63話 レイヴァン隊と革命軍
シュウとレイヴァン隊が邂逅して四か月が経った。
罠を警戒してシュウは『死神』としての活動を休止し、アイリスと共にバイトを続けている。まさか帝都アルダールのとある店でバイトしている青年が暗殺者『死神』などと判明するはずもない。そのため、平穏な日々を過ごしていた。
一方でレイヴァン隊は違った。
元は皇帝ギアスによって命じられた『死神』討伐任務に就いていた。しかし、死神が現れないとなれば仕方がない。同じように依頼を装っておびき寄せる方法も三度ほど使われたのだが、シュウはそれに応じることがなかった。そのため、レイヴァン隊は空振りを続けたのである。
流石に三か月も成果がなければ、レイヴァン隊の運用も変わってくる。
「行くわよレイヴァン隊」
隊長のルト・レイヴァンは告げる。
目の前にあるのは
レイヴァン隊は大帝国軍の魔装士として、反逆した敵戦力を殲滅する任務に就いた。
「じゃあ、私がやる」
『魔眼』のミスラが先に出る。石化の魔眼が発動し、視界に映った敵兵が石像となった。ピントが合うだけで敵を即死させることが出来る魔装は戦争において理不尽極まりないものとなる。視界に入らないか、ミスラよりも高い魔力で抗うしかない。
石像と化した
「『魔眼』の魔装士だ! 壁を作って魔術で攻撃しろ!」
「急がねば被害は増え続けるぞ!」
そんな声が
土の第一階梯《
「む……」
「ミスラは一旦下がってくれ!」
不満そうなミスラの肩に手を置き、アイクが前に出る。『炎竜』の二つ名を持つ、最も新しい大帝国のSランク魔装士である。若いからと侮ることは出来ず、その魔力と魔装はSランクに相応しい。
「俺がやる」
深紅の炎がアイクを覆い、巨大な竜として顕現した。アイクは火炎竜の胸元で魔力を解放し、火炎竜は魔力に呼応して猛る。
そしてアイクは魔術も併用して発動した。
風の第四階梯《
「はあああああああああああ!」
憑依型魔装によって火炎竜を纏ったアイクが土の壁に突撃した。灼熱によって土壁は融解し、大爆発が引き起こされて
火炎竜はアイクの意思に従って暴れまわり、破壊の限りを尽くした。
水系統の魔装士や魔術師が攻撃を仕掛けても、アイクの莫大な魔力によってもたらされる灼熱が全て蒸発させてしまう。
「あら? アイクったらあんなに暴れて」
「ルト隊長。私達はどうしますか?」
「こういう殲滅戦って私達の役目がないんですよね……」
「エリナとユーリね。どうしましょう」
『無限』のエリナと『反鏡』のユーリは強力な魔装士だが、殲滅戦には向いていない。
そのため、二人はやることがなく、土魔術で作った高台から戦場を見下ろしている。『天空』のサディナが陽属性魔術の結界を張っているため、遠距離攻撃も効かない安全な場所だ。
レイヴァン隊の役目は大帝国軍と
ルトは二人の運用について、悩んだ。
その時、不意に
「あれは……? 凄い魔力ね」
「ルト隊長。あれはもしや儀式発動の魔術ではありませんか?」
「ええ、ユーリの言う通りね」
莫大な魔力と空に浮かんだ魔術陣。
大人数で一つの魔術を発動する儀式魔術だとすぐに分かった。儀式魔術とは、一人で発動できない強大な魔術を複数人で発動する技術である。第九階梯や第十階梯のような戦術級、および戦略級魔術すら発動することが出来る。
空が赤く染まり、魔術陣の周囲に莫大な数の火球が現れた。
「間違いない。あれは炎の第九階梯《
ユーリは正解を言い当てた。
そしてこれは自分が活躍するチャンスであると思った。
「展開」
『反鏡』のユーリは魔力による放射攻撃を完全反射する。そんな鏡を創造することが出来る造物型の魔装使いだ。無数の火炎を広範囲に降らせる《
巨大な鏡が大帝国軍の上空に現れた。
それは《
「あら、流石ユーリね。それなら次はこちらの魔術を披露しましょうか……サディナ!」
「はい。分かりましたわ!」
ルトが呼びかけたのは『天空』のサディナだ。翼によって空を飛び、高い位置から大帝国軍と
そしてサディナが得意とするのは大空から放つ魔術攻撃だ。
「では行きますわ!」
詠唱を開始したサディナの周囲に四つの魔術陣が生じる。
サディナが得意とする魔術であり、同時発動という高度な技も使いこなせた。
「極大魔術の大盤振る舞い、ですわ!」
炎、水、風、土の第八階梯魔術が同時に発動した。
まずは炎の極大魔術《
次に水の極大魔術《
そして風の極大魔術《
残る土の極大魔術《
「なんて魔術だ! 発動者はどこだ!」
「あそこだ! 撃ち落とせ!」
「遠距離攻撃の魔装士を連れてこい」
「私が撃つわ!」
勿論、サディナは気付いていた。
「甘いですわ!」
彼女は魔装の力こそ地味だが、魔術には精通している。
炎、水、風、土の四属性だけでなく、陽属性や陰属性というまだ体系化が不十分な属性についても強力な魔術が使えるのだ。
陽属性の結界魔術を発動し、遠距離攻撃を防いだ。
空を飛ぶサディナは弓使いにとって狙いやすい的だ。当然ながら、サディナは対策を怠ってはいない。
「ルト隊長。こちらに気付いたようですわ」
「ええ。そのようね」
レイヴァン隊は大帝国軍と
放置すれば
近接戦闘が得意な魔装士が先陣を切り、ユーリの魔術反射を警戒して魔術師たちは大帝国軍へと優先的に攻撃を仕掛ける。
「この数……六百といったところかしら?」
何度も
しかし、今のルトならば六百でも六千でも関係ない。
覚醒魔装士が力を解放すれば、凡庸な魔装士など敵になり得ない。
「私がやるわ。下がりなさい」
ルトから膨大な魔力が沸き上がった。
いや、正確には無系統魔術の隠蔽で隠していた魔力を見せつけたのだ。覚醒魔装士の持つ魔力の強さに、
魔装士の力は魔力の力。
その魔力を使い、ルトは覚醒したことで手に入れた超重力を発生させる。
「さぁ、
ルトの魔装は領域型だ。
特定領域に重力を発生させることが主な魔装の力である。そして使い方を工夫すれば、特定領域において一点に力を集中させることも可能だ。そして一点に集まった超重力は空間を崩壊させ、光すら飲み込む物理現象の限界点へと達する。
つまりブラックホールの発生だ。
六百人を超える兵士は一瞬で消し去られた。
「凄まじいですわね……」
「ねぇー。私は帰って良い?」
「ダメですよミスラ」
「わぁ……一瞬で敵が死んじゃった」
サディナ、ミスラ、エリナ、ユーリの順番で感想を漏らす。
ルトが指定した領域で光が消え、暗闇に包まれる。一瞬にして領域内の物質はブラックホールへと吸収されてしまい、跡には空間を削り取ったかのように傷跡が残る。大地をお椀状にくり抜き、
そしてルトはブラックホールを消し去り、仕上げとする。
「奥の魔術師も邪魔よね……ふふ」
覚醒魔装士は魔力を自動で回復することが出来る。つまり、消費した魔力が徐々に回復していくのだ。強大な能力を使うことで魔力を消費しても、戦闘中に回復できてしまう。大技の連発も可能なのだ。
切り札とも言えるブラックホールを幾らでも使うことが出来た。
「アイクに当たらないよう、気を付けないといけないわね」
火炎竜を纏って暴れる『炎竜』のアイク。
そしてブラックホールを放ち、防御不可能かつ回避不可能な力で軍を蹂躙する『絶界』のルト。
数時間ほどで