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057 この物語は異世界転生料理無双モノではありません、多分


 卵を買った後、今日は結局村の外で野営する事になった。

 移動して先の野営地を目指すにも、時間的には微妙だったから仕方がない。村長さんは家に泊まって欲しいと言ってくれたけど、辞退しておいた。

 いや、リリーさんとアリサさんが馬車の簡易ベッドのほうがいいって我侭をいいましてね……個人的には雑魚寝状態の馬車よりは屋根の下で寝たほうがいいと思うんだけど。ベッドは取り替えればいいし。


 何はともあれ、もう割りといい時間になったのでさっさとご飯の準備をしよう。

 今日は卵も手に入ったので折角だからアレを作ろうと思います。カツ丼。

 トンカツならハルーラの宿で働いてた2人にも馴染みがあるだろうし、ありじゃないかなーと。いや、作るのはその発展系だけどね。


 まずはカツを揚げる。じゅわわーっと。


「まさか、あの肉料理ですか!?」


「リリーしか食べた事が無いという、あの料理のオリジナル……!」


 残念、はずれ。

 今日作るのはカツ丼だからね。更に手を加えるよ。


 揚げたカツを休ませてる間にフライパンを用意。専用の調理器具は流石に作ってないし、面倒だから3人分まとめて作っちゃうのだ。

 スライスした玉葱を敷き詰め、調味料を投入。加熱。煮立ったら一旦火を止めて休ませる。

 その間にカツをカットし、フライパンに投入。解き卵をかけて三つ葉も乗せ、再び火をつけたら蓋をして少し置く。卵は半熟位でいいかな。

 どんぶりにご飯をよそってその上に盛っていく。うん、匂いがやばい。お腹がきゅるきゅる鳴ってる。

 付け合せは昼にも作ったオニオンスープ。2人が食べたいってしつこいから……私としては味噌汁にしたかったんだけど。後は箸休めの漬物があれば完璧だったんだけど、無いものは仕方ない。でも今度作っておこう。

 出来上がった料理をテーブルに並べると2人が目を丸くして料理を見つめる。


「なんですか、これは……パンに挟むんじゃ無いんですか……?」


「もうなんでもいい、凄くいい匂いがするー。我慢できなーい! もう食べてもいいですかー?」


「構いませんよ。どうぞ召し上がれ」


「「頂きます!」」


 二人が先割れスプーンを使ってカツ丼を一口。私は箸で。


「ふわあ……美味しい……!」


「これ、凄いぃ! 肉が、卵が……!」


「お米に凄く合いますね! 手が止まりません!」


「リリーはこんな美味しいものを先に食べてたんだねー、ずるい! 謝罪を要求するー!」


「お肉だけをパンに挟んだやつは食べましたけど、これは初めてですよ!? ノーカンです!」


 2人とも元気だねー。もっきゅもっきゅ。うん、おいしい。


「こっちのスープも凄く美味しいです! あの村長がベタ褒めしてたのもわかりますね!」


 カツ丼も玉葱と卵を使ってるから、食べあわせとしては同じ物を使ってるこのオニオンスープも悪くないんだけど……これも結構味が強いから、同じように濃い味付けのカツ丼を食べた後に口をさっぱりさせるのであれば、やっぱり味噌汁のほうがよかったね。


 2人はあっという間に完食。少し物欲しそうに私を見てるけど、これは私の分だからあげないよ。ついでにおかわりも無いよ。そっちに残ってるのはノルン達の分だから。いや、昼に不機嫌にさせちゃったから……いや、ご機嫌取りじゃないし! あ、ちゃんとおかわりもありますので! 沢山食べてください! お願い、機嫌直して!


 閑話休題。


 ……というか、リリーさん達2人の分は大盛りだったからね? 私の1.5倍はあったからね? ここ数日ちょっと食べすぎじゃない? ホントに、太っても知らないよ?

 そう伝えると二人は少し青い顔をして慌てていた。自業自得って知ってる? 私の所為にしないでね?


「凄く美味しかったです!」


「満腹ー満足ー」


「御粗末様です」


「でも、なんだか分かった気がします」


「何がー?」


「いつもこんな美味しいものを食べてるから、レンさんは大きいんだなって」


 私が大きい? 正直、背はそんなに大きく無いと最近は自覚してますが。あははは……はぁ。


「……あー、なるほどー」


 アリサさんが私のほうを見て頷いている。正確には私の一部を。あー、そういう事ね。


「このままレンさんの作るご飯を食べ続ければ、いつか私も……!」


 リリーさんは自分の胸に手を当ててなにか言ってる。

 ……いや、その部分の成長って基本的に遺伝だと思う次第でありまして。世の中には本人の努力ではどうにもなら無い事も侭ある訳でして。ついでに私は別に好き好んでこんなに大きい訳ではなく……寧ろ私は胸より背が欲しいです。

 そんな私のなんとも言えない感情が顔に出ていたのか、私の表情を見たリリーさんの表情が険しくなっていく。


「……持たざる者の気持ちなんて分からないんですよ! こんな大きなものをぶら下げてる人には!」


「ひゃあああああ!?」


 怒り狂ったリリーさんが私の胸を鷲づかみにするという暴挙に! ちょ、やめて、それ拙いから!


「こんな! こんなものがあるから!」


 もにゅもにゅと胸を揉みしだくリリーさん。だからそんなにすると!


「んはぁっ……! や、だめ、です……んんっ!」


 変な声でちゃうから!


「……」


 リリーさんの動きが止まり、ばっと勢い良く私から離れてくれた。助かった。


「すすすすすす、すみません!」


「はぁ……は……いえ、大丈夫です。大丈夫ですけど……」


 人様の前で変な声を出してしまった、恥ずかしい。この身体凄く敏感なんだから、やめてよね。ちなみに日課の所為じゃないから。元からだから。


「こういうのはやめてください」


「本当にすみません。もうしません。でも、その、レンさん……?」


「なんですか?」


「その、怒ってるんでしょうけど、顔を真っ赤にしてそんな表情で睨まれてもですね、逆効果といいますか……私が変な気分になってしまいそうになるので、止めて頂きたいなあ、と」


「!?」


 慌ててフードを被る。え、私そんな顔してるの!?

 フードと手の間からちらりと二人を見てみると、2人とも真っ赤な顔で微妙な表情をしている。目が合うと視線を外すように明後日の方向に顔を逸らされた。

 うわあ……この後この2人と雑魚寝……? 身の危険を感じる……っていうか、旅も数日たってそろそろ2人も慣れてきた頃だろうから、今夜は寝返り打つ振りしてどちらかの胸に顔うずめてくんかくんかしようと思ってたのに、この状況でそんな事したら襲われそう。私、どちらかと言うと攻めのほうがいいから受けはヤだなあ。


 等と危惧した事は起こらず、幸い馬車の中で襲われるというような事態になる事も無く、無事に朝を迎える事ができた。但し全員寝不足の顔をしていたけれど。


 ちなみに、寝てる時になんとなくステータスを確認してみたら、変なスキルが増えていた。【魔性】スキル。なんだこれ?

 鑑定で詳細をみてみると……


【魔性】

 スキル保有者の意思に関係なく、周囲を魅了するスキル。対象の老若男女は問わない。

 スキル保有者のCHAに+(レベル×10)の値の補正。

 また、このスキルを持つものは他者を惑わすものであり他者に惑わされることは無い。その為、精神耐性LV10を得る。


 ……厄介ごとのネタが増えたよ! やったね!

 って、全然よくないよ!? なにこれ!?


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