シーサーペント討伐
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──シーサーペント討伐
シーサーペントの討伐が決定されてから私たちは一度シュトラウト公国に戻った。
そこで必要なユニットを集めるためだ。
「みんな、集まったか?」
私は集合意識を通じてそのユニットたちに問いかける。
「集まりました、女王陛下」
「よろしい。では、乗船だ」
私は虎の子の大型商船に新ユニットを搭載していく。この子たちが恐らく、シーサーペントを倒すうえで重要な役割を果たすだろう。
「ライサ、セリニアンは私と一緒に中型商船へ。ローランが大型商船の指揮を頼む」
「畏まりました、女王陛下」
今回は私も含めて全力出撃だ。
私が出撃しても何の役にも立たないようだけれど、海賊たちにアラクネアの女王は戦が怖いと舐められても困る。ちょっとは怖いけれど、私だって何度も戦場を潜り抜けてきているのだ。……セリニアンに守ってもらって。
「では、出航して海図のこの地点で海賊たちと合流だ」
アトランティカの海賊との合流地点は以前、シーサーペントが出没した旧首都ドリスの沖合だ。そこでいったん合流してから、私たちはシーサーペントを釣り上げる手はずになっていた。
どうやって吊り上げるか? それは家畜の肉を曳航することらしい。
実にシンプルだが、本当に上手くいくのだろうか。
「出航します」
そして、ついに私たちはシュトラウト公国から出発した。
心配なのは国境線の警備だ。今こうしている間にも防護壁と眼球の塔は建てられているが、敵が本格的に突破を試みれば突破されるだろう。そして、私がセリニアンたち虎の子ユニットをシーサーペント討伐に動員しているため、本土の防衛は弱い。
どうにかしてさっさとシーサーペントを始末して帰らなければ。
「海賊船が見えます」
ライサが不意にそう報告してきた。
確かにかなり先に海賊旗を掲げたアトランティカの海賊船が見える。私が望遠鏡を使ってようやく見えるものを裸眼で見れるライサは目がいいな。
動員された海賊船は9隻。アトランティカにはまだまだ海賊船があるらしいけど、来たのは9隻だけだ。誰もがシーサーペントに恐れをなして、討伐に加わることを拒否したらしい。まあ、命あってのものだねだからな。
そして、1隻の海賊船が私たちの中型商船に近寄ってきた。
「よう! アラクネアの女王陛下! 準備はいいか!」
イザベルだ。イザベルのアルバトロス号が接近してきた。
「準備は出来ている。そちらも準備は?」
「いつでもいける。任せてくれよ」
私が尋ねるのに、イザベルは二ッと笑ってそう返した。
「それじゃ釣りを始めるから、備えてくれよ」
「了解。こちらも準備をしておく」
肉を曳航する危険な役割はイザベルのものらしく、彼女のアルバトロス号から海に向けて牛がまるまる1頭放り込まれる。そして更にもう1頭。シーサーペントというのは随分な大食いのようだ。
「セリニアン、ライサ。万が一の場合に備えてくれ。それからローランは彼らの戦闘準備が取れるように上手くイザベルの船を追いかけるように」
「畏まりました、女王陛下」
私が告げるのに、セリニアンたちが動く。
セリニアンは長剣を構えて海を睨み、ライサは麻痺毒が塗られた弓矢を手にして海を見張る。ローランはリッパースワームと新ユニットたちと共に、大型商船を巧みに操り、アルバトロス号を追跡する。
アルバトロス号はあえてゆっくりとした速度で肉を曳航しており、まだ海面は静かだ。だが、いつ海面下から化け物が飛び出してくるのか分からない。セリニアンの報告では全長50メートルを超えているという話であったし……。
「女王陛下。奴の気配です。来ます」
「ああ。セリニアン。分かるよ。私にも君が感じているものが分かる」
海底から急速に上昇してくるものの気配。
それをセリニアンが感じ取り、続いて私たちが集合意識でそれを感じ取った。
「──来る」
私がそう呟いた時、アルバトロス号の背後で水柱が上がった。
その水柱と共に現れたのは、セリニアンの報告通り全長50メートルは超えているウミヘビのような怪物だった。それがアルバトロス号が曳航していた牛2頭を丸のみにし、海面高くに飛び跳ねた。
「来たぞ! 銛を撃ち込め!」
「ライサ! 攻撃だ!」
イザベルと私が同時に指示を出す。
海賊船からは捕鯨用の銛が何本も放たれてシーサーペントを貫き、更にそこに麻痺毒を塗ったライサの弓が突き刺さる。ライサの弓の麻痺毒はリッパースワームたちの麻痺毒を濃縮したもので、これ1本でリッパースワーム10体に刺されたことになる。
「ギイイイィィィ!」
シーサーペントは銛の痛みと麻痺毒によって悲鳴を上げ、銛を撃ち込んだ海賊船に怒りを向けて突撃していく。
だが、海賊たちもただではやられまいとすぐさま加速し、シーサーペントの突撃を回避しようとする。だが、間に合わなかった。
シーサーペントの突撃を受けた海賊船は転覆し、乗員たちが海に投げ出される。海賊船はそのままシーサーペントの牙でかみ砕かれ、完全な海の藻屑と化す。シーサーペントは怒り心頭という具合だ。
不味いな。あそこまで素早いものだとは思っていなかった。やれるか?
私が不安を覚えたとき、シーサーペントがアルバトロス号と私たちの乗る中型商船に向けて突撃を開始した。私たちの船も海底に沈めてしまうつもりなのだろう。不味い。実に不味い。
「ローラン! そっちの準備はできているか!」
「まだです! 相手が速すぎて捉えられません!」
ああ。ローランの大型商船に乗っている新ユニットだけが頼りなのに。
「セリニアン、ライサ。迎撃だ。迎え撃つぞ」
「畏まりました、女王陛下」
私は覚悟を決めてそう命じる。
私たちはアルバトロス号とシーサーペントの間に割り込み、シーサーペントを迎撃する構えを見せる。海面下から突撃されたらどうしようもないが、敵が浮き上がってくるならば……。
「シーサーペントが上がってくるぞ!」
イザベルのアルバトロス号からそんな声がする。どんぴしゃりだ。
これは別にまぐれというわけではない。シーサーペントは記憶力があるとイザベルから聞いていた。ならば、この船でセリニアンにやられたことも覚えているはずだ。セリニアンの声が海底まで響いたのをシーサーペントは聞いているはずだ。
さあ、リターンマッチのチャンスだぞ、シーサーペント。
そして、シーサーペントは海面から隆起してその姿を見せた。
ウミヘビのようだが、眼球は4つあり、その全てが私たちの中型商船の上に向けられている。そして、シーサーペントの目がセリニアンを見つけ出し、怒りに燃えて雄叫びを上げ始めた。
「セリニアン! 押さえられるか!?」
「ご安心を!」
シーサーペントがその牙を剥き出しにして襲い掛かってくるのに、セリニアンが長剣を構えて迎え撃つ。
交錯。
シーサーペントの牙が金属音を立ててセリニアンの長剣に牙を突き立て、セリニアンが必死に牙を押さえ込む。今にもセリニアンは丸のみにされそうだが、なんとかシーサーペントの顎を押し返していた。
「ライサ! 援護を!」
「了解!」
続けて私はセリニアンがシーサーペントを押さ込んでいる間に、ライサに命じる。ライサは麻痺毒を塗った弓矢を同時に3本番えると、一斉にシーサーペントに向けて放った。ライサの弓術は相変わらず神業だ。
「ギイイィィ!」
「はあっ!」
麻痺毒を撃ち込まれ動きが鈍ったシーサーペントをセリニアンが切り倒す。切り倒すといっても口を裂き、上甲板にその頭を叩きつけてやっただけだけれど。それでも大きなダメージだ。
シーサーペントは今やライサの麻痺毒とセリニアンの一撃でダウンしている。
間に合ってくれ、ローラン。
「女王陛下! 準備が整いました!」
来たぞ。海の怪物を仕留める我らが新ユニットが。
大型商船の上甲板に所せましと並ぶのはリッパースワームほどの鎌は持たずとも、リッパースワームより何倍も大きな蠍の尾を持ったスワームたち。尾部からは青黒い液体が滴っている。
ポイズンスワーム。アラクネア陣営の遠距離火力ユニットのひとつだ。
「ポイズンスワーム、攻撃開始!」
私が命じるのにポイズンスワームの巨大な尾部から矢のようなものが射出された。
そして、それがダウンしていたシーサーペントに次々に突き刺さり、シーサーペントは悲鳴を上げると海底に逃げるように潜り始めた。
「今のは何だ?」
「あの子たちはポイズンスワーム。アラクネア陣営の遠距離火力ユニットだ。彼らの放つ毒針はドラゴンですら屠ると言われている。伝承では、な。それだけ強力な毒だ。食らえばただでは済まない」
これが私の切り札。
シーサーペントは海の生き物だ。地上のように斬り合いして倒すのは難しい。リッパースワームの群れをぶつけることも難しい。ならば、遠距離火力を以てして、海面に出た瞬間に仕留める。
そうすれば、敵はもがく暇もなく、息絶えるはずだ。
そう私が考えた瞬間、シーサーペントが浮き上がってきた。もだえ苦しんでいるのが分かるうねりにうねった状況で、海面をのたうつ。
「まだ足りないか? ポイズンスワーム、更に攻撃だ」
「畏まりました、女王陛下」
私の指示にポイズンスワームが海面をのたうつシーサーペントに毒針を次々に叩き込んでいく。容赦も、情けも、同情もなく、シーサーペントは毒針で滅多刺しにされて口から血を吐き始めた。
それからだ。シーサーペントの体が溶け始めたのは。
まずは腹部の皮と肉が溶け、骨と内臓が剥き出しになる。それから顔面が溶け始め、ぬらりとした動きでシーサーペントの頭が溶け落ちて、海面に落下した。それからは完全に溶けてしまうだけであった。
「凄い……」
静かになった海面上でシーサーペントが溶解する様子を見ていたイザベルが呟くのが聞こえた。
私と言えばそこまで驚いてはいない。ゲームでもポイズンスワームの毒を食らった敵は溶けてしまう。無機物や防御力のあるユニットなら毒針を防ぐが、そうでないユニットは一瞬で肉のスープとなってしまう。
今回のシーサーペントは持った方だ。普通は一瞬で溶けるのだから。
「これでシーサーペントは気にしなくてよくなった?」
「ああ。これであたしたちはシーサーペントを気にせずに海に出れる!」
海賊たちの歓喜の声がこだました。
ふう。これで一安心だ。
後は彼らがフランツ教皇国を脅かし、フランツ教皇国の海軍を押さえておいてくれればいいのだが、本当にそんなに上手くいくのだろうか。
まあ、今は楽観的に考えよう。
そうしないと疲れる。
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