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030 些事雑事に煩わされます


 朝ー。朝だよー。ご飯食べて仕事に行こう。

 食堂へ行って朝ご飯。普通のメニューだった。食べながら周囲を観察すると、他のお客さん達が何か言いたそうに私を見てるし、コックさんが厨房から顰めっ面で睨んでるけど全て華麗にスルー。

 食事を終えて宿を出ようとするとリリーさんが恋する乙女の顔でこっちを見つめてたので軽く手を振っておいた。



 さて、ギルドへ移動、ではなくそのまま街の外へ。昨日窓口のお姉さんに常時依頼の薬草採取はそのまま行って大丈夫と教えて貰ったからね。

 街の外に出ると周囲で採取してた子供達のうちの何人かがこちらに気付いて近寄ってきた。でも別に何か話すとかは無い。

 ノルンをお供に南の森目指しててくてく歩く。その後ろをぞろぞろと……昨日より多くない? えーと、15人くらい? うん、好きにすればいいよ。別に魔物に襲われても助けないからね。



 という訳で森に到着。今日は昨日までよりももう少し深いところまで行ってみよう。この辺りは昨日も余計な連れがいた所為で余り残ってないし。


 1年間の引きこもりで山歩きは慣れたもの。まあ、あんまり体力はないんだけどね。それでもひょいひょいと進んでいくと後続がどんどん離れていく。

 ちらっと後ろを確認してみると、先頭は昨日話しかけてきた男の子。目が合うと顔が赤くなった。

 うーん、見た感じ11~12歳くらい? その直ぐ後ろに10歳くらいの女の子。

 さっきの男の子が声をかけてる。友達か、妹か、そんな感じかな? 女の子の方が若干遅れ気味だったので、何となく足を止めて距離が縮むのを待ってみる。気まぐれだからね。次はないからね。

 私が待ってるらしいと気付いた子達がちょっと焦ったように急いで歩こうとしてる。

 そんな感じのことを2回ほど繰り返した頃に小さな群生地を発見した。今日はここで採取しよう。

 と言っても全部自分で取るのは面倒なのでぱっと見た感じでは分からない程度に【ストレージ】で間引き。この群生地全体の半分くらい? また在庫が増えた。あとはゆっくりでいいかな。



 私がしゃがみこんで採取を始めると、後ろに居た子達も散って行って各々採取を始めた。

 30分ほど経った頃に、さっきの男の子が近づいてきて話しかけてきた。


「あの、さっきはありがとうございます」


「唯の気まぐれです」


「そうだとしても、それでもお礼が言いたくて……

 あいつ、ユイって言うんだけど、俺の妹で、ちょっととろくて……待っていて貰えなかったらはぐれてたかも」


「口よりも手を動かしたほうがいいと思いますよ」


「え、あ、はい。がんばります。ありがとうございます」


 何故礼を言うのか。いや、余り気にしないようにしよう。情が移ったら大変だ。何かあったら助けてしまうかもしれない。でも面倒事はいやだからね。



 そのまま昼頃まで薬草採取。お腹すいた。んー、面倒だから今日はこのままここで食べよう。そう思って顔を上げるとそこにはオークの死体が3体。ノルンさん、だめよ、子供達が見てる!

 無言で収納。何も無かった。私は何も見なかった。

 うーん、昨日のうどんが残ってるからそれでいいや。【ストレージ】に仕舞っておけばいつでも出来立てのままで食べられる。便利だね。

 どんぶり等を出してあっという間にうどんの準備完了。ずるずるずる。唐突に食事を始めた私に困惑する子供達。昨日も居た子達は直ぐに立ち直ってご飯の準備を始めてた。


 30分ほどするとみんな食事も終わったみたいだけど、なんだか妙にこちらを窺ってる。なんだろ?


「あの……」


 あの男の子だ。


「なんでしょう?」


「今日は、このあとどうするんですか? 別の場所に移動して昨日みたいに何かするとか、もう帰るとか」


「今日はこのままここで採取を続けますよ」


「そうですか……助かります、ありがとうございます」


 私の予定を聞くと急いで他の子のところに戻ってその話しを伝える。みんな大喜びの様子。

 唯の気まぐれだからね、気にしないで良いよ。いざとなったら見捨てるからね。

 ……ほんとですよ。



 その後も2時間ほど採取を続けたあと、切り上げて帰ることにした。基本的に夕方の混む時間は避けたいので、早めに帰るのだ。今からだと4時頃には街に着くはず。

 でも子供のうちの何人かは不満な様子。何でもいつもの5倍は稼げそうだとかで、もう少し採取して行きたいらしい。うん、なら好きにすればいい。私は別に君達の引率でも護衛でもないから。

 あの男の子と言い合ってるのを無視してさっさと移動開始。そんな私に気付いて慌てて着いてくる子供達。

 森の移動中もまだぶつぶつ言う声が聞こえたので移動速度を上げたら静かになった。このレン、子供相手でも容赦はせん!


 街に帰ったらまっすぐ���ルドへ行って換金。今日も小金貨10枚分。それでも在庫はまだまだ沢山残ってる。

 今日も早めに帰って何か作ろうかな? 何が良いかな? とご飯に思いを馳せているとあの男の子が。


「あ、その、帰りはすみません」


「別にあなたの所為じゃないでしょう?」


「いや、あいつに声をかけたのは俺なので……」


 少し話を聞く。この子、名前はシン。12歳。実は2日目から付いてきてたらしい。2日目はいつもの倍近い稼ぎになって驚き、そして昨日は午前だけの採取時間で倍以上の収入になった。それで今日は友人数人と妹にも声をかけたのだそうだ。

 妹は要領が悪いところがあるので今日は森の奥まで進んだから心配になったとか、帰りに友人が馬鹿な事を言い出した事で気を悪くしてないかとか……つまりは、人のお零れに与る立場なのに勘違いしちゃった友人の尻拭いで頭を下げにきた、という事だ。


「それで、その……」


「別に明日以降も勝手に付いてくるのは構いません。今日の帰りみたいに勝手な事を言うのも自由です。今日だって別に一緒に帰ってこないで採取を続ければ良かったんじゃないですか? 私には関係のないことですし」


「それは……その、すみません」


「いえ、何をするのも自由ですよ。お気になさらず」


「あいつは明日からは付いて来ない様にさせます」


「……ご自由にどうぞ」


 そのまま別れて宿へ向かう。

 多分、あの子達も孤児だろう。但し、孤児院に居た私と違いストリートチルドレンとか、そういう類の。

 生きるために必死なのは分かる。私だってそうだったし、今だってそうだ。だから多少の目溢しはする。でも、勝手に変な要求をされるのは困る。

 きつい物言いだったかもしれないけど、私にだって都合はあるし、そもそも彼らとは仲間でもなんでもない。勘違いされては困るのだ。

 ……関わりすぎて情が移ると困るし。

 あまり面倒なことになるようなら採取場所を変えるしかないかなあ。確か北東の方に川があったはず……そっちでなにか……?


 宿に着いた。

 ささくれ立った心を慰めるために何か美味しいものを作って食べよう。今日はノルンがオークを獲ってくれたのでそれを使って生姜焼きがいいかな? 厨房の利用許可を貰おうとリリーさんに話しかけたら、コックさんが割り込んできた。


「おい、アンタ。そう頻繁に厨房使われるとこっちも迷惑なんだよ。いや、何も使わせないと言ってる訳じゃないぞ? 相応の代価ってもんを払ってもらえれば構いやしない。だから今日からは代金代わりに作る料理のレシ」


「それは失礼しました。まさかそこまでご迷惑だったとは思いませんでした。もうこのような無理は二度と言いません。申し訳ありませんでした」


 うん、何も無理に貸してくれって言った覚えはないからね。揉め事はいやだ。え? 代価? 何か言ってた気がするけど気のせいでしょう。


「おい、待て、そうじゃない。代わりにレ」


「いえ、無理を言ってまでお借りする理由もありませんので。では失礼します」


 さっさと部屋に引き上げることにする。リリーさんがショックを受けた顔してた。ごめんね、もう君にご飯を作ってあげることは出来ない……



 入浴しながら考える。

 これから先、自分で食べたいものを作るにはどこか別の場所で厨房を借りるか、何とかしないとだめってことかー、どうしよう?

 んー、厨房を借りた理由はそもそもは火だよね? つまり、竈。なら竈の代わりになるもの。持ち運びできるガスコンロ的なものがあれば、採取で外に行った時に作れる? なにかそう言った魔道具とかがあればいいんだけど、探してみるか、作ってみるか……魔道具となれば魔石がないと作れない。作り方はよく分からないけど、そこは【創造魔法】でごり押し。魔石はそこそこ持ってるけど、量は足りるかな?


 ……魔石と言うのは魔物や魔獣の体内にある魔力を帯びた特殊な石のことだ。魔物が魔物たる所以でもあり、魔物の弱点でもある。でもその利用方法は多岐に渡って存在する。だから魔物の討伐においても、弱点だからと言って魔物を倒すために魔石破壊を狙うと言うのは、よほど厳しい相手じゃないと行わない。


 ガスコンロっぽいものを作るなら火の属性の魔石がないとかな? 買い集めると高くつくし、手持ちの量で足りると良いんだけど、私が持ってるのは今までに倒したゴブリンやオークのものばかり。低位の魔物の魔石は質も良くないし大きさだって小さいのばかりだから、正直手持ちの分だけだと微妙かもしれないけど……んー。



 結局後日探して回るのが面倒になってしまい、晩御飯の後で自作してみた。出来はなかなか悪くないと思う。魔石もそんなに使わなかった。【魔法付与】スキルのお陰で魔石への属性付与自体は簡単にできた。でも作業自体は色々試しながらだったので魔力を使いすぎて倒れるように眠りに落ちた。


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