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072 鍛冶工房での生活


 二日目の午後もずっと剣を打ってた。二時間で一本だから三本。スキルレベルが上がればもっと早く打てるようになりそうな感じかな? とは言え今はレベル5を目指してとにかく沢山打たないと。


 その後も朝起きては朝食の準備を手伝い、日中は剣を打って夜はご飯食べてお風呂に入って寝る生活を続けた。


 ……そうそう、お風呂入る時、炉の熱と飛んだ火花で焼けた肌がぴりぴりして辛いので、スキンケアポーションを作ってみた。

 とは言っても基本的には回復ポーションなんだけど。でもそのお陰でお肌は未だにぷにぷに。火傷の痕どころか、染み一つ無い美白肌でございます。これで鍛冶やってますとか、詐欺だよなあ……


 その後も槌を振り続け、材料が足りなくなって親方さんに鉄鋼とかを融通してもらったり、週に一度はノルン達の運動とご飯集めを兼ねて薬草採取に行ったりして過ごした。


 そんなことをやってるうちに【採取】スキルがとうとうLV10に。うーん、なんと言うか……スキル補正のステータスアップでDEXが地味に高くなってるような……いや、高いに越したことは無いんだろうけど。

 それと、剣の投射攻撃と分割思考の二つがスキルになってた。【操剣魔法】と【マルチタスク】。

 前者は今までよりも効率よく剣を撃ち出すことができるようになった模様。MP消費が減るのはありがたい。

 後者は、複数のスキルを同時に使用したりする他に、スキルを組み合わせて使用した時の効果を上げたりするらしい。あとは同時に別の魔法使ったり?

 ちなみにどっちもLV3。もう少し高くてもいいんじゃないかなーと思わなくも無い。むむう。



 そんな感じで過ごしてたある日の朝、起きて食堂へ行ってみると女将さんが唸ってた。なんだろ?


「どうかしたんですか?」


「うん? ああ、お嬢ちゃんかい。実はね……」


 何でも、いつも朝のパンの配送を頼んでるパン屋さんが仕入先のトラブルで小麦粉が足りなくなり、予定していた数のパンが焼けなかったらしい。つまり、ココへの配送も数が足りず、朝食に出すにしても朝食の量が足りなくなりそうで、嵩増しするために何を作ろうか悩んでいたとのことだった。


「あの子達も朝から沢山食べるからねえ」


 この工房は割と大所帯だし、それを差し引いても各人が大食らいだから毎回の食事は量がすごく多い。

 んー、パンが足りないってことは炭水化物が足りないわけで……

 竈を見ると毎度おなじみ大量の野菜スープが大鍋二つになみなみと有る。そして同様に肉。朝から肉。んー?


「このスープ、手を加えてもいいですか?」


「うん? それは構わないけど、なにかできるのかい?」


「パンが足りない分の嵩増し位にはなると思います」


「へえ? じゃあお願いしようかね」


 ざっと他の食材を見ると、サラダ用に買い付けたとかで大量のトマトが有ったので、これも使うことにする。

 お湯を沸かしてトマトをガンガン茹でていき、皮を剥く。と言っても時間が掛かって面倒なので皮むきは女中さんにお願いした。大鍋二つ分なのでかなりの量になる。

 次に小麦粉を水で練っていき、一口大の平べったい団子を作る。女将さんに手伝ってもらってこれも大量に。

 じゃが芋を蒸かして潰して一緒に練ればもっと美味しくできるけど、時間がないので今回は断念。

 団子が作り終わったあたりでトマトの皮むきも終わったようなので、皮むきしたボイルトマトを鍋に潰しいれて行く。隠し味に唐辛子も少々。女将さんと女中さん、真っ赤になって行く鍋を見て凄い顔になってるけど、気にしない。

 じゃが芋を入れた場合だと下茹でしないと崩れるけど、今回は小麦だけで練ったのでそのまま鍋に投入。若干色合いが悪くなるけどそれも諦める。時間がないので巻きで。一応軽く灰汁は取って置いた。

 団子に火が通ったらざっと味を整えて、乾燥パセリを散らして出来上がり?

 すいとん風ミネストローネ……いや、ミネストローネ風すいとん? まあどっちでもいいか。


「んー、こんな感じでしょうか」


「……凄く赤いね」


「トマトをスープに入れるなんて、初めて見た……」


 むーん、ミネストローネのレシピってないのかな? ちょっと拙いかもしれない? むむむう。でももう作っちゃったのでどうにもならないし、開き直ろう。

 それに、親方さんには色々と良くしてもらってるし?


 小皿によそって二人に差し出す。味見どうぞー


「これは、いけるね」


「初めての味だけど、凄く美味しい……」


「トマトをスープに使うのかい……色々試してみようかね?」


 レシピ研究はご自分でお願いします。

 それから直ぐに食堂に全員集まって食事になった。


「女将さん、パンが足りないんだけど」


「悪いね、今日はちょっとね。代わりに別の物用意したから」


「……なんだこれ、すっげえ赤いんだけど」


「今日はこの子が作ってくれたのさ。凄く美味しいから食べてみな?」


「いや、こんな赤いの、俺は要らないわ」


「そうかい? じゃあ食べなくていいよ。その分はあたしが食べるからね。こんな美味しいもの食べないなんて、勿体無い勿体無い」


「……そんなにうまいのか?」


「なんだい? いまさら遅いよ? あんたの分は無いよ!」


「うお、なんだこれ、すげえ美味い!」


「ほんとだ、凄く美味しい……何これ、はじめて食べる味だけど、手が止まらない!」 


 んー、概ね好評っぽいかなー


 その後、みんな御代わり連発であっという間に鍋が空っぽになってしまった。

 見た目で食べるのを拒否し、食いっぱぐれた次男が非難がましくこっちを睨んでたんだけど、自業自得でしょ? 逆恨み良くないよー




 それから二週間程過ぎた頃、【鍛冶】スキルのレベルが5に上がった。


 その数日後、親方さんに頼まれて職人さん達に見られながら剣を打つことになった。物凄い落ち着かない。でも代金代わりに結構な量のミスリルのインゴットくれるって言うんだよ。了承しましたよ。


「こんな感じです」


「……早すぎる」


「意味がわからない」


 一応【創造魔法】は抜きで打ったので、いつもより時間かかってたりするんだけどね。それでもスキルレベルが上がったお陰で魔法抜きでもそこそこの速度で剣を打てたと思う。後は多分、LV10になってる【金属加工】スキルが効いてるんじゃないかな?


「分かったか、お前ら。

 歳は関係ねぇんだ、ぐだぐだ文句言う前に自分の腕上げる努力をしろ」


 弟子を煽る為に使われてるわけだけど、鍛冶場借りてる手前余り文句を言うこともできないからなあ……息子さんの下のほう、未だにすっごい睨んでるんだけど。もう勘弁してください。


 でもこれでミスリルゲット。もう少しスキルレベル上がったらこれで自分用の剣を打とう。先はまだまだ長いけど。




 それから更に二週間ほど経ち、八月に入った頃。

 流石に延々剣を打ち続けるのにちょっと飽き始めた。いや、槍の穂先とか斧とか、他にも色々造ったりしてたんだけど、武器全般を造るのに飽きてきたのね。


 と言うわけでちょっと剣以外のものを作ってみようと思います。主に趣味全開の嗜好品の類を。

 と言うわけでまず最初に造ったのは製麺機、と言うかパスタマシーン。取っ手をぐるぐるまわしてロングパスタをうにょうにょひり出すあれです。一々【創造魔法】でパスタ作るのが面倒なんだよ。手で伸ばす? それも面倒だから嫌。

 金口部分を取り替えるとショートパスタ用に変な形のものをひり出すことも可能だったりする。

 次に懐中時計を作ってみた。と言うか部品細かすぎて結局は削り出す羽目になり、無駄に時間が掛かった。

 懐中時計で時間を食ったけど、その後は各種調理器具の類。スライサーとかピーラーとか地味に便利。他にもいろいろ。後はついでに色々な包丁も作った。これ使うのいつになることやら……


「んー、他に何作ろう? 取り敢えず思いつくのは一通り作った気もするけど……」


 調理器具以外にも爪切りとかの日用品とかをもあれこれ作ったけど、取り敢えずはこんなところかな? 細かいものも多かった所為か、ステータスを確認したらDEXが大分上がってる。STRとVITは全然上がってないけど。

 いや、いいんだ。身体強化スキルあるから気にしない。気にしないったら気にしない。

 その後も色々作りつつ、合間にはちゃんと剣も打った。え? 逆だって? 細かいことは良いんだよ、気にしすぎてると禿げるよ?


 と、そんな感じで気分転換に別のものを作ったりして過ごしていたある日の昼前の休憩中のこと、またしても女将さんが唸ってた。


「どうかしたんですか?」


「うん? いや、今日は何作ろうかってね?」


 またか。女将さん、料理上手なので私は結構食事楽しみにしてるんだけど、たまにこうして悩んでる時が有る。いや、毎日のことだから分からないではない。食べるだけの人達は作る人の苦労を考えずにまた同じ料理? って文句だけは言ってくるから。毎日の献立を考えるのは大変なんだよ、マジで。

 んー……毎日色々世話になってるからなあ……


「今日は私が作りましょうか?」


「……あんたが? うーん……大食いのあの子達が満足できるようなもの、何かあるのかい?」


「多分、大丈夫です」


 ここ最近で作った調理器具が火を噴くぜ!


 え? レシピの秘匿? いや、親方さんには色々ありえないレベルで値引きとかしてもらってるし……一つ二つくらいは別にいいかなって?


 と言うわけで先日作ったパスタマシーンを使いたいと思います。今回作るのはミートソーススパゲッティ。ここ最近やたらとトマトサラダが食卓に上がるのでトマトは沢山余ってるみたいだから、活用しますよ? 豚肉、と言うかオーク肉も常時沢山有るし、食材的には問題ない。

 まずは女中さんにひたすら挽肉を作ってもらう。とは言っても別に包丁で延々叩き続ける等と言う重労働をさせるつもりは無い。最近作ったものの中にミンサーがあるのでそれをぐるぐる回してもらう。

 女将さんには只管麺生地を捏ねて貰う作業。私? 私は女将さんが捏ねた生地をパスタマシーンで麺にする作業。

 それぞれ分担をこなしている間に大量のお湯を沸かしておく。麺を茹でないといけないからね。

 一通りの作業が終わったら、その間にミートソースを作る。これも大量に作らないといけないので二人にレシピを教えた。

 サラダに掛けても美味しいし、他にも色々使える、と教えたら二人とも目を輝かせていた。そのうち二人とも応用レシピ開発するんじゃないかな?

 大量のミートソースを作り終わったら麺を茹でる作業に。とんでもない量を茹でるのでこれまた時間が掛かる。

 茹で上がったら麺を皿に盛って、そこにソースをぶっかけて出来上がり。

 付け合せに生野菜のサラダ。ドレッシングも作ったけど、こちらのレシピは内緒。ついでに汁物が無いと寂しいので持ち出しでオニオンスープも出した。こっちのレシピも秘匿しておいた。あ、流石にオニオンスープに入れる卵は持ち出しじゃないよ? 卵は一応そこそこの高級品だし。


「んー、こんな感じですね」


「……はじめてみる料理だね」


「女将さん、このスープ凄く美味しいですよ」


「ちなみにこれはどうやって食べるんだい?」


「こっちの料理はこうやってフォークで……」


 どうやらこの辺りにはロングパスタ料理が無かったようで、食べ方から教える羽目に……


 そうこうしてるうちに食堂に皆集まって食事開始。みんな無言で掻き込んでた。お代わりも連発。あっという間に打ち上げられたトドが量産された。


「……美味すぎる。なんだこれは」


「今日はこの子が作ってくれたのよ。全部」


「こんな料理初めて食べたけど、凄く美味かった」


「スープも物凄く濃厚で美味しかったよね!」


「というか、サラダに掛かってた汁? あれなんだ? あれの所為だと思うけどサラダが凄く美味かった」


 食事が終わるとみんな料理についてあれこれ話し始め、収集がつかなくなってしまった。


「おい、お前等! あれこれ話しこむ前にちゃんと礼を言え! 本来ならお嬢ちゃんはこんなことしないでいいんだからな!」


「「「「ご馳走様でした!」」」」


 あ、御粗末様でした?


 というか、そこまでされると逆に恐縮しちゃうのでほどほどでお願いします? いつもはイラつく態度の次男も素直に頭下げてる。美味しいご飯は偉大だ。

 なんてちょっと混乱してたら午後の仕事開始前に、女将さん。


「あの麺を作る機械と肉を細切れにする機械、融通して貰えない?」


 今回作った料理、手間の割りに満足感大きいからなあ……ある意味手抜きできちゃうし、他にも色々料理の幅広がるのはわかるんだけどね?


「えっと、お値段は相談に乗ります、よ?」


 その後、商業ギルドに連れて行かれてギルド登録させられて設計図描かされて特許を取らされました。ああ、うん。これで不定期的に収入が入るよ? やったね?


 ……あれっ?


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