047 追撃の手は緩めません
というわけで今日はギルドの事務室でみんなとご飯です、レンです。
今日は流石にフードを下ろしたけど、やっぱりリリーさんとサレナさんがガン見で、ちょっと困る。ギルマスはそんなに気にしてないみたい?
あとは周囲の他のギルド職員だけど、そこまで気にしてたらご飯どころじゃなくなるので、なるべく気にしないように意識を切り替えよう。
さてさて! 今日のお昼は私のおごり! と言うか私が作った奴! と言うわけで早速メニューの紹介~
まず、スープ。エビのスープです。
エビの頭と殻を懇々と煮込んで灰汁取りして作った濃厚な奴。一応最後に味は調えた。これだけでイチコロだと思うけど、まだあるよ。
エビチリ。これは作るのにちょっと苦労した。衣つける為の片栗粉は既に作ったのがあったけど、豆板醤がなくて……作るにも材料足りなくて結局【創造魔法】で豆板醤作りました。
ラー油は以前北東の川上の森で唐辛子見つけたので、暇なときに作ってたから何とか。
ケチャップや酢も作ったのがあるし、長葱や他の材料も揃ってたのでそれで一応作ってみたけど、個人的にはちょっと物足りないかなあ。要、微調整。
主食には『炊いた』ご飯。この世界の米のレシピって基本的に煮るか炒めるかで個人的には物足りなかったので、土鍋を作って炊いてみた。出来は上々。箸が進むよ、やったね!
でも、私が取り出して並べた料理を見て、みんな何も言わない。動かない。
「えっと、召し上がれ?」
「その、これ、なんですか?」
「海老を使った料理ですね」
「海老って、あの、じゃりじゃりして生臭い?」
おおう、それは背ワタの処理してないって事? あれ? もしかしてこの世界の海老料理ってそのレベル?
「あー、それは下拵えをちゃんとやってなかったんでしょうね」
「下拵えですか?」
んー、海鮮類はレシピが少ないっぽいから、下拵えもやり方がわからない感じ? 他の料理にはちゃんとやってあるし南の村で出た料理はちゃんとしてたから、そういうのは内陸部だと仕方ないのかもしれない。
「えーと、とにかくそういうのは大丈夫です。食べてみてください」
「……わかりました、では」
恐る恐るフォークを伸ばすリリーさん。残る二人は固唾を呑んで見守っている。年下に毒見させるとか、貴方達は鬼か。
エビチリをひとつ口に運び、咀嚼する。もぐもぐ……一度、ぴたりと止まったかと思えば、肩が震えだした。そして、飲み込むと
「……なんですか、これは!」
大声を出したかと思えば、その後は猛然と食べはじめた。
「こんな! こんな料理! はじめてで! もう!」
そんなリリーさんの様子を見て固まってた二人も、ハッと正気に戻ると料理を食べ始めた。
「……なんだ、こりゃ。こんな美味いもの初めて食ったぞ」
「王都の一流レストランでもここまでのものは……」
「それに、このスープだ。恐ろしく濃厚で……これが海老の味なのか? 前に食った時はあの食感と生臭さが気になってよくわからなかったが」
「でもこの濃厚な旨みがこのお米と良く合います。このスープだけでもいくらでもお米がお代わりできそう」
「だが、こっちの海老の料理か? これがヤバイ。手が止まらん」
「この辛さが後を引いて、もう……ちょっとリリー! 貴方一人で食べ過ぎよ!」
ははははは。お代わりはまだあるよ、たくさんお食べ?
結局三人はお代わりしまくって打ち上げられたトドのようになってしまった。まさか用意していたお米が全てなくなるとは……ちょっと食べ過ぎじゃないですかね?
「もう無理ですー……」
「もう食べられません」
「食いすぎた……動けん」
でもまだ私のターン終わってないんだよね。
「じゃあ、これは食べられませんね」
「「「!?」」」
取り出しましたるは、フルーツゼリー。中に果実も入ってる。
いや、色々考えたんだよ。メープルシロップのお陰で砂糖は手に入ったけど、牛乳はない、卵もない。バターがちょっとあるだけ。
この世界、大豆はあるし南の村で豆腐も食べたから豆乳は作れたんだけど、でもそれだけだと焼き菓子なんかはつなぎがないから食感が悪いし……と南の村で試行錯誤してた時に天草が打ち上げられてるのを発見したんだよね。あとはそれを採って来てもらって加工してー、と。
「なんだこれは……」
「……透き通ってて綺麗……宝石みたい」
「それに、とてもいい香りがします」
今回は作ったのは葡萄のゼリー。赤ワインも少し混ぜたので凄くいい香りがする。ちょっと大人向けっぽいかんじ? 絞った果汁と砂糖で味も調えてあるけど、甘さは控えめにしておいた。結構色々がんばってみた。
え? 時期的に葡萄はおかしい? いやいや、これ採ったの去年の秋だから。森に引きこもってた時に自生してるのを見つけたので、そのときに採って保存してたのね。野生種のはずなのに品種改良したもののように甘くて粒も大きくて、やっぱりこの世界の植生おかしいってしみじみ思いました、ええ。
「でも皆さんお腹一杯みたいですから、食べるのは無理ですよね……」
「いえいえ、食べますよ! 寧ろ食べさせてください!」
「私も食べます! 甘いものは別ですから!」
「俺も食うぞ! さっきのやつはとんでもなく美味かった! これだってどんな味がするのか想像がつかん!」
「えっと、では、召し上がれ?」
でもこれも初めて見るものだからか、三人ともおっかなびっくりスプーンを差し込んで口に運んでる。そして咀嚼、嚥下。
「ふわあ……」
「美味しい……」
「甘いが、くどくないな。程よい甘さで葡萄の風味とのバランスが凄くいい。そして口の中に香りが広がって……これは、やばい……」
リリーさんは無言で食べてるし、サレナさんは恍惚としてる。ギルマスは何かグルメレポーターみたいにぶつぶつ解説しながら食べ続けてる。
うん、私の完全勝利だね。何に対してかは分からないけど。