055 たとえ村人相手だろうと容赦はせん!
という訳で、卵を買う為に料理コンテストに参加しようと思います。
話を聞いた村人さんが見えなくなってから周囲を確認。誰も居ないね? 速攻で馬車を収納。ノルン達を引き連れて、そそくさと広場へと向う。卵! 卵!
広場に着くとそこは中々の盛況のようだった。
広場の真ん中の付近に即席で作った簡易竈っぽいのが五つ並んでて、その向かい側にテーブルと椅子。
椅子に座ってるのは頑固そうなおぢさん。ちらほらと白髪が混じり始めてる感じだけど、体格はがっしりしている。あの人が村長かな?
竈には既に何人かの人が張り付いてて料理をしてるみたいだ。どんな料理を作ってるんだろう?
様子を見てると、1人出来たらしい。嬉々として村長さんのところに皿を持っていく。
「なんだこれは! こんなものでワシが納得すると思ってるのか!」
大激怒。ちなみに持っていった料理はスクランブルエッグ。おいおい。
それでも口に運ぶ村長さん。うん、味付けとか色々あるかもしれないからね……
「ただ焼いただけではないか! 塩くらい使おうと思わんのか! 不合格だ! 帰れ!」
焼いただけって……何考えてるんだろう。
続けて次の人が持っていった。皿の上には目玉焼き。
「舐めてるのか! 塩を振っただけではないか!」
さっきの人の時の話を聞いてたんだね。でもせめてハムかベーコンも焼いて刻みキャベツとかと盛り付けようよ。
その次はゆで卵。おお、もう……
散々な結果だった。見てられない。
「他に挑戦する奴はいないのか!」
この空気の中出て行くのは正直きついわー。いや、行くけどね。
「あの、商人じゃないんですけど、大丈夫ですか?」
「あん!? 何だお前は! 卵が欲しいなら参加すればいい! 商人だろうがそうじゃなかろうがもう関係ないわい!」
豪快なおっさんだわー。いいね、嫌いじゃない。
「じゃあ参加します」
「おい、ちょっとまて。その前にそのフードを取れ」
「このままじゃダメですか?」
「参加するのに顔を隠したままの奴があるか! 取らなければ参加は認めん!」
「……わかりました」
仕方ない、諦めて……
フードを取ろう。
え? 参加を諦める? 目立ちたくない? 今は卵のほうが重要でしょ! 大丈夫! 眼鏡かけてるし!
フードを下ろすと周囲から一瞬音が消えた。その後すぐにざわめきだす。眼鏡意味ねえー! でも気にしない気にしない!
って、あれ? なんだかノルンちょっと不機嫌? え? 目立つ真似するなって? いや、でも卵だよ? 卵! もし買えたら卵料理食べさせてあげるから! ね?
ノルンのご機嫌を取りつつ気を取り直して竈へ向う。調理用の台もあるし、調理器具も揃っているようだ。
「卵はメインじゃなくてもいいんですよね?」
「構わん。ただし、ただ使ってるだけと言うのは認めん! メインになるものを引き立てるような使い方じゃないとダメだ!」
「わかりました」
私はマントの下で【ストレージ】から瓶を取りだし、調理台に置いた。今回のメイン食材が入った瓶だ。
いやー、最初はオムライスあたりにしようかとも思ったんだけどね? 宿屋での一件もあるし、面倒な事になっても困るからぱっと見で作り方が分からない方向で行こうかと。
「おい! それはなんだ!」
「玉葱です」
「……玉葱? その黒いのがか?」
「はい」
黒じゃないよ、飴色だよ。
ちなみに今回作るのはオニオンスープ。使う食材は玉葱と卵だけ。こう言う時は使う食材はシンプルなほうがいい。
鍋にお湯を張り火に掛ける。出したお湯はかなり高温の熱湯なので沸くのはすぐだ。瓶から飴色の物体をスプーンで掬って鍋へ投入。
この飴色の物体の正体は玉葱を炒めた物だ。
作り方は至って簡単。フライパンに油を引いて、それでスライスした玉葱を焦がさないように、飴色になるまで弱火で延々と炒めるだけ。但し、炒め時間は1時間くらいかかる。
時間は掛かるけど、行程はこれだけ。でもたったこれだけで驚くほど美味しいスープが作れる。しかもお湯で溶くだけで。
つまりこれはインスタントオニオンスープの元なのだ。
でも今回はちょっと手を加える。塩胡椒を少し加えて味を調え、食感に変化を加えるために新たにスライスした玉葱を入れて、シャキシャキ感がなくならない程度に軽く火を入れる。
玉葱に火が通ったら火から下ろし、そこに溶き卵を回し入れて蓋をして余熱で卵に火を通す。この時、火に掛けたままだと卵がふわふわにならない。
少し経ったら蓋を取ってゆっくりと混ぜてみる。うん、ふわふわ。
「できました」
スープ皿によそって村長さんのところへ運ぶ。
「……早いな」
「そうですね」
「あの黒いのが入ってるのか? 大丈夫なのか?」
「別に無理に食べなくてもいいですし、そのまま不合格でも構いません。気になるなら私が先に食べて見せますけど」
「いや、アンタが味見もしていたし、大丈夫だろう。それに、この匂い……味が気になって仕方ない。食うぞ!」
うん、これは匂いがやばいからね。今も広場中に漂ってて、見物してる人達が皆、物欲しそうな顔になってるし。
軽く周囲の様子を確認していると村長さんがスープを口にし、硬直した。でもすぐに動き出し、二口目。続いて三口目。
「……なんだ、これは」
はい、なんだこれ頂きましたー。
「恐ろしく、美味い。こんなもの食ったのは初めてだ。この濃厚な味……これは玉葱だ。玉葱の味だ。でもこんな濃い味ははじめてだ。それに、卵。この卵が実にいい。ふんわりとしていて、主張しすぎず、このスープの美味さを更に引き立てる……これが俺の卵なのか……」
グルメリポートはもういいから合否はー?
「合格ですか?」
「文句なしの合格だ!」
やっほう!
「レンさん! 何やってるんですか!」
私が喜んでいるとリリーさんとアリサさんが人ごみを掻き分けて私のところまで走って来た。
「リリーさん」
「こんな目立つ事して、もう! ああ、顔も隠さないと……」
リリーさんがフードを被せてくれた。あ、すっかり忘れてた。
「えーと、料理を作って合格すれば卵を売ってくれるというので……」
「だからってこんなところで顔を出すなんて! レンさん目立ちたくないんじゃないんですか? ちょっと危機感薄すぎませんか!? それにまだ私達も食べた事がないようなこんな美味しそうな料理を……」
「えっと、ごめんなさい?」
「知りません!」
拗ねたリリーさんも可愛いよね。ちゅーしたい。
「リリー、この人全然反省してないよー?」
ソンナコトナイデスヨ?