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041 振り返れば奴が居る

 

 牛を無残な姿に変えたあと、村に帰るとお祭り騒ぎだった。


 やめて! そっとしておいて! などと言う願いは聞き届けられず、宴会に巻き込まれる羽目に。

 主役が居ないと話にならないとか言われても、別にそういうの間に合ってますから。いや、ご飯は美味しかったけど。


 村出身の冒険者諸君がちらちらこちらを見てたけど全力でスルー。ノルンが居なかったらもみくちゃにされていたね。流石私の女神。もうほんと大好き。

 なので牛退治の様子についてはロベルトさんと冒険者諸君が村人にしてくれました。でも、歓声が上がるたびに視線が集中して酷く落ち着かない。せめてゆっくりご飯食べさせてください……


 タイミングを見計らって宿に逃げ帰ると、暫くして屁理屈を考えたギルド職員さんが手紙を持って来た。今回の顛末について書かれたもので、ハルーラに帰ったらギルドマスターに見せるように、との事。

 私が罰を受けたりしないように考えてくれたらしい。正直ありがたい。



 さて、次の日になって私はハルーラに帰ることにした。

 昨日の一件の所為で非常に居心地が悪い。朝一で市場で最後の魚介類の買占めをした後、こっそりと村を出て行くことにした。


 途中で村人Aに見つかったけど、引き止める言葉もそのままに爽快に逃走。ところが村を出て暫く歩いているとロベルトさんが追いかけてきて、馬車に乗せてくれた。

 ハルーラ行きの街道にも途中で領都への分岐路があるので、昨日のお礼代わりにそこまで乗せてくれるらしい。いや、楽できるから助かるけどね……


 分岐路でロベルトさんと別れた後はハルーラを目指してゆっくりと徒歩で移動。確か3~4日も歩けば着く筈?

 とはならずに、予想通り往路で三週間引き篭った森で三日ほど過ごしました。仕方ないよね。うん、仕方ない。日課もこなさないといけないからね。



 そんな感じでだらだら進んでいると、左手のほうにやっとハルーラの南の森が見えてきた。

 懐かしいなあ。結局一ヶ月以上遠出してたしなあ。


 ここからがまた長いんだよなあ、なんて考えながらてくてくと歩いていたら、少し先の辺りの森の中から、冒険者風の二人が転がり出てきた。

 なんだか凄く慌ててるような、切羽詰ってるような? なんて思う暇もなく、木々をなぎ倒しながらオーガが現れた。


 え、オーガ? なんで? このままだと危ない? 助けたほうがいい? ああ、でも緊急時に一般人や商人を助けるならともかく、他の冒険者の獲物を横取り、と言われても仕方ない状況の場合はスルーするのもありなんだっけ?

 無駄に目立つのも嫌だしここはスルー一択? と、判断しようとしたところで、尻餅をついた冒険者と目が合った。


「た、助けてくれ!」


 あいあい。ダガーセット、ライフリングバレル展開、速度400。発射。


 側頭部に命中。握りの部分まで埋没した。だと言うのに、倒れない。


 あれ? 威力が足りてない?


 その場で立ち止まったオーガがゆっくりとこちらに顔を向けると、目が合う。あ、もしかしてまずい? と思ったら膝から崩れ落ちた。倒せなかったかと思ってちょっと驚いた。


 先日の牛の時にはすっかり失念してて速度800なんて使ったけど、ライフリングバレルを使えばよかったのでは? と思って試してみたのだ。失敗かと思ったけど速度400でも大丈夫そう?

 そもそも、あのサイズのダガーが握る部分も含めて丸々頭に刺さって生きてるってありえないよね、うんうん。

 取り敢えず助けた人達のところに向う。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ、助かった」


「えっと、このオーガは私が頂いても?」


「……ああ、構わない。俺はなにも出来なかった」


「おい、俺達が戦ってたところに横からきたんだぞ? 俺達にも分け前をもらう権利があるだろ?」


「そう思うならお前一人で交渉しろ。俺はまったく歯が立たなかった。その上助けてもらったんだ。なのにそんな厚かましい事を言うなんて、とても出来ない」


「……いや、そうだな。俺もいい、持って行ってくれ」


 んー、揉めるくらいなら別に山分けでもいいんだけど……まあ、全部貰えるなら貰っておこう。

 オーガを収納しながらちょっと質問。


「何でこんなところでオーガと?」


「うん? ああ、知らないのか。

 一週間位前にオーガの目撃情報があったんだよ。で、その後直ぐに被害がいくつも出た。死人は無かったけどな」


「それで、ギルド主体で討伐隊が組まれることになったのさ。

 斥候の話だとオーガ20匹位って事らしくて、少し多目にCランクが2パーティー、Dランクが5パーティーだ。多少怪我はするだろうが十分すぎる戦力だ。普通なら、な」


「ああ、そのはずだった。でも実際森に入ってみれば、唯のオーガの群れじゃなかった。オーガロードに統率された群れだったんだ」


 オーガロード……


 オーガに限らず、支配者級が統率する群れは戦闘能力が跳ね上がる。ゴブリンであればゴブリンキング、オーガならオーガロード。或いはそれらに準ずる上位個体。そういった上級の指揮個体が居る群れは配下の個体に対してスキルによって支援効果が与えられ、各能力値に補正が掛かる、らしい。


「ウウウウ……」


 あれ? なんでわからないけど、さっきからノルンが不機嫌だ。どうかしたの?


「それで、どうなったんですか?」


「……森に入って暫くはよかった。遭遇するオーガは1~2体で、囲めば普通に倒せた。でも、5体程倒した後だった。ロードが統率する群れに遭遇したんだ。圧倒的だったよ。Cランクの連中は何とか頑張ってたが、Dランクがあっという間に蹴散らされて逃げる羽目になった。俺もだけどな」


「多分、今も森の中で戦ってる。囲まれて、とても逃げるどころじゃないはずだ……」


「そうですか……でも、オーガロードなんて急にどこから」


「なんでも、西の森の方から来たらしい。途中にある村も幾つか襲われたそうだ」


 西の森から……て、西の森? って、私が引きこもってた森? あの森にそんなやばい奴がいたとは……んん? 前にもこんなこと考えたことがあったような? なんだかノルンも不機嫌だし、何かが引っかかる。


 …………あ、もしかして。


「ノルン、初めて会った時、怪我してたよね? あれってもしかして?」


「グルルルル!」


 どんぴしゃ、正解っぽい。


 あの時ノルンに怪我を負わせたのが、多分、今この森に居るオーガロードなんだ。それを聞くとノルンの為にも仕返ししてやりたい気分になってくるけど……


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