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夢を見た。昔の話、まだ、私が男だったときのことだ。
あいつと初めて会ったのは小学校のときだった。
たまたま入学式で隣の席に座っていたことがきっかけ。
そこから話をするようになった。
まあ、普通の出会いだろう。特にドラマチックなことも無い。
普通でないのはその後だ。
その後あいつと私は一緒に遊ぶようになり、気が付けば親友になっていた。
なぜそうなったのかは覚えてない。
古武術の道場の子供としてすでにその超人的な身体能力発揮しつつあり、外で遊んでばかりだったあいつと、インドア派だった私。
何もかもが違っていた私たちだったがどこか馬が合った。
もしかしたら、何もかもが違うからこそ、仲良くなったのかもしれない。
実際あいつと私は成長するにしたがって、互いに助け合う関係になっていた。
腕っ節が強いが、勉強が出来ないあいつに私が勉強を教え、そして勉強だけはでき、貧弱だった私が困ったときはいつもあいつに助けてもらう。
気が付けば私たちはそんな関係になっていた。
……あの頃は本当に楽しかった。
変わったことは無い。特別なことは無い。
でも当然のように毎日が楽しかった。
当たり前のように、あいつがそばにいた。
今だからわかる。私はあのとき、幸せだった。
でも、それはいつまでも続きはしなかった。
私の県外の大学への進学が決まったからだ。
あいつは実家の道場を継ぐことが決まっていたため大学には行かなかった。
私は一人で県外に出ることになった。
……そして、そこそこ順調だった私の人生に影が差したのは、このときからだった。
……大学で、孤立した。
……友達が、できなかった。
私はもともと社交的な人間ではなかった。学校で会話する相手はほとんどあいつで、他の人とは事務的な会話しかしていなかった。
しかも、小学生のときからあいつがそばにいたから、友達を増やそうとしたこともなかった。
私は、どうやったら友達を作ることが出来るのかわからなかった。
どうやって人に話しかけたらいいのか、わからなかった。
そうして、一月、二月と、誰にも声をかけることが出来ないまま、月日だけが過ぎていった。
苦しかった。
学校に行くのが辛くて、一人でいるのが寂しかった。
焦っていた。
何とかしたくて、ネットで友達作りのサイトを覗いた。
……でも何も出来なかった。
誰かに話しかけることも出来ず、ただ、毎朝襲ってくるようになった吐き気をこらえながら足を引きずるように学校に行っていた。
この頃くらいからだろうか。あいつに連絡を取ることも少なくなっていた。
情けなかったからだ。
自分があまりにも情けなくて、みっともなくて、合わせる顔が無かった。
携帯の着信音から耳を塞ぎ、意味も無く、何度も何度も読んだネットの友達作りのサイトを眺めていた。
それから、さらに数ヶ月が過ぎた。
部屋の外は冬になっていた。
……そして、私は不登校になっていた。
学校に行かなければならないのはわかっているのに、身動きが出来なかった。
このままだと駄目だとわかっているのに、家から出ることができなかった。
そんな時だ。ネットで「異世界でのダンジョン探索者になりませんか」なんて書かれたサイトを見つけたのは。
最初に見たときの印象は、ネトゲの広告かな、だった。
でも、少し調べるとすぐにそうではないということがわかった。
書かれた情報が少なすぎたからだ。
PVも世界観の説明なども無く、ただ真ん中に名前を記入する欄があるだけだった。
正直、少し怪しいと思った。アクセスしただけでウイルスに感染することもあるというし、その類の悪質なサイトなのかもしれないとも思った。
それでも、そこに自分の名前を記入してしまったのはきっと現実逃避だった。
異世界、という言葉に心引かれた。あの部屋ではないどこかに行きたかった。
その行動の結果はすぐに現れた。
突然光に包まれたかと思うと、私は見たことが無い石造りの町並みの中にいた。
あのサイトに書かれた言葉は本当だった。
私は異世界にいた。
……あの時は本当に嬉しかった。
異世界。あの部屋ではない、別の場所。
ここでなら、やり直せると思った。
でもその興奮も長続きはしなかった。
初めてのダンジョンで盛大に失敗したからだ。
怪我をして、その治療のために借金を負った。
今思うと、当然だった。
この世界のダンジョンは魔物が際限なく湧き出している危険な場所だ。
これまで戦闘訓練はおろか、運動すらまともにしてこなかった私が、魔物と戦えるはずが無かった。
おまけに私は一人だった。
一人でダンジョンを探索すること自体、ベテランでもやらない無謀なことだった。
反省した私はすぐに行動した。情報収集と仲間集めを始めた。
……でも仲間を作れなかった。
また、ここでも私は孤立した。
気が付いたら私は奴隷商に行き着いていて。
そして女にされた。