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022 私はノーと言える日本人(元)です


 次の日の朝。一応昨夜の微妙な雰囲気は無くなってた。表面上は。エルザちゃんはいまだにごねてるし、ロイド君はこっちをちらちら見ては顔を赤くしてそっぽをむいてるし、護衛二人はなにやら話し込んで悪巧み。みんなニコルさん見習おうよ。なんて考えてたら。


「11歳……なんとか……息子と……」


 なんか不吉なことを呟いてた。ニコルさん、あなたもか。言っておきますが商人になる予定はありませんよ。カエル顔の人が来ちゃう。


 不安要素は多々あるけれどもう1~2日程でハルーラに着くらしい。やっとこの状況から解放される。早く着かないかなあ、とぼんやり考えながら今日もエルザちゃんのお相手をしていると、やはりと言うかなんと言うか。厄介事が。


 護衛が絡んできたとかそういうレベルではなく、魔物の襲撃。しかもオーク6匹。私に平穏というものは訪れないのか。嘆かわしい。

 だが心配する無かれ! 今回はベテラン冒険者のお二人が護衛についているのだ! こういうときの為にご飯も大量に食べさせていたのだから、是非奮闘してもらわねば! ついでに本職の冒険者の立ち回りと言うのも見せてもらおう。私が提供したお肉分は還元してもらわないとね。


 などと損得計算していたら。


「おいおい、よりにもよってこんなところでオークかよ! それも6匹だと!?」


「おいジギー! こりゃ無理だ! さっさと逃げるぞ!」


 はい?


 おいおいおいおい、何言ってるのこの人達。ここで身体を張ってみんなを逃がすのがあなた達の仕事でしょ? 余りの発言に混乱していると。


「おい、旦那! そういうわけだから俺達は逃げさせてもらうぜ!」


「なにをいってるんだ! ふざけるな!」


「別にふざけちゃ居ねえよ! 誰だって死にたかねえだろ? 俺たちだって同じだ!」


「そうそう、そういうわけだから旦那、俺達が逃げ切るまで時間稼ぎ宜しくな!」


 そんなことを言ったかと思えば事もあろうか二人はニコルさんの足を切りつけた。目の前で起きていることが理解できない。あまりの事態に頭が真っ白になってしまった。

 そんな呆然と立ち竦んでいる私にジギーが近づいてきたかと思えば、私の腕を掴もうとしてベルに追い払われた。ノルンはさっきからオークを威嚇して近づけないように奮闘している。


「おいジギー! 何してんだ! さっさとずらかるぞ!」


「いや、この餓鬼は利用価値があるだろ! この眼鏡だって売ればいくらになるか……」


「命あっての物種だろうが! 急げ!」


「チッ! 仕方ねえなぁ!」


 ……とことん救えない連中だ。今すぐ殺してやろうか。

 そんなちょっと物騒な考えが頭をよぎったが、今はもっと優先する事がいくつもある。むしろ余りに清々しいクズっぷりに、逆に冷静になれた。逃げ去っていく元護衛の2人から視線をはずし、ニコルさんの元へ。

 エルザちゃんが縋り付いて泣いている。揺らしちゃダメだよ。

 切られたのは足だ。患部を見る。結構傷が深いけど、太い血管は大丈夫そう。これなら最下級ポーションでいいだろう。

 取り出し、振り掛けると傷口は直ぐに塞がった。

 先ほどまで痛そうに呻いていたニコルさんが一瞬驚いた顔を浮かべたあと、直ぐに謝ってきた。


「こんな貴重なものを使って治していただいたと言うのに、申し訳ない。この状況では助かる見込みはもうないでしょう……巻き込んだ形になるあなたにこんなことを頼むのはご迷惑かと思いますが、私が何とか逃げる時間を稼ぎます。その間にエルザを連れて逃げてもらえませんか?」


 直ぐ側で棒切れを手にしたロイド君もこちらを見て頷いている。男の子だね。エルザちゃんはその言葉を聞いてみんな一緒じゃないと嫌だ、と泣き喚いてる。当然だよね。


「お願いします、エルザを」


「申し訳ありませんが、お断りします」


「え……」


 私はそのまま黙って立ち上がり、3人をそのまま背に庇うようにオーク達を見回す。6匹。うち、1匹が背後。前方の5匹はノルンが威嚇し距離がある。背後の1匹はベルが足元で撹乱させるように立ち回っていた。


 泣く子には勝てないからね。


「ノルン、時間稼ぎお願い」


「バウッ!」


 ノルンが一気に駆け出した。まずは背後の1匹。石礫。照準。撃った。ベルが足止めしていたオークの頭が爆ぜた。

 ノルンのほうを振り向くと、1匹のオークの頭部が水球に覆われてもがいている。……そういう使い方もあるのか。これは後回し。ノルンが宙に高く跳んだかと思えば前足を振る。すると別のオークの首が刎ね飛んだ。なにあれ。かっこいい。後で教えてもらおう。

 残りは3匹。まとめて照準。撃つ。爆砕音。

 あとは溺れてる1匹、と見てみればノルンが��を刎ねていた。ベルにいいところ見せたいんだね、分かるよ。

 大体30秒ほどで状況終了。オークなら何匹居ても距離さえあれば一方的に蹂躙できる。ノルンが居てMPが切れるまでだけどね。


「終わりましたよ」


 振り返ると3人ともぽかんと口を開けて呆けていた。




 結局その後、みんな落ち着いてから相談して今日はもう長距離移動せずに休むことになった。

 まあ、当然だと思う。死にかけたわけだし。少し先にある野営地で設営。


 ちなみに倒したオークは全て私が貰うことになった。

 うーん、こんなに沢山貰っても……という訳でその日の晩御飯に化けた。獲れたて新鮮! なんて思ってたらニコルさんとロイド君は複雑な顔をしてる。そりゃ殺されるかもしれなかった相手だもんね。エルザちゃん? 私も食べてやっつけるんだ! って大喜びだったよ。

 作ったのはトンテキ。味付けは和風で。醤油はあるけど、オイスターソースがあればもっと美味しく出来るんだけどなあ。ちなみにニンニクや刻みキャベツはニコルさんが出してくれた。本当は売り物だけど、命が助かったお祝いだって。


「まさか醤油でこんな味になるとは……凄く美味しいです」


 この世界、醤油も味噌もあるけどそれらを使ったレシピはそんなに多くないみたい。普通、オーク肉のステーキと言えば味付けは塩のみのシンプルなものらしい。たまに奮発して香辛料をちょっと振り掛ける時があるとか何とか……ニコルさんは驚きながらもバクバク食べてた。転生者もっと仕事しろ!

 エルザちゃん? 今まで作ってた私の料理が手抜きだったと気付いて激おこでした。でも直ぐに食べるのに夢中になって静かになったけれど。



 食事の後は逃げた護衛の扱いについてのお話し合い。

 あの2人は職務放棄どころか、依頼主を害して囮にして逃げ出した。契約違反とかいうレベルでは済まない。

 街に戻ったらギルドに直行して訴えるとの事。ギルドは除名、財産は没収されて慰謝料に、本人達は奴隷落ちは確実だろう。あの2人はそれだけのことをした。

 で、私には一緒についてきて証人として証言して欲しいとの事。その程度の事は別にかまわないので了承した。ギルドに登録もしたいしね。


 護衛が居なくなった分馬車のスペースが空いたので今日は其方で寝させてもらうことに。エルザちゃんには大不評。私のテントは下にチート性能のマット敷いてあったから寝心地が天と地だからね、仕方ないね。

 あまりにエルザちゃんがうるさいので、仕方なくマットだけ出して使うことに。でもねエルザちゃん、私のおっぱいは枕じゃありませんよ?



 次の日朝早くから移動開始。ハルーラの街までかなり近い所までは着ていたらしいので、ちょっと急いで街まで戻ってあの2人のことを報告したいとの事らしい。

 私は座ってるだけなので別に問題はない。


 エルザちゃんのお相手をしていると昼過ぎには街が見えてきた。



 そうして私はやっとハルーラに着いた。


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