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044 閑話 とあるギルドマスターの話


 俺はウォーゼル。ここ、ハルーラの冒険者ギルドでギルドマスターなんてのをやってる。昔なじみに無理やり押し付けられてやらされてると言ったほうが正しいか。


 この街は立地は悪くない。ここはムバロ伯爵領からネイザン男爵領との大体真ん中辺りに位置する。

 その関係上、流通の上では割と重要だ。しかも南北に濃い採集地があるのもいい。だが、微妙と言えば微妙な位置だ。お陰で名前を売りたい奴や稼ぎたい奴はみんなどっちかの領都のほうに行っちまう。


 ギルドも同じだ。いい人材はそっちに行く。さらにもう少し足を運べば王都までいける。正直人手不足でこんなところのギルマスなんて誰もやりたがらない。

 そんなところで無理やり面倒な仕事をやらされてるわけだ。もうとっとと王都に帰って隠居暮らししたいもんだ。


 それでも仕事をしないわけにもいかないわけで、何とか人を回してもらえるように王都や領都のギルドに掛け合ってその目処をつけたりはしてみたが、それでも人が集まってくるのはまだまだ先だ。色々調整しないといけないからな。

 そんなわけで今日もここハルーラは人材不足だったりするわけだ。


 そんなある日のことだ。

 その日も面倒な書類仕事に追われていたわけだが、俺の執務室に急に職員が駆け込んできた。なんでも冒険者がやらかしたらしい。

 話を聞いてみるとジギーとキンブルの二人だとか。


 あの馬鹿共が! いつかやると思ってたぞ!


 この二人は前々から素行が悪い奴らだった。何年か前にも新人をだまして金を巻き上げようとしたり、13歳未満の採集しかできない餓鬼共から巻き上げたりと、まさにクソのような奴らだった。実力も無いのに態度ばかりでかくて正直俺も何度殴り倒してやろうと思ったか分からん。


 っと、話が逸れたか。

 とにかく、詳しいことを聞いてみないことにはどうにもならない。幸い被害者は五体満足で生きて街に帰ってきたらしく、その足で報告に来たそうだ。しかも道中で同行することになった第三者と言う立派な証人付き。言い逃れは出来ない。これであの馬鹿二人を処分できると思うと、正直清々する。


 執務室に連れてこられた商人と同行者を見て、まず驚いたのがその同行者だ。小さい。まだ子供か? 背丈から見るに12~13歳位か? いや、それにしては胸のあたりの発育がいいようだ。背がやや低いが14~15位か? いや、それよりもこの狼は何だ? 従魔? この大きさ、グレーターウルフか? いや、それにしては毛並みなんかが全然違う。もっと別のヤバイ奴かもしれん。

 っと、今はそれよりも話を聞かないといかんな。


 話を聞いてみれば、もう完全に言い逃れの出来ない違反行為だった。こりゃ鉱山奴隷行きだな。当然の末路だが。

 だが話を詳しく聞いてみればこの小さい嬢ちゃんがオークを蹴散らしたと言う。従魔の狼がやったならまだわかるが、この小さい嬢ちゃんが?

 話の途中でフードを降ろしてもらって二度驚いた。まだ大分幼さが残ってるが、かなり整った顔つきだ。今はまだ可愛らしいといったほうがいい様相だが、成長すればかなりの美人になるだろう。しかもなんだか妙な色気がある。なんなんだコイツは。


 その後、色々話を聞いてみると倒したオークを持って来ているという。魔法の鞄だと言っていたが、多分高レベルの【アイテムボックス】か【ストレージ】持ちだろう。

 買取の時に出したオークは見た所、まったく傷んでなかった。一日でも経てばそれなりに変化は出るものだ。こう見えても元Bランクだ、その位は見れば分かる。

 フードを取りたがらない事といい、収納スキルと言い、恐らく顔かスキルかで何か揉め事に巻き込まれたって所だろう。行動が一々なるべく目立たないようにしている感じだ。無駄なようだが。

 しかし話をすればするほど驚くことばかりだ。従魔のこともそうだが、オークは綺麗に倒されてるし、まだ冒険者じゃないとか言い出すし。しかもこの顔立ちと胸と色気でまだ11歳? 何の冗談だ?

 だが驚くのはその日だけではなく、次の日以降も続いた。

 採集に行けばとんでもない量の薬草を持ち込む。しかも稀少な物も大量に。

 採集に行ったはずなのに魔物を沢山倒してくる。更にそれを売ろうとしない。その上オーガまで倒していた。これについては売るように言ったが。

 しかし、サシでオーガを倒せるとなると、やっぱり あの狼はグレーターウルフなんかじゃなく……いや、一々俺が突っ込まなくても見る奴が見れば直ぐわかることか。そういうレベルの奴ならわざわざ指摘したりもしないだろうしな。

 そのうち、気付けば孤児の餓鬼共を連れて採集して回っているとかで、ここ最近の薬草の納品量が一気に増えた。お陰で回復薬の出回る量も増えて、それによって冒険者達の怪我も減った。良い事尽くめだ。

 これで討伐も出来たら言うことなかったんだが……まだ11歳じゃあ仕方ない。


 嬢ちゃんが来てからというもの良い事尽くめで喜んでいたんだが、ある時からぱたりと見かけなくなった。何でも南の村のほうに行ったらしい。

 そのうち戻ってくるとは言っていたらしいが、薬草の納品量が減るのは正直痛い。だがここから南の村までであれば1~2週もすれば戻ってくるだろう。


 そう思っていたが、全然戻ってこない。何をしているんだ、あの嬢ちゃんは!


 そんな折、オーガの群れの目撃情報が入った。どうやら嬢ちゃんが倒した奴は遠い所からの先遣だったようだ。

 目撃情報が入って直ぐに被害が出始め、ついでにオーガが来た方角も分かった。

 西の大森林から来たらしい。西の森とハルーラの間にある村も幾つかやられたらしい。このまま放置しておけばここもやばい。

 俺は直ぐに討伐隊を組むことにし、領都に連絡を取ってCランクのパーティーを送って貰った。ハルーラにもCランクのパーティーは居るが今すぐ動けるのはひとつしか居なかったからだ。

 目撃情報ではオーガの群れは20匹程だという話だ。なら後は人数が居れば何とかなる。Dランクでも有望な連中をかき集めて、すぐさまオーガ討伐に出た。当然俺も行く。


 だが、そこで予想外の出来事がいくつもあった。

 まずオーガの群れだが、ただの群れではなく指揮個体が居る群れだった。それが上位個体だったらまだ何とかなったが、よりにもよって支配者級のオーガロード。群れの戦闘能力は劇的に向上する。当然討伐隊のDランクはあっさり蹴散らされた。

 俺とオーガロードのサシだったら何とかなったが、討伐隊の連中を守りながら群れを相手にするのは余りにも分が悪すぎた。

 全滅を覚悟した時、急に見覚えのあるでかい狼が手紙を持って現れた。

 Cランクの連中に暫く持ちこたえるように伝えその手紙を読んでみればそこにはふざけた内容が書かれていて、俺は眩暈がした。


 おいおい嬢ちゃん、本当にオーガロードを倒せるのか?


 だがここで俺を含めて討伐隊が全滅なんてしようものなら人材不足のハルーラは終了だ。俺は天に祈る気持ちで狼にお願いしたね。


 そこからはあっという間だった。笑うしかない。

 あれよあれよと取り巻きのオーガは倒れていき、護衛の減ったオーガロードに狼が襲い掛かったと思ったらいきなりオーガロードの足が吹っ飛んで首が飛んだ。正直意味がわからん。


 オーガロードが死んだ後、俺は討伐隊の連中を残ったオーガの掃討に行かせて嬢ちゃんと少し話をしたが……なんというか正直何を考えてるかよくわからなかった。目立ちたくないというのは分かるが、それにしても……

 とにかく、この嬢ちゃんは良く分からん。多分、無理に理解しようとしないほうが良い。



 その後、街への帰り道の途中で道端に座り込んで休んでる嬢ちゃん見た時にはまた眩暈がした気がした。


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