062 行き当たりばったり過ぎるのも考え物
衝撃の初体験の現場から1日ほど街道を進み、後1~2日ほどで王都に到着するという辺りまで来た。普通なら領都から王都まで一週間位かかるらしいんだけど、そこは優秀な私の馬車とゴーレム馬。素晴らしく早い。でもこれでも大分速度落としてるんだよね、別に急ぎじゃないし。
そうそう、例の初体験に碌に動揺もしなかったのはやっぱり精神耐性スキルの所為でした。負の感情とか精神的なストレスとかを大幅に軽減するらしいよ? レベル10だから多分完全にシャットアウトしたっぽい。うーん、いいのか悪いのか。
そして今は昼休憩中。街道の外に馬車を出して停め、テーブルと椅子を出してゆったり食事。
メニューは卵サンド。半熟に茹でた卵を刻み潰してたっぷりと挟んだ一品だ。味付けは塩胡椒のみ。前に少し食べさせた事もあるけど、マヨネーズを頻繁に食べさせるのは2人にはまだ早い。パンは天然酵母を使ったふんわり柔らかパン。二人とも驚愕と言った表情で食べてる。ふふふ、美味しかろう? 沢山おあがりよ! はむはむ。
ちなみにこの食パン、今朝早くに起きて土魔法で竈を自作して焼いたものだったりする。
「レンさん、一体あとどれくらいレシピを持ってるんですか? こんなパン料理、初めてです!」
「というかこのパンなんなのー!? こんな柔らかいパン初めてだよー!」
うふふ、リリーさん達の初めてを二つも奪ってしまった……! っていうか、卵サンドくらい普及させておいてください、過去の転生者さん達。そんなに作り方難しく無いじゃないの。
「レシピはまだまだ沢山ありますよ。そのパンもあるものを使って作ったものです。柔らかくて美味しいでしょう?」
「凄く美味しいよー、幸せー」
「レンさん、もう料理人になったほうがいいんじゃないですか?」
「料理人はちょっと……料理はあくまで趣味なので」
「……これで趣味?」
「趣味ってレベルじゃないよねー……」
そう言われてもねえ? まあ、【料理】スキルは既にLV10なんだけどね。
「ああ、そうだ。リリーさん、王都の宿でお勧めの所ってどこかありますか? ノルン達が泊まれてお風呂があるといいんですけど」
「あれ? 宿を取るつもりだったんですか?」
「え? それは、まあ」
「そんな、実家に招待します! うちに泊まってください!」
「ええ? それは流石に悪いですよ」
「いえいえ、色々お世話になってますし、今もこんな美味しい食事も頂いてますから、お礼です! それに魔法を教える約束だってありますから! 魔法書も実家ですし、手間も省けますよ! ですので、是非是非!」
わはー、凄い押してくるね……でも、んー。
「えっと、じゃあ、お言葉に甘えて?」
「はい! 甘えちゃってください!」
まあ、確かに色々と食べさせてるし、少しお泊りする位ならいいかな?
「ちょっとリリー、ずるいよー?」
「こういうものは早いもの勝ちだよ、アリサ?」
「むー」
なんで私の取り合いしてるんですかね……?
「そう言えば、レンさんは王都に着いたら何か予定とかあるんですか? 食材を買った後とか」
「そうですね……基本は食材探しですけど、魔法関係はリリーさんが教えてくれる事になったので大丈夫ですし、あとはそうですね……」
魔法関連はリリーさんが教えてくれる事になったから、魔法書探しはしなくていい。出費が減るのは有り難い。
魔法といえば、リリーさんが使った【結界魔法】。実はあの後色々試したら使えてしまったりする。ステータスを確認しても確かにスキルが増えてたので、今はちまちまと練習してレベル上げの最中だったり。
【錬金術】は基本的に魔法書の様なものは出回ってないらしく、覚えるには誰かに師事して覚えるしかないらしいとはリリーさんの弁。
【調合】や【魔道具作成】、その他付与等の錬金レシピ集は錬金ギルドで販売してるとの事だけど、【錬金術】スキルを持って無いと売ってくれないそうだ。ギルド所属じゃなくても売ってくれる辺りは良心的と言えなくもないけど。
ともあれ、そういった事情があるので【錬金術】はまたしても後回し。残念。
となると、後は【鍛冶】スキルを鍛える位なんだけど……
「……どこかで、鍛冶場を借りることって出来ないでしょうか?」
「鍛冶場、ですか?」
「はい。ちょっと【鍛冶】スキルを鍛えたいので」
「え? レンさん【鍛冶】スキル持ってるんですか? というか剣を作ったりするんですか?」
「ええ、一応。今使ってるのも自分で作ったものですし。それでちょっと作りたいものがあるので、【鍛冶】スキルを上げておきたいんです。そういう訳なので、どこかそういう場所があればなあ、と」
「……それだったら、私の伝手で紹介出来るかも知れないよー」
「アリサさん?」
「あ、そっか。アリサの家って……」
「アリサさんの家? 何かあるんですか?」
「私の家は代々剣士の家系なんだよー。それで、ずっと贔屓にしてる鍛冶工房があってー、そこの親方にお願いすれば、もしかすると、なんだけどー」
なるほどなー。
「それで、どれくらい借りたいのー? それに借りるとなるとお金も必要になると思うし、大丈夫ー?」
「お金のほうは多分足りると思います。足りなければ頑張って薬草採取して稼ぎますし。それで借りる期間の方ですけど、最低でも半年は借りたいです」
「半年も!?」
一応、スキルレベル10が目標だったりするからね。集中して鍛えるなら半年もあればいけそうな気もする。もし半年でそこまでいけなかったら、頭を下げて期間延長して貰おう。
「えっと、お願いしても大丈夫でしょうか?」
「まかせてー! 美味しいもの沢山食べさせて貰ってるからねー?」
それは暗にもっと色々食べさせろって事でしょうか……?
「それで、レンさんはどんな剣が作りたいのー? 魔力剣? 属性剣? 錬金術とか言ってたし、もしかして魔剣?」
魔力剣? 属性剣? なんぞそれ? 私がクエスチョンマークを浮かべているとアリサさんが色々教えてくれた。
魔力剣。これは無属性魔法が付与された剣の事で、普通の剣よりも強力で、尚且つ耐久性も優れているらしい。また、魔力が付与されているので霊体やアンデッドにも有効。そして無属性ゆえに汎用性が高いらしい。
属性剣。これは各種属性魔法が付与された剣。それぞれの属性に特化してるので得手不得手がはっきりしている分、はまれば強力。
魔力剣も属性剣も付与された魔法が強力なものであれば、その魔力を解放して一時的に攻撃力や効果を高める事が出来るのだとか。魔力解放した剣の魔力は時間を置けば回復するそうだけど、回復までに掛かる時間はまちまちだそうだ。
そして魔剣。これは属性魔法だけではなく、スキル効果が付与された剣。付与されたスキルの代表的な所だと【攻撃力強化】、【耐久力強化】等。珍しいものだと【幸運】なんていうものもあるそうな。また、属性魔法が付与されずに特殊なスキルのみが付与されたものも分類上は魔剣になる、との事。
更に物によっては武器固有の特殊な必殺技が使えるとか何とか? 厨二心が擽られますなぁ?
でもって、魔剣の作成には基本的に【錬金術】が必要らしい。またしても【錬金術】か……! そして、強力な魔剣を手にするのが大体の剣士の目標なんだとか。ふむー。
「魔剣を手に入れれば魔剣士を名乗れるんだよー!」
「色々あるんですね」
「そうだねー。あとは聖剣とか暗黒剣かなー?」
ほほう、そんなものまで……
聖剣。神が授けた神聖な力を秘めた強力な剣。神聖属性が付いていて、物によっては更に強力な特殊な能力を秘めているらしい。神聖属性は無属性以外の全ての属性に対して優位な属性であり、それ故に聖剣であるというだけで強力な武器なのだという事だった。そして伝説に名前が残ってるようなものだと、更に属性魔法が付いてたり様々なスキルが付いてたりと、とんでもない事になってるものが幾つかあるとかなんとか。
凄く昔の凄い鍛冶師が聖剣を作れたとかいう逸話もあるそうだ。
暗黒剣。これは暗黒神が授けた邪悪な剣、とか何とか? 暗黒属性で、それ以外の基本的な性能で言えば聖剣と同じ。但し、聖剣と暗黒剣はお互いが弱点同士であるらしく、打ち合った場合は格が上の方の剣が勝つ、らしい。
最後に神剣。これは伝説とか言い伝えにちょっと存在が語られる程度らしく、詳しい事はわかっていないらしい。曰く、あらゆる物を切り裂く、とかなんとか?
でもまあ、なんだね。
最後の神剣とか言うのはよくわからないけど、昔に作れた人がいたって事なら聖剣と暗黒剣はぶっちゃけ【創造魔法】で何とか出来そうな気もする訳で、そう考えるとアリサさんにはとてもありがたい話をしてもらった気がする。
うん、取り敢えず、まずは魔剣を目標に頑張ってみようか。