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007 お肉食べたい


 家の増築から三ヶ月。転落事故からそろそろ半年近くが経過した。


 髪が大分伸びて、後ろは肩甲骨に掛かるくらいの長さになった。前髪が鬱陶しい。

 そんなこんなで世間はすっかり夏です。周りに世間とか無いけど。


 住環境が整い、次に行ったのは衣類。

 それまでほぼ着の身着のままで、最初から持ってた自前の着替えとスキル検証の時に作った服を回して使ってた。

 流石にその数着だけで数ヶ月も使いまわしていた為に大分くたびれてしまっていたので、新しく何着も新調した。材料? いや、木から作ったよ。

 えーと、木によってはセルロースを含んでいてそれを取り出して……いや、うん、細かい事はどうでもいい。と言うか説明が面倒くさい。取り敢えず【創造魔法】でどうにかして作ったって事で。

 そうこうして何着か作っていくうちに【服飾】スキルを覚えて多少は凝ったデザインも作れるようになった。レベルを上げればもっと細かい刺繍とかも出来るようになるかな?


 で、今では庭の畑で野菜を育てている所。家庭菜園は前世で実家に居た時にもやっていたけど、色々と曖昧になってる部分があったのでまずは短期栽培出来るものを選んでみた。

 種? 【創造魔法】で一発でした。消費は凄く少なかった。ちなみに、すでに育ったものを作るともの凄くMPを消費する。

 取り敢えず最初に育てたのはお約束のラディッシュやミニトマト、三つ葉にほうれん草、インゲン等の豆類、他にはオクラや紫蘇等。育成の早いものは既に何度か収穫した。おいしかったです!


 三ヶ月もやってると大分慣れたので、そろそろ新しいものや育成期間の長いものにも手を出そうかと考えている。土魔法は便利ですねー。ちなみに肥料や虫除けの薬は全て【創造魔法】任せ。ホント、消費の多さに目をつぶれば万能すぎて困る。いや、困らない。大助かりだ。

 あとは光と火の属性魔法も覚えた。光は家で明かりを灯してたし、火は料理で使ってたからかな? 何にせよ覚えておいて損は無いよね。



 ちなみにこの三ヶ月の間に一度、転落事故の現場を見に行った。


 持っていけなかった荷物は全て無くなっていた。やはりあの後盗賊が回収して行ったらしい。死体は腐敗していて酷い臭いだった。

 ……盗賊に見つかるかもしれないとは思ったけれど、全て埋葬した。短い期間とはいえ一緒に旅をした相手だ。何より前世の倫理観がどうにも疼いた。壊れた馬車は一応そのままにしておいた。


 そんな最近の悩みは独り言が増えた事と、


「お肉食べたい」


 そう、肉だ。たんぱく質だ。

 サプリで栄養バランスには問題無い? 関係ないね! 肉は肉だ! かと言って【創造魔法】で作るには消費が大きすぎるのだ。

 調理自体は自分でも出来る。前世では一人暮らしだったし、一時期自炊に凝っていた時期がある。それに材料さえあれば【創造魔法】での料理作成も消耗が減るし。


 つまり何が言いたいのかと言うと、肉を得るために狩りをしないといけないという事だよ。


 だが悲しいかな、この身体は非力極まりない。ついでに武器がナイフしかない。

 切れ味は【創造魔法】の強化で折紙つきとは言え、リーチが短すぎる。猪とか出てきたら体当たりで死ねる。と言うかこの身体能力では兎すら狩れる気がしない。

 ……罠? いや、構造がわからない。曖昧な指定でも魔法で作れるかもしれないけど、設置箇所の問題もある。獣道の探り方とかは流石に分からない。

 そうなると攻撃手段の模索である。

 安全な遠距離攻撃が望ましい。という訳で庭に出る。


 まずは弓。作れた。構造は簡単だ。【創造魔法】の仕様を考えると、精度は多分かなりいい筈。早速引いてみる……引けなかった。我ながら非力すぎる。

 次はクロスボウ。機械構造で引く事が出来たはずだ。


 ……残念! MPが足りない!


 機械構造はまだ無理のようだ。一応最大MPは80まで増えたんだけど。

 となると何か別の投擲武器が必要だ。ただし、大型の獣も倒せる威力のものに限る。

 小型の小動物であれば長めの布があれば直ぐ作れる投石紐で石を投げればいい。忘れがちになるがここは本来とても危険な森の奥だ。魔物除けの薬が作れなかったら危険な魔物や獣がうようよしている場所だ。

 分厚い獣の皮を打ち抜くような貫通力のある遠距離武器。

 ……銃? 構造はわかる。撃った事もある。と言うか前世では造ってた。しかし構造が複雑すぎる。そもそもクロスボウすら作れないのだから試すまでもなく作れないとわかる。いや、弦を引く構造が無ければクロスボウは作れるかもしれない。でもそれでは運用できない。別々に作って組み上げる? 試してみる。引き上げ構造部分が作れない。断念。

 なにか他にないだろうか?

 顎に手をやり、唸りながら指で顎先を撫でる。前世で物を考える時の癖だ。しょりしょりと無精髭を……不精、髭……髭、無いわ。今の私女の子だよ、もう髭なんて生えないよ!

 気を取り直して思案に耽る。んー、前世で見たもの……ふと、いつだか見たアニメを思い出す。金ぴかの鎧を着た王様が剣をバンバン飛ばしてたアレだ。

 あれ、そもそも武器を収める蔵から出すだけで何で武器が飛んでいくんだ?

 物を飛ばすには運動エネルギーが……


 ……運動エネルギー? これか?


 やはりこういう趣味は閃きの助けになる。早速【創造魔法】で試してみる事にする。

 まずは武器の創造……は、消費が多くて無理。家の増築の時に拾い集めた石が【ストレージ】に沢山余っているのでそれを幾つか取り出す。

 次、運動エネルギー。無形のものは作れるのか否か。作れた。石が飛んでいった。消費は少ない。でも取り敢えず飛ばしただけという感じなので、次は威力を上げる為に色々試す。

 獣の皮をぶち抜く威力……秒速200mもあれば十分だろうか? 確か拳銃の弾丸の速度が秒速400m前後だった筈? ……ならその位? ライフルであればほぼその倍、物によっては1400mを超えていた気がする。

 ……やりすぎはよくない。命中しても獲物が爆散したらお肉が食べられない。

 取り敢えず200と400で試す。200。問題なく飛ぶ。消費は軽微。消費は1で済んだ。400だと5。倍どころの話じゃない。

 念の為にライフル銃並みの800を試す。消費20。辛い。


「……これならいけるかな? お肉食べられる?」



 準備を整え、早速次の日狩りに出る事にした。


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