065 はじめての共同作業
魔法講義でリリーさんを返り討ちにした次の日、折角だから王都でもちょっと冒険者のお仕事してみよう、と言う事になった。
何気にパーティー組むのって初めてのような気が……いやいや、ぼっちじゃないし! ソロプレイだし!
と言うわけで冒険者ギルドまで来てみたんだけど、広いし人も多い。
そのかわり窓口も多く、やはりハルーラは地方都市で田舎なんだなーとしみじみしてしまった。
おのぼりさん全開で周囲をきょろきょろ見回してみれば、ハルーラでは見かけなかった獣人っぽい人達もちらほら見かける。
ドワーフ風の人もいるし、エルフも居ないかな? あ、でもあんまりじろじろ見るのも失礼だろうし、気をつけよう。あ、あそこに居る猫耳さん、可愛い。
あ、この世界、獣人とかエルフ、ドワーフとか言った亜人さんが普通にいるからね? 詳細はそのうち気が向いたらね。
ちなみに私はいつも通りにマントでてるてる坊主状態。当然眼鏡も着用してる。いや、リリーさん達と一緒にいるし、絡まれたりしないとは思うんだけどね。ノルンとベルも居るし。
え? もう6月も末なのに暑くないのかって? 大丈夫大丈夫、マントの中に魔石を使った空調魔道具があるから、適温に保たれてるんだよ。【魔法付与】スキルと【魔道具作成】スキル万歳だね。
「ところでどんな依頼受けるんですか?」
私は13歳未満でEランク、リリーさんとアリサさんは13歳以上でDランクなので、この三人だと受けられる依頼は私に合わせた低ランクのものしか受けられない。つまり討伐は無理で薬草採取や雑用系のみ。となれば二人にとってはつまらない仕事にしかならない。
「大丈夫ですよ。こういう場合の抜け道がありまして」
「うん。採取系でも常設依頼じゃなくて、特定の稀少な薬草を採ってくるような依頼だと場合によっては受けられるんだよー」
「そうなんですか?」
「はい。森の奥に生えてるような、採りに行くのが難しい薬草の採取依頼の場合は同行者に上位の冒険者が居ればレンさんでも受けられるんです。パーティーを組んでたり共同だったりとかの場合ですね。
ただ採ればいいってわけじゃない採取や保存が難しい薬草だったりする場合は、高度な採取技術を持つ採取専門の冒険者が護衛を雇ったりとかもしますから」
つまりその制度の応用な使い方で、今回の場合は低ランクの私がパーティーに居ても報酬が高そうな採取依頼も受けられる、と言うことらしい。
そういった依頼は当然魔物との遭遇戦も前提になっている。だから窓口の職員もよほど無理っぽいパーティーでも無い限りは暗黙の了解として見逃してくれるんだって。応用って言うか悪用って言うか……うーん、ギルドの闇は深い?
「大丈夫、魔物が出ても私がレンさんを守るよー」
「盗賊に襲われた時、レンさんに助けてもらったのは誰だっけ? それにレンさんを守るのは私の結界魔法だからね!」
なんで私を取り合うの? 意味がわからない……と言うか、ノルンとベルが居るから私の守りは大丈夫ですよ?
と、そんな感じでわいわい騒ぎながら依頼の貼ってある掲示板を見に行った。周りの視線が痛いので二人とももう少し静かにしてね?
「うーん、これなんていいんじゃないかな? アリサはどう?」
「そうだねー、あそこの森ならそんなに危険な魔物も居ないし、大丈夫じゃないー? 前に二人で行ったときも大丈夫だったよねー?」
「じゃあこれで決まりかな? レンさんはこれでもいいですか?」
「二人が決めたならそれでいいですよ。この辺りのことはよく分かりませんし」
経験者二人が大丈夫って言ってるんだから、よほどのイレギュラーが無い限りは問題ないと思う。ノルン達も居るし、いざとなったら色々自重しないだけだし。
そんな感じで受けた依頼は、森のやや奥まった辺りに生えている稀少な薬草の採取依頼。医療用の強い痛み止めに使うものだそうで、需要は多いらしい。
ただ、生えてるところが森の奥で、しかも物陰にひっそりと生えているために見つけるのが大変なんだとか。
物陰や草陰を探す為に下ばかり見ていると魔物に不意打ちされたりするので、割りと人気が無い依頼なんだって。
でも今回は二人が周辺を警戒するし、薬草採取には定評のある私がいるので非常にヌルい仕事だ。馬鹿みたいに採取して荒稼ぎしよう。
え? 自重? いやいや、二人にいい所見せたいじゃない? おじさんがんばっちゃうよ?
と言うわけでやってまいりました。王都の東に広がる森でございます。
この森、浅い辺りは初心者向けの採取地、奥のほうは上級者向けと住み分けがされていて、初心者から上級者まで幅広い需要があるんだとか。
ちなみに討伐は西の平原のほうがいいみたい。林や小さい森なんかもあったりして、ゴブリンやレッサーウルフがちらほら居るので初心者向けなんだって。
上級者は北の湖か、更に北の深い森に行くらしいよ。
そんな話をしながら周囲を警戒しつつ森を進んでいく。
と言うか私とノルンの【警戒】があるのでそんなに周りをきょろきょろしなくても大丈夫ですよ、アリサさん。まあ、そんなやる気を削ぐ様な事言わないけどね。
ちなみに魔物避けは撒いてない。人もいるし、たまには実戦経験を積むのもいいよね。
探索しながら進んでいくと、途中で何組かの冒険者を見かけた。15歳位の子もいれば私と同じくらいの子もいて、特に魔物にも会わないし浅い辺りは初心者向けだと言うのは本当のようだった。
でもある程度進むとそういった低ランク風の冒険者も見かけなくなり、私の【警戒】の範囲ギリギリにも幾つかの魔物の反応が出始めた。ゴブリンとかレッサーウルフばかりだけど、更に奥のほうにはオークの反応も幾つかある。
「北東に1km位離れた辺りにオークが2体居ますね。どうします?」
「……1km先ですか?」
「……全然分からないんだけどー」
「面倒なら迂回したほうがいいと思います」
「オーク……お肉食べたーい」
「アリサ、ちょっと頭冷やそうか」
「だってお肉だよー?」
「……じゃあ、倒しに行きましょうか?」
「だめです。レンさん、アリサを甘やかさないでください」
「えー、甘やかしてよー」
「だめ」
「ぶーぶー。リリーのケチー」
「怒るよ?」
うーん、この緊張感の無さは一体……
そんなやり取りをしつつも探索を続け、大分奥のほうまでやって来ると小さな泉に出た。探している薬草はこの泉の周辺に比較的多く生えているらしく、穴場なんだとか。
この穴場スポットを知らない冒険者は薬草を求めて彷徨う羽目になるらしく、ここを知ってる冒険者には比較的ボロい依頼で、知らない冒険者には面倒で不人気な依頼になるのだと言う。
なるほど、だから二人はこの依頼を選んだんだね。
そんなことを考えつつも周囲を【探知】と【鑑定】を併用して調べてみるとなるほど、確かにあちこちに沢山生えている。
場所によっては全然気付かれていないような所もあるようで、凄い量の反応があった。そういった辺りのものは全部まとめて収納してしまおう。今まで気付かれてないんだからいきなりなくなっても誰にもわかるまい。ふひひ。
などとあくどいことをやりつつも、普通に探しながら採取もする。リリーさんは結界を張りつつ野営の準備をしている。採取してからここから王都まで戻るとなると夜中になってしまうので今日はここで野宿するのだ。
アリサさんは周辺の警戒をしてる。私の警戒スキルがあるけど、慎重になりすぎて困ることも無いだろうし、アリサさんも【警戒】を覚えたいと言うことらしい。
アリサさんは前衛だし、【警戒】を持ってても無駄になることは無いからね。
ちなみにノルンとベルは狩りに行ってる。暇そうにしてたので許可を出した。森の更に奥のほうに駆けて行ったので、もしかするととんでもないものを狩ってくるかもしれない……ほどほどでお願いしますね?
この後めちゃくちゃ薬草採取した。