<< 前へ次へ >>  更新
75/133

反乱の手(2)

…………………


 私たちスワームで構成されるアラクネア勢とラーロたち反乱軍は王都リツカの中心にあるリツカ城に達した。


「警備兵! 警備兵! 敵だ! 敵が来たぞ!」


 警報の喇叭が吹き鳴らされ、王城の各地から兵士たちが呼集される。


 呼ばれた兵力は歩兵戦力計2個中隊。概ね情報通りだ。


 問題は1個中隊は重装歩兵だということか。


「セリニアン、やれるか?」

「問題ありません」


 セリニアンはいつも自信に満ちているな。


「ラーロ。そちらの準備もできているな?」

「ああ。この国を取り戻すための戦いだ。準備は出来ている」


 私が尋ねるのにラーロが答える。


「貴様ら! ここから先へは一歩も進ませんぞ! 我らが神秘炉の力を見るといい!」


 敵の警備兵2個中隊の指揮官はそう告げると後方に合図した。


 その合図と共に後方で賛美歌のような歌声が響き出し、空間が捻じ曲がるのが分かった。これはよくない兆候だ。これはフランツ教皇国が"熾天使メタトロン”を召喚したときとよく似ている。


「セリニアン、注意しろ。何か来るぞ」

「ええ。分かります、陛下」


 私たちがそう告げ合っているとき、空間が完全に捻じれ切り反転した。


 現れたのは天使。これもマリアンヌが召喚する上級ユニットの天使だ……!


 この天使たちは飛行能力を有し、かつ攻撃力は高い。この国はニルナール帝国に寝返る前はフランツ教皇国に媚びを売ってこの技術を手に入れていたのだろうか。実に面倒なことをしてくれる。


「ジェノサイドスワームは防御姿勢! ポイズンスワームは対空射撃準備! セリニアンは任せる! 自由に動いてくれ!」

「畏まりました、陛下!」


 私は指示を出し、結果を見守る。


 天使たちはまずは対空攻撃のできないジェノサイドスワームを標的に選んだようだが、その天使たちをポイズンスワームが毒針を叩き込んで迎撃する。毒針を受けた天使たちは光の粒子となって消滅する。


 そして、天使たちは次々に撃ち落とされると攻撃目標をポイズンスワームに切り替え、その手に持った長剣で切りかかる。


 ポイズンスワームの毒針の発射レートはそこまで高くはない。毒針を再装填中のポイズンスワームが切り倒され、1体、1体と倒されていく。


 不味い。よくない。


 私はポイズンスワームがそこまで打撃を受けることを想定していなかった。だから、少数しか作成していない。それを屠られ続けるのは大打撃だ。


「皆! 援護しろ!」


 そこで助けにはいったのはラーロたちだった。


 彼らは天使に向けて武器を向け、弓を持つものは弓を放ち、剣を持つものは切りかかった。だが、人間の民兵が天使に与えられるダメージなど大したものではない。それでもラーロたちは必死になって天使たちに食らいつき、攻撃を加える。


 そして、より不味いことに天使たちのターゲットは自分たちを攻撃してきたラーロたちに移ったのだ。ラーロたちではまず天使には勝てないのに。


 このままでは全滅だ。


 私が結果を予想してうろたえたとき。


「はあっ!」


 黒い刃の一撃が3体の天使を仕留めた。


 セリニアンだ。そうだ。まだ私たちにはセリニアンがいる。


「セリニアン! そのまま叩いてくれ!」

「お言葉のままに!」


 英雄ユニットであるセリニアンなら、一般ユニットである天使たちを倒すのもわけもない。セリニアン任せというのも力押しな気がするが、ユニット数が限られている状況ではしょうがない。シングルキャンペーンのように無双してもらおう。


「てやあっ!」


 私の前でセリニアンが天使を屠る。


 黒い破聖剣が天使たちを引き裂いていき、天使たちが光の粒子に変わる。首を、手足を胴体を切断された天使たちが苦悶の声を上げることもなく、次々に屠られていく。まさに戦いはセリニアンによる一方的なものと化している。


「セリニアン様を援護しろ」

「女王陛下万歳」


 そんな状況でポイズンスワームたちが健気にも攻撃を加える。毒針が飛び、毒針を受けた天使が光の粒子に溶ける。セリニアンを狙おうとしていた天使だけを狙い撃ちにした実に見事な連係プレイだ。


「はあああっ!」


 そして、最後にセリニアンが残っている天使たちに向けて突撃する。


 一撃。


 セリニアンが横薙ぎに破聖剣を振るうと、残っていた天使たちは一刀両断された。天使たちは賛美歌のコーラスのような声を上げながら、地面に向けて落ちていき、光の粒子と化した。


「まさか! そんなまさか! 天使様たちが勝てないとは!」

「どうするのだ!? 一体どうすればいいのだ!?」


 ここで慌てるのは残っていた兵士たちだ。


「慌てる必要はない。死ぬだけだ」


 私はそう告げてジェノサイドスワームを前進させた。


 ジェノサイドスワームは味方のポイズンスワームがやられた恨みを晴らすように兵士たちに向けて突撃し、彼らを八つ裂きにした。兵士たちの首を切り落とし、手足を切り落とし、胴体を切り落としたジェノサイドスワームたちは血の中で蠢く。


「これで警備は片付いたな。後は国王の首を取るだけじゃないのか?」

「あ、ああ。アラクネアってのは本当に圧倒的なんだな……」


 私が軽い調子で告げるのにラーロが呆気に取られてそう告げた。


 これでも手加減している方だぞ。本当なら何百、何千というスワームが押し寄せるんだからな。これだけしか持ってこれなかったのが残念だよ。


「前進だ! 圧制者を倒せ!」

「圧制者に死を!」


 私たちが警備兵を片付けたのを確認するとラーロたち反乱軍は威勢よく、王宮の奥へと突き進んでいった。威勢のよさだけは完璧だな、この反乱軍。


「女王陛下。先ほどのはフランツ教皇国で交戦した……?」

「ああ。そうだ。マリアンヌの召喚ユニットの下級天使だ。何故、ここいにるのかは分からないが、どうやらゲームの影響を受けているのは私たちだけではないようだ」


 マリアンヌの英雄ユニット“熾天使メタトロン”、召喚ユニット“天使”。


 となると、ニルナール帝国のワイバーンもグレゴリアのものか?


 グレゴリアは苦手な相手だ。戦闘ユニットは平均的に速度を犠牲に火力が高く、数で押しつぶすというのが難しい。リントヴルムの軍勢などいくらスワームの軍勢をぶつけても倒れないときがある。


 それに英雄ユニット“ゲオルギウス”。これは“熾天使メタトロン”より面倒な相手だ。ゲオルギウスが最終段階まで育っていたら、こちらはかなりの数のユニットを犠牲にすることになるだろう。


 セリニアンはまだ進化途中だし、厄介すぎる。


「それはそうと、我らが盟友が成し遂げたことを見に行こうじゃないか」


 私はセリニアンにそう告げて王宮の奥に進む。


 反乱軍は一斉に国王の首を取りに行ったのか、調度品などは荒らされていない。普通は略奪が起きるものなのだが、規律が取れた反乱軍なんだろう。


「国王アルフォンソ4世!」


 ラーロが叫ぶ声が聞こえ、私たちが広間に入る。


「お前はニルナール帝国の犬となり、このナーブリッジ群島の独立を脅かした! その罪は大きい! 死をもって償ってもらう!」


 ラーロがそう叫び、国王がバルコニーに引き摺られていく。


「貴様らは何も分かっていない! 何もだ! 私は無為にニルナール帝国の言うことを聞いていたわけではない! ニルナール帝国が大陸を統一しなければ、新大陸より押し寄せる破滅に対処できぬがために力を化してきたのだ!」


 新大陸より押し寄せる破滅? どういうことだ?


「つまり、貴様はニルナール帝国のためにやってきたことは否定しないのだな!」

「我々全員のためだ! 新大陸のおぞましい軍勢が押し寄せてくれば、我々は皆破滅するだろう! 大陸には強力な国家が必要なのだ!」


 ラーロが叫ぶのにアルフォンソ4世が泣きながら叫ぶ。


 どういうことだ。新大陸で一体何が起きている。何を恐れている。もしや、これはニルナール帝国が攻撃的な外交を取るようになった原因なのか?


 私はアルフォンソ4世に理由を、具体的な理由を聞きたかった。


「貴様は祖国を裏切った! ここに死罪とする!」


 だが、それよりもラーロの持っている長剣が振り下ろされる方が早かった。


 アルフォンソ4世の首は落ち、もう何も聞くことはできない。


「勝利だ! この国は解放された!」

「万歳! ナーブリッジ群島万歳!」


 ラーロが蛮族よろしく首を掲げて告げるのに、王城に集まった群衆が歓声を上げる。


「助かった、アラクネアの女王陛下。あなたたちのおかげで圧制者を倒すことができた。解毒剤は薬品保管庫にあった。持って行ってくれ。本当にありがとう。ナーブリッジ群島の民はこの恩を忘れない」


「そこまでのことをした覚えはない。だが、解毒剤はありがたくいただいていくよ」


 ラーロが深く頭を下げて告げるのに、私はそう返した。


 できればアルフォンソ4世に新大陸で何が起きているのか聞きたかったのだが。


 まあ、いい。これで解毒剤は手に入った。交易禁止が解除されたことで、帰りは堂々とジルベルトの船で帰ることができる。


 ライサ。待っていてくれ。もう少しの辛抱だ。


…………………

<< 前へ次へ >>目次  更新