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家をでるといつも通りの光景が目に入ってきた。
日本とは違う石造りの家が立ち並んだ光景。
こちらに来たばかりの時は驚いたり感動したりしたものだが今となってはもう慣れたものである。
さて、どうするべきか。
……まずは情報集め、かな?
最初にあいつがどのようなことをしているのかを知らなければいさめることは出来ない。
だとすれば、とりあえず聞き込みだ。
捜査の基本は足で稼ぐことと、どこかで読んだ気がする。
あいつは竜殺しの有名人なのでとても目立つ。何人かの知り合いに少し聞いて回ればすぐに情報は手に入るだろう。
そして、あいつが普段どんなところで遊んでいるのか確かめるのだ。
私は手始めに大通りにある行きつけの八百屋に向かうことにした。
「あら、リタじゃない。
……って凄い酒臭いね。大丈夫かい?」
「大丈夫です」
店に着くといつものおばさんが心配そうな顔をして迎えてくれた。
……ちょっと飲みすぎたかもしれない。
因みにリタというのは私の名前だ。あいつが考えてくれたもので、元の名前を女風、かつこちらの世界風にしたものである。
この名前に決まるまで色々あったのだが……
まあ、今はそれはいい。今はあいつのことについてだ。
「おばさん、ご主人様について聞きたいことあるんですけど」
「あんたのご主人様について?なんだい?」
「ご主人様がどこかの女と仲良くしているとかそんなうわさはありますか?」
「女?なんだい、突然?」
おばさんは訝しげな顔をした。
まあ当然だ。穏やかな話題だとは言いがたいし。
「まあでも、そうだねえ……そういう話はきかないけれど……
というかあんたのご主人様、いつもまっすぐ家に帰ってるだろう?」
「……まあ、そうですね」
それはまあ、たしかにそうだ。あいつはいつも夜の早い時間に帰ってくる。
外で酒を飲んでくることも滅多に無い。
「でも、その」
「でも?」
「その、昨日は女に囲まれてて……ちやほやされてて……」
「……あー、なるほどねえ」
おばさんの目が一気に生暖かいものに変わった。
「それで自棄酒ってわけかい。気持ちはわからないでもないけどねえ」
「……」
「まあ、なんだ。もうちょっと信じてやりなよ」
……なにか、誤解されている気がする。
わたしはただ、あいつが刺されたりしないか心配だから調べているだけなのだから。
それ以外の意味は無い。無いのだ。
情報は手に入りそうに無いので店を出て次に向かった。
その後もいくつかの店で聞き込みをしたが、あいつが女と遊んでいるという情報は手に入らなかった。
というかむしろ、あいつがかなり真面目な生活をしていることがわかった。
飲み屋にも行かないし、風俗街には近づきもしないらしい。
誘われても、相手が男であれ女であれ、あっさり断って家に帰ってしまうらしい。
遊んでるどころか付き合いが悪すぎると酒屋の主人などは言っていた。
手に入った情報から見ると、あいつは女遊びなどしていないようだ。
……よかった……ってそうじゃない違うそうじゃない。
……どうやらあいつはよほど巧妙に情報を隠しているようだ。
このまま聞き込みをしてもいい情報は手に入らないだろう。
多分例の古武術を使って何とかしているのだろう。
古武術だし分身とか変化とか出来てもおかしくない。そんな感じの漫画を読んだことがある。
あれは忍者だった気もするがまあ、似たようなものだろう。
そういうことにする。
……こうなってしまっては仕方ない。最後の手段にでるべきではないだろうか。
仕方ない。これは仕方の無いことだ。
正直、問題がある気もするが、他に手段がない気がするので仕方ない。
あいつが情報を隠しているのが悪いのだ。
だから、仕方ない。
そう、仕方ないから、この身を張って、確かめる。
軽く誘惑してみて、それで真偽を確かめるのだ。
あいつが女遊びをしているのなら反応でわかるだろう。
これは仕方ないことだ。
昔からの友人として私にはあいつが道を踏み外していないか確かめる義務があるのだから。