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045 飯テロは鬼畜の所業ですね


 こんばんは、レンです。仮眠は寝過ごすことなく晩御飯の時間にちゃんと起きられました。少し寝ただけでも大分すっきり。そしてぐうぐうお腹が空きました!


 というわけで早速食堂に移動~ あ、当然フードは被ってるよ?

 でも食堂に着いて見回すと、満席。超満席。あ、でも一箇所空いてる。リリーさんが取っておいてくれたみたい。凄い笑顔で手を振ってるね、可愛い。


 リリーさんのところに合流して軽く会釈。


「リリーさん、こんばんは」


「こんばんは、レンさん」


「こんばんはー!」


 え、誰?


「あ、この子アリサっていいます。一緒にここで働いてるんですけど、丁度休憩時間同じで。それで、一緒にって誘ったんですけど……迷惑でしたか?」


「いえ、大丈夫ですよ。リリーさんが連れてきたなら、特には」


「あ、はい。そういうのは大丈夫です。いい子ですから」


「はい」


「ちょっとー、なに二人だけで分かり合ってるのー?」


「いえいえ、そんなことはありませんよ?」


「そうだよ、アリサ」


「えー」


 素直ないい子って感じ? 見たところ、青みがかった黒髪ツインテール。背はやや低めで、おっぱいはそこそこ。顔つきは可愛い系? あと、間延びしたしゃべり方だけど、元気系っぽい。


「さてさて、それでは早速ご飯にしましょうか?」


「えっと、今日は何があるんですか?」


「あー……」


 この宿は基本的に2~3種類程度の料理が用意され、客は好きなものを選んで食べる、と言う形だった。とは言っても基本的にスープが数種類あるとか、付け合せのサラダが若干違うとか、そういう程度。


「それがですね、例の料理のお陰でお客さんが増えてるという関係上、用意されてるのは……」


「ああ……」


 アレしかないのか。何と言うことだ。あの油でギトギトの、『オーク肉の……なんだっけ? 何でもいいか。

 何にせよ、アレしかないというのは困る。夜中に頻繁にトイレのお世話になる羽目になってしまう。それはもうごめんだ。


「えっと、他には何かないですか?」


「一応もうひとつあります。そっちもレンさんの作った奴ですけど」


 あれ? なにかあったっけ? うどんは無理だろうし……


「他に何か作り方が分かる様なの、作ったことありましたっけ?」


「ありますよ? 覚えてないんですか? 『腸詰のパンはさみ』です」


「腸詰の……ああ、ホットドッグ」


「ほっとどっぐって言うんですか?」


「はい」


 この世界、どうやらホットドッグも無かったらしい。薄切りにしたパンにハム等をはさむ、と言う感じのサンドイッチっぽいのは見たことがあるけど、態々食材を挟むためだけに切り込みを入れるという発想がなかった模様。サンドイッチっぽいのはあるんだから、そのぐらいは思いつきそうなものだけどねえ?


「取り敢えず持ってきますね」


「私も一緒に行くー!」


 って取りに行ってすぐに戻ってきた。ついでに私の分も一緒に持ってきてくれた。ありがとー


「これはこれで美味しいんですけど、こっちは作り方が単純なので他の所でも真似して作ってる所が結構出てきたみたいです」


「はさむだけだしねー」


「あー……でもこれ、このままじゃまだ未完成なんですよ」


「え!?」


「そうなの!?」


「はい、本来はこれと、これ。このふたつのソースを掛けて完成です」


 【ストレージ】からマスタードとトマトケチャップを取り出しながら説明する。

この二つは南の村に居たときに完成させたものだ。

 トマトケチャップは基本的にトマト煮込んで他にも色々入れて味を調えれば良いけど、マスタードは他にも色々必要なものが多くて大変だった。

 りんご酢がないからワインビネガーで代用しようと思ったら時期が悪いのか酢が品切れで買えなくて、仕方なくワインから自作してみたり。

 ターメリック……ウコンが見当たらなくて諦め掛けていた所で南の村にいた行商人がたまたま扱っていて買い占めてみたり。

 その時に分かったことだけど、香辛料やハーブは薬草として扱われているものが多くあるようで、薬を扱っている店や商人を訪ねるほうが良いらしい、ということだった。


「こんな感じで……掛けて、完成です」


「おおー……」


「これが真の姿……」


 大袈裟な。


「どうぞ召し上がれ?」


「そ、それでは」


「いざー」


 私も手にとって食べる。もしゃもしゃ。うん、この辛味と旨みが合わさって最強に思える。いや、他にも美味しいものなんて沢山あるけどね。

 ふと二人の様子を見てみると、恍惚とした表情になってた。蕩けきってる。正直、若い女の子が公衆の面前でしていい表情じゃないよ?


「なぁに、これぇ……」


「おいひいぃ……」


 この世界、調味料とかソースの類ってあんまりないからなあ。仕方ないと言えば仕方ない。いや、庶民レベルに無いだけで貴族料理にはあるのかも? うーん、食べてみたい。


「おかわりもありますよ?」


「いただきます!」


「私も!」


 はっはっはっ、たんとお食べ?


 ちなみに私はひとつ食べた後はスープとサラダを食べてお腹一杯。でも二人は結局三つずつ食べて苦しそうにしてる。

 そしてそんな様子を窺っていた周囲の視線がとても痛いのでマスタードとケチャップは早々に仕舞っておいた。なんだか盗ろうとしてるっぽい人もいたからね。


「はあぁぁぁ……」


「ふわぁぁぁ……」


 二人はまだ恍惚としてるけど、流石に周囲の人達が私に声を掛けようとしだしてるっぽいので、さっさと逃げることにする。


「それじゃ私、もう部屋に戻りますね」


「ふぁい……」


「おやすみなひゃい……」




「あ、ちょっと待っ……」


 近くにいた知らない人が声を掛けて来たような気がするけど聞こえなーい。揉め事はごめんですよー。ばいばーい。


 そのあと時間ギリギリにお風呂に入ってから就寝。明日の朝騒ぎになりそう? もう眠くて仕方ないからその時に考えるよ。 おやすみー


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