ファル・ゲルプ(3)
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ドレッドノートスワーム。
いうならばそれは地上戦艦だ。
ムカデのような多脚の脚部に支えられた巨大な甲虫。
その大きさはリントヴルムの4倍。速力はジェノサイドスワームの30分の1。攻撃力はゲーム中英雄ユニットを抜けば最高レベル。
これまでの戦いではあまりに足が遅かったせいで活躍する機会がなかったが、今回は話が違う。今度の戦いはこれまでのような侵攻作戦ではなく、防衛線だ。長期に及ぶ一ヵ所での戦いだ。
だからこそ、ドレッドノートスワームは間に合った。その真価を発揮するために戦場に姿を現し、重々しい足音を立てながら城壁を破ろうとするリントヴルムの群れに向かって突っ込んでいった。
衝撃。
ドレッドノートスワームの攻撃を受けたリントヴルムが押し倒され、ドレッドノートスワームのその重量で押しつぶされる。リントヴルムは必死になってもがくが、やがて口から血を漏らし、肉片にされて息絶えた。
「女王陛下! これで勝ち目がでてきましたね!」
「ああ。セリニアン。これなら勝てる」
11体目のリントヴルムを屠りながらセリニアンが告げるのに、私は頷いた。
ドレッドノートスワームはじりじりとした速度でリントヴルムたちに迫る。リントヴルムは城壁を相手にしている場合ではないと判断したのか、攻撃の矛先をドレッドノートスワームに向けて突撃する。
巨獣と巨獣の衝突。
さしものドレッドノートスワームも50体近いリントヴルムの攻撃を受ければ一瞬でも立ち止まる。だが、すぐに前進を再開し、全てを踏みにじらんとリントヴルムに向けて突撃していく。
体当たりを繰り返すリントヴルムがドレッドノートスワームの脚部に捉えられ、その重量に押しつぶされて死する。リントヴルムは必死になって横からや後ろから体当たりを繰り返すが、ゲーム中リントヴルム以上のタフネスを持ったドレッドノートスワームはそう簡単にはやられはしない。
「行け、行け。ドレッドノートスワーム。全てを踏みつぶしてやれ。ニルナール帝国の連中を全員葬り去ってやれ」
私は集合意識でそう命じながら、状況を把握する。
生き残ったワイバーンに更に増援のワイバーンが飛来してドレッドノートスワームへの攻撃を開始した。黒い甲殻が僅かに焼けるが、そんなものはドレッドノートスワームを前にしてはマッチの火も同然。
「てやあっ!」
セリニアンもドレッドノートスワームが手を出せない後方や側面のリントヴルムに襲い掛かり、確実にリントヴルムの群れを仕留めていく。
火炎放射が危ういところに飛来したりもするが、流石はセリニアンだ。攻撃は見事に回避され、セリニアンは毒で弱ったリントヴルムたちを屠る。
セリニアンが糸から糸を伝ってリントヴルムたちを切り裂き、ドレッドノートスワームは全てを踏みつぶしながら、ひたすらに前進する。50体残っていたリントヴルムももう残り20体にまで激減している。
「これは勝ったな」
私がそう考えた時だ。
「敵のでかぶつが城壁に突っ込んできたぞ! 城壁を叩き壊す気だ!」
私が安堵していた時に、生き残ったリントヴルムが城壁に向けて突撃を開始した。もはや、ドレッドノートスワームを相手にするのは無謀と考えたのか、脆く、今にも崩壊しそうな城壁への攻撃を再開した。
「畜生! この野郎どもめ! 大人しく潰されて肉片になりやがれ!」
コンラードが必死になって破城槌で攻撃を加えるが、生きるか死ぬかとなったリントヴルムをとめることはできない。彼らはコンラードたちを無視して、第1層の城壁を破壊し、第2層の城壁を破壊し、ついに私たちの前に姿を見せた。
「ジェノサイドスワーム、前進! 敵を屠れ!」
私はジェノサイドスワームたちを前進させて、リントヴルムを攻撃する。
1体のジェノサイドスワームでは相手にならないリントヴルムも10体、20体のジェノサイドスワームを前にしてはそう簡単にいはいかないことを思い知る。
ジェノサイドスワームの強靭な牙がリントヴルムの肉を裂き、喉の肉を中心に抉り込んでいく。リントヴルムは首を振ってジェノサイドスワームを追い払おうとするが、その程度のことではジェノサイドスワームは剥がれはしない。
ジェノサイドスワームに首の肉を貪りつくされたリントヴルムが地面に倒れ、その屍を乗り越えてきたリントヴルムにもジェノサイドスワームが襲い掛かる。
今度のリントヴルムはその火炎放射と顎でジェノサイドスワームを屠っていったが、辿った末路は先のリントヴルムと同様だ。首だけしか出せなかったリントヴルムは、その首を抉り取られ、息絶える。
だが、次のリントヴルムは2体の開けた穴から全身を出現させた。群がろうとするジェノサイドスワームを尻尾で薙ぎ払い、火炎放射を浴びせ、その巨体で踏みつぶし、ジェノサイドスワームの防衛線を突破しようとする。
「セリニアン。こっちが多少不利だ。頼めるか?」
「お任せを!」
私はこの窮地にセリニアンを呼び戻した。
セリニアンはほんの数秒で駆け付け、暴走するリントヴルムを一撃で屠った。もうリントヴルムたちも毒が回って、体力がかなり削られているのだろう。
「ドレッドノートスワームはそのまま残敵を掃討せよ」
私の命令に応じてドレッドノートスワームは生き残っているリントヴルムを屠り続ける。その重量を武器にして、リントヴルムを地面の染みへと変えていく。それを防げるものはこの場には誰も存在しない。
「リントヴルム、全滅、か」
そして、ついにリントヴルムは全滅した。
セリニアン、コンラード、そしてドレッドノートスワームの勝利だ。
「残る敵を追撃殲滅だ。ジェノサイドスワーム、前進!」
私は残敵を掃討するためにジェノサイドスワームを前進させる。
ジェノサイドスワームは突き進み、リントヴルムの随伴歩兵だった重装歩兵部隊に食らいつく。ドレッドノートスワームでは歩兵の排除は動きが遅すぎて難しいが、ジェノサイドスワームならば、重装歩兵と同じ速度で前進し、敵を屠ることが可能だ。
「逃がすが、雑魚ども!」
それからセリニアンも歩兵の追撃には向いている。戦場を縦横無尽に駆け回る彼女ならば、逃げようとする重装歩兵を追撃して、その首を刎ね飛ばしてやることが可能だ。全く以て頼もしい。
「お前ら! 敵が崩れたぞ! 前進だ!」
「応っ!」
そして、コンラードの傭兵団も突撃していく。
対人戦ならば傭兵たちの華だ。彼らは逃げようとする重装歩兵にハルバードの刃を叩き込み、1体、2体、4体、8体と次々に重装歩兵を排除していく。
「勝った。完全に勝った」
私がそう宣言したのはリントヴルムの群れが全滅し、随伴の重装歩兵たちも半数以上が屠られたときだ。
もはや敵にこの要塞線を落とす力はない。
勝った。勝利した。やってやった。
私の歓喜の感情がスワームたちに伝わったのかスワームたちは爪を鳴らして勝利に喚起するジェスチャーを始めた。
「女王陛下。やりましたね」
「ああ。君たちのおかげだ、セリニアン。これは我々全員の勝利だ」
私たちはこの苦しい戦いに勝利した。
ニルナール帝国軍はごそごそと撤退を始め、もう二度とこの要塞線を攻撃しようという気にはならないだろう。
やっと終わった。勝利したんだ。この戦争に勝ったんだ。
私はそう考えたが、奴らは厄介な置き土産を残していった。
よりによって、東部商業連合の首都ハルハにおいて。
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