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2.14.ぎりぎりの戦い


 お互い一定の距離を取ってジリジリと横に動いていく。

 相手が俺の位置を把握していることがわかったので霧は解除している。

 相手に感知技能があったんじゃ意味がないし、MPの無駄だしな。


 これからは小細工一切なしの接近戦だ。先ほど腕を切り飛ばしたので、剛牙顎であれば攻撃は確実に通るということが分かった。

 相手もそれがわかっているので、噛みつき攻撃には警戒をしているはずだ。


「ゴルルルル」

「シャーー」


 喋ってみたかっただけです。

 やっぱりこういう声しか出ませんね。


 相手は片腕がないので、気を付けるべきはもう一つの腕だ。

 片腕がなくなったからといって攻撃力が下がるわけではないからな。

 出来ればもう一本の腕も切り落としたいが……難しいだろうな。


 ゴボックが足元にあった土を握りしめた。

 あれで何をするのかわからなかったが、攻撃手段に用いることは確実だったので、とっさに『水流結界』を展開する。

 そう言えば初めて使うな。

 目の前に水の壁が出現する。

 透明なので前が見えるな……これは便利だ。


 ゴボックは握った土を横に払って俺に投げつけてくる。

 自暴自棄にでもなったのかと思ったが、どうやら砂を弾丸のように飛ばして攻撃をしてきたらしい。

 水流結界の前では無意味だったが、それ以外の場所では地面でパチパチと音を鳴らしていた。

 小さい砂塵で聞こえるほどの音が鳴るのだから威力はありそうだ。


 水流結界を展開したのを確認したゴボックはまた一気に攻めてきた。

 筋肉質な体だからか、やはり瞬間的な速度も速い。

 そのままの勢いで水流結界ごと壊そうと拳を入れてくるが、水流結界は微動だにしなかった。

 攻撃が通らなかったので少し驚いているようだが、気を取り直して数発また殴ってきた。だが相変わらず水流結界は動かない。


 すごいなこれ。

 こいつの攻撃でも耐えれるのか。

 結界という名前の付く技能なだけはあるな。


 ゴボックは諦めて迂回し、俺に攻撃を仕掛けてくる。

 流石に結界は移動できないようだったので、俺は横に飛んで回避してから、今度は飛び掛かる。

 だが相手は感知技能を持っているようなので、完全に見えない位置から攻撃しても紙一重で躱されてしまう。

 だがそれはこちらも同じことで、相手の攻撃を目視せずに回避していく。


 だがゴボックのほうが戦闘経験が豊富なためか、回避や受け技は俺より上手い。

 俺も負けじと攻撃と回避を繰り返していくが、俺にはどんどん傷がつけられていく。


 一度距離を取って『吸収』を使用する。

 傷は治らないが止血はできるし体力も回復できる。

 だが少しばかり回復が遅いのが難点だ。

 ここでは止血だけにとどめておいて体力の回復は持ち越そう。

 体力まで完全に回復していたらMPがなくなってしまうからな。


 しかしこのままでは決定的な攻撃を打ち込むことができない。

 それは相手も同じだ。片腕を落としていなかったら多分俺が負けているだろう。


 体力を回復していることがバレたのか、ゴボックはすぐに距離を詰めてきてかぎ爪を俺に向かって振るう。

 しかし何度も見てきた攻撃だ。

 そう簡単に当たるはずもない。

 体を横にずらしてその攻撃を回避する。


 『無限水操』!


 だんだんこいつの攻撃にも慣れてきたので、湖から大量の水を貰って津波のようにゴボックにぶつける。

 流石にこの量の水であれば抵抗することができないようで、水に転がされていった。

 木にぶつかって止まったが、俺はそこにもう一度水をぶち当てる。

 出来ればこれで窒息死を狙いたいが……大量の水を動かし続けるには俺のMPがなくなってしまうのでそれは難しい。

 なので水を一度止めたと同時に、あいつの喉元にかぶりつく。

 今は何とか水で拘束できているので、それは可能だろう。

 気配もある。


 俺は意を決して飛び込んだ。

 その直後に無限水操で操っている水を消し去りゴボックを水圧から解放させる。

 俺は狙いを定めて噛みついたのだが……俺の体は見当違いの方向に飛んでいた。


 え?


 水圧から解放されたゴボックは俺の姿を目視するや否や、残っている片腕を大きく振るって俺を吹き飛ばしたのだ。

 普通に殴られるだけならまだよかったのだが、かぎ爪で俺の胸を深々と抉りぬいてくれていた。


 ぐああああああ!?


 どうやら肺をやられてしまったらしく、息がとてもしにくい。

 まともに機能しているのは残っている左肺くらいだろうか……。


 数回バウンドしてやっと勢いをなくした。

 体をあげようとするが、激痛でうまく動けない。

 俺は息を止める。

 そして少しでも止血しようと『吸収』を使うのだが、やはり傷は治らない。

 俺が息を止めていられる時間は大体十二分。

 その間に動かずに奴を仕留めなければならない。

 頼みの綱の剛牙顎も接近しなければ使えない。

 だがこの体ではどうしても動くことは難しかった。


 ゴボックのほうを見れば、膝をついて息を切らしている。

 どうやら先ほどの攻撃は意外と有効だったのだろう。

 MPは少ない……が……次の相手の攻撃は確実に受けてしまう。

 まず、少ないMPで近づけさせないようにしなければならなかった。 


 先ほどの水をもう一度使って、今度は包み込む。

 今度は拘束しているだけなので大したMPの消費はないが……これがいつまで持つかがわからない。


 ゴボックも中で暴れまわって何とか顔まで水を近づけさせないように必死に腕を振り回している。

 この間に何か策を考えなければ死んでしまう。


 ……死ぬのか?

 いやいや、絶対に諦めないぞ。

 零漸に地上に上がって会おうって約束したからな。

 こんなところで死んでたまるか。


 だがあいつならこんな奴でも持ち前の防御力でゴリ押せるんだろうな。

 やっぱりあいつが羨ましいぜ。

 っといかんいかん。懐かしむんじゃない!

 死ぬ前の感想など俺は言わないからな!


 だが……この状況をどうすれば回避できるんだ?

 多分無限水操で操っている水はあと数分で効力を失ってしまう。

 俺のMPが尽きるからな……MPが尽きたら俺の負けだ。


 勝ったとしても、あとのことで不安なことがある。

 この傷……治るのか?

 まぁあいつを食べて進化すれば体が再形成されて治るとは思うが……ん? 食べる?

 ちょっとまてよ?

 さっき切り落とした腕は何処だ!? っくぅ!


 体を動かそうとしたが、やはり激痛が走り動かすことができない。

 なので操り霞の感知能力で切り落とした腕を探す。

 するとすぐ近くにあった。

 俺は力を振り絞って小さな水を生成する。

 そして腕を取りに行かせて目の前に持ってこさせようとした。


「ゴバアアアア!」


 その時、ついに大量の水を操っていた水がはじけ飛んだ。

 もう維持ができなくなってしまったのか。

 だが、腕を持ってこさせるくらいなら問題ない!


 小さな水は腕を持ち上げて俺の目の前に持ってくる。

 しかし、その瞬間ゴボックが俺の尻尾を掴んで宙で振り回してまたぶん投げた。

 動けず抵抗することもできなかった俺は成すがままにされてしまう。

 今度は岩にぶつかったため非常に痛かった。

 あいつの攻撃力は本当に侮れない。


 だが……俺はその時勝利を確信した。


 ごちそうさまでした。


【経験値を獲得しました。LVがMAXになりました。進化が可能です】


 俺はあのとき何とか腕に噛みついて肉を抉り取ることに成功したのだ。

 肉を食べて体力を回復していなかったら、先ほどの攻撃で死んでいたな。

 本当にギリギリだ。

 よし、天の声! 今回は急ぎの進化だ! 進化先を教えてくれ!


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―進化先―


土蛇(つちへび)


―ウェイブスネーク―

===============


 お、ドロ蛇の上位互換かな?

 じゃあ土泥にするぜ!


 念じると進化が始まる。

 痛みはないので種族進化だということが分かった。

 体がさらに大きくなり、触角が角に変わった。

 体表はほとんど変わらないが、皮膚がまた分厚くなった感触が伝わってくる。

 胸に空いた傷も完全に塞がっているな。

 やはり進化すると体が作り直されて傷も回復するようだ。


 ステータス確認は後だ!

 今は……こいつをぶっとばす!

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