2.45.アスレの使者
新作の人外物なのですが、来年の一月から投稿しようと思います。
その時、丁度転小龍の第二章も終わりますので、転小龍第三章、新作人外物を一緒に投稿できればなと考えています。
今は書き溜めている段階です!
もう少々おまちをっ(:`=w=)
使者がまた二人来た。
今度は奴隷商の使者ではなく、アスレ・コースレットの使者だという。
奴隷商の使者とは違い、頭ごなしに話をさせろということはなく、「此度の戦のことについて確認したいことがある」と、自分たちの要件を明確にしている。
ライキはすぐにその使者を通して、自分たちの前に呼ばせた。
三の丸まで歩いてくるのはなかなか大変だったようだが、それでもライキを前にするとキリッとした立ち振る舞いをする。
今ここに来ている使者は豪華な甲冑を着ている。
勿論兜と武器は持ってきていない様だ。
見た目的には西洋騎士だな。
何度も言うけどこの世界の世界観どうなってんだ。
本陣にはライキ、テンダ、ウチカゲ、シム、その他数人の家臣が鎧を着て立っていた。
しかしライキだけは普段着だ。
軍議羽織は羽織っているが鎧は着ていなかった。
テンダの里の防具の色は紫だが、ライキの里の防具は深緑色だ。
ライキが緑色が好きなだけではないかと思うのだが、そこには触れないでおこう。
二人の騎士はライキに一礼をすると片方の騎士は座り、立っている騎士が口を開いてライキに要件を話し始めた。
「此度は謁見の時間を与えてくださり有難う御座います。まず初めに申しましたように、此度はこの戦について確認をしにまいりました。私はアスレ様の家臣の一人、ジルニア・アロルトです」
「同じくアスレ様の家臣の一人、ターグ・オルコスだ」
「わしはこの前鬼城の城主、ライキじゃ。して確認とは?」
「はい。前鬼の里が、ガロット国に攻め立てようとしているとの噂が立っておりまして、その真意をお聞きするために参上した次第です」
「…………お主らの国の情報網はどうなっておるのだ」
ライキは心底呆れたように頭を抱えた。
それもそうだろう。
噂だけでここまでの大事にするとは、国の上層部は相当平和ボケしていると見える。
「と、おっしゃいますと?」
「……まず、先日来た使者は奴隷商じゃ」
「「は?」」
「そこからであるか……」
どうやらこの騎士たちはあの使者を奴隷商だとは認識していなかったらしい。
二人の口からは間抜けそうな声が漏れた。
この騎士たちはおそらく上層部に近い騎士たちだろう。
この反応からするに、他の上層部の人間たちもあの使者が奴隷商だということはまだ認識していない可能性がある。
っていうかもう確定だろう。
どうなってんだ上層部。
「で、では……この兵士たちは……?」
「これはお主らの軍勢がこちらに向かっているとの報告があったため、急遽召集させた民たちだ。お主らが攻めてこなければ、こんな大層なことはしておらん」
「と、ということは……攻め立てようという話は……」
「知らぬ。わしらの全戦力は二千。一方そちらは七千。二千の兵が籠城戦に回るのと、七千の兵が籠城戦に回るのとでは防衛力が桁違いだろう? 籠城に徹するのならば話は別だが、わしらがお主らの城に攻めるなど到底できぬわ」
「確かに……」
嘘つけライキー。
お前絶対これだけでも攻め滅ぼせる自信あるだろー。
てか敵戦力の下調べもせずに出兵したのかこいつら。
この調子だと、奴隷商が奴隷狩りをしているという事実も知らなさそうだな。
ていうか、戦争回避できるんじゃないか?
「……して、どうする? わしは民たちを傷つけたくはないのだがな」
「それはこちらも同じでございます。無用な戦いとわかった今、やるべきことは一つでしょう。しかししばらくお待ちください。このことをアスレ様に伝えなければなりません」
「……それでよいが……実はアスレ殿とやらに少々興味がわいた。出来れば後日会いたいものだ。こちらでもてなそう」
「では、そのように」
座っている騎士の一人が、水晶を懐から一つ取り出して手前に掲げる。
するとわずかに光った。
立っている騎士はその水晶に声をかけた。
「アスレ様。聞こえますでしょうか?」
『……ん? ジルニアですか。どうでしたでしょうか?』
「は。此度の件なのですが──」
ジルニアと呼ばれた騎士は、先ほど話したばかりのことを事細かくその水晶に向かって説明していた。
どうやらあれは通信機のようで、一人が魔力を流している間だけ使える物のようだ。
だから使者が二人いるのか。
ライキたちは別にその会話に気を悪くすることはなかったようだ。
むしろ気になっているようだな。
こちらにはこういう魔術道具がないのかもしれない。
そういえば城を歩いていてもそういう物は見なかったな。
暫くすると話し合いは終わったようで、騎士たちは通信を終えた。
「今、アスレ様が王都に連絡をしているので、もうしばらくお待ちください」
「うむ。どれ、では茶でも飲むかのう。お主らも呼ばれよ」
「「は。ありがたく」」
まだ完全に戦争が終結している訳ではないので武装は解けないが、もてなすくらいは問題ないだろう。
侍女が茶を入れて振舞っていた。
◆
Side―アスレ・コースレット―
「どういうことですか! 此度の件の非は完全にこちらにあります! なのに攻め滅ぼせなどと!」
家臣からの報告を受けた私は、聞いた話を全て王都に通達していた。
それに対応をしてくれたのは王である父上と長男であるラッド兄様だ。
此度の一件は奴隷商がらみで、あの時使者に出した者こそが奴隷商であること。
噂はただの噂にすぎず、敵国に敵意はなく、ガロット王国を攻め滅ぼすほどの戦力すらもなかったこと。
その全てを話したというのに父上から出た命令は『攻め滅ぼせ』とのことだった。
『あのな、アスレ。敵は危険分子なのだ。その噂が出ているということからその気はあるということになる。国民はその国があるだけで恐怖している。それを取り除かねば恐怖は取り除かれぬのだ』
「ですから! 言っているではありませんか! あの噂は奴隷商が私たちの兵を動かそうとしたために流したデマなのです! 奴らは自らの利益のためだけに私たちを利用しようとしていたのですよ!? それに戦えば被害は甚大なものになります! あの国を侮ってはいけません!」
『はっはっは! 落ちこぼれが戦の何がわかるのだ~? これが初陣のくせによく言う。お前、上手いこと言ってこの戦から逃げたいだけなのではないか?』
「そんなことは断じてありません!」
奴隷商の話をすっ飛ばして私を批判してきた。
話にならない。
これが私が父上と兄様へ抱いた感想だ。
あの二人は何もしていないではないか!
今までだって何かしたことがあるのか!?
権力だけ握ってそれを振りかざしているだけではないか!
家臣たちは父上と兄様に対しては全員イエスマンになる。
唯一抗議するのは私と次男であるバルト兄様だけだ。
立場の関係もあるので深くは追及できないが……。
だが今私がこの二人を説得しなければ、戦いは避けられなくなってしまう。
鬼の王は寛大にも我々に猶予を与えてくれた。
それを無下にはしない。
「もう一度申し上げますが! あの噂は奴隷商が流した物! 我らは奴隷商に利用されているのです! 相手方もそれは承知しており、我らが兵を引けば何もしないと言われております! その寛大な対処を無下にするわけにはいか──」
『よいではないか』
「……は?」
私の言葉を遮って、王は耳を疑う言葉を言い放った。
あまりのことに素で言葉が出てしまったのに気が付き、一度咳払いをしてからもう一度真意を確かめる。
「あの……それはどういう……」
『利用されていればいいではないか。流されていればその国を滅ぼすことができるのだ。それに民たちの不安も消えるだろうし、我々ガロット王国の力を他国に見せることができる。何か問題があるかね?』
王とは思えぬ発言に、私は開いた口が塞がらなかった。
次の言葉を発することができない。
私はこんな王の息子として生まれ育ったのが信じられなくなりそうだった。
『あーそうそう。もしお前が何もせずに帰ってきたら反逆罪としてお前の家族もろとも居なくなるから覚悟しとけ。おい、通信を切れ』
兄様の声を最後に水晶から漏れていた光は消えていく。
魔力を流していた一人の兵士も、今の話が信じられないようで少し震えていた。
腕を思いっきり振るい、兵士が持っていた通信水晶をぶん殴る。
その水晶は飛んでいき、地面に着弾したと同時に粉々に砕け散った。
呆れから怒りの感情が湧き出し、とりあえず目の前にあった水晶にぶつけたがそれで怒りが収まるはずがなかった。
怒りから言葉すら出ない。
何を叫んだらいいのかすらもわからなかった。
妻と娘が人質に取られ、もはや戦をせねば助からない状況だ。
もうこちらからあの二人に打てる手立てはなかった。
だが、水晶を持っていた兵士が腰を抜かして怯えているのを見て、ふと冷静になった。
ここで八つ当たりをしていても何の解決にもならない。
それはわかっていたことだ。
感情に振り回されてしまった私を恥じる。
「すまない。少し取り乱しました。怪我はありませんか?」
兵士の手を取って立ち上がらせる。
特に怪我などはないようだった。
兵士は「大丈夫です」と言った後、一礼をして持ち場に戻っていく。
その後、近くにいた家臣が私に話しかけてきた。
「アスレ様……」
「わかっています。事情が変わりました。私が直々に話をしに行きます」
「でしたら我々もお供に!」
「それはいけません。私一人で行きます。幸い向こうには二人家臣がいますので大丈夫ですよ。私はすぐに行きますので、あの二人に連絡をしておいてください」
家臣の返事も待たずに、私は武器と兜を投げ捨てて馬に乗る。
後ろで私を引き留める声がしたが、ついてくる者はいないようだ。
私は馬を急がせて、城へと赴いたのだった。