040 何事も程々が一番
と、そんな感じで色々集めてる内に数日が経過。
その日の午後も岩場の方でボーっと製塩したりしていると、なにやら村のほうが騒がしい。なんじゃらほい?
村に戻って聞いてみると、領都へと続く街道の途中に大きい牛系の魔物が出たらしい。既に怪我人も出てるとか。
今村に居る冒険者はほとんどが商人の護衛だ。残った少数は村出身の人達ばかりで、せいぜいがゴブリンを相手に苦戦するレベルだとか。
それらの冒険者達の中でも、件の魔物を相手取れるような手練の冒険者となると、商人の護衛に雇われてる人の中でも一部らしい。
私? 私は討伐は受けられないから、どうしようもない。でも牛肉か……食べたいなあ。
なんて不埒なことを考えてたら馬車が数台戻ってきた。噂の牛の魔物に襲われたらしい。
その人達から聞いたところによると、牛の魔物の正体はマッドブル。基本的には魔物化して巨大化した牛、と言う認識で間違いない。但し、その中でもかなり上位に位置する。
しかも今回出たのはかなり大きい個体らしく、二回りは大きいとの事。但し、その数は一体。
牛系の魔物は徒党を組むことが多いので、今回のケースはかなり珍しい。
……一体なら倒せるかな? 未だに実戦でダガーを試してないし、試してみてもいい気がする。
暫く迷っていると、戻ってきた商人の中にロベルトさんが居るのに気付いた。向こうも気付いたようでこちらに寄ってくる。
「いやはや、参ったよ。危うく馬車を壊されるところだった」
「大丈夫だったんですか?」
「別の商人が一人、馬車を破壊されて荷物もそのままに逃げてきてる」
「それはなんというか……ご愁傷様ですね」
「まったくだ。いや、笑い事じゃないんだけどな」
苦笑しながらそう言う。
「そういえば、アンタは討伐に行かないのか? 何人かは行ったみたいだが」
「その、私まだ11歳なので、討伐は受けられないんです」
「……そうだったのか」
ちょっと驚いた様子だけど、余計な事を言わないところは好感が持てるね。でも視線が私の胸部装甲の辺りを彷徨ってるので、その分は減点。
「しかし、そうするとどうしたもんかな」
「何かあるんですか?」
「いや、向った連中、全員この村のやつなんだがな?
とてもあれを倒せそうな連中じゃないんだよ。でもアンタの狼とあの変な攻撃なら倒せるんじゃないかって思ったんだけどな」
んー、そう言われてもなあ。討伐目的で倒してしまったら私が罰を受ける。こっそりやればいい? これだけ騒ぎになってるのに、それは無理。すぐばれる。
「正当防衛で返り討ち、じゃないと私が倒すのは拙いですね。あとはロベルトさんを助けたときみたいに緊急だった場合とか」
「……アンタ、村に用事があって来たって言ってたよな? もう終わったのか? 終わってるならその後の予定は? 領都に行くなら移動の途中で襲われたって事なら」
「すみません、用事はもうちょっとかかります。それに、その後はハルーラに帰る予定で……」
「それじゃあ無理か……」
「すみません、ちょっと良いですか?」
二人で唸ってると、後ろから声をかけられた。
で、私は今馬車に揺られている。ノルン達も一緒。
あの後声をかけてきたのは、なんと冒険者ギルドの職員。
私なら倒せる前提で色々話し込んでたのが聞こえて、何とか抜け道がないか考えてくれたらしい。余計なことを……
提示された方法はこうだ。
まず、私がロベルトさんから護衛依頼を受ける。護衛依頼はDランク以上推奨。但し、推奨であって限定ではない。
次に、ロベルトさんは村に忘れ物をしたまま領都へ向う。その途中で牛を倒し、その時に忘れ物に気付いて村に戻る。
村に戻ったところでロベルトさんは契約上の不備に気付き、護衛依頼をキャンセル。
抜け道どころか酷い詭弁だけど、建前があればどうとでもなる、と職員さんは言っていた。いいのか、それで。
と言うか流されるままここまで来ちゃったけど、別に私が倒さなくても良いよね? 放って置いても良かったよね? なんだかこういうミスしょっちゅうやってる気がする。目立ちたくないのに……
釈然としないまま馬車に揺られてると、やや遠くに牛が見えた。この距離であの大きさって、遠近法狂ってない?
でももう私は色々面倒になって早く帰りたくなってるので、さっさと倒してしまいたい。ここからの狙撃で倒してしまおうと目を凝らしてみると、先に村から出て行った冒険者達が蹴散らされてるのが見えた。
んー、邪魔だね。誤射しそう。
どうしたものかと考えてると、蹴散らされた冒険者諸君がこぞってこっちに走ってくる。戦術的撤退?
「おい、撤退か?」
「ロベルトか!? ありゃ無理だ! とても倒せそうにない! せめて街道から追い返せればと思ったんだが……」
「そりゃゴブリン相手に苦戦するお前等じゃ無理だろ?」
「そう言うなよ! というか、お前は何しに来たんだ? 馬車壊されちまうぞ?」
「ああ、アレを何とか出来そうな心当たりがあってな、ちょっと無理言って連れてきた」
「あれを!? もしかして、そのちっこいのか!? 無理だろ!」
小さくないよ。ああ、ノルンが怒ってる。静まれー静まれー
ノルンをなだめてる間にもロベルトさんと冒険者達が色々言い合いを続けてるけど、もう早く帰りたいからさっさと終わらせることにしよう。馬車から降りて前に出る。
「ノルン、狙撃しやすいようにあれを上手くこっちに向ってまっすぐ誘導、お願いできる?」
「わふっ」
ノルンがものすごい速さで駆けて行ったかと思えば、牛の足元で動き回って動きを邪魔してる。うん、いいね。暫く見てるとこっちに向ってきた。
ダガー照準。速度400。発射。
ボヒュッ! ドン!
……あれ? 一瞬止まったけど、そのままこっちに向ってくる? もしかして頭蓋骨が分厚すぎて抜けなかった? 普通、拳銃とかなら貫通しそうな……あ、ダガーだから? うーん、オークだったらいけたんだけどなあ。仕方ない。
ダガー照準。速度800。発射。
ドキュッ! ボン! ……ズシン。
なんだか酷い音が聞こえて、頭部が半分吹き飛んで牛が倒れた。
あれ? 今度はやりすぎた? まあいいか。うーん、そのうち間を取って速度600とかも試しておこうかな?
「終わりましたよ」
振り返ってそういうと、皆固まってた。
……やっぱりやりすぎたかもしれない。