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028 最近歳の所為か油っぽいものを食べると胃がもたれます


 冒険者生活3日目! 今日は予定変更してお仕事はお休みにして街の探索と買い出しに行こうと思います。小麦粉とか色々買いたい。あと武器とか。


 という訳でまずは腹ごしらえ。今日の朝ご飯はなんじゃらほい? ……またホットドッグもどきでした。いや、スープはちゃんと作ってあるよ、でもね……なんだか凄いがっかり。

 宿を出るときに見覚えのあるポニーちゃんがいたので軽く手を振っておいた。そういえばまだ名前聞いてないなあ。


 まずは武器屋かな。という訳でノルン達も連れて武器屋を探してみる……無い。そもそも土地勘とかないんだから自力で探すと言うのが無謀だった。ギルドに行って窓口の人に聞くほうが利口かも。という訳でギルドへゴー。


 ギルドに着いて空いてる窓口を探す……あった。


「すみません」


「はい……あら? 今日も採取ですか?」


「ああ、いえ。今日はちょっと武器屋の場所が知りたくて。自分で探して変な所に行くよりはギルドで聞いたほうがちゃんとしたところ紹介してもらえるかな、と思いまして」


「そうですね、そのほうがいいと思いますよ。うーん、お勧めの武器屋は……」


 2ヵ所ほど教えてもらった。1ヵ所は革系の防具類も扱ってるところ。もうひとつはオーダーメイドで武器を作ったりもしてくれるところらしい。でも欲しいのは使い捨ての投げナイフだから前者のほうでいいかな。防具に関しては『私の胸がきつくない、動きを阻害しないデザイン』という曖昧な指定で自作してるので、そっちは取り敢えずは必要ないと思う。ああ、でも服とかも欲しい。折角可愛い女の子に生まれ変わったんだから、着飾りたい。誰かに見せる予定とか無いけど。

 んー……いや、布があれば自作できる? うん、これだ。


 なんて考えながら武器屋に到着。偏屈そうな鍛冶屋のおっさん、ではなく普通に愛想のいいおねーさんだった。ちょっと筋肉多め。で、早速ナイフを見せて貰った。細いナイフで貫通しちゃうとダメージが減るから、幅広で、肉厚のやつがいいかな? それなら刺さったままで動きが阻害されるだろうし、貫通した場合でも出血が多くなりそうだし?

 色々見てるといい感じのスローイングダガーを発見。一本銀貨1枚。少しお高い。取り敢えず100本購入。合計金貨1枚。ちょっと多い? でも身の安全は大事。あとで強化しておかないとね。

 まとめて買うと言ったら10本おまけしてくれた。鞄に仕舞う振りをして【ストレージ】に収納。


 ついでに短剣を幾つか見せてもらった。【鑑定】で見てみたけど、正直自作の短剣のほうがずっと出来がいい。数打ちとか鋳造だとこんなものかな。

 力作と言うものも見せてもらったけど、うーん……炭素含有率とか、配分の均一化とか、全然なってなかった。もうひとつの武器屋も見てみようかな? うーん……


 結局もう1ヵ所の武器屋は行かないで服屋へ移動。この世界、服は古着が基本だ。ざっと見たけど、うん、ぼろい。可愛くない。やっぱり自分で作ろう。

 という訳で店員さんに場所を聞いて布屋へ移動。色々な布を沢山買い込んだ。こちらは銀貨5枚分ほど。店員さんが凄い驚いてた。帰るときはお見送りされた。

 ……また来るかどうかは結構微妙だけどね。


 さて、武器と服はこれでおーけー。次は食材。でもどこに行けばいいんだろうか? 分からない。ギルドで聞くのも違う気がする……んー。

 空を見上げるとそろそろ昼時っぽい。一旦宿に帰って昼ご飯食べよう。という訳で宿に戻る。

 帰ってきた宿でお昼。メニューは兎肉のソテーっぽいものがメイン。あと具の少ないスープとパン。お米食べたい、パン飽きた。

 もきゅもきゅ食べてると厨房のほうから声が聞こえる。


「だから、これじゃ全然違います! 私が食べたのはもっとさくっとしてて柔らかくて! 噛めば噛むほど美味しさが溢れ出して……」


「横で見てたお前の言うように作ったんだろうが! 大体これだって今までにないくらい美味いぞ!? お前が言う美味しいって一体どれだけだよ!」


「だから! もう、意地張らないでレシピ聞けば良いじゃないですか!」


「この俺にあんな子供に頭下げろっていうのか!」


 うーん、良く分からないけどなんだか大変そうだねえ。むぐむぐ。


 ご飯を食べ終わった後、別の給仕さんに市場の場所を聞いて移動。

 おお、随分にぎわってるね。いいねいいね。

 色々見て回ると、じゃが芋発見! 【鑑定】で鮮度チェック、うん、採れたて。まとめて買った。ポテトサラダ、フライドポテト。蒸かしただけのも捨てがたい。いや、バターがあれば……うーん。

 更に探索、トマト発見! チーズはないっぽい。バター発見! ……どこかで牛乳売ってないかな。

 小麦粉は、混ぜ物が多いものばっかりでちょっと買う気になれない。せめて稗とか粟とか食べられるものだったら考えるけど、砂とか石とか……殺す気?

 【ストレージ】で操作すれば分けられるとは思うけど、気分的によろしくない。なのでせめてマシなものを探す。いや、こんな世界だからね。分からないではないよ? でも流石にね……

 っと、すごい、ちゃんと食べられるものオンリーのものを発見!


「これください!」


「はい、ありがとうございます……って、あなたは」


「あれ、ニコルさん?」


 ニコルさんだった。

 折角なので少しお話をしたところ、いつもは商業区近くにある自分の店で商売してるらしい。ここに来るのは目利きを鍛える為だそうで、店を構えてからも若い頃からの習慣としてここにはたまに売りに来てるらしい。うん、初志を忘れないのは大事だよね。私も自由の為に逃げるよ。


「しかし、小麦粉ですか。他のところのは……ああ、あなたは眼鏡が」


「ええ、そんな感じです。そういえば……」


 試しに米がないか聞いてみたら、たまに扱っているとの事。でも今は在庫がないらしい。店の場所を聞いて今度買いに行く約束をする。


「しかし、米ですか。余り人気のある食材ではないんですが……そういえばあなたは料理が上手でしたね。まさか、米を使ったレシピも?」


「そうですね、沢山あります。私、お米大好きです」


「米を使った料理のレシピ……」


 ニコルさんが皮算用を始めてしまった。このままここに居て息子さんを紹介とか言われても面倒なので退散することにした。


 その後も色々と買い込んだ。塩もそこそこ買えた。そして合計小金貨1枚分ほど飛んでいった。今日だけで小金貨2枚……正直懐に痛い。明日はお仕事がんばろう。


 宿に戻ったら少し早いけどお風呂。その後はダガーの強化。110本は流石に多い。でもなんとか全部終わらせた。お陰でMPがほとんど残ってない。


 ちょっとふらつきながら食堂へ行くともう晩ご飯の時間。朝はがっかりだったので今度こそ美味しいものを期待!

 ……出てきたのはカツサンドもどきでした。

 えー……なにこれ。私が作ったカツサンドの再現ではなく、もどき。見た感じで既に色々コレジャナイ感が凄い。

 まず、パン。油染みてぐっしゃりしてる。刻みキャベツもへにょへにょ。もうこの時点で食欲無くなりそう。恐る恐る口にする。うう、衣がべしゃべしゃだ。中のお肉は下味に塩を振りすぎたのかしょっぱい。そして、肉が硬い。がっちがち。筋だらけ。これはきつい。残したい。


 厨房から声が聞こえる。


「だから言ったじゃないですか! 凄い表情してますよ!?」


「そうは言うが、他のお客さんは皆絶賛してるぞ!」


「そういう問題じゃないですよ!」


 真似しようとしたのは分かる、分かるけど……これは酷い。

 付け合せのスープで何とか流し込んで完食。油っぽすぎてお腹壊しそう。

 周囲を見ると他のお客さんは大絶賛してた。多分、この世界に無い料理だったんだね。でもこれは違うものだよ。うう、お腹がもたれる。


「あの、すみません……」


 金髪ポニーの給仕の子だ。


「うちのコックがどうしても作ると聞かなくて……横で見ていた私に作り方聞いて作ってみたんですけど、全然違うものしか出来なくて」


 話を聞いてみると、ここのコックが見たことも無い料理に興味を持って真似してみたらしい。作り方は自分もちらちら見てたし、ポニーちゃんがずっと横で見てたので大体分かる。自分はずっと料理をやってきたんだから作れるはずだ、と。

 でも実際出来上がってみれば全然違う物体が。実際に食べたポニーちゃんが何を言っても聞き入れず、今日の晩御飯で出すとごり押ししたらしい。しかも。


「さっきから他のお客さんに呼ばれては、『自分の考えた料理だ』って……もう、本当にごめんなさい」


 誰も知らないレシピは凄い価値があるらしい。それを考えた栄誉が欲しかったらしいんだけど、それにしたってこれはねえ? しかも料理名が『オーク肉の油焼きパンはさみ』。酷いネーミングだった。


「いえ、実際は全然違う物体ですから。気にしませんよ。食べた貴女なら分かるでしょう?」


「ええ、それはもう」


 その後ポニーちゃんと少しお話してから部屋に戻った。

 ちなみにポニーちゃんのお名前はリリー。この街の出身ではなく、仕事でこの街に出張することになったお姉さんについて来たらしい。この宿のお仕事はその関係で紹介してもらったとかなんとか。



 ポニーちゃんに癒されつつ今日はもう寝た。途中お腹が痛くて何度もトイレに行く羽目になったけど。


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