2.53.どういうこと?
捜索開始から三日が立った。
第一区画、第二区画、第三区画、第四区画共に異常なし。
結構時間が余った日があったのでその日は第四区画に向かって調査をした。
まぁ何もなかったけど。
捜査をしてわかったのだが、奴隷と言うのは全てが全て酷い待遇であるということは無いらしい。
確かに酷い所もあったけどな。
あんまり見ていていいものじゃなかったが……。
だがこの三日、俺はあまり良い功績を残せずにいたが、兵士や家臣たちは奴隷狩りをしていた奴隷商を何人も捕まえ始めている。
やはり奴隷商は動いたようだ。
動いたのはこの国の中で一番大きいとされる奴隷商だったようだ。
兵士たちが防衛線の仕事に勤しむ中、この奴隷商は奴隷狩りを強行した。
そもそも敗走したという噂だけは国を出て他国にまで行き届いている。
なので戦争を仕掛けられるかもしれない国にわざわざ出向く冒険者や商人はいなくなり、今では門の前に並んでいる人の数はとても少ない。
国民も国こそ出ないが、外には行きたがらない傾向にあった。
戦死したとしてある家族は深い悲しみに暮れている……。
こればかりは少しやるせない気持ちになったが、あと四日だけ待ってほしい。
だがそんな中で、国を馬車で出る商人は非常に目立つ。
まずジルニアが取った行動は門の警備を厳重にし、入ってくるときも、出ていくときも荷の中身をしっかりと確認させることだった。
今までは賄賂などを使って奴隷商はその場を凌いできたようだが、そんなことをする輩には特に注意を向けた。
その商人の出どころを探って兵士たちに調べさせ、裏をきっちりと取ってから牢獄へとぶち込んだ。
手慣れているというか……ジルニアはこういう仕事をしていた方が生き生きしているような気がするのだが気のせいだろうか。
奴隷商は兵士に頼ることをやめて地道に奴隷狩りを行おうとしたようだが……それは失敗に終わったということになっている。
今はその奴隷商に尋問して他の情報を聞き出している最中だ。
俺はその現場に居合わせたくないのでジルニアの隣にずっと座っていたがな。
「ジルニア様、大丈夫ですか?」
「レイトンか……うむ。問題ないぞ」
「で、ですが……ここ最近全く寝ておられないではないですか。少しはお休みになったほうが……」
「確かにほとんど寝てはいないが、どうも体の調子が良いのだ。十年は若返ったような気分だな! それにアスレ様も王都で奮闘しておられるはず。私達も尽力を尽くさねばならんだろう」
調子がいいって?
そりゃそうだろう。
俺が回復してやってるからな!
こいつほとんど寝てないとか言ってるけどまず寝てねぇし!
三日寝てないんだぞ!?
普通ならぶっ倒れてもおかしくない。
俺の回復が無かったらとっくのとうに倒れてベッドの上だぞジルニア!
感謝しろまじで!
熟練度上がるからいいけどさ!
てか回復技能で睡眠時間を削れるってやばいよなぁ……麻薬じゃん。
疲れを取るっていう能力も備わっているのかもしれないな。
怖いね。
だが、そのおかげで奴隷商も捕まえているし、三千の兵士から届く情報も整理しきれている。
まじでその力を借りてサテラを探し出してほしいのだが。
俺が後捜索していない場所は三区画。
ここから比較的近い場所二つと、城に近い場所一つだ。
多分近い場所二つは一日あったら調べ上げれると思うので、今晩は城に近い場所を探しに行くことにしよう。
流石にいないとなるとマジで困ってくるけど……あと三区画に賭けるしかないか。
「応錬殿は、このような情報を聞いてばかりで退屈しないのか?」
ジルニアが俺に声をかけてきた。
確かにずっと聞いていると眠くなってくるが、俺にとっても重要な情報だから退屈はしないな。
「ほぉ。応錬殿は蛇なのに勤勉なのだな」
勤勉っていうか……俺の私情なんだけどなぁ。
でもジルニア。
俺は別に気にしないが、俺にそんな口の利き方をしているとウチカゲやテンダに知られたらぶん殴られるぞ。
気を付けろよ……?
まぁその時は止めてやるけども。
そういえば俺が進化して体がちっちゃくなってもジルニアやテンダたちは驚かなかったな。
もう慣れたのか……そういうものだと割り切ったのかわからないけど。
ちょっと反応がないと寂しいな。
「ジルニア様!」
兵士の一人がノックもせずに扉を開けて部屋に入ってきた。
随分急いて来たようで汗だくだ。
「そんなに急いでどうした?」
「また奴隷商の馬車が外に出ました! 今回は相当な額を賄賂として送ったようですが……」
「まだそんなもので誤魔化せると思っているのか……よし! 今すぐ部隊を編成してその後を追うのだ! 絶対に逃がすな! レイトン! 指揮はお前に任せる!」
「かしこまりました」
執事であるレイトンがすぐに動き出して兵士たちをまとめ上げ始めていた。
先ほどの兵士はここに来る途中、他の兵士にあの事を伝えていたようで、部隊の編成に必要な人員を確保してもらっていたのだという。
もうすでに百人規模の部隊が完成していた。
これならすぐにでも出発できそうだ。
俺とジルニアは窓越しからその様子を見ていた。
動きに無駄が無くなっているような気がする。
すごいな……。
レイトンはこれで何度目の出撃になるのだろうか。
もう武具を脱ぐのを忘れている。
「あー……この調子だと近くにある牢はいっぱいになってしまいそうだな……」
かっこよく指揮したのはいいけど、裏で頭を抱えているジルニアの姿は少し面白かった。
◆
―夜―
さぁ! ここからは俺の時間です……。
と、その前にちゃんとジルニアに回復を施しておいて……っと。
ランタン一つでよくもまぁ頑張るよ。
ま、俺がいる間はちゃんと協力しておいてやろう。
じゃないとマジでぶっ倒れそうだからなこいつ。
さて、回復も施したので早速城に近い区画へと向かうことにする。
流石に城の付近では宿と食料品売り場くらいしか出ていない。
それも夜なのですでに閉まっている。
あるのは家からこぼれる明かり位なもので道は暗かった。
俺としてはこれくらい暗いほうが行動しやすくて丁度いい。
程なくして目的地にたどり着いた。
この場所は奴隷を使っている商人の家だ。
随分と大きな商家で支店なども転々としている場所なのではないだろうか?
何をしている店なのかはわからないが、奴隷を使って積み荷を運び入れているということだけはわかっている。
大きい商家なので使う奴隷も多いはずだ。
今までの捜索してきた経験から、奴隷は別の家に置かれていることが多い。
流石に奴隷と一緒に寝るなんてことはしない様だ。
性奴隷は違うと思うけど。
ということで、俺は操り霞を使用してそれらしい人物達を探す。
暫く探していると、商家から数件離れた家の地下に牢のようなものを感知することができた。
奴隷は大体こういう牢の中に閉じ込められている場合が多い。
その中に操り霞を展開してみると、手と首に枷を付けられた人物が数人いた。
一つの牢に五人ほど入れられているようで、寝ているのか動いてはいない。
居場所が分かったのであれば今度は目視でサテラがいるかどうかを確認する。
シルエットからして子供の奴隷も何人かいたはずだ。
これで何度目の潜入になるかわからないが、もう手慣れたものである。
まずは入れそうな場所を探す。
探した結果、今回は入れる場所が一つしか無い上その扉には鍵がかけられているようだ。
だが慌てない。
無限水操で鍵穴に水を流し込んで鍵の型を作り出す。
MPを使って水圧を付与してそのまま回す。
カチリと小気味のいい音が鍵穴から鳴った。
そのまま少し扉を開けて潜入する。
扉を開けるとすぐに地下に続く階段があった。
俺はその階段を躊躇うことなく降りていく。
この地下は石で作られていためとても寒い。
雨が降った時なんかはもっと寒くなってしまうだろう。
そんなところに人を閉じ込めるなんて酷いと思うのだが、奴隷を隔離するためにはこういう地下とかが良いのだろうな。
商人たちもできるだけ奴隷を見せたくはないのだとは思うが。
階段を降りるとすぐに牢が見えた。
どうやら牢は何個かあるらしく、その中に奴隷が数人ずつ入って寝ている。
俺はその中から子供を探し出す。
今までサテラを探していて思った事があるのだが、サテラだけを助けて良いのだろうか。
本当ならば奴隷狩りで捕まった奴隷を全て解放しなければならないと俺は思うのだが、それは俺一人の力では出来ない。
その理由は誰が奴隷狩りで捕まった闇奴隷なのかどうかがわからないからだ。
もし借金奴隷なんて開放してしまったら俺のやっていることが脱獄の手伝いになってしまうからな。 今闇奴隷だとわかっているのはサテラとアレナのみ。
サテラに聞けば他に見つかるかもしれないが、流石に俺一人ではサテラを守るだけで精一杯だ。
助けれる目処が立つまでは行動に移せないのが現状だった。
俺の脱出を手伝ってくれた恩人のアレナの頼みということもあるのだが……今回はサテラとアレナを助けることに専念することにする。
いつかアレナの里の者も全員助けるので待っていてほしい。
【十分な姿形を検出しました。記録します】
うわあああ!?
びっくりしたぁ!
やめろよ潜入中に!
蛇でよかったわ。
人間だったら確実に悲鳴上げているぞ。
そういうところだよ天の声!
だから君はいつまで経っても辞書なんだ!
邪魔が入ったが捜索を再開することにする。
一つ目の牢屋……全員大人。
二つ目……これも大人。
三つ目も大人だけ。
四つ目……に子供発見!
だけど男の子……残念……。
そんな調子で牢屋の中にいる奴隷を一人一人確認していく。
だがアレナに似ている女の子は見つからない。
最後の牢屋まで見たが、結局子供は一人しかおらず、サテラはここに居なかった。
がっくりと肩を落とすがそんな肩は今持ち合わせていない。
早々にその場を後にして他に奴隷を閉じ込めている場所がないかを探し出す。
これだけ大きな商家なのだから牢が一つだけということはないはずだ。
もう一度地上に戻って操り霞を展開して捜索を続行する。
すると妙な人影を感知した。
子供ではないので俺が探している人ではないのだが、なんだか動きがおかしかったのだ。
随分周囲を警戒しながら歩いている。
何か後ろめたいことががあるのが丸わかりである。
俺とは全く関係無いが、ちょっと気になったのでどんな顔しているのかくらい見ておこうと思った。
近づいてみるととても豪華そうな服を着ていた。
こんな夜に王族の家臣みたいな奴が出歩いているのはなんだか違和感がある。
それに一人だけ場違いで浮いている。
目立たない方がおかしいだろう。
暫くすると、黒いローブを着た人物が現れて、その王族のような服を着ている人物に近寄って行った。
「ラッド様。お待たせしました」
「遅い! いつまで待たせるんだ!」
「こ、声が大きいです! 抑えてくださいませ……」
ああん? ラッド?
前鬼の里からここに向かう最中、アスレから聞いていた名前だ。
確かアスレの兄貴だよな?
え? じゃあ本当に王族なのか?
え、でもなんでラッドがこんなところにいるんだ?
ん? ど、どういうこと?