075 駆け出し冒険者強化計画
「レン! 何あの剣、ちょっとおかしいんだけど!?」
再会して三日後、トリエラが怒鳴り込んできた。怒鳴り込んできたと言うか、裏口からでたところに待ち構えていて、顔を出して早々怒られた。意味がわからないよ。
「あ、あとご飯美味しかった! 皆も喜んでた! ありがと!」
「どういたしまして。
それであの剣、どこかおかしいところありました? もしかして壊れちゃいました?」
おかしい。そう簡単に壊れないようにしっかり造ってたはずなんだけど。
「あ、壊れたとか、そういうのじゃないから」
「んー? じゃあ、一体何が?」
……三日前は、お昼ご飯を食べて別れた後にギルドの資料室に行ったらしい。そこは私の言うとおり、自分の知りたかった物が沢山あったのだそうだ。
とは言え、トリエラは余り文字が読めない。だから司書の人に頭を下げて色々教えてもらったりしたそうな。
その日の夜は私が持たせたサンドイッチで仲間達がみんな大盛り上がりだったとかなんとか。ちなみにケインの馬鹿も夢中で食べてたらしい。ファック!
次の日は資料室で覚えたことを早速試そうと、東の森まで薬草採取に出かけたらしい。
孤児院から一緒に出てきた仲間はトリエラやケインも含めて全部で8人も居るとかで、宿代に食費もあわせると当然かなりの金額になる。
だからいつもなら薬草採取の経験を積む為の採取組と、生活費を稼ぐ為の街の雑用依頼組に別れて仕事をして居たんだって。
前日に資料室で覚えて来たとは言っても、流石に自信なんて全然無いわけで、いつも通りに二手に別れてトリエラは採取組に混ざる事にしたらしい。
で、結論から言うとトリエラ大活躍。
今までなら薬草採取組の稼ぎなんてたいしたことはなく、雑用の収入と合わせても、多くて銀貨一枚行くか行かないか。大抵の場合は薬草採取のみでも小銀貨7枚前後位だったらしいんだけど、その日の収入は銀貨5枚。今までで最高金額だったらしい。
ちなみにこの世界の貨幣単位はギル。
硬貨は下から小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨。ギル換算で小銅貨一枚が1ギル。銅貨が10ギル。以下、10倍単位で貨幣価値が上がっていく。1ギル以下の貨幣として卑貨というのもあるけど、こっちは割愛。私の感覚としては、1ギルで1~10円位の感じがする。揺れ幅が大きい? それはまあ、物価変動とか時代によってとか、色々あるからね。
閑話休題。
トリエラ達が泊まってる安宿の大部屋は一人一晩銅貨7枚、八人分なので合せて小銀貨5枚と銅貨6枚。食費も考えると結構ギリギリ。
それがその日だけでいつもの7倍以上稼げてしまった訳で、当然仲間全員で大騒ぎになったらしい。
トリエラは、親切な鍛冶師に教えてもらえた、と説明して私のことは誤魔化してくれたらしい。前日のご飯もその人がくれた、と言うことにしたそうだ。
当然次の日もトリエラは採取組と出かけた。
但し、いつもなら街の雑用の仕事を受けに行く予定の仲間の半数はギルドの資料室に行って勉強することにしたんだって。8人の半分の半分だから二人? うん、知識は武器だから、勉強は大事だよね。
で、問題はここから。
前日は雑用に行ってたケインを含めたトリエラ達四人が、森で薬草採取をしてる時にゴブリンに襲われた。
ゴブリンが振り下ろした剣を、トリエラは咄嗟に剣を抜いて受け止め、はじき返して斬り返したらしい。
斬り返したとは言っても、所詮は素人剣術。ゴブリンが構えた剣に向って振ってしまったのだそうだ。
しまった、失敗した! 折角貰った剣なのに、これじゃ刃が欠けちゃう! と思ったらしいんだけど……
トリエラが振り下ろした剣は、ゴブリンが構えた剣ごと、ゴブリンを脳天から真っ二つにしてしまったのだとか。
それをみたケインが大騒ぎ。とは言え私のことは言えないし、言いたくない。
その場は何とか誤魔化してみたものの、宿に戻ってからもケインがトリエラの剣を欲しがって五月蝿かったとか何とか。
ちなみにその日はゴブリン討伐の収入+四人がかりの薬草採取の収入で小金貨1枚の収入になったそうで。
あ、どうでもいいけど、ゴブリンが持ってた錆び錆びで折れてる剣は、今はケインが腰にぶら下げてるらしい。だっさ!!
「えっと、おめでとう?」
「ありがとう! って、そうじゃなくて!
なんなのこの剣!? 本当にレンが造ったの!?」
「間違いなく私が打った剣です」
三日前にトリエラにあげたその剣は、鍛冶スキルがLV5になった後に自分用に新しく打った剣。間違いなく私が造った剣だ。
ちなみに今の私の腰には一昨日新しく打った同じ造りの剣がぶら下がってたりする。
「うーん……流石に、ケインの分も、って言うのは」
「ケインの分は絶対嫌です。他の子の分というなら考えなくも無いですけど」
「だよねー」
ケインに剣をあげるとか、死んでもお断り。自分で稼いで買えばいいよ。
「正直、今のわたしには不釣合いすぎるよ、この剣……」
「そういうのはどうでもいいです。トリエラの身を守る為にも持っていてください」
「そういうと思った……わかった、持っておくね」
「はい。
あ、それとなんですけど、ちょっといいですか?」
「何?」
「トリエラ用に革の防具を造ってみたので、合わせましょう」
「……それも拒否権無い感じ?」
YES!
「当然です」
うん、私の精神衛生のためにもね?
というわけで革鎧のサイズ合わせ。裏通りのベンチに座ってちまちま調整していく。一応鎧とは言ってみたけど、実際は革鎧と言うよりは革の胸当て?
とは言っても小手や膝当てなんかも用意してあるので、胸当ても含めた革鎧一式、かな? でもこれで全身の急所はある程度フォロー出来てる筈。
「一応、ベルトである程度のサイズ調整は出来るようにしておいたので、成長して身体が大きくなっても暫くの間は使える筈です。
でもサイズが合わなくなってきたと思ったら無理に使わないで新しく新調するようにしてください。怪我の元です」
「うん、分かった。
でも凄いね、身体にぴったりしてるのに凄く動きやすい。
全然動きにくいとか無いんだけど、どうやって私のサイズ調べたの? この一年ちょっとでわたしかなり背が伸びたんだけど」
サイズは再会した日のうちに【解析】で調べておいたんだけど、でも……
「……そうですね、随分大きくなりましたね」
孤児院に居た頃は私のほうが背が大きかったのに、今ではトリエラのほうが背が高かった。全体的にスレンダーで、すらっとしてる。いや、実際はスレンダーって言うか痩せてるんだけど。
「というか、レンってもしかして全然背が伸びてない……?
あ、でも胸は……」
どうせ私は一ミリも伸びてないよ! 畜生め! 胸ばっかり大きくなって、一体どうしろって言うのさ!? ちょっと、胸を凝視しないで! やめて!
「あんまり胸ばかり見ないでください」
「あ、ごめん」
「正直これ、邪魔なだけです。寧ろ私からすればトリエラの急成長のほうがびっくりです」
「邪魔って……」
そんな目で見られても、邪魔なものは邪魔。
胸が邪魔で脇が締まり辛いから、鍛冶の時に槌を振るのも、剣を振り回す時も邪魔で仕方ないんだよ。走ると揺れて痛いし、無い人にこういうこと言うと怒られるのかもしれないけど、あったらあったで悩みの種になるのがコレなんだよ。あと、肩凝るし。
「剣もそうだったけど、なんだかこの革鎧も凄いことになってる気がする……わたし、装備が強すぎて自分自身の経験って余り積めなくなったりしないかな?」
「確かに先を考えるとそれはそれで問題になりそうですけど、それでもトリエラにはちゃんとした装備を身につけていて欲しいです」
でも、ちゃんとした武具を使うほうが、正しい取り扱い方を覚えられそうな気もするんだけどね。
「そう言われちゃうとなあ……
うん、まあ、それはそれでいいんだけど、帰ったらこの鎧見てまたケインが騒ぎそう」
「無視しましょう」
「ひどっ!」
「いいんです、自分でお金貯めて買うように言ってください。
トリエラは自分の足で互助契約の相手を探し歩いたから、私に会えたんです。ケインも自分の剣や他の装備が欲しいなら、自分で何とかすればいいんです」
「それはそうなんだけどね。
実際いつも私の東区巡り、馬鹿にしてたし。無駄だーって」
あの野郎、口の悪さと馬鹿さ加減は相変わらずなのか。私の親友の努力を笑うとか、許されざるよ?
でもまあ、今はトリエラの餌付け優先。もっとお肉つけましょう。
「こんなにお肉沢山、食べきれないよ……」
ダメダメ。全部食べなさい。