3.11.初めての買い物……?
朝が来たようだ。
体を起こしてみればサテラが俺の腹を枕にして寝ていた。
子供にしては高すぎる枕だと思うのだが……。
ウチカゲはというと、随分奇妙な寝方をしていた。
まず胡坐をかいて壁を背にしているのだが、両腕にある鉤爪を装備して腕を左右にだらんと伸ばして寝ている。
その姿は瞑想しているようにも見えた。
寝ている間も警戒してこういう体勢になったのだろう。
いつでも反撃できる準備が整っていた。
随分物騒だなと思う反面、ウチカゲには感謝した。
俺は寝ている間は気配を察知することができない。
そもそもそんなに強くないからな。
何があるかわからないこういう街では、気配を察知出来ないというのは致命的だ。
寝込みを襲われたり、荷物を盗まれたりする可能性だってある。
ウチカゲはそういうことも考えてくれていたのだろう。
心の中で感謝しておくことにした。
多分今まで随分と神経をすり減らしてきただろうから、こっそり大治癒をかけておいてあげる。
これで疲れも多少は軽減されるだろう。
寝ているのでバレることはないだろうしな。
サテラを起こさないように動かしてから起き上がり、窓の外を見てみる。
まだ朝が早いというのに町は人で一杯だ。
既に俺たちがここに来た時と同じ賑やかさがあった。
荷物を多く積んだ馬車が走っていたり、店の準備をしている人など様々である。
ガロット王国よりも賑やかなのではないだろうか?
まぁ祭りが近いと言っていたし、それも関係あるのだろうけどな。
さてと……俺たちも今日からいろいろ動き出さなければならない。
アレナはできるだけ早く救出しなければならないし、その後のことも決めておかなければ。
とりあえずアスレたちのいるガロット王国に帰ることができれば何とかなるだろうけどな。
まずはアレナを見つける事。
そして助ける算段を考えることだ。
今回はサテラと違って本格的な救出作戦になる。
サテラの時はバラディムが気を利かせてくれたおかげで簡単だったのだが、アレナの場合はそうはいくまい。
ましてや奴隷として扱われているのだからな。
だが見つけない事にはどうするかを考えることはできない。
さっさと探してちゃちゃっと救出。
これがベストだ。
しかしどうやって探そうか。
これが当初の問題だった。
ここには俺の知っている知人はいない。
いるわけがない蛇だもん。
なのでコネや伝手を使うことは勿論できない。
ウチカゲもそれ程仲の良い友人はいないのだという。
顔見知りは何人かいるようだが、信頼できる人物かと聞かれるとそうではないと自信をもって言えると教えてくれた。
そうなってくると、手探りで探していくしかない。
だが、俺は一つ考えがあった。
今日はとある人物を探しに行くことになっているが、ウチカゲとサテラはそのことを知らない。
「……じゃ、ちょっとお先に探してくるぜ」
音を立てないように気を付けながら部屋を出た。
今から行く所は、あんまりあの二人には見せたくないところだからな。
これは俺一人で行くのがいいはずだ。
宿から出てそれっぽい場所にとりあえず向かってみる。
目的地は決まっていても、それが何処にあるかはわからないからな。
人に聞けばいいのだろうけど、目的地が目的地なので聞く相手を見定めなければならない。
俺が今行こうとしている場所……それは奴隷商の所だ。
アレナは一度とはいえ、奴隷商の本部か何処かに輸送されたはず。
それはアレナのいた領地の民たちも同じだろう。
そして何処かに売り飛ばされていると思う。
なので奴隷商に聞けば、売った奴隷の記録があるのではないかと考えてみたのだ。
しかし、希望は薄くもある。
奴隷は使い捨てだったりする場合も多いようだし、いつ死ぬかわからない奴隷の名簿記録なんて取っているかどうかもわからない。
それにアレナを売った奴隷商が闇奴隷商である場合は、その記録を隠蔽するはずだし、売った人物のことも話したりはしないだろう。
国に認められている真面目な奴隷商であればいいのだが……。
こればかりは本当に運だ。
ここに来るまでにもう少し奴隷商のことを聞いておけばよかったと後悔した。
だが黙って出てきてしまったし、ここで戻るのは格好が悪いだろう。
このまま探すことにする。
因みに、サテラとウチカゲを連れてこなかった理由はちゃんとある。
サテラは子供だし奴隷と言うものをあまり見てほしくないから連れてこなかった。
アレナが奴隷にされている場所を見つけてしまったら、確実に走って行ってしまうだろうからな。
安全に救出できるようにするためにも、面倒な騒動は起こさないようにしなければならないのだ。
ウチカゲはと言うと……隠密行動では確かに俺よりも腕はいい。
だが自分の里を襲った人物たちと面と向かって出会うのは不味いのではないか、と思ったのだ。
ウチカゲなら感情を押し込めて接することができるかもしれないが、過去の出来事が消えるわけではない。
少なからずウチカゲは奴隷商に恨みを抱いているはずだ。
余計な私情を挟み込んでしまえば、説得や交渉が失敗に終わる可能性があるため、ウチカゲも置いていくことにしたのだ。
帰ったら二人に何か言われるだろうけど、そん時はそん時だ。
なるようになるだろう。
さて、そんなところで問題が一つ。
どうやって奴隷商のいる場所を探し出すか……。
人に聞いてもいいけど当たり障りのないように聞いたほうがいいだろうな。
何処へ行こうか迷っていると、ふと果物を売っている屋台を発見した。
まだ早い時間帯だというのに、男の店主は椅子に座ってこちらに来る客を待っている。
随分と沢山の果物があるようだ。
全部食べてみたい。
俺はおもむろに近づいて果物を吟味し始めた。
お金はとりあえず持ってきているし、何か買い物をしてみてもいいなとは思ったので、試しにここで買い物をしてみることにする。
「おっちゃん。これはいくらだい?」
「一個で銅銭八枚だ」
「一個で?」
意外と高いな……一個だろ?
果物一個でそれだけするのか?
宿で出た分の食費が一人当たり銅貨四枚くらいだ。
宿代と食事は別料金だが、宿代で少し安くなっている。
食材と料理の量と手間賃を考えればそれくらいあってもいいのかなとは思ったけど、果物一個でそれはないだろう。
だって宿の一食分で見積もってみれば果物五つしか買えないんだぜ? あんまりだろ。
「高すぎるな」
「今は実りがよくないから割高なんだよ」
「へー。こんな場所にずっと置いてるなら、少しでも元取るために早いこと売った方がいいと思うけどね」
果物でも腐る物は腐る。
だったらその前に早く売った方が絶対にいい。
この金額では売れないだろうけどな……。
クーラーとか冷蔵ケースとかもこの世界にはないだろうし、痛んだら捨てないといけなくなるはずだ。
おまけにこいつが店を開いている場所は、直射日光がもろに当たっている。
それに加えて屋根もない。
食料品を取り扱っている奴がそんなのでいいのだろうか。
「じゃ、高いし痛んでそうだし俺は別の所に行って買うよ」
「……」
スタスタをその屋台を離れたが、店主は何も言わずにただ俺を睨んでいた。
俺が言ったのは文句ではなくて助言なんだけどなぁ。
なんでそんなに睨まれるのか。
だが見ておいてよかったな。
これでなんとなくだが相場がわかった。
あの宿の一食分の料金を基礎にしていけば、安く物を買えるかもしれないな。
ていうか普通にぼったくりってあるのね。
気を付けなければ……。
さて、とりあえず適当に散策してみるか~。
ガロット王国ではまともに店とか見れなかったからな。
とりあえず行きたい場所は武器屋と薬局屋かな~。
薬を見ておけばどの程度の物であれば、回復水を作ってもいいかわかるかもしれないし、店の人にそのことを聞けばまた違う情報がもらえるかもしれないしな。
勿論俺が使えるってことは黙っておくけど。
アクセサリーとかも見ておこうかな。
あ、服とかも見に行きたいな!
お! あんな所に魔法屋が!
何売ってんだろう!?
ていうか技能があるのに魔法屋とか必要なのか?
人間と魔物で魔力の使用方法とか魔法の使用方法とか違うのかもしれないな……。
ちょっと行って話聞いてみるか!