059 色々みてまわったり
領都に着いて宿を取ってノルン達を預けた後、夜まで時間もあるので市場を見て回る事にした。ギルド? なんとなく面倒な事になりそうなのでスルーで。そもそも仕事を請ける時間も無いし、請けたとしても薬草採取位しか出来ないし?
なんて考えつつも露店から店の軒先からと色々と見て回ってみる。ハルーラで見かけなかったものも色々あるなあ。
というか、どれもこれもなんだかちょっと安い? 卵もちらほら見かけるけど、ハルーラで聞いた相場よりも若干安い。いや、高いのも普通にあるんだけど、どういう事? 分からない事は知ってそうな人に聞くのがベター。という訳でリリーさんに聞いてみる。
「あ、それは人が多いからですよ」
人が多いから?
「えっと、なんと言えばいいのか……」
んー? あ、需要と供給って事?
「消費者が多いから供給量も増えて、結果的に流通も安定するから仕入れ値が下がって売価が下がる、という事ですか?」
「…………そうです。今の一言でよくそこまでわかりますね」
それはまあ、色々とね。
「その理屈から行くと、王都はもっと物価が安いという事ですか?」
「そこは物によるというかまちまちというか……たとえばここでいい品質の小麦を買うのと王都で買うのとを比べた場合は王都の方が高いです。でも、同程度の低い品質のものを買い比べるなら、王都の方が安いです。あとはものによりますが、地方の方が手に入りにくいものは高くて、王都の方が安かったりもします。消耗品や食料なら基本的に生産地の方が安いですし、そこから遠い街なら高いです。でも高級品なんかはどこでも高いですし、品質によっては天井知らずですから」
ふむう。
……ちなみに卵は王都で買うとハルーラの五分の一位の価格らしい。養鶏村の数と規模が相当違うとかなんとか。
「地方は消費量が少ないですし、持っていくのに手間もかかりますからね」
「ああ、移動にかかるコストも値段に乗る訳ですか」
「そういう事ですね。そういった諸々を考えると、王都の物価は高い方だと思います。家賃も高いですし」
なるほどなー そう考えると住むなら王都より領都の方がいいのかも?
「流通が難しい海の魚とかはどうなるんですか?」
「塩漬けの魚でも海からの距離が離れる程に高くなります。生だと値上がり具合が酷い事になりますね。魔法を使って保存しつつ運ぶという方法も無いでは無いですけど、そういう方法は上級貴族や王族の方々じゃないと難しいと思います」
なるほど。つまり今、私の【ストレージ】内にある大量の海鮮品は凄く高く売れると。売らないけど。
干物や天日干しとか、教えたら流通事情ががらりと変わりそう。面倒事に巻き込まれそうだから教えないけどね。自分で作って自分で食べる程度にしておくのが無難無難。
「そういう訳なので、ここでは見るだけにしておいて、買い込むのは王都の方がいいですよ」
「……そういう、基本になる価格って、どこが決めてるんでしょう? 王都の価格が基準になって、結果、地方は割り高になるとなると、色々不満が出る気がしますけど……価格、仕入れ、流通、となると商業ギルド? ギルドの独断という事はないと思いますし、その辺りは行政を行ってる王族の方々ともある程度は話は通ってるんでしょうか?」
「ええと、その辺りの事は流石に私にはちょっと……」
そりゃそうだ。
「すみません、ちょっと気になっただけですので。……んー、王都よりもここで買う方が安いものってありますか?」
折角領都に居るんだからここならではのものとかあれば買って置きたいかな。
「そうですね、ここだとお米ですね。国内のお米の生産地は東の方で、王都への流通はここを経由するので」
「買いましょう。沢山買いましょう」
パンより米だよ、日本人だもの! 溜め込んだ食材的に炊き込みご飯とか味ご飯とかも作れるし、ここは是非買わねば!
「そう言うと思ってました……」
達観したような表情のリリーさん達を連れてれっつ、米探し!
鑑定を使ってみて回ると、あるわあるわ。古米混ぜてる奴が沢山。気持ちはわかる。だがスルーする。
「あれ? レンさん、ここなんかいいんじゃないですか?」
「そこはダメです。下半分が古米です」
「え……」
「ちなみにあっちのは三分の二位が古米で満遍なく混ざってます。そっちのは半分位混ざってますね」
「……本当ですか?」
「信じる信じないは自由ですよ」
信じられないものを見るような目で見ないでください。それもこれもLV10の【鑑定】スキルと【解析】スキルの所為です。
ちなみに言い当てられた商人たちはそっと目を逸らしていたり。いや、別に責めてる訳じゃないから。ただ、貴方達からは買わないってだけで。……因縁つけてこないだけ、皆さん良心的だとすら思いますよ?
そんな感じであちこち見て回って古米が混ざって無い物を沢山買い込んだ。大収穫だったのは、もち米を発見した事。当然大量に買占めた。これでお餅や煎餅も作れるよ! 小豆とか大豆は普通に売ってるし既に購入済みだから餡子も作れるし、大福とかお団子とかもいける。ああ、おこわもいいなあ……じゅるり。
結局色々な食材を買い込んだ後、ついでに服屋や武器屋も見て回ったけど、そっちは正直どっちもいまいちだった。
服はデザインが気に入らない。っていうか、胸がきつい。やっぱり自作するのが一番っぽい。なので王都に着いたら生地を買おう。生地も王都の方が色々な種類がありそうだし。
武器に関しては、自作の剣よりもいい品質のものがなかった。材質的には上位のものはあったんだけど……
領都でもこのレベルとなると、王都はどうなのかなあ? ……結局自作する事になるのであれば、どこかで鍛冶スキルのレベルを上げておきたい。
なんとか鍛冶場を借りたり出来ないものか……んー。
なんてやってるうちに結構いい時間になってきたので、一旦宿に戻ってレストランに行く準備をする事にした。
正装、という訳ではないけど、それなりにデザインもいい感じの格好。髪も整えたりして、リリーさんもアリサさんも可愛い。
私? 身だしなみ整えてもどうせその上にマント羽織るからねえ……一応ちゃんとしたけど。
上はセーターっぽいデザインの伸縮性のある服で、長袖だけど生地に気をつけたので通気性は悪くなく、暑くはない。下はコルセットスカート。スカート丈は膝下まであって、スカート部分がフレア状になっている。一見すると普通にスカートにしか見えないけれど、実は二重構造で中にはキュロットっぽいズボンが入ってたりする。つまり、スカパン。いや、何かの拍子にぱんつ見えたりすると困るからね? これでも一応冒険者だし、防御は大事だよ。髪はいつも通りにゆるく三つ編みに結った。今日はついでに先の方に白いリボンも結んでみる。我ながらなかなか可愛いと思います! フヒッ!
リリーさん達も何というか、お嬢様っぽい感じのドレス風? ごてごてしたデザインではなく、裕福な家の子女って感じ。かわゆすなあ。
「レンさん、可愛いです……」
「……なんというか、妙な色気が凄いよー」
「ありがとうございます。でも、お二人も可愛いですよ?」
なんていちゃこらしつつレストランへと向かう。見せてもらおうか、高級なレストランのメニューとやらを!