前へ次へ   更新
101/321

新人魔女と突然の婚約者(5)

 リゼは、戸惑った様子で二人のやりとりを見ていたが、ここはエルナに任せようと思ったのか、やがて大人しく食事を再開した。そんなリゼの様子には気が付かず、エルナはリッカに優しく言葉をかける。


「婚姻されていれば、リッカ様がネージュ様の元に()られるのは当然ですから、これまで通りこちらの工房でお仕事もできます。リッカ様にとっては今回のお話は政治的な政略結婚なのかもしれません。ですが、そこに自分本位な理由があってもいいのではないでしょうか」


 エルナは、リッカの手を両手で包み込むようにしてキュッと力を込めた。エルナは笑みを浮かべたまま、優しい眼差しをリッカに向ける。


 リッカは考える。これからもこの工房で働けるのならば、それに越したことはない。自分はそれを望んでいる。しかし、そんな自分本位な考えで結婚を決めてしまってもいいのだろうか。リゼとエルナは本当にそれで良いのだろうか。エルナの気持ちは分からない。しかし、リゼの気持ちは先ほど本人が表明した通りなのだ。


 少しの間考えを巡らせた後、リッカはおずおずと口を開いた。


「本当にそれでよろしいのでしょうか? わたしが……リゼさんと……その……婚姻したとして、リゼさんのお気持ちは? エルナさんは……その……リゼさんのこと……」


 リッカは不安そうな表情でエルナを見上げた。そんなリッカを安心させるように、エルナはニコリと微笑む。


「もちろんネージュ様のことはお慕いしておりますよ。ですが、国政に比べたら私の気持ちなど些細なものですから」

「エルナさん……」

「リッカ様、お気になさらず。本当に私など些細なことなのですから」


 そう言って笑うエルナに、リッカはそれ以上何も尋ねることはできなかった。代わりに向かいに座るリゼに目を向けると、リゼは真っ赤な顔で目をパチパチと瞬かせている。


「え? あ? エルナさん?」


 ドギマギとしているリゼに、エルナはいたずらっぽい笑みを向ける。


「どうかなさいました? ネージュ様」

「いや……その……何でもないです……」


 どうやらリゼもエルナの気持ちは知らなかったようだ。そんな二人のやり取りを見ていたリッカは、やがてゆっくりと口を開いた。


「あの……やはり、わたしは……」


 小さく息をつくと目を伏せる。そんな様子を見ていたリゼが小さくため息をついた。


「まぁ……君の好きにするといい。だが、私はこの婚姻に利があると判断していることも忘れるな」


 リッカはゴクリと唾を飲み込む。

 前へ次へ 目次  更新