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45.がっかり続きの天破流





「いいから付き合いなさいよ」


 制服の試着を終え、撮影も割と滞りなく済み。

 これから姉妹で食事に行く、というレリアレッドに、今度は私が付き合わされた。


 ――撮影中はお互いらしく(・・・)振る舞ったが、実際は今日ついさっき会ったばかりの仲である。

 特に私は、無理やり撮影に割り込んだ形であるため、ちょっと断りづらかった。


「……はあ……私は先に帰るよ……」


 兄も撮影中はらしく(・・・)振る舞ってくれたが、実際は連れてきた時からうつむきがちだった。

 なので、撮影が終わったら当然のように、またうつむきがちになってしまった。


 やはりどうしても、彼は魔法映像(マジックビジョン)には出たくなかったのだろう。ファンレターの恐怖が再び始まりそうだから。というか確実に再開するだろうから。


 だが、彼はリストン家の長男なのだから、もう仕方ないことだと割り切ってもらいたい。

 今後出る予定はまだないが、しかし確実にまた機会が来るはずだから。


 ――というわけで、レリアレッドの姉二人……長女と三女とともに、食事に行くことになった。





 とある高級レストランまで連れて行かれ、テーブルに着く。なお個室ではない。


 私の侍女であるリノキスと、レリアレッドの侍女にはしばしの暇を出し、別の場所で昼食を取ってくるよう言い伝えた。――リノキスは離れたくなさそうだったが、今回は行かせた。彼女と私は少し距離を取るべきだと思うから。


 並ぶシルヴァー家の姉妹を見る。

 三人とも見事な赤毛の髪で、言外に家族であることを物語っている。――次女とは会ったことがないが、いずれ会う機会も来るかもしれない。


「改めまして。お久しぶりです、ニアさん」


「こちらこそ」


 長女とはシルヴァー領の放送局が完成した時、撮影で行った時に会っている。


 名前は確か、ラフィネだったかな。

 ラフィネ・シルヴァー、だったと思う。


 歳は二十半ばくらいか。大人の女性らしく、化粧が上手かったり発育がよかったりオシャレだったりと、まさに貴人の淑女という感じだ。やや気が強そうなところも含めて。


 だが、三女と会うのは初めてである。


 ラフィネは大人の女性という感じだが、こちらは細長い印象が強い。姉妹揃ってやはり気が強そうな顔立ちで、それと相まって少年のような雰囲気がある。


「私は今年から中学部三年生なの。名前はリリミ・シルヴァー。よろしくね」


「こちらこそ。ニア・リストンです」


 返答しつつ、リリミを観察する。


 ……ふむ。

 彼女は、やはり素手で戦う身体を作っているようだ。


 非常に筋肉と脂肪と体幹のバランスがいい。

 無理に鍛えすぎていないが、しかし手を抜いていないことが窺える。そう、やりすぎないというのも大切な修行なのだ。


 だが惜しいな。まだまだ根本的に弱い。

 これなら一年前のリノキスの方がまだ強かっただろう。


「リリミ姉さまは強いのよ。去年の中学部の武闘大会で準優勝してるんだから」


「えっ」


 これで? この程度で? ……その武闘大会とやら、大丈夫か?


「驚いたでしょ?」


 レリアレッドは勝ち誇ったような顔をしているが……まあ、驚いたと言えば驚いたので、頷いておく。


「お姉さまは天破流の門下生で、あたしも去年から習ってるのよ」


 ああ……天破か。


「その天破って流派は…………いえ、なんでもないです」


 ――その天破って流派は本当に強いの?


 ……なんて、こんなこと言えるわけがない。

 言えないよな。さすがの私でも。





 撮影ばかりしてきたこの一年の間で、時々「天破流」という名前を聞くことがあった。


 素手で戦う武術の流派として非常に有名で、門下生も多く、また強者も多いとか。


 正直楽しみでしかなかった。

 話を聞けば聞くほど、すぐにでも手合わせをしに飛んでいきたいくらいだった。


 しかし。


 天破流の使い手とは何人も会ったが――誰一人として強い者がいなかった。

 私が出会ってきた連中が弱かっただけなのか、それとも、流派自体がそんなものなのか。


 なんでも、極めし始祖の拳が、天を射抜く雷のような轟音を放つことから、天破と名付けられたらしいが……


 ――私と同じ極地に辿り着いたのなら、弱いわけがないんだがな。


 まあ、私は更にその先へ行った、ような気がするが。


 天破のそれは恐らく「氣拳・雷音」だろう。

 でもあれは派手な割に威力がいまいちだった。見せ技としては優秀かな、みたいな技だったと思う。


 ……天破はもういいかな。


 天破のことは放っておくことにしよう。

 貴重な武術の流派であろうとも、弱いのであれば興味はない。


「あんたもやってみる? 力は強いみたいだし」


「いえ結構。間に合ってるわ」


 天破流には会えても、強い者とは会えないばかりで、がっかりが続いている。もう期待しない方がいいだろう。


「そういえば」


 と、リリミが口を開く。


「今年の新入生の身体測定に、師範代代理が参加しているよ」


 ん? 師範代?


「門下生集めの一環ね。小、中、高学部まで、天破流のクラブがあるから」


 クラブ? いやそれよりだ。


「師範代代理、ということは――強いの?」


 何せ、師範代の代理である。

 弱いわけがない、はずだが。


「――もちろんよ。私なんて足元にも及ばないくらい……ぅ」


 おっと。


「失礼」


 それなりに盛況だった店内が、一瞬しんと静まり返ってしまった――うっかり少し私の闘気が漏れてしまったかもしれない。無駄に威圧してしまったか。


 そうか。

 がっかり続きの天破流の師範代代理が、手の届く場所にいるのか。


 ……じゃあ、今度こそ少しだけ期待してみようかな。





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