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027 勝ったッ! 第3部完!


 ギルド到着、今日も採取依頼。そして即離脱。早々に街の外に出る。

 今日は昨日よりも少し早い時間だ。城門から出て暫く進み周囲を見回すと、それでも昨日と同じように子供達が薬草を採取していた。やはり成果はあまりよろしくなさそう。でも余り街から離れると魔物も居るから、仕方ないとは思う。

 気を取り直して今日も森を目指す。昨日行った南の森は結構、と言うか実はかなり深い森でここで狩りや採取をしてる中級、上級冒険者も割と多いらしい。


 ともあれ今日も森の探索開始。

 今日は自分で探す事にする。正直言えば売る分はまだ山程残ってる。だから今日は自分のスキル経験を積もうかなーと思ったのだ。

 まあ、常時使用状態だから、別に差が出る訳ではないんだけどね。


 所で、後ろからずっと付いて来てる複数の冒険者諸君は一体なんなんでしょうね?

 いやまあ、昨日の素材買い取りを見ていて、私が群生地を見つけたと踏んでお零れに与ろうって事だと思うんだけど。でも今日は適当に浅い所を探す予定だから、期待には添えませんよ?

 そもそも群生地を探すなら振り切って逃げるし。


 という訳で今日はゆったりと自力探索。

 私の【探知】に反応は出ないけど、約1年の森の引き篭もり生活のお陰で、何となくだけど沢山生えてそうな場所は分かる。その経験を生かして適当に見当をつけ、何ヵ所かを移動しながら細々と薬草採取。その都度現れては一緒に採取する冒険者達。

 ひの、ふの……7人? 2パーティー位? 見た感じだと殆どが13歳以上っぽいけど、うーん……マナーは悪いとは思うけど、だからと言って何か言うのも面倒だし。

 どうしたものかな、と考えながら移動してると何か見覚えのある木が群生しているのをみつけた。


 これ、椿? この世界に椿あるんだ。って、いやいやいや、おかしいでしょ!? 明らかに時期がおかしいから! っていうか、森に引き篭もってた時も思ったけど、この世界の植生明らかにおかしいよね!? 地球に喧嘩売ってるとしか思えない……

 いや、もういいけどさあ? 何かこの世界特有の法則が有るとか、そういう事だと思うんだけど……うん、もう何でもいいや。何にしても懐かしいものが見れた事には変わりないしね?


 と、どこと無く懐かしい気持ちになった所でふと気付いた。椿って、油取れたよね? 油、植物油。

 植物油があれば、オークのラードでは作るのを諦めてた揚げ物が出来る? あ、ドレッシングも作れる! シャンプーやボディソープを作るのも消費が減る! これは集めないと!


 猛然と椿の実を集める。ひたすら集める。一帯全てを採り尽くす勢いで集める。


 薬草採取を止め唐突に木の実を集めだした私に、付いて来た冒険者たちが困惑しているのがわかる。

 ギルドの薬草買い取りリストにも書いてないような木の実だ。仮に自分達も採取したとしても、売れるかどうかも怪しい。

 でもそんな事はどうでもいい。そもそも売る為のものじゃない。、油だ。私が使う為の油だ。パンはあるのでパン粉は作れる。卵を探そう。オーク肉。トンカツ! 米が無い? パン! カツサンド! これで勝つる!

 あっと言う間に辺りの椿の実を採り尽くした。いや、念の為に言っておくけど、根絶させるような真似はしてないからね? 流石にまだ小さい実は残しておいたよ。


 次は油を作らないと。実を炒めて潰して煮て……まあ、大体の手順は知ってるので、説明は省く。

 火を使うので森の外へ移動し、テントを出してフライパン、大鍋等、必要そうな道具も準備。後は延々と油作り。とは言っても実は半分以上は見せる為だけにやってるブラフ。

 正直、これだけ道具が揃っていれば殆どMPを消費せずに【創造魔法】で油を作れる。私の後を付いて来た冒険者達は暫くは私の様子を窺っていたけれど、そのうち森へ戻って行った。

 私はと言えばそのまま延々と油作り。途中昼時になってご飯を作って食べたりはしたけど、それ以外はずっと油。遠巻きに様子を窺ってる人達が何人か居たけど、みんな直ぐに離れていった。



 うーん、何とか全部処理完了かな。残った搾りかすは後で肥料にでも変えておこう。

 空を見上げると大体午後の2~3時位? 今から帰れば夕方前には帰れるかな?


 という訳で帰宅準備をしよう。テントを仕舞おうと振り返ると、またしても魔物の死体の山が。

 ノルンさん、もう少し加減というものをですね? そ知らぬ顔でゴブリンを齧るのはやめてください。こんな人目に付く場所で、こんな。

 取り敢えずさっさと収納して見なかった事にした。私は何も見てない、いいね?



 アレを見なかった事にした後は街に戻ってギルドへ。私を付け回していた連中は居ないっぽい? なら早く換金を済ませて帰りましょう。という訳で昨日と同程度の量の薬草を買い取ってもらう。

 昨日に引き続き職員さんの顔色が悪いけど、気にしない。順番待ちの冒険者もざわついてるけど、私は気にしない。目立ちたくないとはなんだったのか? 生きる上ではお金は大事だから、仕方ないでしょ? それに今はもっと大事な事があるのだ��逃げるように宿へ帰る。


 昨日と同じ様に付けて来た人が数人居たけど、それも撒いておいた。

 正直な所を言わせてもらえれば、私が泊まってる宿は直ぐにばれると思う。でも何もしないよりはマシかなーって。


 宿に到着して木札提示。あ、追加で料金払って延長しておかないと。取り敢えず数日分位まとめて入れておこうかな。という事で追加で払っておく事にした。これで仮に金欠になっても、いきなり宿を追い出されるなんて事は無い。安心だね。


 さて、今日はお風呂は後。手に入れたばかりの椿油を使って料理をするのだ。

 という訳で給仕の女の子に声をかけて厨房を借りれないか聞いてみる。金髪ポニーテールの子だ。ちょっと見覚えがある。確か昨日ナイフを持って来てもらった子だったかな?

 ちょっと待ってください、と厨房へ行って暫くすると戻ってきて、OKとの事。ありがたい。

 ついでにパンと小麦粉少々、それと卵を少し分けてもらえないか聞いてみた所、パンは無料で卵は一個銀貨1枚だった。

 たっか! 養鶏とかしてないのかな……取り敢えず2個譲ってもらう事にした。

 厨房に移動。コックさんが一人居た。妙に偉そうにしてるし、どうやら料理長っぽいので軽く頭を下げてみたら、鼻で笑われた。

 ……いや、良いけどね。厨房貸してくれれば。

 何をするのか興味津々という感じで給仕の子が見ている。コックの人は遠くからちらちらとこちらを窺ってるようだけど、さっきの態度もあるので無視。


 作るのはトンカツ。揚げ物をするので危なくない様にマントは外した。視線が気になるけど、諦めて無視。

 使い慣れた自作の包丁、小鍋を取り出してざっと【洗浄】。

 次にオーク肉を取り出して適当なサイズにカット。筋切りもしておく。しゅぱぱぱぱ。塩胡椒を振って下味をつけ、小麦粉を塗して余計な粉は落とす。

 卵を溶いてパン粉も準備。鍋に油を入れて火にかける。ある程度油の温度が上がったら卵にくぐらせた肉にパン粉をつけて投入、揚げる。この時低温の油から揚げるのがコツ。じゅわわわー。

 途中ひっくり返したりしつつある程度火が通ったら、一度引き上げて少し休ませる。

 暫く休ませたら二度揚げでこんがり狐色に。こうする事で衣はさくさくで肉は柔らかく仕上がる。取り敢えず2枚揚げた。

 後は譲ってもらったパンをカットして刻みキャベツと一緒に挟んで、出来上がり。

 食べやすいように小さく切り分けると、全部で六切れになった。ウスターソースがあればもっと良かったんだけど、下味もつけてるし大丈夫でしょう、多分。

 給仕の子もコックさんも他の人も凄い驚いた表情でこっちを見てるけど、敢えて無視。

 後片付けを終わらせたらマントを身につけなおしてフードを被り、会釈して礼を言う。そして何か言われる前に出来上がった料理を手に厨房から退散する。

 コックの人がもの凄い顔でこっちを凝視してたけど、華麗にスルー。


 席について出来たてのカツサンドを頬張る。さくさくじゅーしー。うん、下味つけたからソース無しでも十分に美味しい。寧ろ肉の味がよくわかる。キャベツもいいね。うんうん。

 あっと言う間に一切れ分食べてしまった。次に手を伸ばそうとした所で、側に給仕の子が立っているのに気が付いた。


「何か?」


「あ、あの……その」


 視線が一ヵ所に、皿の上に固定されている。ああ、味が気になるんだね。んー、口利きもしてくれたし、ちょっとなら良いかな?


「食べてみますか?」


「いいんですか!?」


 凄い食いつきだね。黙って一切れ勧めた。給仕の子が受け取って、恐る恐るという感じで口にする。サクッ、もぐもぐ……


「ふわぁ……なにこれぇ……」


 顔が蕩けてる。うん、そうでしょうそうでしょう。久しぶりに作ったにしては、我ながらなかなか良く出来たからね。

 ゆっくりと味わう様に食べるその様子を見ながら、私も食事を進める。給仕の子は一切れ全てを食べ終わった後は夢見るような表情で虚空を眺めていた。どうやら味を反芻しているっぽい?

 私がカツサンドの残りも全て食べ終わる頃になって、漸く給仕の子が正気に戻った。

 皿が既に空になっているのを見て一瞬悲しそうな表情になったけど、直ぐにこちらに向き直る。


「その、凄く美味しかったです! こんな料理、初めて食べました!」


「いえいえ、御粗末様でした」


「そんな……それに、お客様にこんなおねだりをして、私……」


 私の顔を見ながら顔を赤らめてる。変な意味はないよね? いや、あってもいいけどね。女の子なら大歓迎。男はごめんです。

 口利きしてくれたお礼だと告げると恐縮そうにしてた。うーん、こんな殺伐とした世界だというのに、いい子だなあ。贔屓してあげたい。


「また、厨房を借りる事があるかもしれません。その時はお願いします」


「あ……はい! 是非!」


 はぁ、一々反応が可愛い。15歳位かな? 今度名前を聞こう。


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