急に本読めるようになったのってレンちゃんに教えてもらってたから!? ずるい!」


「ちょっとリコ、ずるいって」


「ずるい! トリエラだけずるい! ずるいよ!」


 あああ、これはいつものパターンだ。


「わたしも! わたしもやりたい! わたしもやるー! わたしもやーるー! レンちゃん、私にも教えてー!」


「リコ、レンにだって都合があるんだから、無理言わないで……」


「ずーるーいー! わたしもー! わーたーしーもーやーるーのー!」


 ……やっぱりいつもどおりの『わたしもやる!』が始まった。でもこれ、我侭な子供の駄々っ子に見えるけど、実はこれ違うんだよね。

 リコはこう見えてもちゃんと中身はしっかりとしてるんだよ。この『わたしもやる!』は、みんなの役に立ちたいから自分もやる、と言う意味なのだ。決して仲間はずれがいやで我侭を言ってるわけじゃない。実際、遊んでる時に自分があぶれた時なんかには絶対に我侭を言ったりしない。ちゃんと順番を守ったり、他の子に譲ったりする。そんな子だから私もトリエラも可愛がってたんだけど。


「リコ、あんまり我侭を言うと怒るよ?」


「だって~……」


「構いませんよ。リコ、一緒に勉強しましょう」


「いいの!?」


「ちょっと、レン」


「大丈夫ですよ、トリエラ。リコの『わたしもやる!』はそういうのじゃないって分かってるでしょ?」


「それはそうだけど、レンの負担とか考えるとさ……」


「一人も二人もそんなに変わりませんよ」


「トリエラ! レンちゃんもこう言ってるんだからいいでしょ? ね?」


「う~ん……でもねえ……?」


「大丈夫、問題ないです」


「うー……仕方ない。でも、遊びじゃないんだからちゃんとしなさいよ?」


「うん! わかった! それじゃあレンちゃん先生、お願いします!」


 レンちゃん先生だと!? なんて可愛いことを……! 天使か!


「分かりました、任せてください!」


 こうなったら全力で行かせて頂きます! フンス!


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